夢の向こう側へ   作:大天使

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6話 Re:Start

数日前にエマさんと彼方さんの復帰。そして果林さんの加入によって同好会は9人になった。残すはあと1人、元々かすみちゃん達と活動していたせつ菜さんという人を連れ戻すことが出来れば同好会を存続させることが出来る。けど現実はそう上手くいかなくて…

 

「ダメだぁ…どこにもいない…」

 

「せつ菜さん…誰に聞いても居場所がわからない」

 

「アタシも色んな人に声かけてみたんだけどさー、全然情報無いの。もうお手上げだよ」

 

俺達はせつ菜さんを連れ戻す以前に彼女の消息が掴めないという状況に陥っていた。しずくちゃんの時みたいに居場所がわかれば何とか会いに行けると思ったんだけどなぁ…

 

「エマさんと彼方さんはせつ菜さんが何学科にいるのか知ってたりします?俺が入部する前はせつ菜さんと一緒に活動してたんですよね?」

 

「私は知らないなぁ…」

 

「う~ん…私も聞いたことない」

 

以前一緒に活動してたメンバーもせつ菜さんが居そうな場所に心当たりは無いそうだ。

 

「力になれなくてごめんなさい。私達は一緒に活動してたのにせつ菜さんのことは何も知らなかったみたいです…」

 

「気にしなくて大丈夫だよ!この学校にいるんだから必ず見つかるって!」

 

「そうだよ!さっきかすみちゃんと果林さんが先生にも聞いてみるって言ってたから大丈夫!」

 

「おっ、噂をすれば。2人が帰ってきたみたいだよ」

 

それから2人はすぐに戻ってきたが何やら様子がおかしかった。

 

「おかえりなさい。どうでしたか?」

 

「…ねぇエマ、せつ菜ちゃんって子は本当にいるのよね?」

 

「え?そうだよ。だけどかすみちゃんも一緒に活動してたんだからそれは知ってるよね?」

 

「そ、そうですよね…あはは」

 

やっぱり何かが変だ。それによく見ると2人とも血の気が引いたような顔をしていた。

 

「2人ともどうしたんですか?さっきから顔色もよくないし。何かあったんですか?」

 

「さっき先生に聞いてみたのよ。優木せつ菜ちゃんって子はこの学校のどこにいるのか知ってますかって」

 

「それで…何かわかったんですか?」

 

そう言って次の言葉を待つ。だが果林さんの口から飛び出したのは予想だにしないものだった。

 

「………いないのよ」

 

「………え?」

 

「だから初めからいないのよ。優木せつ菜なんて子はこの学校のどこにも」

 

 

 

 

 

その瞬間、部室の空気が凍りつくのを感じた。俺達が探し求めていた人物はこの学校のどこにもいなかったのだ。

 

「え、だってアレでしょ?かすみちゃん達と活動してたって言ってたじゃないですか。冗談キツイですよあはは」

 

「ケイくん…顔が笑ってないよ」

 

「だってさ、せつ菜さんがこの学校にいないのが本当なら俺達は一体誰を探してたんだ?事情があって転校したならまだしも初めから存在すらしていないんだよ?」

 

「そういえば愛さんもせつ菜さんのことは知らないんだよね?愛さん友達多いし同級生らしいから名前くらいは聞いたことあるかなーって思ったんだけど」

 

「ん~確かに聞いたことも無いねぇ。自分で言うのもなんだけど話したことあったら覚えてるだろうし」

 

正直どう受け止めればいいのかわからないけどかすみちゃん達が嘘をつくわけがないしせつ菜さんという人がいたのは絶対なはずだ。5人で撮ったであろう写真も見せてもらったことがある。

 

「もしかして…せつ菜ちゃんってお化けだったんじゃ~」

 

「お、お化け!?」

 

「彼方先輩!急に変なこと言わないでくださいよ!」

 

「う~ん。お化けもスクールアイドルやりたくて私達と一緒に活動してたんじゃないかなって思ったんだけど流石に無いよね~」

 

「いやぁ~彼方さんはユニークなこと言いますねぇ。お化け系スクールアイドルなんて面白そうだし見てみたいなぁ」

 

「先輩、そう言ってる割に顔は引きつってますよ。もしかしてお化け苦手なんですか?」

 

「べ、別にそんなことはないようん」

 

まぁアレだ。お化けなんていないいない。それに彼方さんも俺達を和ませるために言ってくれたに違いないんだ。とりあえずどうするのか考えなきゃ…

 

 

 

 

 

「失礼します!!!」

 

「うわああああああ!!!お化けぇぇぇ!!!」

 

「え?お化けってなんですか!私ですよ!」

 

新しく来た声も聞き覚えがあるしお化けじゃないことは確定だろう。この声の持ち主は確か…

 

「あなたは…生徒会長?」

 

「お久しぶりですね。藤波さん」

 

会長が今まで部室に来ることなんてなかったのにどうして…まさか…!

