夢の向こう側へ   作:大天使

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2章 虹と紡ぐ物語
7話 幕開けて


ここ数週間は激動の日々だった。困っていた子を助けたのがきっかけで幼馴染みがスクールアイドルになり、そのサポートをすることになった。そこから縁は大きく広がっていつの間にか仲間が増え、俺は同好会の部長までやることになっていた。今まで過ごしていた日々とは違った新しく、刺激的な毎日が突如として幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…ん!ケイくん!起きて!」

 

「んあ?」

 

「あ、やっと起きた!早く部活行こ!」

 

どうやら寝ちゃってたみたいだ。授業中だったはずなのにいつの間にかみんないなくなってて教室に残ってるのは俺と迎えに来てくれた歩夢ちゃんだけだった。

 

「やべぇ寝ててノート取ってない。しかも授業終わってるし…」

 

「ケイくんったら。授業中に作詞してたからってのもあるでしょ?こんなに散らかしちゃって」

 

そう言って歩夢ちゃんは机に散らばっていたルーズリーフを1枚取った。そこには作りかけの歌詞やフレーズが描き殴られている。

 

「…頑張ってるんだね」

 

「もちろん。誰かに届ける曲を作るんだから絶対に妥協したくない。中途半端にやるのはダメだ」

 

俺にとってスクールアイドルは本業じゃないし売れる曲を作る必要は無い。だからと言って手を抜いたり妥協するのは1人のアーティストとして許せない。それだけだ。

 

「私達のために本気でやってくれてたんだね…」

 

「一応部長だから。あとこれ、未完成だけど歩夢ちゃんのために作った曲なんだ。よかったら聴いてほしい」

 

「うん、ありがとう」

 

歩夢ちゃんがイヤホンを付けたことを確認して再生ボタンを押す。まだ歌詞も途中だし編曲をする必要もある。だけど今の俺の精一杯を歩夢ちゃんに聴いてほしかった。

 

「…いい曲だね」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。あと8人分作らなきゃいけないんだけどね。あはは…」

 

「私達9人の曲だけじゃないでしょ?バンドの方でも新しいアルバム制作してるって聞いたよ?」

 

「…そうなんだよね」

 

正直言うとかなりキツい。バンドと同好会のアルバムを2枚同時に作成しているのと同じようなもんだからだ。しかも1人で。

 

「ケイくん大丈夫?手伝えることあったらなんでも言ってね?」

 

「まぁ今のところはなんとかやれそうだよ。これ以上仕事量増えたら手伝いを頼まざるを得ないかもだけど」

 

「私達も練習の合間に作詞の勉強してるんだ。今はまだ力にはなれないけど絶対に成長してみせるから!」

 

「それは本当にありがたいよ。とりあえず部活行こっか」

 

「うん!」

 

 

 

 

「あ、ケイ先輩に歩夢先輩!遅いですよ!」

 

部室には俺と歩夢ちゃん以外の全員が揃っていた。着替えも既に終わってて準備万端だ。

 

「ごめんね。色々あって遅くなっちゃったよ」

 

「私もすぐに準備するから先に始めてて!」

 

「わかった。それじゃ怪我には気をつけて無理はしないようにね!」

 

「はーい!」

 

各々練習を始めていったが俺はその中の1人である璃奈ちゃんに用があった。前から相談を受けていた件について本格的に話を進めることが出来るからだ。

 

「あ、璃奈ちゃん!前にライブ用のボード作りの件で璃奈ちゃんと話したい人がいるって言ったよね?その人達が来るの今日だから後で時間いいかな?」

 

「わかりました」

 

璃奈ちゃんへの確認は取れたし2人が来るのはもう少し後だ。さて、俺も曲作りを進めるとしますか。

 

 

──────────────────────────

 

 

圭介達が練習を始めてしばらく経った頃、2人の青年が虹ヶ咲学園に向かっていた。

 

「なんでわざわざ虹ヶ咲に行かなきゃなんねーんだよ。せっかくの休みなのによー」

 

