ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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今回は殆ど話が進みませんでした。


第四話

前回のあらすじ

神代勇の消失

 

勇の姿が消える前日。夜更けの絃神島の海岸に二人の女性が立っていた。

年齢は共に二十歳前後で、それぞれ赤い踊り子を思わせる露出度の高い衣装に、身体のラインがくっきりと浮き出る黒革のライダースーツをで全身を覆っていた。

そんな彼女らを、眩いサーチライトの光が容赦なく照らし出していた。

海岸沿いの道路を武装した機動隊員が埋め尽くしており、携行している楯には護身用の魔法陣が刻まれ、対魔族用の特殊弾頭が装填された銃器を向けていた。

アイランド・ガードの密入国阻止部隊。その任務の性質上、強力な武装と豊富な実戦経験で知られた精鋭部隊である。

だが、そんな状況でも女性達に焦りや動揺は見られず、蔑む様に眺めて気怠く嘆息していた。

それもそうだろう。彼女らはただの人間では無いのだから。己の魂を代償に悪魔と契約し、強大な魔力を得た”魔女”なのだから――

 

「興ざめですわね。お姉様」

「十年ぶりに私達が帰還したのだから、もっと華々しく出迎えて頂きたいものだわ」

 

口々にそう呟きながら、二人は市街地に向かって歩き出す。自分達に向けられた銃口の存在を歯牙にもかけない傲慢な態度だ。

 

『侵入者に警告する。貴君らは”魔族特区”の管理区域を侵犯している。これより特区治安維持条例に基づき身柄を拘束する。直ちに魔術障壁を解除し、我々の誘導に従え』

 

アイランド・ガードの分隊長が怒鳴った。拡散器越し彼の声が、海辺の大気を震わせる。

 

『十秒間だけ待つ。これは最終警告である。従わない場合は実力を持って拘束する』

 

隊員達が武器の安全装置を解除した。

彼らが装備しているのは、獣人すら無力化する大口径の呪力弾や琥珀金弾(エレクトラム・チップ)だ。まともに喰らえば、彼女達の肉体など一撃で粉砕されてしまうだろう。

にも関わらず、魔女達は冷ややかな嘲笑を絶やさない。

 

「愚民共が騒々しいこと」

「せいぜい愉しませて頂きましょう」

 

分隊長がカウントダウンを続ける。約束の十秒間が過ぎても、二人の魔女は歩みを止めない。一瞬だけ苦々しげに表情を歪めた後、無感動な口調で分隊長が叫んだ。

 

『撃て!』

 

闇の中に青白い花火が散った。無数の銃声が一体となって、雷鳴の様に大地を揺るがした。

打ち放たれる弾丸の雨は、しかし魔女達に触れることはなかった。

海面を割って飛び出してきた巨大な触手が、彼女達の楯となって、飛来する銃弾を全て受け止めたからだ。その異様な光景に、隊員達が絶句する。

触手の直径は最大で百五十センチ程、長さに至っては見当もつかない。イカなどの頭足類の肉体を連想させる、半透明の触手である。それらは蛇の様にうねりながら次々に数を増し、魔女達の姿をすっぽりと覆い隠した。

 

「仮にも”魔族特区”を名乗る都市の住民が、この程度の使い魔で驚かないで頂きたいわ」

 

恐れている様子の隊員達を嘲る様に、緋色の魔女が哄笑しているが、別に彼らが恐れているのは彼女らでは無いのだが…。

そのことに気がついていない漆黒の魔女が、酷薄に唇を歪めて首を振る。

 

「それは無理な注文と言うものよ、オクタヴィア。あの礼儀知らずの小娘が住んでいるような街ですもの」

「そうね、お姉さま」

 

緋色の魔女が、小脇に抱えていた本を広げ手の平に押し当てる。描かれた文字が発光し、膨大な魔力が溢れ出す。

 

「ならば彼らには自分達の血で、この薄汚い街をせいぜい美しく飾ってもらいましょう」

 

