ストライク・ザ・ブラッド~神代の剣~   作:Mk-Ⅳ

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第十七話

前回のあらすじ

友のために

 

「阿夜ァァァァアアアア!!!」

 

那月ちゃんが悲痛な声で叫ぶ。

 

「オォオラァ!!」

 

千雨の意識が逸れて拘束が緩んだ隙に、跳ね除けると那月ちゃん元へ向かう。

 

「阿夜!阿夜!お前どうして!」

「…友達、だからな…お前は、私の、唯一の…」

 

那月ちゃんの呼びかけに、苦悶の表情を浮かべながら答える仙都木阿夜。

 

「…ッ!おい、仙都木阿夜!」

 

仙都木阿夜がこちらを向くと、大きく息を吸い込む。

 

「死ぬな、絶対に死ぬなよ!」

「神代、勇?」

 

不思議そうな目で見てくる仙都木阿夜。

理由どうあれ、こいつのしたことは許されることじゃない。でも、だからって死んでいいとは思わない。何より――

 

「那月ちゃんが悲しむからな」

 

鞭のように飛来した複数の紅の刃を獅子王で弾くと、千雨目がけて駆けだす。

 

「大車輪!」

 

ククリ刀に変化させた獅子王を千雨へと投擲する。高速回転して飛ぶ獅子王は、再度振るわれた刃を蹴散らしながら突き進む。

千雨が跳んで避けるのに合わせて跳んで距離を詰めると蹴りを放つ。刀を重ねて防御してくるも、それごと蹴り飛ばすと地面を数度バウンドして転がっていく。

着地と同時に、ブーメランのように戻ってきた獅子王を手にして追撃しようとすると、足元周りの地面が沼のように柔らかくなり沈んでいってしまう。

 

「チィ、くそッ!!」

 

抜け出そうとするも、すぐに元の硬さに戻り足が完全に埋まった状態となってしまった。そこから周囲の地面が変化を始め無数の棘となって迫ってきた。

 

「――ッ!」

 

全部は防ぎきれねぇ!せめて急所だけは守らないと!

覚悟を決めて防御態勢を取ろうとした瞬間、ドーム全体の地面に亀裂が入り足を抜け出せるようになったので跳んで回避することができた。そして、そうしている間にも亀裂は広がっていき遂には陥没しドームが崩れ始める。

 

「よっと!」

 

待ち望んでいた事態なので、動じることなく那月ちゃんと仙都木阿夜を抱えて跳ぶ。

 

「待ってたぜ古城!」

 

笑みを受かべて視線を向けた先には巨大な灰色の甲殻類――甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)を従えた(古城)がいた。

お前なら眷獣の攻撃が効かないドームそのものではなく、それを支える地面霧に変えて崩すと信じていたぜ!

 

「すまん遅くなった!」

「構わん!それより那月ちゃんとこいつを頼む!」

 

側に着地すると那月ちゃんを降ろし、仙都木阿夜をこの中では一番医療に詳しいだろうガルドシュのオッサンに預ける。

 

「出血が酷いな、すぐにでも設備の整った場所で治療しないともたないぞ」

 

できる範囲で応急手当を始めるオッサン。

 

「母様!」

 

仙都木優麻も慌てた様子で魔術での治療を施し始めた。それでも焼け石に水くらしにしかならない。早く本格的な治療を受けさせる必要があるが――

 

「また鬼共が沸いてきたんですけど!」

 

周囲の崩れたドームの破片が鬼の群れに変化して押し寄せてくるのを見た煌坂が、いい加減にしてくれと言いたげに叫ぶ。

 

「やはり大元を叩くしかないようですね」

 

古式銃を構えたリアが、鬼の群れの背後にいる千雨に視線を向ける。

 

「ですが、この数をこれ以上相手にするのは…」

 

数えるのも面倒になる程の鬼の群れに包囲されて弱気になっている姫柊。俺も含めて皆連戦に次ぐ連戦でかなり消耗しているから無理もないが。

 

「那月ちゃんは下がってて」

「勇…!」

「大丈夫、俺が守るから。もう、誰も傷つけさせないから」

 

これ以上誰も傷ついて欲しくないし悲しませたくない。だから俺が必ず守るんだ。

 

 

 

 

