ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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お待たせしました。楽しんで頂けると嬉しいです。

※基本勇視点で進めていきます。


第一話

「スースー」

 

朝日が昇りだし、鳥のさえずりが聞こえてくる絃神島のとあるマンションの一室にて、俺はベッドに潜り込んで夢の中にいた。

とても獣人を素手で圧倒した人物とは思えない光景だと自分でも思う。

 

「ふぁ~あぅ」

 

時刻が四時ピッタリになると意識が覚醒し、上半身を起こし欠伸を掻く俺。

あ~眠い、那月ちゃんに呼び出されたから寝不足だわい。

ちなみに俺には時計は必要無い、体内時計で時間を正確に把握しているからである。

ベッドから降り、タンスから愛用の黒のジャージを取り出し着替え、壁に立て掛けている竹刀を持ち、部屋を出て洗面台へ向かい顔を洗い、歯を磨く。

そして、後髪の根元を結びポニーテールにし、玄関で靴を履き外へ出る。

その後恒例のランニング(途中で宿敵と言える野良犬と遭遇し、バトルとなり辛くも勝利する)をし、近くの公園で素振りに、腕立て、腹筋etc.を行う。

六時には帰宅し、着ていたジャージを他の洗濯物と一緒に洗濯機に放り込み回し、一旦シャワーで汗を流し学校の制服に着替え、キッチンへ向かいエプロンを身に着ける。

冷蔵庫を覗き、今日の献立を決めると必要な食材を取り出していく。

慣れた手つきで調理していくとリビングのドアが開き、フリルまみれのドレスを着た幼女が入って来る。

 

「おはよう。勇」

「おっはよー那月ちゃん」

「だからちゃんは、いやもういい…」

 

俺がちゃんづけで呼ぶと軽く睨まれるが、俺が一向に改める気が無いので、もはや諦めているのか溜め息を吐いて、イスに座り新聞を開く那月ちゃん。

彼女の名前は南宮 那月(みなみや なつき)、俺より年上で自称26歳だが、見た目は幼女と見紛うほど小柄なので、俺を含め周りからは良くちゃん付けで呼ばれているのである。

俺と彼女の関係を一言で言うならば、俺が居候で彼女が宿主である。

俺の母は幼い頃に亡くなっており、父”神代 勇太郎(かみしろ ゆうたろう)”が仕事でなかなか家に帰れないので、旧知の仲の那月ちゃんの家に俺を預けているのである。

ちなみに彼女は俺が通う”彩海学園”の教師であり、俺の所属する高等部1年B組の担任でもあるが、国家攻魔官の資格も持ち絃神島の治安維持にも協力しており、俺も手伝わされている。

まあ、そんなわけで家事全般は俺が担当と言うか、丸投げしてきたために那月ちゃんはまったく出来なくなって…。

 

「ぎゃん!?」

 

那月ちゃんが俺に向かって、手をかざすと何も無い空間から魔方陣が出現し鎖が一本が飛び出してきて、俺の額に直撃する。

 

「今、余計なことを考えただろう」

「そ、ソンナコトナイヨー」

 

何故ばれたし、言い忘れたが彼女は高位の空間制御魔術の使い手であり、あのように鎖を召喚したり、離れた場所にも瞬時に移動出来るのである。便利だよね。

 

「はい、お待たせー」

「ああ」

 

俺が朝食を机に並べ那月ちゃんの対面に座ると、那月ちゃんは新聞を畳む。

 

「「いただきます」」

 

二人一緒に手を合わせ食事前の挨拶をし、食べ始める。これが我が家の恒例である。

 

「そういや、昨日捕まえた連中はどうなの?」

「ああ、奴らは末端ばかりでな、大した情報は持っていなかったよ」

 

骨折り損だと溜め息を吐く那月ちゃん。最近大規模のテログループがこの島に潜入したとの情報が入り、やっとその潜伏地が分かり検挙に乗り出したのだが、外れらしい。俺も頑張ったのに残念である。

 

『続いてのニュースです。最近魔族を狙った襲撃事件が多発しており…』

 

そこで点けていたテレビから、最近起こっている吸血鬼が襲撃されると言う事件が流される。被害者は半死半生。不老不死である吸血鬼をそこまで追い詰める輩がいるのは穏やかじゃないな。大規模な捜査は行われているが、手がかりはまったく無く、正直手詰まり状態である。

 

「こっちも進展無いよねぇ」

「そうだな、まったく次から次へと…」

 

こめかみを抑えて疲れたような表情をする那月ちゃん。確かに最近厄介ごとが増えてきている気がするな。

 

