「ケイ、最近調子どうだ?スクールアイドルの方」
「んーぼちぼちかな?最近1人戻ってきてさ、少しにぎやかになったよ」
ここは都内某所の音楽スタジオ。今日はバンドの練習を行うためにここに集まっているけど今のところは俺とヒロしかいない。
「そっちも大事だけど作詞作曲の方、結構悩んでたって達也からも聞いたぞ?お前のことだから自分が納得できるまで手直しし続けるんだろうけど」
「その件は何とかなりそうだよ。後輩の意見も参考にして色々作ってみたりしてようやく形にはなってきたから」
「なら安心なのかな?んじゃタバコ吸いてぇしちょっと席外すわ」
そう言い残してヒロはベースの練習を中断して出ていった。俺もそろそろ休憩を入れようと思ったところで個室のドアが開く音がした。
「遅れて悪いな。あれ、ヒロはもう来てるんじゃないの?」
「シンか。ヒロならタバコ吸いに行ってるよ。そういえばそっちの曲作りは順調?」
少し遅れてやってきたシンはギターを取り出しながらからかうように言った。
「まぁまぁだな。誰かさんの手がおっそいから苦労してるけどな?」
「うっ…申し訳ない」
「まー気にすんなよ!最近は達也も参加してくれてるから助かってるよ。けどさ、ケイも働いてくんなきゃ困るよ」
「こっちの活動には支障出ないようにはしてるつもりだからそこは信じてくれて大丈夫だよ。だけど迷惑かけてごめん…」
「今更何言ってんだよ。仲間じゃねーか」
そう言って笑顔を浮かべるシン。彼の明るさに俺達は何度助けられただろうか。
「俺にはこの道しか残されてない。何としてでも成功させなくちゃいけないんだ。だから…これからもよろしくな」
「…もちろん」
「あ、そういえば陽成がさー」
またいつも通りの雑談だろう。俺はシンの話を聞きながらギターをかき鳴らす。その間に考えるのは曲のことばっかりだ。
(スクールアイドルらしい曲か、ヒロにはあんなふうに言ったし進んではいるけどやっぱり納得いかない。どうすれば歩夢ちゃん達のキャラや個性を引き出せる曲が作れるのだろう…)
ずっと悩んでたって先には進めない。みんなのためにも早めに答えを出さなければ…
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翌日、しずくちゃんが戻ってきてから初めての練習日だった。ブランクとかもあるだろうし大丈夫かなと考えていたんだけど…
「先輩、私の歌…どうでしたか?」
「すごい…すごいよしずくちゃん!」
それしか言葉が出なかった。しずくちゃんの歌はしばらくスクールアイドルの活動から離れていたようには思えないほどだった。
「そ、そうですか?」
「そうだよ!2人もそう思うでしょ?」
「とっても綺麗な歌声だったよ!私も負けてられないなぁ」
「ぐぬぬ…悔しいけど認めざるをえない…」
「これが演劇での修行の成果です!」
その後、歩夢ちゃん達は練習。俺は曲作りに取り掛かってそこそこの時間が経ったあたりでかすみちゃんが口を開いた。
「練習も大事ですがそろそろ新しいメンバーも集めなくちゃいけないんです。お2人は入ってくれそうな人知ってますか?」
「うーん…ちょっと難しい…」
同級生の女の子で仲良いのは歩夢ちゃんしかいないし他の学年にも入ってくれそうな知り合いはいない。今回は力になれそうもないな…
「ケイくん、私には心当たりがあるの」
「ほんとに?どんな子なの?」
「あなたも知ってると思うよ。宮下愛ちゃんって子なんだけど」
「あ、名前は聞いた事あるかな」
確かうちの学年ではそこそこ有名で友達もたくさんいる人気者だとかいう話は小耳に挟んだことがある。
「なるほど…その宮下さんという人に声をかけてみるのもいいかもしれませんね!」
「思い立ったが吉日です!3年生の2人を連れてくるのはまた次の機会にして早速会いに行きましょう!」
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部活が始まってから時間も経ってたし帰っててもおかしくない時間だったけど歩夢ちゃんの友達に聞いたところまだ校内にいるらしい。しばらく探してるうちに辿り着いた中庭に宮下さんともう1人の女の子がいた。
