格好いいところ見せましょ   作:紺南

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第7話

「局員が襲われてる?」

 

「ああ」

 

俺が古代言語で書かれた本を必死に読むその側でクロノンとエイミイが話をしている。

会話の内容は最近巷で流行っている魔力蒐集事件について。

 

「局員だけじゃない。リンカ―コアを持ってる原生生物も襲われている。それもかなり広範囲にわたって」

 

「はえー。物騒」

 

深刻に告げるクロノンに比べ、エイミイの反応はまるで一般人。

あなた一応管理局員でしょう? シュークリームに目を奪われてる場合ですか?

 

「まだこの世界で被害は出ていないが、フェイトやなのはたちも襲われるかもしれない」

 

「二人にも言っておかないとね」

 

当の二人は今頃学校だろうか。

この間テスタロッサと話した時、友達が出来たと喜んでいた。

あいつが笑顔だとこっちも嬉しくなる。良きかな良きかな。

 

「で、ライ」

 

「なにかね?」

 

「君は何をしている」

 

「無限書庫から盗んできた資料を纏めてる」

 

正直に言ったら足を蹴られた。酷いやクロノン。

 

「ダメだよライ君。ちゃんと手続きしなきゃ」

 

「手続きしようにもあそこ管理されてないし」

 

シュークリームを頬張るエイミイが「確かに」と頷く。ちなみにそのシューさんは俺が買ってきたものだ。

巷で美味しいと評判のシュークリームである。たんとお食べ。

 

「あそこはまず管理できる人がねえ……」

 

「無限書庫の名は決して大言壮語に非ず。まじめに管理しようとしたら死ぬわあんなとこ」

 

無限書庫とは、管理世界から集められた多種多様な書物が無尽蔵に詰め込まれた場所である。それ自体がロストロギアと言う話もある。

 

見わたす限り本に囲まれまくったあの空間は、その道のマニアには垂涎物と滅法評判だ。

言われてみれば迷ったら二度と出てこれないところにはロマンを感じる。

次元世界の大きさに比例して馬鹿でかいので、今現在ほとんど管理されていない。ていうか管理不可能。一応管理局が所有してることにはなっているけど。

 

「それで何調べてるの?」

 

「闇の書」

 

その一言で空気が凍る。

エイミイが頬を引きつらせてクロノンを盗み見る。

クロノンは至って平静な顔で聞いてきた。

 

「どうしてそんなものを調べてる?」

 

「どうして? ふむ……。中々深い質問だクロノン君」

 

本を閉じて足を組む。

その姿勢のまま握りこぶしを顎に当てれば考える人の完成である。

 

「そう。思い返せば、あれは10万年前。地球上でホモ・サピエンスと呼ばれる現人類が立ち上がった頃……」

 

「長くなりそうだ。詳しい話は取調室で聞こうか。窃盗の現行犯でもあることだし」

 

「いやあ、最近の蒐集事件が記録上の闇の書事件に酷似してるから、何となく直感で調べてたんだよね。ほら、俺ってやっぱり感覚派だし、こういう第六感って言うか経験則には逆らわない方がいいって死んだばっちゃんも言ってたんだよ。そうじゃなくても管理局員として闇の書とは宿命のライバルって言うか苦い経験が数多くあるじゃん? 闇の書について調べること自体は次の事件に備える立派な職務だと思うんだよね。別にまったく役に立たないってこともないし、なんだったらお前も一緒に闇の書事件をレッツラーニングって言うか引き摺らないでお願い助けてええええええええええ!!!!!」

 

「ライ君ばいばーい。お昼頃会おうねー」

 

 

 

 

 

あまりに強引な取調べだ。こんなことをされては容疑者の空気を醸し出さずにはいられない。お約束って大事。

 

「お巡りさん。俺なんにもしてないんです。本当です。信じてください」

 

「そうか。それじゃあ君のメディカルチェックの結果が改竄されていた件についてだが」

 

「いやはや、そう言えば用事を思い出した。急ぎの用件ゆえ拙者これにてドロンさせていただきやす」

 

思いもよらぬ方向から追及を受けたのですぐさま扉に噛り付いたが、残念なことに鍵がかかっていた。

 

「ちくしょう、あかねえっ」

 

「いいから座れ」

 

しずしずと席に座る。

目の前には不動明王のような顔をしたクロノンがいる。いやん。こわーい。

 

「これは君がやったのか」

 

「俺がやったのはやば目な数値を良き数値に書き換えたことぐらいだ」

 

「反省の色が見えないな」

 

フェイトを見習ったらどうだと年下のいい子ちゃんを引き合いに出されてしまう。

いや、あれを見習うのはちょっと……。

 

「具体的にどこを書き換えた?」

 

「えっとね……こことここ」

 

