テスタロッサと高町の戦いは熾烈を極めていた。
いつの間にかすごく強くなっていた高町は、ついこの間テスタロッサに手も足も出ずぼこぼこにされたとは思えない動きでテスタロッサを追い詰める。
かと言って、テスタロッサも易々負けはしない。得意の高速移動で高町の弾幕を躱し、隙あらば痛烈な斬撃を叩きこんでいた。
「すんごい」
「凄いねえ……」
ジュエルシードが欲しければ私と戦えと物で釣った高町は、背後に居るクロノンの黒い思惑には気づかず、今目の前のテスタロッサに集中している。
ビュンビュン飛び回って魔力弾がドカドカ放たれているのを見ると、やっぱり才能って言うのは凄いもんだなあと陸の現状の凄惨さを思い出してしまった。
陸にあのレベルの魔導士がもう少しいたら……。
「フェイトちゃんも凄いけど、やっぱりなのはちゃんがずば抜けて凄いね」
魔法を覚えて二か月足らずとは思えないと、魔法を解析しながららエイミイは舌を巻いた。
「やっぱりクロノ君より魔力量上かあ」
「悔しい? ねえクロノン悔しい?」
「悔しくない」
「意地はっちゃってえ。このこの」
「やめてくれないか。へし折りたくなる」
クロノンのほっぺを突っついていた人差し指を避難させる。
こいつはやると言ったらやる男だ。
「お、決まったかな」
画面を見ると、テスタロッサが大規模魔法を行使したところだった。
バインドで動けなくなった高町に数えきれないほどの雷撃が直撃する。
「あっちゃあ……なのはちゃん……」
「いや、まだ終わってない」
早計に過ぎたエイミイをクロノンが否定した。
魔法による土ぼこりが晴れた向こうには、ぼろぼろになりながらも耐えきった高町の姿が。
一瞬愕然としたテスタロッサは追撃に移ろうとして、高町のバインドに両手足を絡めとられた。
周囲の魔力が一か所に集まっていくのに目を見開く。
『これは……』
『私の作った、私の魔法。これが私の全力全開!』
空気中に残留していた魔力が一点に集中していく。
それは今までに放っていたどの魔法よりも高密度高濃度で、人の身の丈より大きな光球となった。
レイジングハートの杖先に留められている魔力球の中では、今にも爆発してしまいそうなほどの魔力が暴れまわっている。
『私の気持ち、私の思い、全部ここに込めるから』
『っ!!』
『受け止めて、フェイトちゃん!!』
超極太の砲撃魔法が、身動きの取れないテスタロッサに向けて発射され、張られたシールドを全て蹴散らしテスタロッサを呑み込んだ。
余波によってサーチャーは全て破壊された。
映像の途切れたスクリーンを見つめてクロノンが呟く。
「集束砲撃魔法……」
「……」
あのエイミイですら言葉がない。
クロノンは目の前で起きたことを受け止めるので精一杯のようだ。
「まあ、まあまあ! 凄い子ね……」
「才能の塊ですねえ」
後ろで見ていたリンディ艦長が唯一、今の魔法を見て平然としている。
さすがは年の功。まあアルカンシェルの方が凄いしな。それと比べられる個人魔法ってどうなんだってところだけど。
「さて、決着は着いたようですし、我々も動くとしましょう」
艦長が立ち上がり矢継ぎ早に指示を出す。
プレシア・テスタロッサが居ると思われる時の庭園へと部隊を送り込むようだ。
ならばそろそろ俺も行動しなくては。
「はーい。艦長。俺も行きたいでーす」
「あなたも? でも……」
「もうメディカルチェックでも異常ないですし、そろそろいいでしょう。俺も仕事したーい」
退屈なんですよーと駄々をこねる子供の調子を出してみる。
少しの間考えていた艦長は、俺の顔をじっと見てようやく頷いた。
「いいでしょう。武装局員を連れて、プレシア・テスタロッサの捕縛へ向かってください。ただし、くれぐれも無茶はしないように」
「分かってます。ちゃっちゃと行って、とっとと連れてきますよ」
正直まだ万全ではないし、出来ることなら戦闘は避けたい。そうなってくれれば一番楽ちんだ。