自分を安心させようとして微笑みかけてくる勇の姿に、那月は不安を覚える。恐らく自分のことなど構わず千雨を倒そうとするのだろう。既に限界を迎えているのに、これ以上の無理を重ねれば命に関わるかもしれない。それでも彼は戦うのだ守りたい人のために、それが那月には嫌という程理解できた。

 

「嫌だ」

「え?」

 

那月が発した拒絶の言葉に、勇が意表を突かれた顔をする。そんな彼の隣に那月は立つ。

今の自分では足手まといにしかならないだろう、それでもただ守られるだけなのは、大切な家族が傷つくのを目の前で見るのは耐えられなかった。

 

「もう、お前に守られるだけは嫌だ。私はお前の姉なのだからな」

 

そう言って微笑みかける那月に、勇も自然と笑みが浮かんだ。

 

「ああ、一緒に戦おう!」

 

勇が自然と獅子王を持つ右手を差し出すと、その手に那月は自身の手を重ねるのだった。

 

 

 

 

鬼の群れの奥にて、千雨は佇んで抵抗する古城らを眺めていた。消耗しきった勇らに最早勝機はなく、後はこのまま押しつぶして終わる。彼らならと期待していたが、結局いつものように自分が生き残っててしまうのだ。

 

「…誰も私を殺してくれない」

 

これからも、この(呪い)に縛られたまま生きるしかないのだろう。でも、それでも…。

 

「?」

 

ふと、勇の姿が見えないことに気づく。逃げたわけではなく、仲間の後ろに気配を感じる。まるで、何かを狙っているかのように身を潜めている。

 

「(何を?)」

 

彼のスタイルでは、あの状態からできることなどないのに…。

 

「!」

 

突然目の前の空間に切れ目が生まれ、千雨の目が見開かれる。

 

「電光石火ァッ!」

 

そして、その切れ目から刺突の構えをした勇が飛び出してくるのであった。

 

 

 

 

皆が鬼の群れを抑えてくれている間、俺は獅子王を正眼に構え佇む。

 

「そうだ、雑念を捨てろ。ただ相手の存在を感じ取ることだけを考えるんだ」

 

隣にいる那月ちゃんのアドバイスに合わせて意識を研ぎ澄ませていく。感じろ千雨の気配を、もっと近くに引き寄せるように!

 

「よし、行け勇!」

「うぉおおおおお!!」

 

何もない空間に獅子王を振るうと、本来は何も感触がない筈なのに、何かを斬り裂く感覚と共に切れ目が生まれ。そこに鏡に映し出されたように驚愕している千雨に姿が現れる。

 

「電光石火ァッ!」

 

千雨目がけて突撃し、獅子王を大剣形態に変形させながら刺突を放った。

 

「ッ!」

 

千雨は刃を重ねて防ぎ、地面を削りながら拡大していく獅子王の刃に押されていく。

 

「がぁあああああ!!」

 

渾身の力を込めて踏みしめて勢いを止めずに獅子王を突き出していく。

 

「――ッ!!」

 

千雨の刃に亀裂が入ると、獅子王の刃が拡大していくのに合わせて広がっていく。

 

「いッッッけェェェェェ!!!」

 

最後の力を振り絞って振り切ると、千雨の刃が砕け散り獅子王の刃が真紅の鎧に届き、鎧を砕いて千雨がグラウンドにある倉庫へと吹き飛んでいく。

千雨が倉庫に突っ込むとその衝撃に耐えられず、建物が崩れていった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

崩れそうになる脚に喝を入れ、日本刀形態に戻した獅子王を杖代わりにして体を支える。

振り返ると、溢れていた鬼の群れが次々と崩れ落ちて液体に戻っていくのが見えた。

 

「終わった、の?」

「…恐らく」

 

気が抜けたのかペタリと座り込む煌坂の漏らした声に、姫柊が肯定する。

皆の無事を確認すると、警戒しながら倉庫へと歩を進める。

 

「……」

 

千雨は仰向けで瓦礫に僅かに埋もれた状態で、呆然と夜空を見ていた。

 

「千雨」

「…負け、たんだぁ。凄いね勇は」

 

俺の存在に気づいた千雨は顔だけこちらに向けて、どこか安堵したような笑みを浮かべた。

 

「ねぇ、お願い殺して。これ(・・)がまた目覚める前に。でないと、また私は…」

 

右手に持った刃の砕けた妖刀を見せながら、懇願してくる千雨。

 

