ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第三話

前回のあらすじ

その願いは紅に染まり

 

「さあ、私を殺して(・・・・・)

 

そう言って目の前の少女は手にした刀を突きつけてきた。狂気を孕んだその瞳が、まるで獲物を見つけたかの様に俺を捉えていた。

分からんことだらけだが、一つ確実なのは目の前にいるのは敵ってことだ。

 

「やだね。面倒くせぇ」

 

そう言うと地面を思いっきり踏み込み、砂塵を巻き上げて目くらましをする。

古城達の逃げる時間を稼げた以上、もうここに留まる気は無い。なので、トンズラさせてもらう。

リアと共に駆け出す。少女の乱入の影響で慎重にでもなっているのか、脱獄囚らから全く妨害を受けること無く監獄の外まで来られた。

 

「勇。彼女はいったい…」

「さあな。囚人については聞かされていないから、俺にも分からん」

 

あの少女について、何か知っているのではないかとリアが聞いてきた。監獄結界のことは聞かされていたが、囚人についてまでは教えられていないので、答えることまではできなかった。

 

「ただ一つだけ言えるのは、あの少女は脱獄した奴らの中でも、ぶっ飛んでいるってことだ」

 

脱獄した連中はどれも異質だが、あの少女の異質さは次元が違っていた。俺と同じく人にして人を辞めた部類の奴だな。しかも、心まで人を辞める寸前の危険域に入ってやがった。

 

「まずは態勢を立て直そう。それに確認しないとならんこともあるしな」

「…そうですね」

 

あの少女や那月ちゃんの安否は気になるが、それでも今は”彼女”について確かめなければならないんだ。

あらかじめ停車させておいたトルネイダーに乗り込むと、目的地へと向かって走らせるのだった。

 

 

 

 

勇とラ・フォリアが撤退した監獄結界では、脱獄囚達がそれぞれに行動を起こしていた。

大半の者が、乱入してきた少女から逃げる様に那月の抹殺に向かう中。その少女はその場から動かず、勇の去った方角を見つめていた。

少女がシュトラ・Dから受けた傷は、本来なら即死している筈であるに関わらず、徐々に塞がり始めていた。それだけでも少女が持っている力が、常軌を逸していることを物語っていた。

 

「行っちゃった…」

 

まるで捨てられた子犬の様に嘆くと、手にしていた刀がまるで鉄が溶けるかの様に形が崩れていき、少女の肉体へと溶け込んでいった。

 

「追いかけないと。う~ん、探すのが大変だなぁ。でも、殺してもらうためには、仕方ないよね」

 

少女がそう言うと、側に控えていた怪物の一体が少女を抱える。そして残りの一体と共に、ゆったりとした足取りで歩き出した。

それを仙都木阿夜と眼鏡の青年は、那月を追う素振りも見せずに、建物の屋上から見下ろしていた。

 

「なる程、彼女は…」

「何か知っているのか?冥駕とやら」

 

眼鏡の青年が何かに気がついた様子に、仙都木阿夜が反応した。彼女にしても得体のしれない少女が、自身の計画の妨げにならないか情報を得たいのだろう。

 

「かつて起きた神々の(いくさ)の中、”咎神”が生み出した殺戮兵器があると聞いたことがあります」

「”咎神”が生み出した殺戮兵器だと?まさか、あの小娘が?」

 

青年が口にした”咎神”と言う単語に、仙都木阿夜の表情が凍りついた。そして畏怖の念を込めた目で去っていく少女を見据えた。

 

「その兵器は”血雨”と呼ばれたそうです。兵器自体が独自の意思を持っており、持ち主となった者を操ると、殺戮の限りを尽くすのだそうです。恐らくあの少女は何らかの理由で取り込まれたのでしょう」

「なる程。だが、あ奴が神代勇を狙っているのはなぜだ?」

「詳しくは分かりませんが。彼女の口ぶりから察するに死にたいのでしょう。だが、自分の力ではどうにもならず、他者の手で殺めてもらうことしかできない。それができるのが神代の者だと考えたのでしょう」

 

あくまで推測ですがと付け加え、青年は眼鏡のずれを直した。

 

