格好いいところ見せましょ   作:紺南

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第1話

巡航中のルートを無理やり変えて、第97管理外世界の方向へとアースラは舵を切った。

搭乗している執務官にして上司のクロノンはぶつくさぶつくさ文句を垂れていたが、艦長のリンディ提督が「まあ偶にはね」と許可してしまったので、もはやどうしようもない。

納得できないクロノンはなおぶつぶつ言っていたが、97管理外世界からロストロギアの反応を検知してその表情は一転した。

 

「やっひゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

俺は喜びのあまりブリッジを転げまわる。

がっちゃんがっちゃんあちこちに身体をぶつけて跳ねまわった。

 

余りの大暴れに操縦中の乗員が小さな悲鳴を上げたが、そんなの関係ないね!

 

「どうだクロノン! 俺の勘当たっただろ!! なあにがあるわけないだ。悔しかったら悔しいですって言ってみろ!」

 

「……」

 

俺の勝ち誇った顔を見たくないとばかりに、クロノはじっとモニターを見つめている。

逃げることは許さない。さあその悔しさに歪んだ顔を俺に見せろ。

クロノの目の前に仁王立ちした。

 

「いやー、ここにロストロギアある気がしたんだよなあ! さすがだなあ俺え!」

 

「艦長。ここは確か管理外世界だったはずですが」

 

「その通りよクロノ執務官」

 

俺から視線を逸らして背後の艦長席に問いかける。

リンディ艦長は頷いて、あとはエイミイが捕捉した。

 

「数日前にロストロギアを乗せた輸送鑑が事故に遭ってるね。その時にロストロギアがばら撒かれたみたい」

 

「すでに管理局が対応済みか?」

 

「ううん。一般の魔導士が渡航してるけど、管理局はなんの対応もしてないよ」

 

クロノンが頭を抑えた。

「そんな馬鹿な……」と呟きが漏れる。

 

さきほど観測したエネルギー反応を見る限り、余裕で次元震の一つ二つ起きそうだった。

にも関わらず管理局が未だ何の対応もしていないというのは、職務怠慢に他ならない。

輸送していたロストロギアの危険性と現状の見極めが出来ておらず、あまつさえ一般の魔導士に任せちゃってる。

 

これ次元震起きたらやっべえぞ。

陸から良い人材引き抜きまくってるんだから、目先のロストロギアの回収ぐらいちゃっちゃとしてもらいたいもんだ。

 

「艦長。至急現地に飛ぶ必要があります。先ほどの反応から、すでに何らかの被害が出ている可能性が高い。放っておけば大惨事になる」

 

「許可します。クロノ執務官は急ぎ現地に向かってください。ライ三尉は艦で待機を。不測の事態に備えてください」

 

「へい」

 

頑張れクロノーン。

俺の声援は届かず、クロノンは早足で出て行ってしまった。

せめてもの気持ちを込めて横断幕を張ろうとしたら「邪魔です」とオペレーターの一人に断幕を破られる。

そのあまりの無慈悲さに茫然自失でその場に両膝をつく。優しさをください……。

 

「ライくんお菓子いるー?」

 

「わーい!」

 

いた! ここに優しさがいた!

優しさの権化だ。一生ついて行きますエイミイ姐貴!

 

「クロノ君大丈夫かな?」

 

「いけるいける。クロノン頑張れー」

 

ばりぼりクッキーを貪りながらエイミイとティータイム。

あいつで無理なら誰にも無理だろ。

可能性あるのは二人で協力プレイとか……何それ素敵ね。

 

『艦長』

 

「お、噂をすればクロノ君」

 

「悪口言ったら一単語目ぐらいに連絡きそうなタイミング」

 

実際そんなことあるのかは要検証。

クロノンの悪口とか……やーいちびー。

こんなんで一々連絡来たらやってられないな。

 

「現地協力者を?」

 