「ふむ……。元の数値は?」

 

「確かこれぐらいで」

 

ゲロった数値を見て、クロノンを眉を顰めた。

 

「わざわざ書き換えるほどの数値でもない」

 

「でも書き換えなきゃ現場に出れなかった可能性が無きにしも非ず」

 

「そんな理由でか」

 

お互いに大きな溜息を吐き出す。

はい。険が薄れたので言いたいこと言うターン。

 

「お前の母ちゃん過保護過ぎね?」

 

「もともとは君の怪我が原因だ。預かっている側としては、誰でもそう言う対応になる」

 

「いやん。ぼくもっと現場に出たいー」

 

「ならまず怪我を治せ」

 

「治ってると思うんだけどなあ」

 

「機械は嘘をつかないよ。嘘つきが手を加えない限りは」

 

「さすがレインメーカーを生業にしている男。皮肉がお上手ですねクロノ執務官」

 

「君には負ける」

 

嫌味の応酬をしながら、クロノンは紙を一枚取り出した。

 

「これなあに?」

 

「年の数より見ているはずだが。始末書だよ」

 

そうですね。この様式は始末書で間違いないですね。

で、わざわざ紙ベースで取り出した意味は? 電子で良くね?

 

「何枚書いても身に染みていないようだからね。直接手で書いた方が頭に染みるだろう」

 

「ふむ……前と同じ作文でいいのか?」

 

「また上を激怒させるつもりか君は」

 

懐かしい話だ。

昔書いた始末書が本局のお偉方の怒髪天を衝かせたらしい。その怒り具合はカツラが吹っ飛ぶほどだったとか。俺が扇風機で吹っ飛ばした件とは恐らく関係ないだろう。

三提督の執り成しがなければ降格していたかもしれない。

 

「君が書いた始末書は僕が添削する。くれぐれも怒髪天を衝かせるような真似は慎んでくれ」

 

「赤ペン先生志望か? まったくしょうがねえな。真っ赤にさせてやるよ」

 

「僕に君の返り血を浴びさせてくれるな」

 

そうは言うが、クロノンに添削させてたらいつまでも終わりそうにない。それこそ血の一滴まで絞り出してなお足りなさそうだ。

ほどほどに書いたら艦長に持ってくか。

 

「で、用件終わり?」

 

「反省の色が――――いや、いい。もう一つ。先ほどの件だが」

 

「はいはい闇の書の件ね」

 

闇の書と聞いた途端クロノンの気配が変わる。

冷静さを保ててない。親父さん死んでるからしゃーないか。

 

「君が以前から無限書庫に入り浸っているのは知っている。闇の書について調べているとは知らなかったが」

 

「昔からずっと闇の書に夢中だぜ。一途だからね。他の女には目もくれないの」

 

軽口を聞き流す余裕もないらしい。

これ見よがしに溜息を吐かれた。

 

「……それで?」

 

「なにが?」

 

「わざわざ僕にひけらかす様に本を広げていた理由だよ」

 

「暇つぶし以外になんかあんの?」

 

「質問に質問で返すのは感心しないな」

 

「今まで一度だって俺に感心したことがあるのか?」

 

クロノンは俺の質問に答えてはくれなかった。

代わりにこんなことを言う。

 

「最近の蒐集事件が、過去の闇の書事件に酷似していることには僕も気が付いていたよ」

 

「思考が飛躍してんな。願望入ってんじゃないの」

 

「否定はできない」

 

もし本当に闇の書が関わっているのなら、こいつはいつも通り冷静沈着――――今まで冷静沈着だったことがあるのか疑わしいが――――でいられるのだろうか。

さすがに我を忘れることはないと信じたいが。

 

「確証のない推理はただの妄想だぜクロノン」

 

「どちらにせよ、じきに分かるだろう」

 

「手遅れじゃないと良いけどな」

 

「始末書はきちんと書いてくれ」

 

言いたいことだけ言って、クロノンは取調室を出て行った。

後に残された俺は薄暗い部屋に一人ぼっち。

 

「ふうむ。不安だ。実に」

 

情報の提示は計画的に。

あまり多くの情報を一度に教えては、あいつがどんな行動をとるか分からない。

気取られずに一気呵成に終わらせるのが理想だ。

段階を踏んで少しずつ慣らして行こうか。

しかし、そうは言ってもあまり悠長に構える時間がないのも事実なのだ。手を打たなければならない。

 

「大人なら、まあ大丈夫ですかねえ」

 

と言うか大人にまで暴走されると打つ手がなくなるけど。

まあそこは信頼と安心の年の功でしょう。きっと、多分、大丈夫。

 

「お話してこよっと」

 

俺も取調室を後にする。

やることはたくさんあるのだから、役割分担はきっちりしないとね。

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