「愛ちゃーん!」
「お、歩夢じゃん!久しぶりだね!」
「うん!ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」
「もちろん!りなりー、ちょっと待っててね」
見た目は派手だけど歩夢ちゃんと気さくに話してるのを見ると明るくて人懐っこい性格の持ち主なんだなというのがすぐにわかった。多くの友人に恵まれるのも頷ける。
「それでアタシへの話って?何でも言ってみて!」
「突然なんだけどさ、愛ちゃんはスクールアイドルに興味あったりやってみたいなーって思ったりしない?」
「アタシがスクールアイドルに?ないない!柄じゃないし似合わないよ!りなりーもそう思うでしょ?」
「そ、そうかな。悪くないと思うけど…」
「ホントにー?ところでそこの3人は歩夢の友達?」
「うん!一緒にスクールアイドルとして頑張ってるんだよ!」
「いいねぇ!あ、自己紹介まだだったね。アタシは宮下愛!歩夢と同じ2年生だよ!こっちは1年生の天王寺璃奈ちゃん!」
「天王寺璃奈です。よろしくお願いします…」
2人に続いて俺達も軽く自己紹介をした。すると宮下さんが何か疑問に思ったのか俺の顔を凝視し始めた。
「あのう…どうしたんですか?」
「いやぁ…あなたどっかで見た事あるな…って思って」
宮下さんは俺の顔をまじまじと見た後、何かを確信したかのように言った。
「わかった!この前ライブやってたThe AnswerのKeiでしょ?愛さんあの会場にいたんだよ~!めっちゃ楽しくて最高だった!」
「わ、私も…愛さんと一緒にライブ見に行きました…普段ロックはあまり聴かないんですけど…とってもかっこよかったです!」
「え、そうだったの!すごく嬉しいよ!」
こんな形で褒めてもらえるなんてとても嬉しい。こうやって俺達の音楽をもっと広げられたらいいな。
「えっと…宮下さんに天王寺さんだったよね?」
「そうだけどさー宮下さんだなんてよそよそしいよ~!同い年なんだし気軽に名前で呼んでくれると嬉しいかな?私もケイって呼ぶからさ!」
「私も苗字だと長いし…毎回大変だと思うのでよければ名前で呼んでください」
「2人ともありがとう。そうさせてもらうよ」
「いやーこんな有名人と友達になれるなんてツイてるなー!」
「実際そこまで有名じゃないんだけどね。テレビだってほとんど出てないし街歩いてて声なんてかけられないよ?」
「そーなのー?」
音楽好きな人でもなきゃ俺らのことなんて知らないだろうし気づかれないのは仕方ないんだけどね。
「…ってそんな話をしに来たんじゃない!本題に入ろう」
「愛ちゃんは他に何かやってたりするの?部活とか」
「固定ではやってないなぁ。色んなこと経験したいし楽しいこといっぱいやりたいんだ。だから決まった部活には入ってないんだよ。誘ってくれたのは嬉しいんだけどね」
「だったら…尚更スクールアイドルをおすすめするよ!」
正直ここまで言われちゃ断られても仕方ない。けどこのまま黙ってるわけにもいかなかった。
「そうー?結構グイグイくるねぇ」
「私からもおすすめしたいです。ステージに立ってたくさんの人の前で歌って踊る。1度体験してしまったらもうやめられませんよ!」
「俺も歩夢ちゃん達との活動を通して新しいことに気づけたんだ。今まで自分が知らなかった世界とかたくさんのことを。だからその気持ちを愛ちゃんにも味わってほしい…」
「う~ん…」
結構悩んでるみたいだ。スクールアイドルの良さをもっと伝えようと俺達が考えていると今まで黙って話を聞いていた璃奈ちゃんが口を開いた。
「私、愛さんがスクールアイドルになったところを見てみたい!」
「りなりーまで!?」
「私はスクールアイドルについて詳しいわけじゃないけどみんな魅力的でキラキラしてるのは知ってる。愛さんなら他にいないスクールアイドルに絶対なれるって思うの。だから…」
