ある日の練習前、私はケイくんに尋ねてみた。
「ねぇケイくん、今度の日曜日って暇だったりしないかな?」
「日曜日?特に予定はないよ」
「だったらさ、私と遊びに行かない?スクールアイドル始めてからあまり2人で遊べてなかったし…」
「そーいうことかぁ。俺はもちろんいいよ!」
「ありがとう!詳細はまた連絡するね!」
彼を遊びに誘った日曜日は私の誕生日でもある。今までもお互いの誕生日はこうやって過ごしていたんだけど今年もそうなれて嬉しいなぁ…
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「よし、このペースなら間に合うね!楽しみだなぁ…」
出かける当日、ある程度の支度を整えてケイくんが来るのをのんびり待っているとケータイにメッセージが来ていることに気づいた。相手はかすみちゃんだった。
『歩夢先輩!これから愛先輩とりな子と私で出かけるんですけどよかったら来ませんか?』
参加したいけど今日は行けないなぁ。とりあえず断りの連絡入れなきゃ。
『楽しそうなんだけど今日はケイくんと出かける約束あるから行けないかな?また誘ってくれると嬉しいな!』
すると1分もしないうちに返事が来た。
『ケイ先輩とデートですか!?楽しんできてくださいね!』
ケイくんとデート。普通はそう思われるのかな。
「デートかぁ。今まで気にしてなかったけど…これってデートってことになるのかな…?」
幼稚園の頃から幼馴染みで家も隣。男女の差があったとは2人で出かけることになんの躊躇いもなかった。中学生の時に友達から付き合ってないのに2人で遊んだりするのは結構珍しいねと言われたこともあったけど私には当たり前すぎてそんな疑問が浮かぶことすらなかった。
「今思うと私が少しズレてたのかもなぁ…」
まぁ考えたところで私達の関係が変わることは無い。そう、私達はこれからもただの幼馴染みなまま…
「…ッ!なんだろうこの痛み…」
なんだか胸がズキリとする。このまま彼に会うのはダメだ。ケイくんが来るまで時間があるから気分転換に部屋の掃除でもしよう。そう思っていた矢先にインターフォンが鳴った。
「はいはーい。あれ?ケイくん?」
「おはよう、歩夢ちゃん!」
約束の時間までまだ少しある。普段は時間ぴったりに来る彼にしては珍しい。
「どうしたの?予定よりちょっと早いけど」
「ごめんね。楽しみすぎて早く来ちゃった…」
「えっ?」
今、楽しみすぎてって言ったよね?もしかしてケイくんも…
「歩夢ちゃん?」
「あっ…ごめんね?私も楽しみだったから大丈夫だよ!ちょっと早いけど出かけよっか!」
「うん!」
せっかく彼と過ごせる誕生日なんだもん。楽しまなくちゃ損だよね!
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遊びに来たショッピングモールは休日だということもあって混雑していた。その中には子供連れの人やカップルも沢山いた。
「ここに来るのも久しぶりだなぁ」
「ほんとにね!最近はスクールアイドルの練習もあったしなかなか来れてなかったもんね」
「まずは何する?やりたいことあるなら何でも言って!」
「そうだなぁ…私、見たい映画があるの。それにしない?」
「お、いいね!」
私が見たかった映画というのはよくある恋愛物とは違って誰かを愛することの尊さ、そして真実の愛について考えさせられると評判でケイくんにも見てほしかった。
「面白そうだね。興味出てきたよ」
「よかった!それじゃ行こっか!」
「ケイくん、どうだった?」
「めっちゃ面白かった!見れてよかったよ!」
この映画を選んでよかった。上映中も彼の横顔を見たりしたけど映画に完全にのめり込んでいた。
「ケイくんにも気に入ってもらえたしあの映画選んで正解だったなぁ」
「けど目が疲れちゃったよ。ちょっと休もうか」
そう言って人通りが少なめの場所にあるベンチにやってきた。ケイくんは早速腰かけて軽く目を閉じる。
「眠くなっちゃった?」
「そういうわけじゃないんだけどここは落ち着くなって。こんなにゆっくり出来る場所があるのに他の人は気づいてないみたいで勿体ないなぁ。わざわざ混み合う場所に行く必要なんてないのに」
…そういえばすれ違う人達は私達のことをどのように見てるのだろう。やっぱりどこにでもいるカップルのように思う人が多いかもしれない。
(私達の関係ってなんだろう…ただの幼馴染みだよね…?)
