テスタロッサが管理局の嘱託魔導士の試験に合格した。
しかも晴れてアースラ所属になったらしい。
これにはみんな大喜び。俺も喜び勇んで胴上げを敢行した。
「ひゃっはぁ! おめでとう!」
「ちょ、ら、ライ!?」
「おめでとうテスタロッサ! おめでとう!」
それわっしょいわっしょい。
テスタロッサは軽いなあ。こんなの魔法を使えば一人でどうにでもできちゃうぜ。一人っきりで胴上げと言うのも中々乙じゃわい。
「何をやってるんだ君は」
「クロノぉ! 胴上げじゃっ。胴上げでテスタロッサをもてなそうぞ!」
「はあ……」
ため息をつかれ、バインドで拘束される。
みつ巻で地面に倒れる俺の上には空に浮かんだテスタロッサがいる。
てっきり、そのまま俺を踏み潰すかと思ったが、落ちてこなかった。
クロノンの魔法でふわっと浮かんでいたテスタロッサは、着地した後ぷんぷんと怒って俺に文句を言ってきた。
「ライっ。止めてって言ったでしょ!?」
「ふふん。言葉でどう言おうと俺の目は誤魔化されん。最後の方楽しくなってたでしょ? 良かったでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
言葉に勢いがありませんなあ?
俺の目を見てもう一回言ってみ? ん? 言ってみ?
「この馬鹿は僕が懲らしめておく。フェイトは早くみんなのところへ」
「あ、うん」
「俺がやられても第二第三の俺がすぐに現れるっ。具体的にはユーノが! そう、ユーノならきっとやってくれるっ。ユーノォッ、後は任せたぞぉ!!」
「胴上げじゃあ!」と叫んだところで、ついに禁断の魔力弾が放たれ強制的に口が閉ざされた。
脳天直撃魔力弾っ!?
「く、クロノ……さすがにやりすぎじゃあ……」
「手加減はしてる」
「そう言う問題? ……えっと、ライ平気?」
心配そうに近づいてくるテスタロッサ。
おほほ。無防備無防備。さあ、もう少しこっちにおいで。
久しぶりに仮面さんが登場するヨ。
「フェイト。ダメだそれ以上近づいたら。あれはすぐに復活する。早くこっちに」
「ユーノまで……」
俺の野望は閉ざされた。
叫び声を聞いて駆け付けたユーノが、テスタロッサの手を引いて行ってしまう。
取り残された俺とクロノンは、二人の姿が見えなくなるまで静かにしていた。
「そんで? 説教ですか?」
「いい加減無駄だと気づいたよ。それより例の魔力蒐集事件だが。上の方で何か掴んだらしくてね。いよいよ本格的に捜査が行われる」
「ようやくか」
バインドをレジストして起き上がる。
割れた鏡の様にパラパラ崩れる魔力がとても綺麗。
「上が掴んだ内容って言うのは?」
「それについては降りてきてない」
まあそれ多分俺が流したやつですね。
「闇の書かな」
「分からないが、恐らくは」
クロノンが空中ディスプレイを開いて覚えのない報告書を見せてくる。
「それとは別件で定置観測隊から情報が上がっている。第97管理外世界付近でロストロギアの稼働が確認された」
「それが?」
「僕はこれが闇の書だと考えている」
淡々と話すクロノンに感情は見えない。あえて事務的に振る舞っているようにも見える。
「蒐集範囲は第97管理外世界を中心にしているように思える。時期的にも偶然だとは思えないが、ただ確証がない」
クロノンはそう言うが、俺たちの中では蒐集事件=闇の書で確定している。
本来なら決めつけるわけには行かないのだが、まあ多分そうだよねと言うかそうだよ、闇の書だよと言う方向で会話を進めていく。
「闇の書が稼働済みだとして。蒐集はヴォルケンリッターによるものだとして。もう結構集めてるな。時間ないぞ」
「魔力を集め切らせたら終わりだ。その前に捕まえる必要がある」
そうだねえ。まあ捕まえようと思えばあっという間だけどさ。内憂外患と言う素晴らしい状況がありましてね。その内憂ギル・グレアムっていう名前なんですけど心当たりあります?
「武装隊を率いて主の身柄を拘束するしかない」
「そうだねえ。で、肝心の主の居場所は?」
「分からない」
「駄目じゃん」
「魔力を蒐集している奴らを捕まえれば済む話だ」
なるほど。結局目の前のことをコツコツやっていくしかないわけですね。
「広範囲に網を張って、引っかかったら即出動か。はてさて間に合うかねえ」
「奴らの居場所が分からない以上、他に方法がない」
「囮でも使いますぅ?」
クロノンと視線が絡む。
付き合いは短いが、言いたいことは伝わっていると思う。僕らは仲良し。以心伝心。
「奴らの活動範囲は広い。徒労に終わる可能性が高い」
「案外近くにいるかもしれないぜ」
それこそ地球とかにいると思うよ。
だからやってみる価値ありまっせと煽ってみたが、クロノンは首を縦に振らなかった。
「やるにしても奴らの活動範囲をある程度絞ってからだ。そうじゃないと意味がない」
「囮役は任せてクロノン!」
「却下。僕がやる」
とりつくしまもないぜ。
会話が途切れ、聞こえて来る賑やかな声に耳を傾ける。
幸せそうな声だ。エイミイの楽し気な声に、高町やテスタロッサの笑い声。ユーノの話し声がして、艦長のお淑やかな声が聞こえた。
あんなに辛いことがあったのに、テスタロッサは表面上は気丈に振る舞っている。もちろん、高町を始め支えてくれる友達がいると言うのが大きいのだろうが、それにしたって健気だと思う。
その幸せそうな光景が、悲劇などもうたくさんだと思わせる。
「なあ、クロノンやい」
「なんだ」
「復讐したい?」
クロノンは沈黙した。
その横顔に動揺した様子はなく、じっと向こうから聞こえて来る声に耳を傾けて、やがてふっと笑った。
「あくまで仕事だ。私情の入り込む余地はない」
「目の前に仇がいたら、暴走するんじゃないかって心配してる」
「そんな心配する前に、始末書を早く書き上げてほしいね」
嫌味を一発かまして、余裕綽々な足取りでクロノンは祝いの場に戻って行く。
その背中を見て、とりあえず声を張り上げておくことにした。
「信じてるぜクロノン! あと始末書は二日待って! 二日後には必ず仕上げるから! ……ねえ聞こえてる? 返事を下さい!! プリーズ!!!!」
クロノンは答えずに去って行った。
大丈夫かなあ。心配だなあ。始末書はとりあえず三日ぐらい放置するつもりだけど、闇の書については少し心配だ。
熱血正義漢だからなあ。復讐は虚しいだけなんて、現在進行形で色々と囚われている俺が言える筋合いはないけれど。
まあ、大丈夫だろうとは思うけど念のため釘は刺しておいた。
クロノンにはギル・グレアムを対処してもらわなきゃいけないから、万が一でも暴走されると困るのだ。だから頼むぜクロノンのん。