ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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今回から新たなオリキャラが登場します。


第二話

前回のあらすじ

親方!空から勇が!

 

「誰か殺したい…」

 

監獄結界内部の最奥に存在する独房に、物騒極まりないことを呟いている一人の少女がいた。

歳は勇らと同年代か少し年上だろうか、巫女装束を身に纏い、肩に当たるかどうか程に伸ばした血のような真紅の髪が特徴的だった。

少女のいる独房に通じる道にはいくつもの鉄格子で塞がれており、彼女の周りには那月がよく使用している鎖が無造作に散らばっていた。

 

「でも、殺したくないなぁ…」

 

体育座りの姿勢で顔を膝に埋めて、先程とは真逆のことを呟いている少女。彼女はある神社に仕える巫女だったが、五年前に日本の名だたる攻魔官や獅子王機関の剣巫に舞威媛を多数殺め、世間を震撼させた連続殺人鬼なのだ。

日本政府や獅子王機関が幾度となく少女を捕縛しようと試みたが、その度に犠牲者は増え、最終的に両者から依頼を受けた勇太郎と那月が、必死の思いで監獄結界へと捕らえることに成功したのだ。

後に勇太郎は「過去幾度となく戦った者の中で、彼女程素直に怖いと感じた者はいなかった」と恐れ知らずで、真祖が相手であれ勇猛果敢に挑む彼をしてそう言わしめ、監獄結界に収監されている囚人の中でも最も危険とされているのだ。

そして、「彼女を救うことができず、ただ閉じ込めることしかできなかったことに己の限界を感じた」と勇太郎に現役を引退させることを決意させた相手でもあるのだ。

 

「殺したい。でも、殺したくない。やっぱり殺したい。それでも殺したい。…はぁ、もう死にたい」

 

矛盾することを何度も呟き、終いには自殺をほのめかすことを口走る少女。

彼女も仙都木阿夜らと同様に監獄の外に出ることができるのだが、彼女だけは独房から出ようとはしなかった。

菫色の髪の女に、自分達を監獄結界に閉じ込めた、神代勇太郎と南宮那月に復讐しないかと声をかけられたが、少女はその誘いを断った。

彼女は復讐に興味は無く、寧ろ彼らには感謝さえしていた。この監獄に入っていれば誰も殺さずに済んだからだ(・・・・・・・・・・・・)

 

「誰ぇ。ここから出られる様にしたのはぁ…」

 

少女にとって、この監獄結界を破ろうとしている者は逆に邪魔者以外の何者でもないのだ。

こうしてじっとしている間にも、誰かを殺したいと言う衝動が少女に襲いかかっていた。いっそ破ろうとしている者でも殺して、またこの監獄に閉じこもろうかとも考えたが、もう誰も殺したくないし殺しに行くのも面倒臭いのでやめた。

人を殺したいけど、誰も殺したく無い。二律背反する感情を持つ少女は、そんな自分が嫌で、ただただ死にたいと思っていた。だが、ある事情によって彼女は自分で死ぬことはできないのだ。

死ぬには誰かに殺してもらうしか無いのだが、少女の持つ強大な”力”は己を殺そうとする者を、本人の意思とは無関係に殺してしまうのだ。

自分をこの監獄に送ってくれた男性も殺してはくれなかった。彼の力は少女が出会った者の中でも一際強大なものだった。そんな彼でも自分を殺すことができなかった。恐らく彼以上の力を持つ者はいないのだろう。彼女の理性を繋ぎ止めていた希望を失った少女は、もはや湧き上がる殺人衝動に、完全に身を任せてしまおうかと考え始めていた。

それでも自我を保っていたのは、監獄結界に収監されたことで、誰も殺めることができなくなり、己の罪を悔いることができる様になったからだ。それが、結界が破られそうになったことで、衝動を抑えることができなくなっていた。

もう全てを諦めかけた時、監獄が激しく揺れた。

 

「?」

 