触手の動きが勢いを増した。

隊員達は銃撃を続けるが流石の大口径も、直径一メートルを超える半透明の触手は撃ち抜けない。やがて弾切れを起こし、弾幕が途切れる。

その瞬間、触手が反撃に転じた。

巨大な鞭と化した触手が、隊員達を薙ぎ払わんと襲いかかる直前に、分隊長の頭上を飛び越える者がいた。

 

「うあらああああああああああああ!!!」

 

その者が獣の様な咆哮と共に拳を地面に叩きつけると、地面が陥没した。その衝撃で大地が激しく揺れ触手の動きが止まる。

 

「なっ!?」

 

予想外の事態に、今度は魔女達が浮き足立つ中、巻き上がった砂塵から黒いジャージを纏ったウニ頭の男が姿を現した。

 

「お前は神代」

「勇太郎…!」

 

魔女達がその男の名を忌々しそうに口にした。

 

「お前たちは退がって――」

 

勇太郎が部下に後退するよう支持しようとしたら、既に皆退避していた。

別にいつものことなので構わないが、「お気をつけて」とか少しくらい心配してくれてもいいのではないだろうか?信頼してくれているとしても何か悲しかった。

目から出る汗を堪えて相手に向き直った。

 

「んー?お前らは確か…まあいいや姉妹、だったか?」

「メイヤーよ!メイヤー姉妹!」

 

どうやら相手の名前をハッキリと覚えていない模様。

姉のエマ・メイヤーが訂正するが、勇太郎は「ん?そうだったか?」顎に手を当てて考える仕草をするも、すぐに「まあ、いいや」と考えるのを止めた。

 

「くっこの男、相変わらずふざけて…!」

「落ち着きなさいオクタヴィア!奴の思う壷よ!」

 

勇太郎の態度に、頭に血が上る妹をなだめるエマ。そんな彼女らを気にすることなく鼻をほじっている勇太郎。

ちなみにこのメイヤー姉妹は、かつて北海帝国領アッシュダウンで危険な魔術儀式を敢行し、州郡一つを消滅させる巨大災害を引き起こした国際魔導犯罪者である。

 

「十年前に、仲間を見捨ててノコノコ逃げ帰ったお前らが何の用だ?」

 

勇太郎の言葉に、魔女達が憎しみの籠った目で睨みつける。

そう彼女らは十年前にもこの絃神島に現れて、事件を起こしたことがあるのだ。その時は勇太郎と妻の志乃に阻まれ、他の仲間を見捨ててほうほうの体で逃げ出すこととなったのだ。

そのことは彼女らのプライドをズタズタにし、心に永遠に消えない傷として刻まれている。

 

「ま、どうせ()狙いだろうがな」

「ええ、そうよ。牢獄に囚われたあの方をお救いし、あなたに復讐するために、私達は今一度この島に戻ってきたのよ!」

 

エマが叫ぶと姉妹が持つ魔道書が輝きを増すと、無数の触手が勇太郎に襲いかかった。

次々に襲いかかる触手が勇太郎の身体を打ち付けていく、為すすべもなく攻撃されている姿を見て恍惚の笑みを浮かべる姉妹。

 

「うふふ。見てお姉さまおの無様な姿を」

「当然ね。あの頃よりも私達の力は増しているもの。老いたあの男に勝ち目はないわ」

 

優越感に浸るメイヤー姉妹だが、当の勇太郎は――

 

「イイ…。これ、凄くイイ…」

 

喜んでいた…。

隊員達が恐れていたのは、おっさんがしばかれて喜ぶ様を、見せ付けられると確信したからである。

 

「本部長!真面目にやってください!」

「ハッ、しまった!前の事件で受けれなかったからつい!」

 

部下からのツッコミにしまった!?って顔をするオッサン。

 

「くっ何て奴…!」

 

攻撃されたことなど無かったかの様に、平然としている勇太郎に歯ぎしりするメイヤー姉妹。

魔女の使役する使い魔は、吸血鬼の眷獣と同等の力を有している。敗れてから十年の間に魔力を高めて強化したこの使い魔なら、年老いた勇太郎に通用すると考えていた姉妹の思惑は、あっさりと崩れ去ったのだ。