 

「…もしかして部員を10人集められなかったから同好会を廃部にするためにここまで?それなら心配いりません!必ずせつ菜さんを連れ戻してみせるのであと少しだけ時間をください!」

 

「…いいえ、その必要はありません。突然ですがみなさんもご存知の通り私の本名は中川菜々といいます。ですが本当はもう一つ別の名前があるんです」

 

そう言った次の瞬間、会長は結んでいた髪を解き、眼鏡も外した。俺はその姿に見覚えがなかったけどかすみちゃん達は違った。

 

「え!?せつ菜さん?」

 

「なんだって!?」

 

「この姿で会うのは久しぶりですね。みなさん」

 

こんなことが…生徒会長がせつ菜さんだったなんて。俺達が探し求めていた人物は想像以上に近くにいた。

 

「それでは改めて…優木せつ菜です。よろしくお願いします!」

 

「え、はい。こちらこそよろしくです…」

 

そう返しながら差し出された手を軽く握る。正直言うとまだ事態を把握しきっていない。脳味噌をフル回転させて何とか理解しようと試みている段階だ。

 

「せつ菜さん、どういうことなのか説明してもらえませんか?正直今の状況がよくわからなくて…」

 

「先輩の言う通りです。私達もあなたに色々と聞きたいことがあるので」

 

「そうですよね。しっかりと説明させてもらいます」

 

それからせつ菜さんは俺達に条件を出した理由などの説明をしてくれた。自分の気持ちを押し付けたことが原因で同好会がバラバラになってしまったこと。ダメだとはわかっていたけど我慢できず仲がぎごちなくなっていくのが怖かったことなど彼女なりに悩んでいたことを告白した。

 

「せつ菜さんも色々と思うところがあったんですね…」

 

「はい。続けたい気持ちはあったんですけどやっぱり怖くて。原因を作ったのは私なんですから…」

 

「せつ菜さんのせいだと思ってる人は誰もいませんよ!」

 

「いいえ。私はスクールアイドルが大好きって気持ちを共有したくて色々押し付けてしまったんです。悪いのはどう考えても私なんです」

 

「けどせつ菜さんは俺達のことを影で見守ってくれましたよね。他のメンバーが気づいてたかは知らないけど俺にはわかります」

 

俺は知っていた。しずくちゃんに会いに行った時も愛ちゃんや璃奈ちゃん、果林さんの勧誘に行った時も遠くから見守ってくれていたのは生徒会長…いやせつ菜さんであることを。

 

「え、バレてたんですか!?」

 

「はい。自分の正体隠すのは上手いけど尾行はイマイチだったんですね…」

 

「…まぁそのことは別にいいです。私は部員を10人集めてしまうくらい情熱的な人がいてくれれば今度こそ上手くいくんじゃないかって思ってたんです。まさか本当に現れるなんて…」

 

「ケイくんは私達に合ってるやり方を考えてくれたりしたんだよ!」

 

「うんうん。ケイちゃんがいてくれたからあんなにいいアイデアが出たんだよね~」

 

「ケイ先輩はかすみんの恩人なんです!先輩がいなかったら今頃どうなってたかわかりません!」

 

最初はただ困っている後輩を放っておけなかったことや幼馴染みの背中を押すためにやっていたことだけどいつの間にか大きな人の輪が俺の周りには出来ていた。スクールアイドルに関わらなければ得られることのなかったであろう仲間達。俺もスクールアイドルのおかげで大切なものを手に入れることが出来たんだ。

 

「こんなに多くの仲間が集まってくれたんです。せつ菜さん、俺達と一緒に新しいスクールアイドル同好会として活動しませんか?」

 

「…けど活動を再開したらまたスクールアイドルが好きって気持ちを押し付けちゃうかもしれません。暴走しちゃうかもしれませんよ?」

 

「大丈夫。その気持ちは俺が受け止めるし他のみんなも心配いりません。ここにいるのはスクールアイドルを心の底から愛している仲間達ですから!」

 

そう言って俺はせつ菜さんの復帰を歓迎するかのように手を差し出した。みんなも同様にだ。

 

「…ありがとうございます!改めて、私もスクールアイドル同好会に入部させてください!」

 

 

──────────────────────────

 

 

「やったー!これでスクールアイドル同好会再始動ですね!」

 

「よかったぁ。これでみんなのことを本格的に応援出来るんだね!」

 

これで1つの大きい山は乗り越えることが出来た。これから再始動していく同好会のために俺も頑張らなくちゃ!

 

「藤波さん、同好会が再スタートするにあたってお願いがあるんです。あなたにスクールアイドル同好会の部長になってほしいんです!」

 

「え!俺に?」

 

「ここにいるメンバーを集めてもう一度同好会を作ってくれたあなたが中心になってくれたら今度こそ大丈夫だと思うんです」

 

俺が部長をやるなんて考えることさえしなかった。俺はただ、ステージの上で輝くみんなのことを後ろからサポート出来るならそれでいいと思ってた。むしろ俺で本当にいいのか。

 

「本当に俺が部長でいいんですか?」

 

「私は賛成だよ!私がスクールアイドルをやるきっかけになったのもケイくんだから!」

 

「いい考えだと思います。私も先輩がいなかったらこうして同好会に戻っていなかったかもしれません」

 

「アタシやりなりーもケイのおかげでスクールアイドルやろうって思えたんだよ!みんなも異論は無いよね?」

 

「…どうでしょうか?」

 

…やるっきゃないよね。こんなに多くのメンバーに頼まれ、期待されているんだ。絶対に答えなきゃ。

 

「わかった。同好会の部長、引き受けるよ!これからもみんなのことを全力でサポートするからよろしく!」

 

「あなたならそう言ってくれると思ってました。藤波さん…いえ、ケイさん!これからよろしくお願いします!」

 

こうしてスクールアイドル同好会は再始動した。これから色々な出来事があるだろうし壁にもぶつかっていくだろう。それでもみんなとなら必ず乗り越えていける。俺達が進む先にはどんな景色が広がっているのだろうか。

 


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