「例のボードの件、僕も気になってたしちょうど良かったんだから陽成もそんな事言わないで。そういえば君は虹ヶ咲学園の卒業生だったよね?」

 

「そーだな。ここに来んのも卒業以来だわ」

 

少し話を戻そう。圭介が璃奈を同好会に誘った時に人前で顔を出すのが苦手な璃奈のためライブ用のボード作りを陽成とレイの2人に頼んでいた。その際に利用者に話を聞いてみたいという意見があり、2人が学校まで来て璃奈と会って話をすることになっていたのだ。

 

「とりあえず学校には着いたしケイに連絡しとくよ」

 

「はいよ。じゃあオレは入館証貰ってくるわ」

 

 

 

 

 

「…わかった。今から迎えに行くから少し待っててくれ」

 

予定時間ぴったりだ。せっかく来てもらったんだから待たせるのも悪いしすぐに迎えに行かないと。

 

「客人が来たから迎えに行ってくるよ。すぐ戻ってくる」

 

そう言い残して2人が待っている客人用の出入口に向かった。あの2人は派手な見た目してるから目的地に着くとすぐにわかった。

 

「お待たせ。来てくれてありがとね」

 

「気にしないで。僕達がやりたくてやってることなんだから」

 

「いいってことよ。早速案内してくれ」

 

俺達は軽く雑談をしながら部室へと向かう。ここから部室棟までは少し距離があるから大変だ。

 

「変わってねーなぁ。この学校も」

 

「陽成が最後に来たのはいつなの?」

 

「1年ちょっと前だな。オレは情報処理科出身でさ、プログラミングの知識もここで学んだんだぜ」

 

「そーなの?同好会にも情報処理科の子がいてさー…おっと部室はここだね」

 

通り過ぎちゃうところだった。みんな練習中っぽいけど客人が来ることは前に軽く話しておいたし大丈夫だろう。

 

「みんなただいま。客人も連れてきたよ」

 

「おかえりなさい!お客さんは後ろの2人?」

 

「そうだよ。バンド仲間の陽成とレイだ」

 

「よろしくな」

 

「よろしくお願いします」

 

簡単にだけど2人の紹介は終わった。早速璃奈ちゃんの元へ連れていこう。

 

「璃奈ちゃん、君と話したい人はこの2人だよ。ライブ用璃奈ちゃんボードについて聞きたいんだって」

 

「わかりました…あれ陽成さん?」

 

「君は…璃奈じゃないか!久しぶりだな!」

 

「え、璃奈ちゃんは陽成と知り合いだったの?」

 

確かにこの2人は同じ学科だけど年齢は少し離れてる。まさか知り合いだったなんて…

 

「はい。私がこの学校の中等部に通ってた時に上級生と接する機会があってその時に知り合いました」

 

「さっき話したけどオレも情報処理科出身で璃奈とは学科同じだったからなぁ。連絡取ってたわけじゃないし卒業してからは会う機会なかったけど」

 

「そーだったのか…」

 

「愛さんとライブ見に行った時びっくりしましたよ。ボーカルが陽成さんだったなんて思いもしませんでした」

 

「お、ライブ来てくれたのか?ありがとう!」

 

「陽成さんもケイさんもみんなすごくカッコよかったですよ」

 

褒められたのは嬉しいけどなんか照れるな…

 

「おっと、ここに来た目的を忘れるところだった。色々聞きたいこともあるし早速話そうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

「…それで見た目をどうしたいとか希望があったら聞きたいのよ。こいつが持ってきた雑な設計図じゃ全くわからんかったし」

 

「それは悪うございました…」

 

「ゲームとかで使うVRゴーグルがあるんですけどあんな感じで顔全体を覆うように作れればいいかなーって思ったんですけどどうですかね?」

 

「なるほど…こんな感じでいいのかな?」

 

レイが書いた設計図はクオリティが高く、璃奈ちゃんの希望にも沿っているぴったりなものだった。

 

「これ。こんな感じで作れれば嬉しいです」

 