突然の振動に埋めていた顔を上げる少女の表情は、憂鬱そうでどこか儚げであった。そんな少女の、髪と同じ紅色の光の灯さない深淵の様な瞳が揺れた。

監獄の外に突如現れた、自分を監獄に送ってくれた男性に似た強大な力の波動。少女の本能が訴えていた。この人なら自分を殺してくれるかもしれないと。

少女はゆっくりと立ち上がると、鉄格子の前へと歩き出す。

そして、おもむろに歯を立てて自分の右手首に噛みつきだした。口を離すと手首から多量の血が流れ出し手の平を伝い、地面へと流れていく。

 

「おいで、『血雨(ちさめ)』」

 

少女がそう呟くと、流れ出ていた血に変化が現れた。まるで生きているかの様に蠢きだすと、徐々にある物を形作っていく。

それは日本刀であった。少女の髪や瞳と同じく、真紅の刀身に鍔や柄までもが紅く染まっており、言い知れぬ不気味さを放っていた。

少女は手にした日本刀を鉄格子に軽く振るうと、鉄格子はまるで紙切れの様に切断されてしまった。

いくつも設置されていた鉄格子を、次々と手にした刀で切断していく少女。その顔は先程までの憂鬱さは無く、どこか生き生きとしていた。

遂に最後の鉄格子を切断した少女は、監獄の外へと歩みを進める。自らの願いを叶えるために――

 

 

 

 

 

監獄結界の外側では激しい爆発音と、コンクリートが崩れる音が響き渡っていた。

 

「うおらぁ!!」

 

脱獄囚の一人であるシュトラ・Dが、腕を振るうたびに風が刃となって俺へと襲いかかる。

それに対して獅子王を大剣形態にし、うちわの様に振るい発生させた暴風で風の刃をかき消した。

続いて息つく間も無く、足元が炎に包まれていくので飛び上がり退避する。

すると、着地しようとした瞬間を狙ったかの様に、西洋の鎧を纏った大男が自身の身長と同じくらいはあろうかと言う大剣を振り下ろしてきた。

咄嗟に日本刀形態へと戻した獅子王で受け止め、その衝撃で後ろへ飛び退き距離を取ると一息つく。

 

「流石に面倒だな…」

 

今俺が相手をしているのは三人の脱獄囚だ。風を操るドレッドヘアーと、炎を操るジジイに大剣を軽々と振るう鎧男である。ちなみに仙都木阿夜と眼鏡の男は静観する気なのか動きが無い。

監獄結界にぶち込まれるだけはあって、それなりの強さはあるが、一対一ならどうとでもなるくらいのレベルではあるがな。

それを三人同時となると結構面倒ではあるが、そろそろ古城達が逃げる時間も稼げたので、ここいらで引き上げるとしよう。

目の前の三人を警戒しながら、別の脱獄囚を相手にしているリアの方へ、少しだけ意識を向ける。

吸血鬼である菫色の髪の女が眷獣である鞭を振るい、それを避けると護身用の拳銃を撃つが、生き物の様に動く鞭に弾丸を叩き落される。

吸血鬼である女にとって、リアの疑似聖剣は天敵も同然なので積極的に攻撃してきていない、だから任せているのだが。

 

「ん?」

 

撤退のタイミングを見計らっていると、違和感に気がついた。仙都木阿夜らとは違う異質な気配を感じ取り、その方向に視線を向けると、仙都木阿夜と眼鏡の男しかいなかった筈の建物の上に一人の少女が立っていたのだ。

 

(オマエ)は…。ここ(監獄結界)の囚人か?」

 

突然現れた少女に警戒の色を表す仙都木阿夜が問いかけるも、少女は気にする素振りもなく、それなりの高さがある建物の上から飛び降りるとなんなく着地した。

他の脱獄囚達も少女の出現に動きを止めていたが、そんな奴らも眼中に無いかの様に少女は俺の方へと歩き出した。巫女服と言うこの場に不釣り合いな格好だが、少女の血の様な真紅の髪や瞳と同じ色をしている日本刀を手にしていることが、その違和感をかき消していた。