『はい。一応任意同行と言う形ではありますが、すでに了承も取っています。アースラに連れて行こうと思うのですが……何か問題でしょうか?』

 

「いえ、構いません。お連れして」

 

『了解しました』

 

任意とかどうせ字面だけだろうなあと思いながら紅茶を啜る。

その内お話が終わって、リンディ艦長はにっこりと俺たちを見た。

 

「お客さんみたいね」

 

「きっと可愛らしい女の子ですよ。やったぜ」

 

「それライ君の願望じゃないの?」

 

「俺は別に賭けてもいい。さあ何を賭けようか」

 

「うっ……。ま、まあ私も女の子の方が嬉しいし」

 

逃げたか。最近察しが良くなってきたな。

まあいい。俺も歓迎の用意がある。

 

「さあ、久しぶりにこのジャスティスマスクマンが参上する時!」

 

「管理局の評判落とさないようにねー」

 

「がってんだ!」

 

正義の味方、ジャスティスマスクマン!

その正体は謎に包まれているが、管理局員と言う説が有力だぞ!

これからアースラに現れるしな!

はっはっはっは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう……お話は分かりました」

 

リンディさんが噂のリンディ茶を啜って、目の前のお二人の話を聞く。

全てが終わった後、溜息と共に深い苦悶の感情が吐き出された。

 

「今までよく被害を抑えてくれました。管理局員として感謝の言葉と、それから対応が遅れたことへの謝罪を。ごめんなさいね」

 

「いえ、そんな!」

 

頭を下げた艦長に、金髪のフェレットキメラことユーノが慌てる。

その隣で茶髪の現地協力者こと高町も似たような表情で言葉を重ねていた。

 

「あんまり被害出てませんし、リンディさんが謝る必要なんて……」

 

「いえ、それは結果論よ。あなたたちがいてくれたから、この世界は平和なまま。それに目をつむってふんぞり返ることは許されないでしょう。なによりこんな危険な目にあなたたちのような年端もいかない子供を巻き込んでしまったのは、管理局の対応の遅さが招いたことだから」

 

いつになく真剣なリンディ艦長。

その真剣な表情に、俺の琴線が振れてしまった。茶化さなければ。そう思ったのだ。

 

「むごー」

 

みんなの目が俺に向けられる。

俺は今喋れない。口に猿ぐつわをかまされている。手足はバインドで縛られている。

それでも喋った。茶化したかったから。

 

「……」

 

「……」

 

シリアスな雰囲気を遮っての俺の自己主張は効果的とは言い難かったようだ。

そもそも何言ってるのか分からない。一見しただけだと仮面をかぶって拘束されている変人だ。

目の前の二人も意識して俺から視線を逸らしていた。たぶん触れたら負けだと思ったのだろう。

いま、触れようか迷っている。触れてくれ。その瞬間俺はバインドを外して叫ぼう「マスクマン参上!」そう叫ばせてくれ。

 

しかし結局触れられることはなかった。

代わりに変な空気になった場を隣に居たクロノンがとりなした。

 

「失礼。これは気にしないでくれ」

 

「むごー。むぐぅ」

 

「少しうるさいが、よく喋る置物だと考えてくれれば」

 

置物は喋らねえよ。

お望みなら置物らしくしてやろうか?

 

「ごっごっごっごっごッ!?」

 

「艦長。続きをどうぞ」

 

「ええ。……ジュエルシードの捜索は我々が責任を持って引き継ぎます。二人はこの件は忘れて、平和な日常に戻ってください」

 

「え……」

 

高町とユーノの声が重なった。

二人で顔を見合わせている。

それを見てリンディさんは苦笑した。

 

「とは言っても、突然すぎてすぐに納得できないでしょう。一晩時間をあげます。今日一日ゆっくり考えて、また明日話しましょう」

 

はてさて、何を考える必要があるのやら。

この提案を受け、案の定飛び出した「艦長!?」の呼び掛けをリンディさんは手で制した。

 