けれど、結局はあちらさんの対応次第。さてさて。どうなることやら。
「こーんにちはー」
武装局員を20人ぐらい引き連れて時の庭園に急行。
奥の方で仁王立ちしていたプレシアを発見。即座に局員たちが包囲する。
「娘のフェイト・テスタロッサと使い魔のアルフをこちらで保護しています。ジュエルシードの件でお話を伺いたいんですが?」
「……」
プレシアは何も言わず、ゴミでも見る様な目つきで睨んでくる。
その間に局員が奥の部屋を発見し、危険の無いことを確認しようとしていた。
「……子供ね。局員なの?」
「子供ですが一応局員ですよ。正規のね。まあ、でもフェイト・テスタロッサの方が子供のようでしたが」
「あれは、子供ではないもの」
いや、あれ子供じゃなかったら世界信じられねえよ。
そう思ったが、話していると会話が成立しない。微妙に意味合いが違っている。
「あれは人形。目的を果たすまでの代替品。都合のいい玩具。そのために生かしておいたのに、ろくにジュエルシードも集められなかった。もう、どうでもいいわ。あんなもの」
「一応これ、テスタロッサ本人も見てますよ」
「言ったでしょう? どうでもいいって」
あ、そうですか。
溜息を吐く。
奥の部屋で局員が何かを発見したようだ。
ポットに入ったなにか。それが露わになって、この場に居た人間はみんな呆気にとられた。
直後にプレシアから沸き上がった魔力を止めることは出来なかった。
「触るなっ!」
穏やかだったプレシアの口調が箍を外したように荒っぽくなる。
雷撃が飛び、奥の部屋にいた武装局員に命中した。
『エイミイ』
『了解』
念話で倒れた局員の転送を依頼した。
さすがはエイミイ。仕事が早い。すぐさま転送されていった。
瞬きの間に姿かたちなく。死んでないだろうな。
「アリシア・テスタロッサは死んだはずですが」
「死んだわ。あなたたちのせいで」
ポットの中に居るのはアリシア・テスタロッサ。
フェイト・テスタロッサに瓜二つの外見で、彼女より幾つか若い。
「埋葬しないんですか?」
「この子はまだ生きてる。埋葬なんて、そんなこと――――」
死んでるんじゃないんかい。
そのツッコミは自重した。
「管理局のせいですか」
「……そう。あなたちが私利私欲に走ったおかげで私の娘は死んだのよ」
「辛いですね」
「お前が、分かったような口を聞くなっ!!」
急激な魔力反応。
『ライ君っ!』頭の片隅でエイミイの警告が響く。
プレシアを囲っていた局員のみならず、時の庭園の中に居た局員がのきなみやられたらしい。
やられた局員は、エイミイの焦った声と共に強制転送で帰還していく。
「……あなたは逃げないのね」
「局員なんで」
銃型のデバイスをプレシアに突きつけながら、周囲にあったサーチャーは一部無事なことを確認。
しかしジャミングを受けているのか、念話は通じなくなった。映像も届いていないだろう。
「フェイトが泣いてたぞ。いい加減現実見ろよババア」
「……餓鬼が」
吐き捨てる様な侮蔑と一緒に、ジュエルシードの暴走が始まった。
とりあえず戦闘開始。
「フェイトは、アリシアじゃない! あの子は失敗作。代替品にもなれなかった、出来の悪い模造品!」
「へえ」
プレシアの雷撃を避けながら、たまに魔力弾を撃って牽制。
それでも一瞬すら動きは止まらない。意味があるようには思えない。
「あなたは言ったわね、娘だと。私は一度もそんなこと思ったことがないわ! あんなゴミ同然の――――」
「おっとフェイトの悪口はそこまでだ」
魔力弾に結界破壊の術式を打ち込んでぶっ放した。
プレシアは似合わない俊敏さを見せてそれを躱す。
「アリシア以外は娘じゃないのか」
「当然」
「姿かたちが瓜二つで、記憶を引き継いでいても、それは娘じゃない?」
「ただの……ゴミね」
さっきと同じ魔力弾を撃つ。
今度はシールドで防がれた。
一回見ただけで対抗術式を編んだらしい。
「死んだ人間は生き返らないぞ」