「ご馳走様と、食器は俺が洗っておくから準備してきなよ」

「すまない。そうさせてもらうよ」

 

そう言って席を立ちドアを開ける那月ちゃん。ちなみに彼女は夏だろうが、冬だろうがあの格好である。正直あの体型では俺は萌えんな、もっとスタイルが…。

 

「……」

「あたたたたた!無言で鎖を打ち付けないで下さい!ごめんなさい!」

「フン!」

 

拗ねた様子で乱暴にドアを閉め、退出していく那月ちゃん。何故ばれたし…。

 

 

 

 

 

教師としての準備があるので先に家を出た那月ちゃんの後に、俺が家を出て通学路であるモノレールの駅へと向かう。そこである人物と待ち合わせしているのである。

 

「おっはよう古城!」

「おはよう勇」

 

水色の髪にパーカーを被った同年代の男子に、挨拶すると同じように返してきてくれる彼は、”暁 古城(あかつき こじょう)”俺がこの島に来て初めて友達となった親友である。

 

「相変わらず朝は辛そうだねぇ」

「ああ、今日も凪沙(なぎさ)に叩き起こされたよ」

 

気だるそうに溜め息を吐く古城。ちなみに凪沙とは彼の妹である。彼は三ヶ月程前のある出来事によって、吸血鬼それも伝説とされる”第四真祖”となってしまったのである。その体質のため朝に滅法弱くなり、学校を休みがちで進級が危うくなってきているのが最近の悩みだそうだ。まあ、どう変わろうが俺達は親友だけどね。

 

「うっし、じゃあ今日も張り切って行こうか!」

「ホント元気だよなぁお前」

 

羨ましいよと呟きながら俺の後に着いて来る古城。まあ、ぶっちゃけ徹夜しているから眠いけどね!

 

 

 

 

 

キングクリムゾン!!

というわけで、放課後である。え、学校?俺と古城が授業中に寝てて、那月ちゃんにしばかれたぐらいしかなかったね。

 

「熱い…焼ける。焦げる。灰になる…」

 

今俺達がいるのは学校からそう遠くない○クドナルドである。

茜色に染まりかけている空から、強烈な陽射しが降り注ぐ、窓際の席で古城がぐったりと突っ伏していた。

 

「ニャハハハ!諦めな古城ここしか席が空いて無かったんだから!」

 

豪快に笑い飛ばす俺、太陽光が苦手な吸血鬼には地獄なんだろうね。

 

「くそ~何でこんなに追試があるんだよ…」

「そりゃお前がサボってばっかりだからだろ」

 

古城の呟きに短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首にかけた矢瀬 基樹(やぜ もとき)という男子が答える。

 

「あんだけ毎日毎日、平然と授業をサボられたらねェ。舐められてるって思うわよね、フツー…おまけに夏休み前のテストも無断欠席だしィ?」

 

優雅に爪の手入れ等をしながら、藍羽 浅葱(あいば あさぎ)という女子が笑顔で基樹に便乗する。二人とも俺と古城の友人である。

ちなみに浅葱は古城に好意を抱いているが素直になれないので一向に気づいてもらえて…。

 

「あたぁ!?」

「ど、どうした勇?」

「だ、大丈夫だよん…」

「そ、そうか」

 

突然変な声を上げた俺を心配してくれる古城。だが、まともに返事をしている余裕が無い。何故なら足に激痛が走っているからである。良く見てみると浅葱が『今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ』的な顔で俺を睨みつけていた。おそらく彼女が俺の足を踏んでいるのだろう。ギブギブと目で訴えるとフン、と浅葱がそっぽを向き痛みが引く、どうやら許してくれたようだ。にしても何故ばれたし。

 

「くくく」

 

基樹が声を殺して笑っていたので、「後で覚えてろよ」とドスの効いた誰にも聞こえない声量で呟くと、基樹がビクッと体を震わせ顔色が青白くなっていく。彼は特殊な能力で常人より耳が良いのだ。

 

「つーか無断欠席したのは不可抗力なんだって。色々事情があったんだよ。だいたい今の俺の体質に朝イチのテストはつらいって、あれほど言ってんのにあの担任は…」

 

苛ついた口調で古城が言い訳を始める。その目がかすかに血走っているのは、怒りではなく、単に寝不足だからである。

 

「体質って何よ?古城って花粉症かなんかだっけ?」

 

余計なことをいった古城の発言に浅葱が疑問を感じたので、慌てて誤魔化している古城を尻目に、ハンバーガーを次々と口に頬張っていく俺。

ちなみに古城が第四真祖であることを知っているのは、俺や那月ちゃんといった極少数である。そうそう基樹はある理由により知っている。

 

