格好いいところ見せましょ   作:紺南

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第2話

ユーノと高町がアースラの食堂で暗い顔をして話し込んでいるのを見つけた。

二人がここに居る理由と言うのは、今や二人とも現地協力者ということで、まあ結局そういうことになったのだ。

 

ジュエルシードにしてもテスタロッサにしても、なんか高町の成長が著しいらしく、俺の出る幕がない。

聞え良く言うと温存だが、ぶっちゃけ言うと俺は今現場に出れない。

だから高町とクロノンに頑張ってもらうしかないのだ。まあ出ようと思えば出れるんだけどね。

 

そんなわけで基本役に立たない俺を差し置いて、高町は度々アースラでクロノンやリンディ艦長と何か話しこんでいた。

それを見つけ次第、マスクを被って突貫していたのだが、クロノンにバインドで縛られて引きずられるのがオチだった。

 

最初の邂逅以来、特に話すこともなく日々が過ぎていた所で、最近は事件に進展もなく、強いて言うならプレシアやアリシアやフェイトの関係がおぼろげに分かってきたところだ。

いつかこの事件をみんなで笑い飛ばせるようにしたいところだが。

 

それはともかく、今は周囲にクロノンの姿がない。

これは好機。仮面を被って突撃だ!

初めまして、マスクマンだヨ!

 

「そこな少女よ。お困りカナ?」

 

「あっ」

 

「げっ……」

 

腕をクロスさせ、腰を捻るポーズを取っているのだが、それを見たユーノの反応がおかしい。なぜ苦々しい顔をしているのか。

仮面に何かついてるかな?

 

「あの……」

 

「おっと失礼。少し汚れが気になって」

 

そんなものはなかったけど。

 

「そこな少女よ」

 

「はい」

 

「お困りカナ?」

 

「……」

 

仕切り直し。

二人は顔を見合わせている。

念話で何か話しているようだ。

盗聴も出来るが。うーむ……。

 

「なんでもないです。さようなら」

 

「まあ待てフェレットキメラ」

 

「キメラ!?」

 

がしっとユーノの肩を掴んで制止する。

絶対離さないぞと強い力を込めた。

 

「お困りごとなら相談に乗ろう」

 

「いえ、いいです」

 

「なんと今なら相談料無料!」

 

「いいです」

 

「ついでにこの仮面のレプリカもあげちゃう!」

 

「いいです」

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな」

 

「聞きたくないんで」

 

「まあそう邪険にするな」

 

バインドでユーノを縛ってそこら辺に転がす。

ユーノは叫んだ。

 

「なのは逃げろぉっ!」

 

「えっとぉ……」

 

高町は呆然と立ち尽くしている。

困った顔で頬を掻く。

 

「にゃはは……」

 

うーん。かわいい。

 

「さあ自己紹介だ高町にゃにゃのは」

 

「なのはです」

 

「どっちでもいい。どうせそっちは呼ばない」

 

なのはよりにゃにゃのはの方が可愛くね?

にゃんにゃんにゃん。にゃにゃにょはにゃん。

 

「そう言えば地球には猫カフェがあると聞いたのだが」

 

「ありますよ?」

 

「いずれ行ってみたいものだ。ということで! 我が名は正義の味方ジャスティスマスクマン!! 正義を愛し、そんな抽象的な物よりも猫を愛する者!」

 

ビシッとポーズを取る。

高町は一度視線を上の方にずらして、また俺の方に向け直す。

 

「えっと、マスクマンさん?」

 

「語呂が悪い! 仮面さんとお呼び!」

 

「仮面さん?」

 

「何かしら!?」

 

にゃはは……と愛想笑いがもう一発。

ついていけねえと顔を歪めるユーノの顔が良く見える。

うふふふと仮面を近づけてみると、その顔は真っ青になった。

 

「相談に乗ってくれるんですか?」

 

「暇だからね! 何でも言いなさい! 何でも聞くから!」

 

「……じゃあ一つだけ」

 

「なのは!?」

 

ユーノが叫ぶ。対して苦笑する高町。

二人の間で魔法のやり取りを感じた。

また念話使ってるー。内緒話だー。割り込んでやろうかー?

