「先輩!今日こそ彼方さんとエマさんのところに行きましょう!」
「そうだね。そろそろ連れ戻さないと部の存続も危うい」
「え?どういうこと?」
「部の存続ってなんですか?」
2人を勧誘した時は夢中で伝えるのを忘れていた。それに気づいた歩夢ちゃんは2人に説明を始めた。
「愛ちゃんと璃奈ちゃんには言い忘れてたんだけど、生徒会長から同好会存続のための条件が出されているの!」
「前にいた人も含めて部員が10人にならないとスクールアイドル同好会は廃部になっちゃうんです!」
「騙すような形になってごめん…」
完全に俺のミスだった。これは2人に怒られても仕方ないと思ってたけど…
「やってやろうじゃん!」
「燃えてきた。璃奈ちゃんボード『むんっ!』」
「…え?」
「いやぁ、愛さん的にはそういう逃げられない挑戦があった方が燃えるんだよねぇ。逃走じゃなくて闘争心が湧いてくるって感じ?あ、今のは逃走と闘争を掛けたダジャレで…」
「ぷっ…あはは!愛ちゃんって面白いね!」
「えええ!ケイ先輩そういうので笑うんですか!?」
「ケイくんって昔から笑いのレベルがね…」
「そういうのってなんだこのやろー!」
「にゃああああ!しず子助けてぇ!」
短い期間だったにも関わらず本当に賑やかになった。かすみちゃんもすごく楽しそうで安心したよ。
「2人に会いに行くのはいいんだけどさ、どこの学科にいるかはわからないの?」
「うーん…どこだったかなぁ…?」
俺達がどうするのか悩み始めたその時、全員が揃っていて来訪者など無いはずの部室のドアが開いた。
「ただいまー♪」
「久しぶり~」
「はーい、お久しぶりでーす…ってエマさんに彼方さん!?」
「ええ!?」
「この2人がエマさんに彼方さん…?」
驚きが隠せなかった。ちょうど会いに行こうとしたいた2人が急に現れたのだから無理もない。
「あれ~?なんか賑やかになってるね~」
「ほんとだ!かすみちゃんとしずくちゃん以外は知らない子ばっかりだね」
「あ、しず子以外はお2人が来なくなってから入部してきた人達なんです。簡単に紹介しますね」
かすみちゃんとしずくちゃんが俺達のことを簡単に話すと本題に入った。
「お2人はなんで急に来なくなっちゃったんですか?あの後大変だったんですよ!」
「ん~彼方ちゃんお勉強忙しくて。成績落ちちゃったから大変だったんだよ~」
「私はしばらくスイスに戻ってたんだ。連絡取れなくなっちゃうからかすみちゃん達に向けて置き手紙残してきたんだけど…気づかなかったかな?」
エマさんにそう言われたので部屋を見回してみると机の端っこに封筒に入った手紙が置いてあるのがわかった。
「置き手紙ってこれのことですか?」
「えっ、かすみんのライバルからの挑戦状かと思ってました…」
まぁ理由は何となくわかった。部員と仲違いして来なくなったわけじゃないんだし大丈夫みたいだ。
「エマさんごめんなさい…」
「気にしないで!私もみんながわかりやすいように置けばよかったから!」
「それでお2人はまた部活に来てくれますか?事情があって部員を集めなくてはいけないんです…」
「え?そうだったの!?すぐに戻るよ!」
「ん~次のテストは何とかなりそうだし可愛い後輩達が困ってるんだから彼方ちゃんも復帰するよ~」
「よかったぁ…」
色々勘違いもあったけど2人を連れ戻すのがこんなに上手くいくとは思わなかった。この調子で他の部員も集めて絶対に同好会を存続させるんだ…!