「さ、今日は疲れたでしょう? 家まで送るわ。戦いの疲れを癒してね」

 

「むごー!」

 

最後にみんなが俺を見て、その場はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーしんど。いきなり拘束されるんだもん。まいっちゃうよねえ」

 

「君のせいで管理局に変な印象を持たれないか艦長が気にしていたんだ。仕方がないだろう」

 

「なんだよ艦長指示かよ。あの責めっ気はてっきりクロノンの独断だと思ってたのに。……次はもっと優しくしてね」

 

「殺すぞ。……いや、艦長に言われなくてもやってたさ。でも僕なら同席すらさせなかったよ」

 

バインドで拘束されて猿ぐつわ噛まされて。

珍妙な置物と化していた。いる意味なかったね。

なんのために同席させたのやら。

 

「さあて。今後の展開の予想といこうか」

 

「それは、聞くまでもないな」

 

はあと大きな溜息。

 

「十中八九、彼女はこの件に関わろうとするだろう。そして艦長はそれを許可する。今は現地協力者と言う形だが、可能であれば嘱託に。いずれは正規の局員として迎え入れるつもりだ」

 

「はっはっは。魔力だけでAAAランク相当は見逃せないかあ。クロノンと同じだもんねえ」

 

ねめつける様な視線。

ぞくぞくしますわ!

 

「君はそれでいいのか? まだ9歳の女の子だぞ。しかも比較的平和な管理外世界の生まれだ」

 

「年齢のこと言うなら、その9歳の女の子に顔赤くしたのは誰だっけ?」

 

ずっと気になってたこと指摘したらクロノンが顔を赤くした。慌てた口調で言い訳を開始する。

必死なところは可愛げがあるが、生憎ショタに興味はないな。クロノンだから興味あるんだよ!

 

「クロノンが入局したの9歳の時だろ。俺なんて8歳だぜ。年齢でどうこう言えねえな」

 

「む……」

 

「一回魔法に触れちゃったら駄目さ。魔法の楽しさ覚えちゃってるし、何が何でも関わろうとする。AAAなんて誰に目つけられるか分からないから、変な関わり方されるよりこっちで管理してやった方がずっと安心」

 

「しかし……」

 

まだ納得出来ないクロノン。

こいつは正義の味方を志していたことがあるらしい。今もその気持ちは変わっていないと豪語している。

 

何も知らない無知な子供をこの世界に引き込むのは、確かに正義らしくない。

どちらかと言うと悪よりの行動だよね。洗脳とか刷り込みとかは。

 

「間違いなく嘱託にはなるだろうけど、まだ世界のことなんにも知らないしな。正規になる前に色々教えてやった方がいいのは確かだね。汚いとこ綺麗なとこ全部知ってもらって、それで決めてもらうのが一番だ」

 

俺としては地球で平和に暮らしてもらいたいものだが。

俺が今こうしている様に、きっと管理局に入るのだろうなあ。あいつだしなあ。

 

「教えるのはお前だぜクロノン。そんなに入ってもらいたくないなら、スパルタで教育しなきゃ」

 

「わざと芽を潰す様な真似はしない。……だが、この世界がきれいごとで成り立っている訳じゃないのは事実だ」

 

現実と理想のすり合わせが出来なければ早晩潰れる。

管理局を辞めるか、管理局に仇なすか。その二択だ。

 

「こんな組織でも、必要なんだ。この世界には」

 

どんだけ気に入らなくても、どんだけ疑わしくても、管理局があるから現在の秩序がある。

なくしてしまえば、安寧は崩壊する。

見極めなければいけない。必要なのか必要じゃないのか。

いつまで必要なのか。どれだけ許せるのか。死ぬ価値があったのかどうか。

 

目の前の事件を解決するだけじゃ、世界は平和にならなかった。

学んだことは言葉にすればたったそれだけだ。その上でどうするのか。

答えはまだ出ていない。

 

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