「わかった。もういいよりなりー」
璃奈ちゃんの言葉を遮るように愛ちゃんは言った。
「アタシのこと、そんなふうに思ってくれてたんだね。ありがと」
「愛さん…」
「りなりーがここまで言うんだったらしょーがない!続くかわかんないけどその言葉を信じてやってみるよ!」
「ほんとに?やった!」
これで愛ちゃんの入部確定だ。あとは…
「ねぇ、璃奈ちゃんもスクールアイドルやらない?」
「え?私は別に…恥ずかしいし…」
「えー!りなりーもやろうよー!」
「てかさっきから気になってたんだけど…そのボードは?」
愛ちゃんを誘うのに夢中で聞きそびれてたけどすごく気になってたんだよね。そのボード。
「これは愛さんと一緒に作ったんです。私は表情を作るのが苦手で…だけどこれがあればどんな気持ちかすぐにわかるんじゃないかなって」
「璃奈ちゃんボード!りなりーのトレードマークだよ!」
「なるほど…」
ボードを着けたスクールアイドルなんて前代未聞。だけどそういうのも個性的でいいなと思った。どうやら歩夢ちゃんやしずくちゃんも同じ考えでいたみたい。
「このボード…素早く入れ替えるのはどーやってやるんですかね?私は難しいんじゃないかと思うんですけどケイ先輩はどう思いますか?」
「…俺に考えがある。璃奈ちゃん、君は何科所属?」
「情報処理科です」
「それならプログラムの知識は問題ないかな?考えっていうのはそのボードを電子的に改造するってこと!バンドメンバーにプログラミングや機械いじりが得意なやつがいるから協力出来ないか頼んでみるよ!」
「えー!てかこの子が入る前提ですか!?」
忘れてた…1人で勝手に盛り上がっちゃったけど璃奈ちゃんが入部しないなら意味が無い。
「あー…ごめんね?まだ入部が決まったわけじゃないよね?」
「…私、入部します。スクールアイドルやります!」
「お、一緒に頑張ろーね!」
「ほんとに入ってくれるの?」
「うん。やっぱりやってみたいなって思ったのと愛さんも一緒だから私も頑張ります!」
これでメンバーは俺を含めて6人になった。あとは部活にこなくなった3人と新しいメンバーを1人呼べば同好会は存続できる!
「愛ちゃんに璃奈ちゃん、スクールアイドル同好会へようこそ!歓迎するよ」
「ありがと!みんなよろしくね!」
「これからよろしくお願いします」
こうして俺達に新しい仲間が加わった。残りのメンバーも早く集めてみんなで活動する日が待ち遠しい。
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「…っていうわけなんだけどさ、頼めないかな?」
「お前さぁ…」
「電子的なボード作りねぇ…」
あの後、もう遅いということもあって今日は解散。俺はバンドの練習に来ていてさっきの件について相談しているところだ。
「なかなか面白いと思うよ。僕は引き受けるけど陽成はどうする?」
「マジ!?レイはやんのかよ…」
「簡単にだけど完成図的なの書いてきたからさ、見てもらえないかな?」
「はぁ…見せてみろ」
陽成は情報系出身でプログラムの知識は専門家レベル。レイは機械いじりを趣味にしていてこの分野には強い。
「これだけじゃ全然わかんねーよ。大雑把すぎるしまとまってない。よくこれを見せようと思ったな」
「うっ、申し訳ない」
「仕方ねーなぁ…オレも手伝ってやるから次はちゃんとした設計図よこせよ?」
「2人とも…ありがとう!」
「とは言ってもこのボードをどんな子が使うのかわからないからなぁ。女の子ってのは聞いたけど具体的な大きさとか知りたいし使う人にも話を聞きたい。今度僕と陽成で学校まで行くからさ」
「おっけー」
「オレも行くのかよ。めんどくせー」
とりあえず話をつけることは出来た。あとは璃奈ちゃんとも相談して作成を進めなければ。
「ま、完成した暁にはケイに美味しい焼肉でも奢ってもらうとするかなー」
「え、ちょ」
「よっしゃあ!特上カルビ食いまくるぞ!」
「勘弁してくれぇ…」
…いつの間にかとんでもない契約を結ばれてしまったらしいのであった。