放課後、俺は誰もいない教室でパソコンとにらめっこしながらギターを手に新たなフレーズを考えていた。
(とりあえずここのパートは完璧だ。他の曲も大まかな流れは作成して後は手直しするだけか。いよいよだな…)
「…い!」
(…誰だ?今忙しいんだけど…)
「ケイ!聞こえてる?」
「何…?って達也か。忘れ物でもしたの?」
イヤホンを外し、声のする方へ顔を向けるとそこには達也がいた。
「いや、ケイの様子を見に来たんだ。多分ここにいるんじゃないかなって思ってさ」
「大正解。ここで作業するのが1番捗るんだよね」
「へぇ~ちょっと曲見せてよ」
達也はそう言ってパソコンの画面を覗き込んだ。そんな彼にイヤホンを付けさせ、再生ボタンを押す。
「いい曲だね。そろそろ完成も近いんじゃない?」
「我ながらいい出来だと思うけどまだまだだね。メンバーは9人いるしみんなの個性に合わせて作らなきゃいけないから」
「…お前それ全部1人でやるつもりなのかよ」
…受け入れたからにはやり遂げなくちゃだけど正直キツい部分もあった。俺達は9人がそれぞれソロで活動しているんだからその分負担が増えてしまうからだ。
「ハァ…やり遂げたい気持ちはわかるけど副業みたいなもんでしょ?気を取られて本業が疎かになるようじゃ困るよ」
「うっ…返す言葉もない…」
「まぁこーなったのはケイに今まで曲作り全部任せてきた俺らの責任もあるんだろうけど。前々からケイに頼りすぎんなって菱川さんにも言われてたしなぁ…」
確かにここまで必死に曲作りをするメリットが俺にはない。スクールアイドルの曲だから売り上げなんてないし本業のバンド活動を放り出す訳にもいかない。だけど俺は…
「達也の言うことは正しいよ。けど俺は…」
「もしかしてあの子?歩夢ちゃんだったよね?幼馴染みの」
「間違ってはないよ。歩夢ちゃんはさ、今まで俺のバンド活動を応援してくれて挫けたり諦めたくなった時はいつもそばにいてくれたんだ。俺はまだ恩返しもしてない。そして何よりやっと2人で何かを始めることが出来たんだ!もちろん同好会のみんなも大切だけど俺は…!」
「あーわかったわかった。これ以上は言わなくていいよ。ケイはどんだけ歩夢ちゃんのこと好きなんだよ」
「いや歩夢ちゃんは幼馴染みだから。好きとかそういうのじゃ…」
昔からよく言われるんだよね。俺達はただの幼馴染みなのに…
「まぁいいや。ケイがそー言うのは想定内だったしな。そんな君にはこれをあげよう」
「これはUSBメモリ?ありがたいけど曲作る用に何個も持ってるし予備もたくさんあるよ?」
「データ入りだよ。とにかくパソコンにぶち込んでみてくれ」
言われるがままパソコンにUSBメモリを挿入した。すると…
「これって…」
「どーだ?俺とシンでここまで仕上げたんだぜ?」
画面にはまだ作り途中であるはずの曲が完成した状態で表示されていた。手伝うから出来た部分まで渡してくれってシンに言われたけどここまで終わらせてくるなんて…
「いつの間に?まだ歌詞も作り途中なのに…」
「未完成だった部分は俺が完成させたよ。これでアルバムの収録曲は9割終わってる。あとはお前が今作ってるやつで最後だ」
最後の1曲。俺がどうしても自分だけで完成させたいと誰にも見せていなかった曲。『Friend Ship』と名付けたその曲を。
「…ほんとみんなには敵わないな」
「俺達も楽しかったよ。これからは一緒に曲作りも勧めていこうな!」
「………ああ」
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達也が帰ってしばらく経った頃。ケータイから指定の時刻を知らせるアラームが鳴った。
「もうそんな時間か。せつ菜ちゃん…じゃなかった、菜々ちゃんのところへ行かなくちゃな」
本来ならせつ菜ちゃんと呼んでいるところだけど彼女の希望により、学校生活の中では本名である菜々ちゃんと呼ぶことになっている。