「おうよ。とりあえずこれで作ってみるか。あとはどれくらいの期間で作れるかだな。オレ達が空いた時間で少しずつ進めたとしても相当時間かかるぞこれ」

 

「それなら問題ないです。同じ学科の子達が作るのを手伝ってくれるって言うからお2人はたまに様子を見てくれるだけで大丈夫です」

 

「そうか。なら任せてみるよ」

 

「うん。そうしてくれると僕達もありがたいよ」

 

今回は作業時間がネックだったけどそこは問題なかったみたい。これならお互いの活動に支障をきたすこともないだろう。

 

「よし、今日やることはこれで終わりだな。オレ達は先に帰らせてもらうぜ」

 

「失礼するよ。それじゃまたスタジオで」

 

「うん。今日はありがとね」

 

「陽成さんにレイさん、今日はありがとうございました…またライブ見に行ってもいいですか?」

 

「いつでも来いよ!それじゃまたな!」

 

そう言って2人は帰っていった。

 

「ふぅ…これでボードの件も一区切り着いたね。あの2人がいてくれて助かったよ」

 

「うん。だけど2人を紹介してくれたケイさんにも感謝しなきゃ」

 

「そんなのいらないって。じゃあ話し合いも終わったし練習に戻ろっか」

 

「練習も頑張る。璃奈ちゃんボード『むんっ!』」

 

みんな目標に向かって頑張ってるんだ。俺もみんなをサポートするためにもっと頑張らなくちゃ…

 

 

──────────────────────────

 

 

ある日の部活前、歩夢ちゃんは言った。

 

「ねぇケイくん、1つ提案があるんだけどいいかな?」

 

提案?なんの事だろう?

 

「もちろんいいよ。提案って何かな?」

 

「私達が同好会として再スタートしてから結構経ったよね?だけどみんなのことをあまり知れてない気がするの。だから一緒に遊んで親睦を深めるってのはどうかな?」

 

「なるほど。いい考えだと思うよ!」

 

俺は曲作りとかでみんなと接する機会はあるけど他のメンバーは練習に時間が取られたりしてなかなか難しい。同学年では打ち解けてるみたいだけど学年間ではまだ遠慮があるように感じていたのも事実だった。

 

「みんなが仲良くなるいい機会になるね。早速伝えに行こっか!」

 

「うん!」

 

 

 

「…っていうことなんだけどどうかな?」

 

「みんなで遊びにですか?」

 

部室に全員揃っていたのでちょうど良かった。簡潔に遊びに行きたいこととその理由を話し、みんなの意見を聞くことにした。

 

「かすみんはもちろんいいですよ!ケイ先輩達と遊んでみたかったですし!」

 

「私も賛成です!親睦を深めるのはとても大切だと思うので!」

 

「私も行きたい。みんなで遊びに行くのすごい楽しそう」

 

1年生3人の意見はすぐにまとまり、早々に参加を決めてくれた。

 

「アタシはもちろん行くよ!こーいうの好きだし!」

 

「みんなで遊ぶことは慣れていないのですがお互いのことをもっと知るのはとても大切なことだと思うので私も参加します!」

 

言い出しっぺの歩夢ちゃんは言わずもがな、他の2年生2人からもすぐに賛同を得ることが出来た。

 

「彼方ちゃんも行きたい。みんなともっと仲良くなって一緒にお昼寝したいな~」

 

「仲良くなるのはいいことだよね。私も参加するよ!」

 

「そうね…みんなが行くなら私だけ不参加って訳にはいかないわね」

 

全員の了承を得られたから決まりだ。あとは何をするかみんなで話し合っていたけどエマさんの一言で全てが決まった。

 

「ピクニックなんてどうかな?寮の近くに大きな公園があってお散歩したりお昼寝すると気持ちいいんだよね」

 

「ほほう。それで賛成だよ~」

 

「季節的にもちょうどいいんじゃない?」

 

「ピクニックですか…いいですね!」

 

ということで次の休日にピクニックをすることになった。みんなのことをもっと知れるいい機会になるその日が待ち遠しい。

 


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