「よし!彼方さんとエマさんも戻ってきたし早速練習を…ん?」
せっかく気合入ってきたところなのに着信だ。タイミング悪いなぁ…
「ごめん、ちょっと電話出てくるね」
「はーい!」
廊下に出て、相手を確認する。かけてきたのは俺達のマネージャーである
「もしもし?」
「ケイ!今電話出来るか?」
「大丈夫ですけどどうしたんですか?」
「茨城でやる夏フェスあるだろ?あれにThe Answerが出てくれないかって連絡が来たんだ!」
「マジすか!?」
毎年夏に茨城で行われている野外ロックフェス。これに俺達が出られることになった。目標の一つとして頑張ってたからすごく嬉しいしここまでやってきたんだなという実感も湧いてきた。
「それで…ステージの規模は?」
「一番小さいのだ!」
「ですよねー…」
まぁこれは何となくわかってた。今は一番小さいステージが俺達の精一杯だけどこれからもっと大きくなっていけばそれでいい。
「まぁ次の練習の時に改めて話すよ」
「わかりました」
そう言い残して電話を切り、部室に戻った。
「みんなお待たせ。練習始めよっか」
「ケイくん、その前に彼方さんの話を聞いてもらえないかな?」
「話?もちろんいいですけど」
「さっき部員が10人必要って言ってたよね?その件についてなんだけど彼方ちゃんいい人知ってるからみんなで会いに行こ~」
それは本当にありがたい。どちらにせよあと1人新しい部員を連れてこなければいけなかったからこの機会を逃すなんてありえない。
「そうなんですか?会ってみたいです!」
「それじゃ早速行きましょう!」
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「ふーん…スクールアイドルねぇ」
「どうですか?」
俺達は彼方さんに連れられて朝香果林さんという人に会いに来た。彼女はモデルの仕事もやっているらしく背が高くてスタイルもよかった。
「今まで色んなお誘いはもらってきたけどスクールアイドルは初めてね」
「私達と一緒にやってみませんか?」
「そうねぇ…私に出来るかしら?」
果林さんにも思うところがあるらしく続けてこう言った。
「スクールアイドルには興味あるけど、フリフリの衣装とか私に似合わないと思うのよ。もう少し露出があったりラインが強調されるような衣装なら自信あるんだけどね」
「なるほど…」
衣装に関しては専門外だから役に立てるかはわからない。どうすればいいのだろうか。
「ねぇかすみちゃん。一緒に活動してるスクールアイドルって基本的にみんな同じような衣装着てるんだよね?」
「そうですねぇ…全く一緒ってことが多い気はしますけど場合によってはアクセとか細かいところが違ってたりすることもあります。それぞれの個性を活かすためってのが一般的かなと」
やはり難しい。グループとして活動していくなら統一感は必要だと思うけど個性を潰すことにもなりかねない。それに同好会にはいい意味で個性的なメンバーが揃っているのだから活かせないのも勿体ない。
「…ねぇ、同好会に入ってもいいけど条件があるの。私は私が目指すスクールアイドルになりたい。グループで活動するのも嫌いじゃないけどそれでなりたい自分になれるかわからないっていうか…」
「そうか…そうすればいいのか」
「ケイくん?」
なんで今まで思いつかなかったんだろう。みんなを無理に1つにしなくてもいいってのに。
「かすみちゃん、スクールアイドルは1人で活動してる子もいるんだよね?」
「は、はい!」
「果林さんの話を聞いて気づいたんだ。みんながなりたいスクールアイドルの姿ってそれぞれ違うでしょ?それが普通だし無理やりまとめる必要なんてなかったんだ。前の時も無理にグループで活動しようとして上手くいかなかったんじゃないかな?」
「確かにみんなやりたいことがはっきりしてた気はしますね」
「それが当たり前なんだから。これからは同好会としての括りはあるけどみんなが目指すスクールアイドルに向かって各々活動していくってことにするのはどうかな?」
「みんなにとってもいいと思うし私はそれに賛成!」
「私もそれなら自分のなりたいスクールアイドルにもっと近づけると思います!」
みんな思うところがあったみたいで意見はすぐにまとまった。ようやく同好会に1本の巨大な芯が出来たように感じた。
「果林さん、ここでならあなたが目指すスクールアイドルにも必ずなれます。俺達と一緒に活動してもらえませんか?」
「ケイくんだっけ?貴方って面白いわね…気に入ったわ。そういうことなら入部させてもらおうかしら」
新しいメンバーも加わり、同好会が目指す方向も決まった。これから彼女達がどんな景色を見せてくれるのか楽しみで仕方ない。