-------------------------------------------
『―――――織斑一夏くんの行方は分からないまま、今日で1ヶ月の月日が過ぎました。織斑千冬元代表も、この件について深く悲しんでいるようです』
『そも、日本政府はなぜ十分な護衛をつけなかったんです。そのせいで、元より織斑くんを暗殺するつもりだったとか、誘拐犯は政府が雇っただの、どんどんおかしな推察は増えている。これは日本全体の立場を―――――』
テレビを消す。俺の情報を集めるためにいろいろ見てたが、どうにもためになるようなものはない。記憶も、未だに思い出せそうにない。これなら、夕飯の仕込みでもしてる方が有意義だ。
俺は、あれ以来篠ノ之博士のラボで手伝い……というより、居候している。本当は、親族らしい千冬さんのところに帰ってみたらどうかと篠ノ之博士に提案されたが……記憶のない俺が帰ったところで、迷惑じゃないか?と思い、ここに留まっている。いや、ここに留まっていたら篠ノ之博士に迷惑なのは分かっているが。そう思いながら、食事後の皿洗いを半分程終える。ここでの俺の仕事といえば、これか、飯を作るか、用意をするかだ。
「……はぁ」
ため息をつくと、幸せが逃げるというが……それでもつかずにはいられない。
「いっくん?」
「……篠ノ之博士」
考え事をしていたら、篠ノ之博士に呼ばれた。多分、手伝いか何かだろう。彼女が俺に話しかけるなんてそれくらいだし。
「後で来てくれないかな?」
「これが終わったら行きます」
会話も最低限。でも、篠ノ之博士はこれで満足してるらしい。まぁ、ここ広いし、誰かと言葉を交わすのは、ほんの少しでも楽しいのだろう。さて、残りの皿洗いを迅速に終わらせなくては。
-----------------------------------------
「篠ノ之博士、来ました」
篠ノ之博士の私室の前に立ち、ドアをノックする。回数なんか分からないからとりあえず4回だ。入っていいよと言われたので、遠慮なく入らせてもらう。
「あぁ、いっくん。よく来たね」
「えぇ、ところで何か用ですか?レパートリー増やせはもう無r―――――」
「違うよ」
……違うか。ならやっぱり……
「……いっくん、束さんはね?やっぱり、いっくんはちーちゃんのところに戻った方がいいと思う」
……この話、だろうな。正直どうしたいか、俺は分からない。……でも、帰りたいような、不思議な感覚はする。その提案に、俺は……
立派な居候になってました。一夏は脱居候となるか。それとも居候継続でニートになるか。