「にしても相変わらず、良く食うよなお前…」

 

基樹が俺の食いっぷりに、感心しているのか呆れているのか解らない表情で話し掛けてくる。

 

「んぐんぐ、ゴクン。えーそうかな?」

「少なくとも、ハンバーガーを一度に50個食う奴はお前しか見たことねぇよ」

 

俺の手元には残り半分となったハンバーガーの山が詰まれていた。

 

「そんだけ食べてそのスタイルなんだから、女として嫌になっちゃうわよねぇ」

「いや、羨ましがられても…」

 

浅葱が渇望の眼差しで俺を見てくるが、別に嬉しくともなんともない。

 

「浅葱も美人なんだしいいじゃん」

「え、誰が?」

「……」

「いぎゃぁ!?足がぁ!?」

 

アホなことをぬかした古城を浅葱が睨みつけ足を踏みつけるが、無視する俺と基樹。

 

「さすがは”麗姫(れいひめ)”余裕だねぇ」

「その名で俺を呼ぶなよ、明日の朝日を拝みたかったらな」

 

俺が基樹を殺気を放ちながら睨みつけ、イスに立て掛けていた竹刀袋を掴む。

 

「ハハハ、悪かって。だから”それ”を離せって」

「フン」

 

基樹が冷や汗をかきながら諸手を挙げて降参の意を示すと、鼻を鳴らしながら竹刀袋を離す俺。

麗姫というのは俺の見た目を敬う連中が勝手につけた名で、俺にとっては不名誉である。

 

「でも実際校内じゃ先輩、後輩問わずにファンが多いぜ?ファンクラブもあるしな」

「まあ、迷惑になんなきゃ何をしても構わないけどさ」

 

一度だけの人生、後悔の無い生き方をすればいいってのが俺の信条である。だからファンになろうが、ファンクラブを作ろうが一向に構わないけどさ。

 

「あの…浅葱さん…そろそろ…足を退けて…もらえませんかね…?」

「フン!」

 

さて、そろそろ古城を助けてやろうか。

 

 

 

 

 

その後、浅葱がアルバイトがあるので帰るとその流れでお開きとなり○ックを出る俺達。そこで気になることがあったので、基樹に頭を下げるように指でジェスチャーすると、俺の頭の位置まで頭を下げてくれる基樹。身長差が結構あるのでこうするしかないのだが、虚しくなってくる…。

 

「どうした勇?」

「とぼけんな。さっきからずっと尾けられてんだろ」

 

基樹と肩を組んでいるように見せかけながら確認する俺。そう気になることとは、学校を出てからずっと何者かの視線を感じるのである。だが、隠す気が無いのかと疑いたくなるほど気配を消せていないのである。基樹は感知能力が異様に高いので気が付かない筈が無い、ということは意図的に気づいていない振りをしていることになる。

 

「何か知ってんだろ。ん?」

「あーやっぱお前にはバレちまうか…」

 

予想通りといった表情をする基樹。当たり前だ、こんなお粗末に気がつかなきゃ今頃とっくに死んでいる。

 

「どこの者だ?」

「詳しくは言えないが、”獅子王機関”の”剣巫(けんなぎ)”だ」

「獅子王機関だと?」

 

獅子王機関とは政府の国家公安委員会に設置された特務機関で、魔導災害や魔導テロを阻止するための情報収集、工作を行う機関で、剣巫は剣士と巫女の両方の能力を持ち、魔族をも凌駕する戦闘能力を持つ簡単に言えば荒事担当である。

 

「狙いは古城か?」

「ああ、監視するために派遣されてきた」

 

なるほど、世界を滅ぼすと言われている第四真祖を世界が放っておくとは思えなかったが…。

 

「こんなバレバレの尾行をする奴で大丈夫なのか?」

「あちらさんにも事情があるんだろう」

 

どうやらこれ以上は話せないようで口を噤んでしまう基樹。まあ、とりあえずはいいか。

 

「どうかしたか二人とも?」

「いや何でも無いよ」

「ああ、それじゃ俺はこれで。また明日な」

 

古城が俺達の様子を気になったようで声を掛けてくるが、誤魔化しながら帰って行く基樹。

 

「んじゃ、俺達も帰りますか」

「ん、ああ」

 

納得していない様子の古城の気を逸らすために帰ろうと声を掛ける俺であった。

 

 

 

 

 

俺達に奢らされた古城はモノレールで帰るのを諦め、徒歩で帰るとのことで一緒に並んで歩いている俺。え、お金貸せばって?尾行者のこともあるんで歩く方が都合が良いんだよね。おかげで古城が日光で弱ってるけど…。