「そうか。では、あの小娘には神代勇の相手をしてもらうとしよう。(ワタシ)の望む世界が完成するまでな」

 

そう言うと、その場から立ち去っていく仙都木阿夜。それを気にすることもなく、青年の視線は少女に向いていた。

 

「”咎神”が生み出した兵器。これは役に立ちそうですね」

 

歪んだ笑み浮かべた青年もまた、監獄結界から立ち去っていくのであった。

 

 

 

 

 

「そうか、那月ちゃんはそっちには来てないか」

『はい。こちらでも教官の所在は不明です』

 

監獄結界から離脱後、トルネイダーに備えられている通信機で、アスタルテと連絡を取っていた。

彼女にはティナさんと共に、夏音を連れてアイランド・ガード本部に避難してもらっていたのだ。

那月ちゃんは仙都木阿夜の手によって力を奪われ、逃走せざるを得ない状態に追い込まれた。その場合、那月ちゃんなら間違いなく、アイランド・ガード本部に逃げ込んでいる筈だと思ったが…。

 

「父さんは今どうしているかな?」

『勇太郎さんは現在の状況を管理公社へ報告しているのと同時に、警備体制の指揮をとっています。こちらでも教官の捜索に全力を挙げており、情報が入り次第私の方に伝えて下さるとのことですが、お繋ぎしましょうか?』

「いや、そこまでしてくれているなら大丈夫だよ。邪魔しちゃ悪いしね。それじゃあ、こっちの状況を伝えておいてもらえるかい?」

『分かりました。お気をつけて』

 

通信を終えると、背中にしがみついているリアが心配そうに話しかけてきた。

 

「那月さんは、どこにいってしまったのでしょうか?」

「多分本部に逃げる途中で、完全に記憶を失ってしまったんだと思う。それで今頃は迷子になってしまっているかもしれない」

 

もしかしたら誰かに保護されているかもしれないけど、それはそれでその人が巻き込まれてしまうので危険なのは変わらないな。

 

「いずれにせよ、まずは古城達と合流しないと話にならないな」

「そうですね」

 

しばらくトルネイダーを走らせると、目的の建物が見えてきた。

MAR研究所――古城の母親である深森さんの勤務先である。あの人は臨床魔導医師の資格を持ち腕は確かだから、仙都木優麻を任せるには最適である。それに古城の事情も把握しているしな。ちなみに古城は深森さんに、自身が吸血鬼であることがバレていることに気がついていない。

 

「勇。あれは雪菜達が乗っていた戦車では?」

 

リアが指さした方を見ると、煌坂が乗って来ていた戦車が塀の側に停まっていた。しかし牽引していた馬が見当たらず、地面に車輪の跡がくっきりと残っており、どう見ても事故現場にしか見えなかった。

 

「姫柊や煌坂に仙都木優麻は無事、だよね?」

 

古城?彼は死んでも生き返るから、これくらいの事故で心配する必要が無い。

 

研究所内の駐車場にトルネイダーを停車させ降りると、リアを連れて敷地内を進んでいく。

外装が白で統一されたいくつものビルが並び、まるで病院を連想させる研究所。その敷地内を迷うことなく進んでいく。何度も訪れているので地図は頭に入っているのだ。

やがて、敷地の隅に円筒形のビルが見えてきた。島外からの客人や研究者を宿泊させるためのゲストハウスである。

深森さんはその一室を勝手に私物化して、主にそこで生活をしている。仕事の都合上、古城や凪沙のいるマンションへ変えるのは稀なのだ。

そこら辺は父さんと同じである。あの人の場合は、ちゃんと許可を取って本部の部屋で寝泊りしているが。小学生の時までは毎日帰って来てくれていたけど、獅子王を受け継いでからは成長したからと余り帰らなくなった。電話はしょっちゅうしてくるけど。

 

「義父様に会う機会が少なくなって寂しいんですか?」

「心を読まないでくれる?別にそんなんじゃないよ。もっと子離れしてほしいね」

「そうですか」

 

愉快そうに微笑んでいるリアさん。何ですかその『素直じゃないですね』って言いたそうな顔は。寂しいとか考えたこと無いし。寂しいとか考えたこと無いし。

 

「那月さんの話だと、帰って来なくなった当初は、泣きそうになっていたと聞きましたけど?」

「さあ、覚えて無いなぁ」

 

俺の記憶には残っておりませんねぇ。本当ですよ?