「特に連絡ないから今日も生徒会室かな?」
菜々ちゃんが同好会に復帰してからたまにではあるが生徒会の仕事を手伝っている。バンド活動したり曲作ったりしてる中で我ながらすごいアクティブな気がしてきたな。
「失礼します。菜々ちゃんいる?」
「…さん、本気でそうするつもりなんですか…?」
「はい。先程説明した通りになります」
普段は俺達以外いないはずの生徒会室だが今日は先客がいたようだ。菜々ちゃんの知り合いかなと思ったけど何か様子が変だ。
「まずは私があなたに代わって生徒会長になります。近いうちに総選挙を………あら?そちらの方は客人ですか?」
「いや、俺はここでやることがあってね。君の方こそ生徒会室に何か用かな?」
リボンの色から察するに1年生だろう。口元から微かに見える八重歯が特徴的な女の子だった。
「ケイさん…来てたんですね」
「ついさっきね。それより大丈夫?若干揉めてたように見えたけど」
「ケイさん…?もしかして貴方は…」
「ところで君は?ここまで来るってことは何か要件でもあるんだよね。見た感じ1年生だけど」
「生徒会長と話がありまして…突然ですがあなたが藤波さんですよね?」
「そうだよ。君は菜々ちゃんとはどういう関係?」
「申し遅れました。私、三船栞子と申します」
三船さんと名乗ったその子はぺこりと頭を下げて言った。
「丁寧にありがとう。もう一度聞くんだけど生徒会室に何か用かな?穏便に話してるようには見えなかったんだけど」
「こ、これは私と三船さんの問題です!この件をケイさんに押し付ける訳にはいきません!」
「構いません。近いうちに藤波さんにも伝えようと思っていたので丁度いいですから」
「俺に伝えたいこと?何かな?」
「単刀直入に言います。これから私が生徒会長になり、その際にスクールアイドル同好会の廃部を真剣に検討しているということです」
「…なるほどね」
生徒会の力を使って同好会を潰す。それが彼女の目的のようだった。総選挙に立候補するのは彼女の自由だけど部を無くすための手段にされては俺もたまったもんじゃない。
「私が生徒会長になった暁には必要のない部活は無くしていくつもりです。それはあなた達が属している同好会も例外ではありません。もちろん同好会の部員には各々の適正にあった部活を紹介させてもらいますのでご安心を」
「…先に言わせてくれ。ちゃんとした理由はあれど要するに同好会を潰す気でいるんだろう?そんなことを部長である俺がはいどうぞと認めるわけがないことは君にもわかるよね?」
「そうですね。ですが直に認めさせます。そもそも何故スクールアイドルなんですか?あなた達には他に向いてるものが必ずあります。なのでそちらの道を選んだ方がいいのではというのが私の意見です」
僅かな時間だったがこの子がスクールアイドルのことを快く思ってなくて同好会を潰すための口実に他の部を利用しているように感じた。
「やりたいことはわかったよ。生徒会長に立候補するのも君の自由だしそこを咎めたりはしない」
「そうですか。少しでも理解してくれたのなら幸いです」
「…けど1つだけ言っておくよ。あまり俺達をバカにしないでくれ。同好会のみんなは人に言われて簡単に活動を辞めるほどスクールアイドルを軽く思ってなんかいない」
「………」
「適正で全てが決まるなんてそんなものはクソ喰らえだ」
正直年下の子相手に大人気ないと自分でも思う。けど同好会の部長として、黙っているわけにはいかなかった。
「適正に関しては私もあなたに対して思うところがあります」
「…どういうことかな?」
「あなたにはギターの適性が人一倍あります。だからこんな場所で時間を無駄にするのは勿体ないと私は感じているんです」
簡単に言うと無駄なことをしないでバンド活動に集中しろと言われているようだ。それは1つの見方としては正しいし俺も相手が納得する理由を導き出せる自信もない。ただ1つだけ言えることはある。