そう思って隣で歩くケイくんの横顔を見る。小さい頃から一緒にいてくれて優しくてギターの上手い男の子。今ではスクールアイドル同好会でも活動していて後輩達からも頼りにされている。顔立ちも整っている方だし彼がギターを弾いてる姿を見にライブハウスへ足を運ぶ人もいるのだとか。
(女性目線で見るとかなりの優良物件だよね。もしかしたらいつか私の前からいなくなっちゃうかも…)
…そんなの嫌だ。彼がいなくなってしまうことを思い浮かべるだけで胸が張り裂けそうだ。確証もないのに涙まで出てきてしまった。こんなところで泣いちゃダメ。彼に迷惑かけるわけにはいかないんだから…
「…ぐすっ」
「…歩夢ちゃん?どうしたの?」
「…ううっ…ケイくん…」
泣いてたってダメなのに…頭ではわかっててもとめどなく溢れる涙は止まることがない。
「とりあえず落ち着いて、ね?」
「…うん」
そう言いながら頭を撫でてくれた。その瞬間仄かに漂う彼の優しい香り。やっぱり落ち着くなぁ…
「何かあったの?俺でよければ話して!」
「ケイくん…私の前からいなくならないで…」
そのまま勢いに任せて思っていたこと全部話してしまった。彼に引かれちゃうかもしれない。けどそんなことはどうでもよかった。
「…ぷっ…あははは!」
「…えっ?」
「ああ、ごめん。なんだ…そんなことだったのか」
「そ、そんなこと?」
笑ったいた顔から一変、ケイくんは真剣な表情で話し出す。
「結論から言うと俺は歩夢ちゃんの前から突然いなくなったりしないから。心配しなくても大丈夫だよ。だってこんなに優しくて思いやりのある子が隣にいてくれるんだよ?俺には勿体ないくらいだ」
「ケイくん…」
「だからもう泣くのはやめて。歩夢ちゃんには笑っててほしいんだ」
これだ。ケイくんの何でも受け入れてくれる優しさ、海のように広い心が私は大好きなんだ。自分の悩みがどうでもよくなっていくのを感じる。
「ありがとうケイくん。またあなたに救われちゃったね」
「そんなことないよ。歩夢ちゃんが俺にしてくれることに比べたらまだ足りないよ」
「えへへ、あなたが幼馴染みでよかった!」
さっきまでとは違う。彼の前で本音で笑えているのを感じる。
「幼馴染みか…」
「ケイくん?何か言った?」
「いや、何でもないよ。それより君に渡したい物があるんだ」
「渡したい物?」
「これだよ。歩夢ちゃん、誕生日おめでとう!」
ケイくんが手渡してくれたのは宝石の埋め込まれたネックレスだった。
「今の俺が買える物ではこれが限界。俺達がもっと売れるバンドになったらもっといい物を君に贈るよ」
「ううん、私にはこれで充分。だってケイくんが私のために今出来る最高の贈り物をしてくれたんだもん。それだけで何よりも価値があると思うんだ」
「…そっか」
「けど私はいつまでも待ってるよ!ケイくんが売れっ子バンドマンになる日を!」
「うん、やってやるよ!」
今はこの距離感がとてつもなく愛おしい。けどこの関係が変わってしまう日が来るとしても私達はこうして笑っていられるのだろうか。
「ねぇ、ケイくん」
「なに?歩夢ちゃん」
「私の隣にいてくれてありがとう!」
だけど私は信じている。もっと近い距離で共に笑いあって生きていける日が必ず来ることを。
歩夢ちゃん、誕生日おめでとう!