 

「さあ、目的地に着いたよリア君。この話はここまでだ。早急にこの事件を解決しなくてはね」

「逃げましたね」

 

アーアーきこえなーい。キコエナーイ。

静脈認証用のタッチパネルに掌を押し当てると、ゲストハウスの玄関が開いた。大理石で飾り付けられた豪華なロビーを通り、エレベータで上の階へと向かう。

そして目的の部屋にたどり着くと、インターホンを迷いなく押す。

 

『勇か!?』

「そうだよ古城」

『無事だったか。今開けるな!』

 

そう言うとドアの向こうから数人が慌ただしく走り回る気配がし、鍵が外れた。それを確認するとドアを開ける。

 

「勇、ラ・フォリア。無事でよかったよ」

 

安堵した表情の古城に出迎えられる。後ろにいた姫柊と煌坂も安心した様な表情をしていた。

 

「そっちは大丈夫かい?なんか君らが乗っていた戦車が事故ってたけど」

「あ、ああ。なんとかな」

 

そう言うと苦笑いしながら頬を掻く古城。姫柊らもなんとも言えない顔をしていた。まあ、大丈夫そうだからいいけどさ。

 

「そう言えば凪沙はいるかい?」

「凪沙?ああ、母さんの様子を見に来てたんだが。その、今は寝ちまってるんだ」

 

何やら、どう説明したらいいのかって感じで頭を掻いている古城。煌坂が冷や汗を浮かべながら、気まずそうに視線を逸らしていた。

大方古城との関係を問い詰められて、対応に困った煌坂が呪術で眠らせたって感じか。

 

「OK、予想はついた。それで、仙都木優麻の容態は?」

「母さんが見てくれたから、ひとまずは大丈夫なんだが…」

「完全に回復させるには、那月ちゃんの協力が必要になる、か」

「ああ」

 

仙都木優麻は守護者を母親である仙都木阿夜に奪われた。魔女にとって、守護者とは自身の心臓と言ってもいい物なのである。それを失っている状態が長引けば、いずれは死んでしまうだろう。

魔女契約は現代の科学では解析不能な超高等魔術の一種だ。流石のMARでも治療には限界がある。

仙都木優麻を救うには、守護者を取り戻す必要があるが、それには仙都木阿夜と同等の力を持つ那月ちゃんに力を貸してもらうしかない。

その那月ちゃんは仙都木阿夜の手によって力を奪われ、現在行方不明となっている。

 

「なあ、勇。那月ちゃんの居場所に心当たりはないのか?」

「アイランド・ガードの本部に退避してると思ったんだけど、そっちにも来てないってさ。多分途中で記憶を失って、迷子になってるんだと思う」

「そうか、無事だといいんだが…」

 

俺の返答に不安そうな表情で、那月ちゃんの心配をしてくれる古城。俺が居場所を知らないことの落胆されてもいいのに、ホントいい奴だよ君は。

 

「焦っても仕方ないさ。今は態勢を立て直すことに専念しよう」

 

俺はともかく、皆は相当消耗してしまっているからね。いざと言う時動けないんじゃ意味が無いし。

 

「深森さんは研究所の方かな?」

「そうだけど。何か用なのか?」

「ちょっと、確認したいことがあってね」

 

今古城に教える訳にいかない内容なので、悪いけどはぐらかさせてもらう。怪しまれるかもと思ったけど、「そうか」とだけ言って深くは聞いてくれなかった。もしかしたら察してくれたのかな?