 

「ふっ俺も舐められたものだ。さて、祭りも近いのでな。さっさと終わらせよう」

 

ゆったりとした足取りで距離を詰めていく勇太郎。メイヤー姉妹にはまるで山が迫り来るような圧迫感を与えていた。

 

「くっまだよ!」

 

メイヤー姉妹が最後の足掻きと言わんばかりに、手に持っている本に魔力を注ぐと、触手が漆黒と緋色の斑模様となる。

そして、魔道書からの魔力供給を受け、いかなる攻撃も使い魔を傷つけることはできず、いかなる防御も使い魔の攻撃を防げなくなると言う力を得たのだ。

今までより強力となった触手が勇太郎へと襲いかかった。

 

「ふん」

 

押し寄せる触手の群れを、まるで豆腐でも切るかのように手刀で捌いていく勇太郎。

 

「そんな…」

「嘘…嘘よぉ!」

 

彼女らには悪夢としかいえない現実に絶叫するメイヤー姉妹。血反吐を吐いてまで鍛えた力が、まるで歯が立っていなければ当然の反応だろう。

闘うためだけに生み出され、純粋な”力”だけで相手を圧倒し蹂躙する、それが”神代”なのだ。決して彼女らが弱いのではない。ただ相手が悪かったとしか言えなかった。

 

「やはりこの程度か。ま、期待していなかったが」

 

戦意を喪失した姉妹を見て。つまらなさそうに言うと魔道書を取り上げるべく手を伸ばす勇太郎。

しかし虚空から出現した手に掴まれ阻まれてしまう。

 

「む!?」

 

素早く掴んできた手を払うと、後ろに飛び退き距離を取る。

虚空から伸びている手は徐々にその全貌を現していった。顔の無い蒼き騎士であった。

そして、騎士はメイヤー姉妹を抱えると再び虚空へと消えてしまった。

 

「むぅ。逃がしたか…」

 

メイヤー姉妹の気配が消えたことで戦闘態勢を解く勇太郎。

 

「しかし、LCO(ライブラリ・オブ・クリミナル・オーガニゼーション)にあれほどの術者がいたとはな」

 

LCOとは魔導書と呼ばれる長い年月の中で、強力な魔性を帯びる様になった書物を収集・封印・分類・利用することのみを、目的としている。そのため”図書館”とも呼ばれる、数千人規模の高位魔導師や魔女で構成される巨大犯罪組織である。

自分達の好奇と欲望を満たすためだけに、周囲の被害などを無視して行動する独善的な集団として忌み嫌われている。

最後に現れたのは空間制御魔術の使い手であった。それも一度に複数の人間を瞬時に転移させられる程の使い手。

普通であれば、一度に人間一人転移させられるのが精一杯だ。同時に複数人を瞬時に転移させるのは、かなり高度な技術が必要とされる。

勇太郎が知る限り、それ程の力を持つのは”空隙の魔女”と呼ばれている、那月くらいしか思い当たらない。

那月と同等の力を持つ者なら、噂くらいは聞いていてもおかしくはない。何より――

 

「あの使い魔…。いや、まさかな…」

 

ふと、ある可能性が頭をよぎったが、そんな筈は無いと首を横に振った。

 

「やれやれ、面倒なことになるなぁこりゃ」

 

できれば、息子らを危険に晒す前に解決したいんだがなと思いながら、部下にメイヤー姉妹を捜索する様指示を出すのであった。

LCOの狙いは絃神島に存在する監獄結界に収監されている総記(ジェネラル)であり、”書記(ノタリア)の魔女”と呼ばれる仙都木 阿夜(とこよぎ あや)の開放である。

もしも監獄結界が破られることになれば、他の囚人も逃げ出すことになってしまう。

 

「そうなれば奴が、”妖刀血雨(ちさめ)”も解き放たれてしまう…」

 

監獄結界の囚人の殆どは、現役の頃の勇太郎と志乃の二人が捕えたのだ。そして、その中でもただ1人勇太郎の心に恐怖を植え付けた者の名を呟くのであった。

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