 

「なあ、勇」

「何、古城?」

 

ふと歩いたまま、口を開いた古城に返事をする俺。

 

「俺達、尾けられてねぇか?」

「気づいてたのか?」

 

なんだ気がついていたのか。

 

「やっぱり気がついていたのかよ。だったら言ってくれりゃあ良かったのに」

「君を面倒ごとに巻き込みたくなかったんだよ。それとも巻き込まれたかった?」

「いや、それは…」

 

何も言い返せなくなってしまった様子の古城。巻き込みたくないと言うのは本音である。まだ真祖の力を使いこなせていないっていうのもあるが、古城には危ないことには関わって欲しくないのである。彼は優しすぎるから…。

 

「どうする走って撒く?」

「いや、 凪沙の知り合いかもしれないしな」

 

俺の提案に躊躇う古城。それは尾行者が、凪沙ちゃんの通っている中等部の服装をしているギターケースを背負った少女だからである。さすがに気配に気づけても相手が何者かまでは判別出来ないか。

 

「んじゃ、あそこで様子を見る?」

「ゲーセンか、そうだな」

 

目に付いたゲームセンターに入って筐体ごしに入り口を覗く俺達。尾行少女が慌てて入り口まで駆け寄って途方に暮れたように立ち止まっている。

 

「入ってこないね」

「ああ、何か警戒してねぇか?」

 

まるで得体の知れない物の見るよう警戒している尾行少女。

 

「「……」」

 

数分その状態が続き。やがて罪悪感に襲われた様子の古城がはあ、と長い溜め息をついて入り口へ歩き出す。すると尾行少女が意を決したような表情で店内に入り、ばったりと鉢合わせする。

 

「「……」」

 

無言で見つめ合う両者。実にシュールである。どうにか先に反応したのは尾行少女の方であった。

 

「だ、第四真祖!」

 

彼女は上擦った声でそう呼ぶと、重心を落として身構えた。そろそろ俺の出番かと介入しようとすると古城が、

 

「オゥ、ミディスピアーチェ!アウグーリ!」

 

と大げさなアクションで両腕を広げだしたので思いっきりずっこけてしまう俺。は、鼻を地面にぶつけた…!

 

「は?」

 

予想外の事態に呆然と見上げてしまう尾行少女。

 

「ワタシ、通りすがりのイタリア人です。日本語、よく解りません。アリヴェデルチ!グラッチェ「お前みたいなイタリア人がいるか!!」あがぁ!?」

 

いまだにエセイタリア人を演じている馬鹿の後頭部を、竹刀袋を解かないまま殴り付ける俺。鉄が叩きつけられる音と共に後背位で倒れ伏す馬鹿。やりすぎだって?吸血鬼はこの程度じゃ死なんよ、ましてや真祖だしコイツ。

 

「え?え?え?」

 

予想外過ぎる事態に混乱状態の尾行少女。

 

「ごめんね君!多分人違いだから!それじゃ!」

 

捲くし立てて馬鹿の襟を掴んで、背負いながら逃げ出す俺。

 

「あ!?ま、待って下さい!」

 

正気に戻った尾行少女が追いかけようとすると、見知らぬ男二人が行く手を遮る。ホスト風の軽薄そうな奴らである。

 

「ふーむ、どうするか…」

 

少し離れた位置で揉めている様子を観察している俺。出来れば彼女が自分で何とかして貰いたいが、あの様子だと無理そうだな…。

 

「おい勇、降ろしてくれ」

「うん?再生したか古城」

 

復活した古城を降ろす俺。

 

「ああ、たく全力で殴りやがって…」

「いやいや、全力だったらミンチより酷いことになってたよ君の頭」

「……」

 

その瞬間を想像したのか、顔色が悪くなっていく古城。

 

「じゃなくて!あの娘は…!」

 

古城が思い出したように尾行少女の方を向くと、ナンパ男の一人が少女のスカートをめくり上げたのである。俺は身の危険を感じ咄嗟に空を仰ぎ見たので、中身を拝見出来なかったが、古城はガン見していた。

 

「若雷っ!」

 

尾行少女が逆鱗に触れた龍のように呪文を叫び、次の瞬間彼女のスカートに手をかけていた男の体が、トラックに撥ねられたような勢いで吹っ飛んだ。

 

「ほう」

 

思わず感心してしまう俺。あれは自身に流れる気を制御し身体を強化し、手の平に集めた気を掌底を放つのと同時に相手に流したのである。余程の修練を積まないとああはいかないだろう。尾行術はともかく、戦闘技能はかなりのものらしい。吹き飛ばされた男は壁にめり込んで動かない、意識が飛んでるな。あれ?見間違いかな喜んでいるような気がするが。