少女は俺との距離をある程度詰めるとゆっくりと口を開いた。

 

「ねえ。あなた、私を殺してくれない(・・・・・・・・・)?」

「…はぁ?」

 

少女の発した言葉が理解できずに、間抜けな声が漏れてしまった。

いやだって、いきなり自分を殺してくれって言われたらそうなりますよ。リアや他の脱獄囚共も『え、何言ってんのこいつ?』みたいな顔しているし。

 

「?どうしたの?」

「いや、どうしたのって。いきなりそんなこと言われたら誰だって戸惑うわ!」

 

キョトンとした顔で首を可愛らしく傾げる少女に思わずツッコンでしまった。いかんこの子とは感性が噛み合いそうにないわ。

俺のツッコミに少女がああ、と声を出した。

 

「そうだね。いきなりそんなこと言われたら驚いちゃうよね、ごめんなさい。実は私自分じゃ死ねない体質なの。それで誰かに殺してもらうしかなくて、あなたならできるかなって思ったの。だから、その刀でこうズバっとお願い」

 

そう言って獅子王を指さして、自分を切る様にジェスチャーしてくる少女。

 

「ああ、そうなんですか。それじゃ仕方ないですねって、なるか!!演劇の指導するみたいな感覚で、自分の殺しを依頼してくるな!?普通に怖いわ!」

「大丈夫。私大量殺戮犯だから罪に問われないと思うから、ね?」

「ね、じゃねーよ!そう言う問題じゃねーんだよ!俺はできることなら殺しとかはしたくないんだよ!命は大切にしろや!」

 

俺が頼みを拒絶すると、えーって顔でショックを受けている少女。言動と仕草が支離滅裂だよこの子。何ださっきまでガチバトルの雰囲気だったのに、もう色々とカオスだよ!

 

「そんなこと言わないで殺してよー!」

「うおおぃ!?抱きつくなあああああ!?!?!?」

 

懇願する様に飛びついてきた少女。ちょっむ、胸の感触が!?あ、リアよりも大きい…。

 

チャキンッ

 

「ぬあああああああああ!?!?!?!?リアさん落ち着いて!!!銃口を俺の頭にロックオンしないでえええええええ!!!!」

「……」

 

アカン!目が完全に据わってらっしゃる!このままだとガチでやられちゃうううううううう!!!

 

「テメェら…。俺らを無視して何コントしてんだオラァ!!!」

 

完全に蚊帳の外となっていたドレッドヘアが、怒り心頭と言った感じで腕を振り上げた。不味い!?抱きつかれたままじゃ防御も回避もできん!

 

轟嵐砕斧(ごうらんさいふ)!!!」

 

ドレッドヘアが腕を振り下ろすと、大気が壁の様に迫ってくる。すると、攻撃に気がついた少女が俺を突き飛ばした。え?

少女の予想外の動きに呆気に取られそのまま尻餅を突く俺。そして、少女が大気の壁に押しつぶされた。

無数の風の刃に全身を切り裂かれ、血を噴き出しながら地面に叩きつけられた少女。彼女は間違いなく人間だった。そんな彼女が耐えられる訳が無い、即死しているだろう。

無残な死体となった少女を唖然と見つめていた。変なことを言っていた子だったけど、どこか分かり合える。そんな気がしてたのに、こんな終わりってあんまりだろ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ…ふふ…。アハハッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に笑い声が聞こえてきた。てっきり彼女を殺したドレッドヘアかと思ったが、訝しんでいる奴を見る限りあいつでは無い様だ。無論リアでは無いし、他の脱獄囚でも無い。なら、どこから?

