夢の向こう側へ   作:大天使

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3話 もう一度舞台へ

「うーん…なーんかしっくりこないんだよなぁ…」

 

かすみちゃんから作詞作曲を引き受けたのはいいんだけどどうしてもしっくりこない。俺はどちらかといえばじっくり考えて何とかフレーズを絞り出す形でやってきたけど今回はさっぱりだ。

 

「スクールアイドルの曲ってどんな感じで作ればいいんだろう…他のグループを参考にしてみようかな」

 

愛用している動画サイトを開いて何本かスクールアイドルの動画を見てみる。その中で特に心惹かれたのはこの前の合同ライブでも目にしたμ'sとAqoursというグループだった。

 

改めて見てわかった。どっちのグループも文句の付けようがないパフォーマンスで歌もダンスも努力の後がよくわかるものだということに。ここまでの技術を身につけるのにどれだけの時間をかけたのだろう…

 

「ま、根詰めすぎてもよくないからなぁ…放課後になったらかすみちゃんにも話してみようかな」

 

ここらで切り上げないと昼休みも終わってしまう。そろそろ昼食を取ろうと食堂へ向かおうとすると…

 

「ケイ!何してんの?」

 

「達也か、ちょっと曲作りをね」

 

俺達のバンド、The Answerのドラマーであり同じ学科に所属している達也こと高階達也(たかしなたつや)。ちなみにバンドメンバーの中で高校生なのは俺達2人だけだ。

 

「なるほどね、アルバムのリリースも決まってるし早速作業か!ケイはやる気があるんだな!」

 

「いや、今やってるのはアルバムの曲作りじゃないよ。ほらスクールアイドルの」

 

「あーこの前の打ち上げで言ってたやつか。ちょっと見せてくれよ」

 

達也に曲のフレーズが書き殴られているメモを手渡すとしばらく熟読した後にこう言った。

 

「悪くはないんだけどさ、アイドルっぽさが足りないんじゃないか?これだと俺達が演奏してる曲に近い感じになってる」

 

「やっぱそうだよねぇ…俺もそう思ってたところ」

 

「ま、最初は慣れないもんだしケイらしく地道にコツコツやっていくのがいいんじゃないか?俺も協力するからさ、なんかあったら頼ってくれや」

 

「そっか…そうだね。ありがとう、達也」

 

「おう。てか早く食堂行こうぜ。昼休み終わっちまうぞ?」

 

「おっけー」

 

 

──────────────────────────

 

 

「アイドルらしい曲ですか?」

 

「うん。色々なスクールアイドルの動画見たりしたんだけどやっぱり実際に活動してたかすみちゃんに聞きたいなって思って」

 

放課後、俺は真っ先に部室へ行き、一足先にアイドルとして経験を積んでいたかすみちゃんから意見を聞こうとしていた。

 

「やっぱり個性じゃないですかね?売れるアイドルはそれぞれ自分にしかない個性ってものを大切にしていると思いますからね!」

 

「なるほど…最もな意見だ…」

 

「例えば~♪かすみんの個性といえばこの可愛さですよ!もう罪なくらいの♡」

 

「へ、へー…参考になるね…」

 

所々不思議な部分もあったけどやはり実際にスクールアイドルとして活動していたかすみちゃんの意見は参考になった。

 

「さてケイ先輩、歩夢先輩も来たら早速しず子を呼び戻しに行きますよ!」

 

「…しず子って誰?」

 

「桜坂しずく。私と同じ1年生で比較的最近編入してきたんです!元々いたメンバーの1人で演劇部とスクールアイドルをかけ持ちしてるんですよ」

 

「なるほど…スクールアイドルの方に顔を出してないってことは今は演劇に集中しているのかな?」

 

「だと思います。だけど…そうだとしても少しくらいは部室に顔出してほしかったです…」

 

そう言ってかすみちゃんは少し暗い表情を浮かべる。そういえば今は俺と歩夢ちゃんがいるけどそれまではかすみちゃん1人でこの部活を守ってきてたんだよね…

 

「大丈夫だよ。なんにせよ桜坂さんって人にも事情があったんだと思う。ちゃんと話せばわかりあえるよ」

 

「先輩…そうですよね。私、しず子としっかり話します!」

 

「その調子!歩夢ちゃんが来たら早速会いに行こう!」

 

 

──────────────────────────

 

 

「かすみちゃん、準備はいい?」

 

「バッチリです。私には2人がついてますし怖いものなんてありません!」

 

歩夢ちゃんと合流した俺達は桜坂さんが活動しているという演劇部の部室までやってきた。

 

「かすみちゃん、そのしずくちゃんってどんな子なの?」

 

「基本的には穏やかでしっかり者ですね。だけど演劇の話になると止まらなくて…」

 

「あはは、その子は本当に演技が好きなんだね!」

 