 

「このガキ、攻魔師か!?」

 

呆気にとられていたナンパ男の片割れが、ようやく我に返って怒鳴った。攻魔師とは長くなるので簡単に言うと、魔族に対抗する術を持った人間の総称である。恐怖と怒りに表情を歪ませた男の瞳が真紅に変わり、牙が生えてくる。

 

「D種!」

 

尾行少女が表情を険しくしてうめいた。D種とはうん、ぐぐって下さい。

 

「灼蹄(シャクテイ)!その女をやっちまえ!」

 

ナンパ吸血野郎が絶叫すると、左脚から血のように見えるどす黒い炎が吹き出てくる。やがて炎は、歪な馬となる。

 

「眷獣か…」

 

自らの命を糧に従える魔獣。吸血鬼が面倒な理由の一つである。

 

「つーか、制御しきれてないなぁ」

 

周囲の物を融解させながら暴れ回っている馬、おそらく実験以外で呼び出したことが無いんだろう。

 

「な、なぁ。あれやばくねえか?」

「まあ、見てなって」

 

古城がうろたえているが、獅子王機関の剣巫ならこの程度、問題なかろう。

 

「雪霞狼(せっかろう)!」

 

対する尾行少女は臆した様子も無く、背負っていたギターケースから、一本の槍を取り出し構える。すると敵意を感じたのか馬が、尾行少女に視線を向けると突進を始める。

 

「危な…!?」

 

古城が慌てて助けに向かおうとするが、その足が止まってしまう。

 

「ば、馬鹿な…」

 

ナンパ吸血野郎が信じられない物を見るかのような表情になる。迫り来る馬に対して尾行少女が取った行動はただ槍を突き出す、それだけで槍は容易く馬を貫きその動きを止める。そして少女は槍を一閃し馬を切り裂く。

 

「お、俺の眷獣が…」

 

戦意を失ったナンパ吸血野郎が怯えたように後ずさる。だが、尾行少女の怒りは収まらないようで、ナンパ吸血野郎へ迫り槍で突き刺そうとってオイ!?

 

「危ね!?」

 

咄嗟にナンパ吸血野郎の前に移動し槍の柄を掴んで止める。

 

「え!?」

 

突然の乱入に驚いた様子の尾行少女の頭に、チョップを放つ俺。

 

「~~~~!!」

 

余程堪えたのか、槍を放して涙目でうずくまる尾行少女。

 

「す、すまねぇ。助かったよ」

「たくっ、これに懲りたら軽々しくナンパすんなよ。後、保安課に連行するから大人しくしてろよ」

「あ、ああ」

 

ナンパ吸血男がコクコクと頷くのを確認し、尾行少女に向き直すと、ダメージから回復したようで槍を拾って立ち上がり俺を睨みつけていた。

 

「どうして邪魔をしたんです?」

「どうしても何も、過剰防衛だろうに」

「…公共の場での魔族か、しかも市街地で眷獣を使うなんて明白な聖域条約違反です。殺されても文句を言えなかったはずですが」

 

あくまで自分には非は無いとおっしゃるかこの娘は。

 

「それを言うなら、あいつらに手を先に出したのはお前の方だろう?」

 

俺の隣に歩み寄って来た古城にセリフを取られたでござる。別にいいけど。

 

「それは…」

 

さて、尾行少女の対応は任せて壁に埋まった奴でも引き摺り出すか。

 

「……」

 

壁に埋まった男に近づいて顔を見ると、『我が生涯に一片の悔いなし』と言ってそうな表情をしていた。

 

「こいつは痛みが快感になる側なのか?」

「あ、ハイこいつ獣人なんですけどそのタフさを生かして結構ハードなのが好きなんです」

「ああ、そう」

 

着いて来たナンパ吸血男が説明してくれる。とりあえず襟を掴んで引っ張り出し背に担ぎ古城の下に戻る。

 

「いやらしい」

 

何をしたのか知らないが、古城を冷めた目で一瞥し背を向けて走り去って行った尾行少女。

 

「何してんねん」

「い、いやぁその」

 

俺が問い掛けると、ばつの悪そうな表情をする古城。さしずめデリカシーの無いことでも言ったか。

 

「まあいいや。じゃあ俺、こいつらを連行するからまた明日ね」

「ああ、また明日な」

「うし、行くぞ」

「うっす!」

 

古城と別れ、何故か尊敬するような眼差しを向けてくる、ナンパ吸血男と一緒に歩き出す俺であった。




長くなってしまったんで、分割すれば良かったでしょうかね?
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