 

「痛い…痛いよぉ」

 

声の元は死んだ筈の彼女であった。だが、生きていてくれたことへの喜びは無かった。寧ろどうして生きているか?と言う疑問しか湧いてこなかった。どうみても致命傷だったのに、彼女はゆっくりと起き上がっていたのだ。

 

「でもね…、これじゃ駄目なの…。こんなのじゃ、私は死ねないの(・・・・・・・)…」

 

そう言うと少女は左手の手の平をドレッドヘアへと向けた。すると流れ出ていた血が針の様に伸びだしだのだ。突然の攻撃にドレッドヘアは全く対応できず腹を針に貫かれた。

 

 

「あ、がぁ…!?」

 

何をされたのか理解できていないドレッドヘアを、少女は血の針を戻しながら引き寄せていく。

 

「ふふふ、あなたがいけないんだよ?弱いくせに私を傷つけるからこうなるんだよ?」

 

少女は狂ったかの様に笑いながら、引き寄せたドレッドヘアを軽々と片手で持ち上げた。そして、少女の周りに池の様に溜まっていた血が、まるで生きているかの様に蠢き始めた。

蠢いている血がスライムの様に形を変えていく。現れたのは骨の身体に鬼の頭部をし、手には大太刀を持った二メートル程の二体の怪物であった。それが少女に控える様に佇んでいた。

 

「さあ、いい声で鳴いてね?」

 

狂気の笑みを浮かべた少女の言葉と共に、控えていた怪物らが大太刀をドレッドヘアへと突き刺した。それも何度も何度も――

 

「あ…あギャアアアアアアアアアア!?!?!?!?」

 

想像を絶するだろう痛みに悲鳴を上げるドレッドヘア。その悲鳴を聞いた少女は表情を喜びに歪めた。その残虐過ぎる光景に、その場にいた全員がただ見ていることしかできなかった。

 

「いい、イイッ!!!もっと、もっと!いい声で鳴いてよォ!!!」

「ア…あ、ガぅ…」

 

歓喜の声を上げる少女に、最初は抵抗しようともがいていたドレッドヘアも、次第に動きが弱っていっていた。

 

「なーんだもう終わり?つまらないなぁ」

 

ドレッドヘアが虫の息だと言うことに気がついた少女は、心底つまらなさそうな顔をして、手にしていた日本刀をドレッドヘアの首へとあてがった。そして力を込めてって待てよ――!?

 

「やめろォ!!!」

 

咄嗟に叫びながら、少女の腕を掴んで動きを止める。すると、少女は意外そうな顔をして俺を見ていた。その顔は、とても人を殺そうとしていた人間の顔には見えなかった。まるで、息をするかの様に人を殺そうとしていた。何だ、なんなんだこいつは、本当に人間なのか!?!?!?

 

「どうして止めるの?自分を殺そうとしていた相手なのに?」

「確かにそうだが。だからと言って、こんなことをされて殺されるのを、黙って見ていられる程人間を辞めてはいない!!!」

 

俺の身体は普通の人間とはかけ離れている。それでも、だからこそ、心は人間のままでいたいんだ。心を無くせばどんなに人の形をしていようが、それはただの化物でしかないから。

 

「そう、あなたは優しいのね。でもね、それじゃ駄目なの。それじゃ私を殺せないから(・・・・・・・)…」

 

少女が悲しそうな顔をすると、鬼の怪物がドレッドヘアを地面へと放り投げた。すると、ドレッドヘアの左手に嵌められていた手枷が輝き、無数の鎖が吹き出して男の身体に巻きついていくと、虚空へと引きずり込んでいった。恐らく監獄結界の脱獄防止のシステムだろう。あの傷で助かるかどうか分からないが、そこまで気にしてやる余裕が無かった。

鬼の怪物を従えた少女が、殺意の篭った目で日本刀の切っ先を俺へと向けていたからだ。

 

「さあ、私を殺して(・・・・・)

 

相も変わらず言葉と行動が噛み合っていない少女に、俺は言い知れぬ恐怖を感じていた。

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