 

「じつは最近、気になってる子がいて」

 

「まあ恋愛相談!? 若いって良いわぁ!! 青春ね! どの男の子? まさかクロノン!?」

 

「いえ。その子女の子なんです」

 

なんだそっちか。

 

「テスタロッサのことか」

 

どっこいせと近場の椅子に座る。

ついでにバインドも解いた。

立ち上がったユーノは警戒心を滲ませて高町を守るように横に陣取る。

まあ座れよと椅子を勧めるも、断固として座ろうとはしなかった。

 

「昨今、市民権を得てきたとはいえ、同性愛はなかなか理解されにくいな」

 

「同性愛でもないんですけど……」

 

「えー。じゃあ気になってるってどういうことー?」

 

「お友達になりたくて」

 

「なればいいんじゃん」

 

そんな簡単なことじゃないんだよってユーノの視線がきつくなった。

「まあそうなんですけど」と続ける高町の方が忍耐力ある。

 

「でも、全然話聞いてくれなくて。会うたびに話しかけてるんですけど、まともに返事もしてもらえないんです」

 

「うんざりされてるんじゃね?」

 

しゅんと高町の元気がなくなる。

代わりにユーノの元気が良くなった。

 

「ざっくりそう言うこと言わないでください! なのはも真剣に悩んでるんだっ」

 

「どんなに悩んでもスタートラインにも立ててないじゃん。無駄無駄」

 

「だからっ!」

 

激高したユーノ。

それを遮って立ち上がる。

 

「いいか高町なのは! お前には思慮の浅さだとか遠慮のしすぎとか、人の心にずけずけ踏み込んでくるお節介だとか色々長所短所あるが!」

 

散々に言われた高町は自分を指さしながらユーノを見る。

ユーノは視線を逸らした。

 

「今回はそんなもん全部邪魔だ。捨てとけ! 全部いらねえ!」

 

「でも……」

 

「でもも菓子もねえ! いや、菓子はあるわ。エイミイに言えばもらえるよ。……友達になりたいなら、お前がやるべきことはただ一つ! スタートラインに立つことだ!」

 

「その立ち方が……」

 

「馬鹿野郎っ!」

 

反響するぐらい大きな声で腹の底から怒鳴る。

二人の肩がびくっと跳ねた。

 

「スタートラインに立つとはつまり話すこと。まずは話す環境を作る必要がある!! それをしない内から一方的に自分の心の内をさらけ出すとか、そんなんじゃ友達なんて一生なれねえ! いいとこストーカーだお前は!! 」

 

終始圧倒されていた高町だったが、やがてつばを飲み込んで前のめりになった。

 

「どうすればいいですか」

 

その目に真剣味が宿っていた。

結構真面目な話をしていたので興味を惹けたらしい。あるいは空気に当てられたのか。

横から「なのは。いけない」とユーノが忠告してはいるけれども、耳に入っていないようだ。

 

俺は椅子に座りなおし、冷静さを取り戻しながら極々平然と言った。

 

「殴りなさい」

 

「え」

 

「テスタロッサを、殴りなさい」

 

「……え」

 

「殴って気絶させて、ここに連れて来なさい。それで椅子に縛り付けて言うんだ『お友達になろうよ……』」

 

「いや、怖いよっ!!」

 

ユーノのツッコミが嬉しい。

最近のクロノンはまず俺の口を封じてくるからな。

こうやって言葉で突っ込んでくれるとボケ甲斐もあるってもんよ。

 

「そしたらテスタロッサはこう言うだろう『離せ』

 お前は構わず、続けるんだ。『お友達になろうよ……』」

 

「だから怖いって……」

 

「テスタロッサは頑固だから、中々頷かないだろう。そこで奥の手だ。『プレシアさんって綺麗な人だね……』『時の庭園って良い場所だったよ……ちょっと機械が多かったけど……』」

 

「な、なに言って……」

 

「『ねえ、フェイトちゃん……。いいのかなあ? そんな態度で。プレシアさん可哀そうだよ? ……ほら、聞こえてこない? 苦しそうな声。助けてって。もうやめてって。フェイト助けてって聞こえて――――』」

 

「でやぁっ!!」

 

「ぐふっ」

 

突然ユーノに跳びかかられて、俺はその場に押し倒される。

俺の自由を奪おうと馬乗りに乗っかられた。そんな!? こんな場所でなんて大胆な!?

 

「なのは、執務官を!!」

 

「うん! 今呼んでくるね!」

 

「いや、待て待て。クロノンはまずい。わかったごめん、ふざけてごめんなさい! 高町ストォォォォップ!!」

 

何とか立ち止まってくれた高町。

ほっと息を吐いて言い繕う。

 

「まあでも殴れってとこまでは本音なんだけどね」

 

「あ、エイミイさーん! クロノ君いますかあ?」

 

おーい。高町さーん。話は最後まで聞いて?