「嫌だね」

「…どうして?」

 

それを俺は――拒絶した。すると、彼女は悲しそうな目を向けてくる。

 

「俺は奪うためじゃなく、守るために戦ったんだ。だから君を殺す気はない」

「でも、そうしないと、また誰かを傷つけて…殺しちゃう。もう、そんなやだよぉ」

 

悲痛な顔をした千雨の目元から涙が流れ出す。そんな彼女に歩み寄って瓦礫をどかしていく。

 

「殺させない」

「え?」

「もう、君に誰に殺させない。今はどうすればいいかなんて分からないけど、俺が必ず助けるから。だから、もう泣かないで」

 

無責任なことだけど、それが俺の本心だ。

イサムの話を聞いて、彼女は誰かのエゴで苦しめられてるだけなんだ。だから、千雨にこれ以上だれかを傷つけて欲しくない。助けたいと思ったんだ。

 

「なんで?私、あなたに…酷いことしかしていないのに…」

「戦ってて感じたんだ。君がずっと妖刀に抗っていることに、だから俺はまだ生きていられるんだ」

 

初めて戦って刺された時、急所を刺せる筈だったのに外していた。それに仙都木阿夜も。あれだけ刺されたのに生きている。それは、彼女が必死に妖刀に抵抗して急所を外していたからなのだろう。

 

「そんな優しい君が不幸なまま終わるなんて俺は嫌だ。君の笑顔が見たいって思ったんだ」

 

キョトンとした目でこちら見る彼女に右手を差し出す。

 

「…勇、私――」

 

一瞬躊躇いを見せるも、千雨は涙を見せながらも笑みを受かべて手を掴もうと――

 

「ッ!」

 

殺気を感じて獅子王を構えると、突き出された槍の穂先とぶつかり合って火花が散った。

 

「グッ!?」

 

力が上手く入らず、勢いに押されて千雨から離されしまう。

 

「彼女を渡す訳にはいきませんね、神代勇太郎の息子よ」

「お前、脱獄囚の…!」

 

攻撃してきたのは、今まで姿を見せなかった脱獄囚の男であった。その手には見慣れない形状の槍を手にしていた。

 

「勇!」

 

異変に気づいた古城達が駆け着けてきてくれると、脱獄囚の男を警戒する。

 

「絃神冥駕ッ!」

「空隙の魔女ですか、お世話になりましたね。この槍が戻った以上、もう監獄結界では私を捕らえられませんよ」

 

右手を見せるよう上げると、本来脱獄囚にあるべき手枷がなく、男が監獄結界から解放されていることを示していた。

 

零式突撃降魔双槍(ファングツァーン)か、チッ獅子王機関の連中見逃したのか」

「ええ、この槍を手にした私を、リスクを伴ってまで取り押さえる必要は感じないそうですよ」

 

忌々しく睨みつける那月ちゃんに対し、不敵な笑みを見せる絃神冥駕。

 

「さて、これ以上長居はしたくないので、これで失礼しますよ」

 

そうほざくと、絃神冥駕は千雨を肩で背負うと去ろうとする。

 

「まて!彼女をどうする気だ!」

「無論我が神のために働いてもらうのですよ。彼女の力はそのためのものなのですから」

「ふざ、けるなぁ!!

 

止めようとするも、体に力が入らず膝を着いてしまう。クソッ!動け、動けよッ!!

 

「それでは、またいずれ」

 

そんな俺を嘲笑うかのように一瞥すると、絃神冥駕は常人では不可能な跳躍力で跳び去っていってしまった。

 

「千雨ェ!」

「ヤロォ!」

「よせ、勇、暁!今の私達では奴を止められん」

 

慌てて追いかけようとする俺と古城だが、那月ちゃんに止められてしまう。

 

「でも、千雨が!」

「残念ですが勇。わたくし達も、あなたも限界です。彼女を助け出す機会は必ず訪れます、だから今は…」

 

俺の肩に手を置いたリアに諭され皆の姿を見ると、那月ちゃんは力が戻っておらず、古城達は傷だらけで立っているのがやっとという状態だった。例え絃神冥駕に追いつけたとしても、とてもではないが勝ち目などないだろう。

 

「クソッ、クソォォォォォオオオオオ!!!」

 

今の俺にできるのは、拳を地面に叩きつけて悔しさをぶつけることだけだった…。


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