「そうです。けど演劇と同じくらいスクールアイドルのことを好きでいるってことも知ってます。だからこそ早く戻ってきてほしいんです!」

 

「…そっか。じゃ、行こっか!」

 

「はい!」

 

かすみちゃんがドアを数回ノックするも返事はない。だけど鍵は空いている。俺達は静かにドアを開けて部屋に入った。その部屋には長い髪とリボンが特徴的な女の子が1人いるだけだった。

 

「あら?かすみさん?」

 

「ひ、久しぶりねしず子…」

 

「そうだね。急にどうしたの?」

 

「急にって…しず子こそなんで急にスクールアイドルの方に来なくなっちゃったの?」

 

「その事はごめんなさい。演劇部の方で大会があったから…そちらのお2人は?」

 

「俺は2年の藤波圭介。かすみちゃんと一緒にスクールアイドル同好会で活動しているよ」

 

「私は上原歩夢っていいます!彼と同じ2年生だよ!」

 

「やっぱり上級生だったんですね。私はかすみさんと同じ1年生の桜坂しずくといいます。気軽に名前で呼んでくれたら嬉しいです」

 

言葉遣いも丁寧でかすみちゃんの言う通りしっかりしてそうな子…それが彼女への第一印象だった。

 

「しずくちゃん…でいいのかな?いきなり押しかけちゃってごめんね?ちょっと話したいことがあって」

 

「しず子、もう一度聞くけどなんでこっちの活動に来なくなっちゃったの?大会があったからっていうだけじゃないよね?」

 

「かすみさん…ごめんなさい。あなたにはしっかり話しておくべきでした。以前かすみさんには話したことがあるのですが私はスクールアイドルの活動をお芝居にも活かしていきたいと考えているんです。かすみさんや他のメンバーの表現の仕方を見るのはとても楽しくて刺激的でした」

 

「それじゃしずくちゃんはスクールアイドルが嫌になって来なくなったって訳じゃないんだよね?」

 

「そんなことはないですよ!元々スクールアイドル活動がやりたくてこの学校に編入してきたのですから!それに憧れもありましたし…」

 

やはりしずくちゃんはスクールアイドルの活動が嫌になったから顔を出さなくなった訳ではない。それはかすみちゃんが言っていた通りのことだった。

 

「その中でもせつ菜さんは特にすごかったです。あの人なら私達を正しい方向へと導いてくれると信じていましたから」

 

「せつ菜さん?」

 

「お2人には詳しく話してなかったですね。前に1人のメンバーと揉めてしまったって言いましたよね?その人がせつ菜さんって人なんです」

 

かすみちゃんやしずくちゃんの話によるとせつ菜さんという人はスクールアイドル同好会のリーダー的な存在だったみたいだ。

 

「せつ菜さんが導いてくれる方向は私が信じた通り正しいものでした。だけど私は自分の進みたい方向を彼女に伝えることが出来なくて…そこで自分がどれだけ未熟だったかを思い知ったんです。だからせつ菜さんに感じ取ってもらえるだけの表現力を磨くためにここで修行を重ねていたんです」

 

「それなら先に言ってくれればよかったのにー!かすみんすっごく心配したんだからね!?」

 

「その件は本当にごめんなさい。自分勝手でしたよね…」

 

「もう謝らなくていいから!しず子は演劇もすっごく頑張ってるんだからそこに文句は言わないし。そのかわりこれからは何も言わずにいなくなったりしないこと!しず子とは同じ学年だからいないとちょっとだけ寂しいし…」

 

無事に解決できたみたいで本当によかった。ここは俺や歩夢ちゃんが何かする必要なんてなかったね。

 

「わかりました!ところでスクールアイドル同好会の方はどうなっているんですか?新しくお2人が入部されたようなのですが…」

 

「そうそう!今大変なの!生徒会長から同好会の存続のために条件を出されてて…今までいた人以外にも新しく部員を集めなきゃいけないことになってるの!」

 

「ええ?そうだったんですか!?」

 

「だから俺達はしずくちゃんには戻ってきてほしいなって思って呼びに来たんだよ。スクールアイドルの方に復帰してもらえないかな?」

 

「戻らせていただけるならもちろん戻ります!それに自信もついてきたので修行の成果もお見せしたいです!」

 

こうしてしずくちゃんはスクールアイドル同好会に戻ってくることになった。その言葉を聞いた時のかすみちゃんの嬉しそうな表情はとても印象的だった。

 

「しず子~!これから一緒に頑張ろうね!」

 

「もちろん!お2人もこれからよろしくお願いします!」

 

「よろしくねしずくちゃん!」

 

「よろしく!」

 

これからは共に夢に向かい、頑張っていこう。憧れを追い求めたその先に必ず答えはあるのだから。

 


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