 

「なになに? クロノ君? クロノ君ならそろそろ……うわっ、ライ君なにやってんの?」

 

笑顔を浮かべていたエイミイは、俺がユーノに拘束されているのを見つけてしらけた表情になった。

 

「ふっ。ちょっとじゃれ合ってるのさ。なあユーノん?」

 

「この人逮捕した方がいいんじゃないですか?」

 

「冗談きついぜユーノん」

 

やめてくれユーノん。

バインドの重ねがけはほんと止めて?

 

「良いか高町。お前も何度か戦ってるから、あの金髪娘の頑固さと聞かん坊振りは分かるだろう? 映像見てる俺でも分かるもん。あいつに話聞かせるとか正攻法じゃ無理だって」

 

「……」

 

「だからさ、無理矢理に何でも聞ける環境作っちゃうんだよ。こっちの話をして、あっちの話を聞く。それで万事解決ね」

 

「うーん……」

 

納得いきかねるご様子の高町嬢。

その手がチラチラとデバイスに触れているのがすっごい気になる。

何するつもり?

 

「まあ、超大真面目な話よ? あいつ今俺たちの話聞く余裕なんてないだろ。なにかに追い詰められてる。必死に何かをしようとしてる。それ以外は眼に入ってない。それじゃダメだ。どんなことだってしてやるって追い詰められて追い立てられてる人間に言葉なんて届かない。じゃあ何なら届くって、それはやっぱり暴力でしょ」

 

エイミイにつんつん突かれながら、なんとか高町を見上げる姿勢を維持する。

物凄い数のバインドが俺の身体に食い込んできていた。

あの、ユーノさん? これ解いてもらえませんか?

 

「お前の魔法に言いたいこと全部乗っけてぶちかましちゃえよ。それが一番手っ取り早いぜ」

 

「……」

 

そこまで言ってギブアップ。

首に巻きついたバインドが俺を床に張りつけにした。

 

「ぐふぅ」

 

「ここまでやればもう大丈夫。なのは、平気かい? 変なことはされてない?」

 

俺は一体どういう風評被害を受けているのだろうか。

さすがに一連の言動でここまでされるほどやらかしてはいないぞ。

 

「……うん。平気。少し見えてきたかも」

 

「え?」

 

「ユーノくん、手伝って」

 

走り出す足音。

遠ざかる二人の声。

遠くから聞こえてきた。

 

「仮面さん、ありがとう! 私、頑張りますっ」

 

そのまま食堂を出て行ったらしい。

やがて二人の声も足音も聞こえなくなった。

 

「どういたしまして」

 

遅ればせながら、口元で呟く。

聞えてはいないだろう。そもそも返事なんて期待していなかった。

 

「真面目なのかふざけてるのか、分かりにくいよねえ。ライ君って」

 

「俺は普段から真面目だよ」

 

「もう少し普段の言動が普通だったらなあ」

 

普通だったら何? なんかあるの?

ギャルのパンティでも手に入るんですか姐御ォォ!!

 

ユーノに巻きつけられたありったけのバインドをレジストする。

ポロポロと崩れ落ちる緑色の魔法。

 

締め付けられた首を動かして何ともないことを確認した。

 

「さ、クロノン来る前にあたい逃げなきゃ!」

 

ダッシュで出口へ走る。

「クロノ君なら」とエイミイが何か言っていた。

関係ねえ、俺は逃げるぞ!

 

「どこへ逃げるんだ?」

 

「そりゃあもちろんお前のいない所へ」

 

「はっはっ。そうかそうか。ところで話があるんだが」

 

「話し? 愛の告白かな? あ、ごめんなさい……。なんでバインド……。あの、僕何かしました? 今回は何もしてないよね?」

 

「まあ、詳しい話はあっちへ。ちょうど誰の邪魔も入らない場所がある」

 

「そっちは取調室!!! そっちはダメええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

取調室まで引き摺られて、容疑者として尋問を受ける。それは普通に仕事の話だった。

 

そんな話をするのになんで取調室なのか。

そこに特に深い理由はないらしかった。

強いていうなら俺が逃げようとしたから捕まえたんだと。

 

じゃあ、そもそもなんで俺は逃げようとしたのか。クロノンが捕まえようとするからだ。

……あれ?

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