「確かにバンドに一点集中した方がいいってのは正しい考えだと思う。君が才能を認めてくれるのも素直に嬉しいよ。だけど俺はやりたいからやっているんだ。俺は同好会のみんながステージで輝くのを支えたい。それ以外に理由がいるかな?」
「…やはり理解はできませんね。まぁいいでしょう」
そのまま三船さんは俺の横を通り過ぎ、生徒会室のドアに手をかけて言った。
「私は次の生徒会選挙に立候補させていただきます。当選ということになったら先程お話した政策を実行していくので覚えておいてください。それでは」
彼女はそう言い残し、生徒会室を去っていった。
「…ケイさん?」
「よし、さっさと仕事に取りかかろう。同好会の活動もあるんだしこれ以上時間を無駄にはできない」
「あ…はい!すぐに終わらせましょう!」
「…せつ菜ちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「同好会を廃部になんて絶対にさせない。俺が必ずみんなを守るから」
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その後は特に問題なく仕事が進んでいった。残りの作業を終わらせ、一息ついたせつ菜ちゃんが作詞をしている俺に尋ねてくる。
「ケイさん、近いうちに総選挙は行われます。私は三船さんに勝つことが出来るでしょうか?」
「…もちろん可能性はある。だけど最終的に選ぶのは全校生徒だから上手くいく保証はどこにもない。あの子はやり方は強引かもしれないけどみんなのことをよく考えているように感じたから相当厄介な相手だと思うよ」
「はい。わかっています」
「そんなに気負わなくて大丈夫だよ。勝負は最後までわからないけどせつ菜ちゃんの良さを理解してくれてる人は沢山いるんだからさ」
「そっか…そうだといいですね!」
「よし、じゃあ練習行こっか!」
さっきまでのことは一旦忘れよう。それに俺からみんなに伝えたいこともあるからね。
「遅れてごめんね。練習はどうかな?」
「先輩!お仕事お疲れ様です!」
「…ありがとう!みんなもお疲れ!」
練習を始めてから相当時間が経っていたけど疲弊している様子は無かった。みんな体力がついてきたということだろう。
「ケイくん、疲れてるみたいだけど何かあったの?」
「…いや、大丈夫だよ。疲れてるのは事実だけどね」
生徒会室での出来事は伝えない方がいいだろう。余計なプレッシャーを与えたくはない。
「それよりみんな、練習も大切だけどそろそろステージでの経験を積むことが必要なんじゃないかなって思うんだ」
「ステージかぁ…この中だと経験者はせっつーだけだよね?愛さん達はやったことないし」
「確かにまだステージに立ったりとかはしてないわね。私はもういけると感じてたんだけど…」
「俺もみんななら出来ると確信してる。そこで提案だけど1ヵ月後にイベントがあるからソロ部門で出場してみない?」
最近はグループではなく1人でステージに立つスクールアイドルも増えた。その点も考慮して団体部門だけではなくソロ部門のイベントも行われるようになってきたらしい。
「かすみんは出たいです!会場のみんなを夢中にさせてあげますよ!」
「賛成だよ!私はみんなのステージも見てみたいな!」
「彼方ちゃんもやりたい。楽しみだなぁ~」
「私も…ちょっと恥ずかしいけど頑張りたい」
答えは聞くまでもなかった。やりたいことや目標は違うけどステージに立ちたいという思いはみんな同じだった。
「決まりだね。エントリーの方は俺がやっとくからみんなは安心して練習に集中して!」
「本当にありがとう。けど全部任せちゃって申し訳ないな…」
「そんなの気にしないで。部長なんだから当然だし俺はみんなのことを1番近くで支えたいんだ。もちろん歩夢ちゃんのこともね」
「ケイくん…うん!」
イベントへの出場も決まり、みんなのやる気がより高まっているのを感じた。これから彼女達が立つステージでの輝きを見届けていきたい。