前回のあらすじ
ヴァトラーめ、死ねぇ!
バックドロップを決めると、地面に叩きつけられたまま動かなくなるヴァトラー。
「終わった…。何もかもアハハッ」
「紗矢華さん!?しっかりして下さい!紗矢華さん!」
放心状態で笑っている煌坂の肩を掴んで、揺すりながら呼びかけている姫柊。
「殺しちゃいないから安心しなって煌坂」
「これの何処を見れば安心できるってのよアンタは!!」
沈黙しているヴァトラーを指差しながら、物凄い形相で俺の襟を掴んで揺すってくる煌坂。
「最悪死んでも皆「あ、ついに死んだか」って言うよコイツの場合」
強ければ誰でも喧嘩売る奴だからなこの蛇。
「それでも日本国内で死なれると大変なのよ色々と!」
「暗に他所の国で死ねよって言ってるよね君」
相当振り回されたんだろうなぁ。気持ちはわかるけど。
「勇さんさっさと情報を聞き出して帰りましょう」
「そうしたいんだがねぇ…」
アスタルテの言うことも最もなんだが、このホモラーが簡単に帰してくれそうもないんだよなぁ。
「つーか何でアスタルテがここにいるんだ?」
「あれ?言ってなかったっけ?保護観察処分ってことで
古城がアスタルテを見ながら聞いてくる。そういや黒死皇派の連中を追いかけるのが忙しくて言い忘れてたな。
「そうだったんですか。よかった」
ホッとしたような表情の姫柊。似たような境遇だったから心配していたのだろう。
「その節はお二人にも大変お世話になりました」
「いや、俺達はそんな礼を言われるようなことはしてないって」
「鼻の下が伸びてますよ先輩…」
「伸びてねぇって!」
丁寧にお辞儀しながら礼を言うアスタルテに、照れている古城を呆れたように睨んでいる姫柊。反論が必死過ぎるぞ古城…。
「さてと。おら、さっさと起きろ糞蛇」
今だに動かないヴァトラーを起こすために蹴りを入れる。
「さ、さすがだね勇。いい一撃だったヨ…」
ふらふらと立ち上がり、前屈している首をグキリッと戻すヴァトラー。ちなみに顔面は流血で真っ赤である。
「で、てめぇの知っている情報をいい加減に教えな」
「ああ、クリストフ・ガルドシュと言う名前を知っているかい、勇」
そう言いながらヴァトラーが優雅に指を鳴らすと、船内からぞろぞろと大勢の使用人が現れる。彼らが運んできたワゴンには、パーティに出されている料理よりも豪華な料理が満載されていた。
「確か戦王領域出身の元軍人だったな。十年前のプラハ国立劇場占拠事件で四百人の死傷者を出した」
「そう、黒死皇派の残党が彼を新たな指導者として雇い入れたのさ。テロリストとして圧倒的な実績を持つ彼をね」
「黒死皇派って名前は聞いたことがあるな。だけど何年も前に壊滅したんじゃなかったか?確か指導者を暗殺されて…」
古城が思い出すように呟く。当時ではかなりの大事件として報道されていたな。このチキンうめぇ。
「そう。彼はボクが殺した。少々厄介な特技をも持った獣人の爺さんだったけどね」
執事と見られる男性から受け取ったワイングラスを傾けながら、悠然と笑うヴァトラー。つーか執事って顔じゃねーぞ、顔にデカイ傷あるし…。フカヒレうめぇ。
「そのガルドシュがこの島に来ていると?魔族特区で暴れたいなら戦王領域にもあるだろうが」
「どういうことだ?」
「黒死皇派の目的は、聖域条約の完全破棄と戦王領域の支配権を第一真祖から奪い取ることだ。わざわざリスクを犯してまで、欧州より遠くの魔族特区を狙うのは不自然だ」
よくわかっていない古城に説明すると、なるほどと納得したようである。煌坂がそんなことも知らないのかって顔をしていたが…。スープうめぇ。
「さあ、真祖を倒す手段でも見つけたんじゃないかなァ?何しろ彼らの最終目的は第一真祖を殺すことだからねェ」