「いいえ。生き返るわ。アルハザードにはその技術がある。だから私はアルハザードへ行くのよ。そこでアリシアを生き返らせる!」
また全方位に雷撃が撃ち込まれた。
シールドで防御するも、多少抜かれて腕に火傷を負う。
「アルハザードにその技術が本当にあるのか?」
「あるわ。必ず」
「本当に?」
跳弾で意識の外からの攻撃を試みる。
5発ほど死角から襲わせたのだが、全て最小限のピンポイントで防がれた。ひえぇ。
「時の魔法と蘇りの魔法。それがあるなら、どうしてアルハザードは時空の狭間に消えてしまったんだ?」
「……」
「どうしてだ?」
バインド弾でシールドごと拘束する。
一度完全に捕縛したバインドは、一秒保たずにレジストされた。
「どれだけ高度な魔法技術を持っていようと、死人を蘇らせることはできない」
「子供が知ったような口を――――」
「知ってるから言ってる」
吸着して爆発する魔力弾。
プレシアの周囲を爆発させたそれは土ぼこりを煙幕のように舞わせて、治まった頃には無傷のプレシアが立っていた。
「アリシアは帰ってこない。前を見ろ。フェイトのことを見ろ。お前には――――」
「たかだか10年ばかりしか生きてない子供が、説教をしようと言うの?」
強烈な雷撃が一瞬の間に俺の横を通り過ぎていく。
「あぶねっ」
「あなたに何を言われようと響かない」
続けざまの雷撃が、今度は命中した。
シールドなんて脆く崩されて、身体の芯まで痺れる。
思わず膝をついた。動こうにも動けにない。ちくしょう、麻痺してる。
「さすがは管理局の犬ね。知りもしないで道理を口にし、お前のやってることはいけないことなんだと、それだけを語る薄っぺらさ。中身の無い正義漢っぷりには反吐が出るわ」
四つん這いの俺に悠々と近づいてくるプレシアは、容赦なんて微塵もなく頭を蹴り上げてきた。
「ごッ……!?」
「さぞ優秀な魔導士なんでしょう。調子に乗って、説得できるなんて思い上がるぐらいには」
もう一回雷撃。目の前が真っ白になる。全身を激痛が走って、苦悶で声を漏らした。
けれど出力は抑えられている。こんなんじゃ俺は死なない。意識を失うほどの威力でもない。
なぶり殺すつもりだろうか。それとも……?
とにかく、動けるならば動かなければいけない。
見下されながら、膝が笑うのを必死に抑えて、何とか立ち上がった。
「まだ立つ?」
「……泣くぞ」
「ええ。泣きなさい。それで惨めったらしく命を乞いて、無様に帰るといいわ。私はアルハザードへ――――」
「泣くのは俺じゃねえよ」
口元を拭う。
血とかは出てなかった。
身体のあっちこっちが痛い。特に胸が痛い。
こんなのどこを怪我してるかもわからない。
でも動く。なら充分。まだ戦える。
「アリシアが泣く」
「……」
「いま、お前の言葉でフェイトが泣いた。それを見たらアリシアも泣くさ。いい子なんだろう? お前と違って」
「……」
プレシアは立ち止まった。
俺の話を聞いてくれてる。さっきから、こいつは甘い。
殺そうと思うならいつでも殺せただろうし、排除しようとすれば簡単に出来ただろう。
それをしないのは俺と会話することに意義を見出してるからだ。
きっと迷いがある。それに縋ることでしか、説得の糸口を掴めそうにない。
「今のお前を見たら、アリシアはなんて言うだろうな。お母さん何やってるのって怒るんじゃないのか?」
「……かもしれないわ」
「だったら――――」
「私は、アリシアに怒ってほしい」
目を伏せたプレシアは、溢れ出る激情に身を任せるように叫んだ。
「怒ってほしい、泣いてほしい、笑ってほしい!! 私がいけないことをしてるんだったら叱ってちょうだい!! フェイトに同情して泣くんだったら存分に泣いて!! そしてまたあの笑顔で私に笑いかけて欲しい!! お母さん、今日は何時に帰ってくるの? って最期に向けてくれたあの言葉を、また言ってほしい!!!」
感情の発露は激烈だった。
ここにいない誰かに向けた言葉。けれど、届かない。