 

「リアは古城らと休んでてくれ」

「…分かりました」

 

本当は付いてきたいのだろうけど、こればっかりは無理なんだ。”あの時”のことと深く関わる以上下手に教える訳にはいかない。

 

「ところで姫柊、そのナース服は…」

 

気になっていたけど、姫柊の服装が波朧院フェスタ用のエプロンドレスから、看護師風のミニスカートのワンピースになっていた。

 

「こ、これですか?深森さんが優麻さんの治療を手伝う際に、汚れた服だと駄目なのでこれに着替える様にと…」

「…そう」

 

自分の服装に改めて意識が向いたのか、恥ずかしそうに小声で説明してくれる姫柊。

あれはアスタルテを初めて連れてきた時に着せられたう、頭が…。

 

「ちょ、大丈夫勇!?顔色悪いわよ!」

 

俺の異変に気がついた煌坂が心配してくれた。く…あの時の悪夢が呼び覚まされるのを、脳が拒否して激しい目眩と頭痛が…。

 

「大丈夫、大丈夫だよ…。それじゃちょっくら行ってくる…」

 

お前本当に大丈夫なのかよ?と言いたそうな古城達から逃げる様に、研究所へと向けて歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

職員用の連絡通路を歩きながら、スマフォを取り出し深森さんの番号を呼び出す。数コールすると、深森さんの陽気な声が聞こえた。

 

『はいはーい、勇君待ってたわよぉ。今そっちに行くわねぇ』

「分かりました。お願いします」

 

通話を切ると研究所へ入るための扉が見えてきた。研究所内には情報漏えいを防ぐために、無数のトラップや警備用のロボットに式神、それに平時であれば警備員も巡回しているが、今日は波朧院フェスタの開催期間なのでその姿は無い。

外部の人間が研究所内に入るには、関係者と一緒でなければならない。それ以外で入ろうとした瞬間、問答無用でしょっぴかれる。

暫く待っていると扉が開き、深森さんがヒャッホーとかいいながら飛びかかって来たので、身体を逸らして避けるとビターンと地面とキスをした。

 

「ちょ、ちょっと勇君。よけなくてもいいじゃない」

「いきなり抱きつこうとするからですよ」

「だって、勇君抱き心地いいんだもの!勇君の感触を再現した抱き枕を開発してるから協力してよ!」

「なんの研究してんだあんた?」

 

鼻息を荒くして手をワキワキさせている変態に、冷ややかな目を向ける。だからこの人苦手なんだよ。

 

「それより本題なんですが」

「仕方ないわね。それじゃ私の研究室で話しましょうか。あ、アイス食べる?」

「いえ、結構です」

 

森さんが肩にかけていたクーラーボックスから、棒アイスを取り出すと差し出してきたが、生憎そんな気分では無いので遠慮した。するとあら、残念と言って、取り出したアイスを自分でくわえて歩き出した深森さんに付いて行く。

研究室へとたどり着くと、深森さんがドアを開けてどうぞ~と招き入れてくれたので部屋に入ると、続いて深森さんが入りドアの鍵を閉めた――

 

「……」

「あら、ごめんなさ~い。いつもの癖で」

 

睨みつけると、おほほほほとわざとらしく笑いながら鍵を開ける深森さん。いつも俺を女装させようと逃がさないために、鍵閉めてくるからなこの変態は。

室内はゲストハウス同様に書類やら機材やらが散乱しており、足の踏み場がかろじてあるくらいのカオスな空間と化していた。本人曰く、どこに何があるかは把握しているので問題無いとのこと。

 

「それじゃその椅子にでも座ってね」

 

深森さんに指定された椅子に腰掛けると、深森さんも自分の椅子へと腰掛ける。

後は言いたいことを口にするだけなのだが。いざ、そうしようとすると上手く言葉が出てこなかった。もしかしたら、あれが夢だったかもしれないと言われるのが、怖いのかもしれない。真実を知りたくないと、心が叫んでいるのかも分からない。

そんな筈は無い。あの時見た彼女(・・)は、間違いなく本物だったのだから――

 

「では、深森さん。あなたは凪沙の中でアヴローラが生きている(・・・・・・・・・・・)ことを知っていたんですか?」

 

緊張の余り、声が震えていたもしれない。それでも、深森さんにはしっかりと聞こえていたみたいだ。

彼女は普段見せない真剣な表情で俺を見ていた。古城が見れば誰だあんた!?とか言いそうである。

 

「ええ、知っていたわ」

 

俺の言葉に深森さんは迷いなく答えた。

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