とても楽しそうに笑うヴァトラー。ああ、そう言うことか…。
「なるほど、”ナラクヴェーラ”か…」
「ナラクヴェーラ?」
俺の呟きに古城達は首を傾げ、ヴァトラーはおや?と少し驚いたようだ。
「何だ知っていたのかい勇?」
「ここに来る前に黒死皇派のシンパを捕らえた時にな」
残念そうな顔のヴァトラー、やっぱり知ってやがったなコイツ…。パスタうめぇ。
「ナラクヴェーラって何だ勇?」
「南アジア、第九メヘルガル遺跡から発掘された"神々の兵器"と云われるものだ」
「神々の兵器って…。まさか、それが絃神島にあるなんて言い出すんじゃないだろうな」
「表向きは、な。だが、カノウ・アルケミカルという会社が遺跡から出土したサンプル品を一体非合法に輸入していたみたいだ。最も奴等に強奪されていたがな」
「あんのかよ! しかも、盗まれた後かよ!?」
俺の説明を聞き、慌てふためく古城tと、神妙な顔つきになる姫柊と煌坂。ヴァトラーは愉快そうに笑ってやがる。
「って言っても、九千年も前の代物だから動くかわからんし、制御方法も不明だがな」
「…その動かす方法に心当たりがあったから、黒死皇派は、その古代兵器に目をつけたのはではないですか?」
姫柊が重要な部分を指摘してくる。さすが鋭いな。
「確かにナラクヴェーラの制御に関する石板が最近になって発掘はされた。が、各国の言語学者や魔術機関を持ってしても、解読は難航中だ。テロリスト如きがどうこう出来るとも思えんが…」
いや、一人出来そうな同級生がいるが。まさかな…。
「ま、ともかく奴らがボクを殺そうと仕掛けてきたら、応戦しない訳にはいかないよねェ。自衛権の行使って奴だよ。そうだろ?そうなったらこの島を沈めちゃうかもしれないけどサ」
ヴァトラーのとんでも発言に息を呑む古城達。
「やっぱりそれが狙いか糞蛇が…。こんなクソ目立つ船で来たのもテロリスト共を誘き出すためか」
「いや、君と式を挙げるためだけど?」
到って真面目に告げて来るホモラー。…本気で殺したい。
「やっぱ、ここで三枚に卸しておくか…」
「いいねぇ。黒死皇派の代わりに君が相手をしてくれるのかい?」
互いに殺気を隠すことなく睨み合うと、ヴァトラーが持っていたワイングラスや料理の皿が割れ、船が軋み始め周りの海が荒れだす。
「止めて下さい、神代先輩!ここでお二人が戦っている場合じゃないですよ!」
「アルデアル公も気を静めて下さい!私にはあなたを討つ権限を与えられているんですよ!
「止めるな姫柊。コイツはここで消しておかないと、安心して寝られん」
「ハハッ!せっかく再会したんだから楽しもうじゃないか、勇!」
姫柊と煌坂の制止を無視し、拳を握り締めて構える俺と、瞳が真紅に輝き体から膨大な魔力を放つヴァトラー。
互いに仕掛けようとした瞬間、雷鳴と共に雷が俺達の間に打ち込まれた。
「うおっと!?」
「これは…」
互いに雷が飛来して来た方向を向くと、右腕を突き出し古城が真紅に染まった瞳で俺達を睨みつけていた。
「そこまでにしておけ勇。ここにはそいつと
体からヴァトラーと同等の魔力を放ちながら告げてくる古城。今にも
「わかった。悪かったよ古城」
流石に
「アンタもいいな?貴族様」
「ふむ、興が削がれたし今回は我慢しよう。
つまらなさそうに肩をすくめるヴァトラー。何時かは古城とも
俺達が殺気を鎮めると安心したように脱力する姫柊と煌坂。
「もう、聞くこともないし帰ろうアスタルテ」
「はい」
「ふふ、今日は楽しかったよ勇」
もう用も無いのでアスタルテを連れて立ち去ろうとすると、デート後の恋人のようなことをほざくホモラー。鳥肌が立ったは…。
気色悪すぎて反応する気も起きなかったので、そのまま甲板から去るのであった。