愛する子へ向けた言葉が。それ以外の全てを削ぎ落した気持ちでさえも。
どれだけ願おうとも。どれだけ努力しようとも。その思いは、決して届かない。
死者と言葉を交わすことは出来ない。
決して叶うことはない。生者と死者がまじり合うことは絶対にない。
「でも……あの子はもういない。死んでしまった……。だから私は行くの、アルハザードへ!!」
いよいよ次元震が激しくなっている。
このままでは次元断層が起こって、世界が崩壊してしまう。
「プレシア。アルハザードへ行っても、その子が蘇ることはない。あそこに人を生き返らせる術はない」
「わからないわ。行ってみなくては、誰にも分らない」
「いや、わかるんだ」
次元震が少しだけ和らいだようだ。外から魔力を感じる。
リンディ艦長か……。
「お前は俺のことを中身の無い子供だって言ったけどな、俺にだって生き返ってほしい人はいるよ。目の前で死んだ大切な人が、俺にはいたんだ」
他にも魔力が近づいてくる。
クロノと高町、ユーノ。それから……。
「アルハザードへ行っても、人は生き返らない。分かるから言ってるんだ。あそこには何もない」
「……」
「虚しいだけだよ。悲しいだけなんだ。突きつけられる現実はいつも残酷だ」
プレシアの瞳が揺れる。しかしすぐに決意が戻った。
フェイトと同じ、やると決めたからにはやる。そんな目だ。
「……それでも私は、アルハザードへ行く。こんなはずじゃなかった世界を変えるために」
何度でも呼びかけるつもりだった。その結末を俺だけは知っていたから。
けれど、吐き出した言葉は頭上で響いた爆音に掻き消される。
爆炎を背中にクロノが立っている。頭から血を流して、それでいて格好いい言葉を言い放った。
「現実はいつだって残酷だ! こんなはずじゃないことばっかりだよ!
こんなはずじゃない、こんなことあるのかって何度だって思って、それでも人は進まなければいけないっ」
叫びながら降り立つクロノは横目に俺を捉えてプレシアに向き直った。
「後ろでも前でも、進む方向を決めるのは個人の自由だ。
だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利はどこの誰にもありはしない!」
その言葉は俺にも突き刺さっている。
いや……俺は別に巻き込んだわけじゃないと……いや、うん……。
「プレシアさん!!」
また壁が爆発して、今度は誰だと思ったら高町が壁を撃ち抜いてやってきた。
そのすぐ後ろにはユーノと、フェイトがいる。
「母さん……」
「……」
プレシアは憎々し気にフェイトを見ている。
ジュエルシードから発せられる光は、今や最高潮に達していた。
時間がない。みんなそれを分かっている。
けれど二人の会話を止める気にはならなかった。
一人歩み寄ろうとしたフェイトをプレシアは制した。
「何をしに来たの?」
とてもじゃないが、近いとは言えない間を置いて、二人は対峙する。
見つめあう、フェイトの目に宿る決意とプレシアの目に宿る決意はよく似ている。
これで親子ではないと誰が言える? 当事者だけだ。そんなことを言っているのは。
「話を、しに来ました」
「……」
「私は、人形なのかもしれません。母さんの言う通り、できそこないのガラクタなのかも。でも、それでも私はフェイト・テスタロッサです」
「……」
「アリシア・テスタロッサじゃない、他の誰でもないフェイト・テスタロッサです。そして、私のお母さんは、プレシア母さん一人だけだから」
「なにが、言いたいの」
「あなたが何と言おうと、私はあなたの子供です。アリシア姉さんの妹で、尊敬するプレシア母さんの、娘です。あなたが望むなら、私はどんなことだってする。だから、母さん……」
プレシアの目が見開かれた。
何か琴線に触れることを言ったようだ。
けれど時間がない。
もう説得にかける時間は残っていない。
空間が割れ始めた。
「クロノ!!」
「わかってる!!」
俺とクロノの二人でプレシアに跳びかかった。
解析は終わっている。この次元震の大きさでは、それほど大きな次元断層は生まれない。
せいぜい時の庭園が飲み込まれる程度だ。
今最優先すべきは、プレシア・テスタロッサの身柄ただ一つ。
プレシアのすぐ後ろの空間に亀裂が走った。
そこから覗いた空間には黒い穴が見える。虚数空間だ。
「あなたは私の娘じゃないわ。今すぐに消えなさい!!」
プレシアの拒絶に、フェイトの身体が震える。
力なく崩れそうになるのを、駆け寄ったアルフが支えた。
それを横目に見ながら、俺とクロノはほぼ同時にプレシアに辿り着いていた。
俺は魔力弾を。クロノはバインドをそれぞれ行使し、それすら完全に防ぎきったプレシアは口端から血をこぼしながら、狂気に染まった表情で低語した。
「あなたたちもよ」
雷撃の放電。自分に近寄るものをすべて拒絶し、プレシアが駆け寄ったのはアリシアの亡骸の漂うポットだった。
「私は行く。アルハザードへ。誰にも邪魔はさせない」
プレシアはゆっくりと落ちて行く。ポットと一緒に、あの黒い穴へ。
クロノは痺れて動けない。
フェイトは茫然自失だ。高町は動けそうだが、ユーノが止めるだろう。
そうしてくれ。そいつ絶対に動かすなよ。危なっかしいんだからさ。
「プレシアァァッ!!」
あれだけ食らってれば耐性も付く。
絶対に逃がさない。絶対に救う。目の前のもの、すべて。
「手ぇ伸ばせプレシア!!」
落ちて行くプレシアに向かって跳びこんだ。
上手くいけばギリギリ魔法が使えるかもしれない。
いや、間に合わないか。このまま一緒に落ちるだろう。その前に捕まえておきたい。
「アリシアのことを思い出せ、さっきなんて言われた!? 響いたんだろう!?」
走馬灯を見た。
記憶の奥の彼女の姿がプレシアに重なる。
助けられなかった。あと一歩だった。今度こそはっ!
「アリシアはなんて言ったんだ!?」
目が見開かれた。動揺が広がっている。
俺は出来る限り手を伸ばす。
「プレシアッ!!」
じれったくなるぐらいの遅さでプレシアの手が伸ばされた。
それがようやく俺の手に触れる。掴もうと力を込めた。
叩き落とされたのは、体感時間が元に戻る直前だった。
「なぁ!?」
「子供が分かった風なことを言うのね」
目の前でプレシアは落ちていく。
必死に腕を伸ばす俺をあざ笑うように、俺たちの距離は離れていった。
なんで!?
気が付けばプレシアは遠く虚数空間の底へ。
俺は高町とクロノに足を掴まれてぶら下がっていた。
「なにしてるんだ君は……!」
「お前がなにしてるんだ離せ!!」
言ってる間にプレシアの姿が見えなくなる。
くそッ。
「離せオラァ!」
「仮面さん暴れないで!」
「いいからとっとと脱出しろ! 俺はあのババア殴りに行く!」
じたばた暴れる俺をそれでも必死に二人は掴んでいる。
なんでそんなに……!!
「僕たちまで殺す気か君は!!」
「っ……!」
それでも、俺は……。
引っ張られる力が強くなった。
見るとテスタロッサまで加わって引っ張り上げようとしている。
「お願い……もうやめて……」
「でも、こんな……!!」
テスタロッサはふるふると頭を振った。
「もう、これ以上……傷つかないで」
その懇願するような声を聴いて、悲しみに涙を湛えた瞳を見て、無意識に力を抜いていた。
暴れるのを止めた俺を三人が引っ張り上げる。
息を荒げる三人に、俺は何か言わなければと口を開く。
クロノが手で制した。
「話は後だ、急いで脱出!! エイミイ!!」
『とりあえず壁ぶち抜いて!!』
「了解!」
ブレイズキャノンが迸り、最短ルートを切り開く。
「いくぞっ」
クロノの後を続くみんなの殿で、俺は未練たらしく虚数空間を振り返った。
今から行って間に合うだろうか。いや、もう……。
全員生きて帰らなければいけない。
一先ずはそれを考えて、集中しよう。救えなかった人のことを考えるのは、あとでも出来る。
最後尾を走る。
背後に崩壊の音を聞きながら。