ゼロの使い魔 -エトランゼの憧憬-   作:鈴ノ風

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004 召喚

 『春の使い魔召喚の儀式』といえば、トリステイン魔法学院において、神聖で重要な儀式の一つである。

 これは生徒たちの二年生進級を兼ねたテストでもあり、この儀式で呼び出された使い魔によって、彼らはそれぞれの専門課題を選別され、それぞれへと進級していく。

 『使い魔』とはメイジの杖であり盾であり、長き時を共にする大切なパートナーだ。そしてトリステイン魔法学院の生徒たちにとって、この儀式こそが人生最初の使い魔召喚なのである。神聖視され、重要視されるのは当然のことであろう。

 二年生へ進級することとなったオリアーヌら一年生たちは、その日クラス別に分かれて、この重要で神聖な儀式に挑むこととなった。

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 使い魔召喚の儀式において、多くの生徒は普通の幻獣を呼び出していた。

 カラス、ネコ、カエル、フクロウ…………なるほど、トリステイン魔法学院の生徒らしい、実に大人しく愛嬌に溢れた使い魔と言えよう。

 しかしオリアーヌの耳には、もっと強力な力を持つ使い魔を呼び出した者がいるという噂も飛び込んできた。

 『微熱』のキュルケは『サラマンダー』を呼び出したという。しかもその尻尾の火は鮮やかで大きく、十中八九火竜山脈の火トカゲであろうというのだ。

 そういった知識に乏しいオリアーヌにも、その火トカゲがどれほど貴重で、どれほど強いのかは理解できる。1週間に及ぶルイズの勉強会は伊達ではないのだ。

 そして『雪風』のタバサなどは『ウィンドドラゴン』の幼生を呼び出したとか。使い魔でドラゴンを呼び出せるメイジは稀らしい。『らしい』というのは、それが習ったことなどではなく、単に儀式前にルイズが自慢げに話していたのを聞いただけだからだ。

 

『見てなさいオリアーヌ。私はトリステイン魔法学院の、いえトリステイン王国の歴史に残る、偉大で強大な使い魔を召喚してみせるんだから!』

 

 儀式の始まる前、退屈を持て余して座り込んでいたオリアーヌに、ルイズはそういっていた。

 さて、では実際の成果はというと…………

「我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」

 口語呪文。振り下ろされる杖。

 そして爆発。

「何でよ!」

「まじめにやれー、『ゼロ』のルイズー」

「うっさいやってるわよ!」

 周囲に小ばかにされ、怒鳴り返すルイズを、オリアーヌは遠目に観察していた。

「…………アレもか」

 爆発である。

 メイジにとっては重要であるらしい(オリアーヌも前世では使い魔など呼んだことが無い)『サモン・サーヴァント』の魔法でさえ、『爆発』という結果に収束させてしまう。その特殊すぎるルイズの才能は、オリアーヌには理解不能だった。

 他のメイジにとってそれは『無能』というほかないだろう。メイジにとって魔法とはただの特殊能力ではない。技術であり叡智であり、誇りなのだ。

 小物を動かす程度の『コモン・マジック』すら爆発という結果に変えてしまうのでは、それはメイジではなくただの爆弾魔だ。なるほど『ゼロのルイズ』と貴族たちが呼ぶのも必然であろう。

「あれはあれで、使えそうだが」

 それを言うと怒るのが、ルイズという少女だった。

 すこ残念そうに、オリアーヌは傍らの獣を撫でる。

 そこにいたのは一匹の成熟したオオカミだ。『スカーグレー』と名付けられたそのオオカミこそ、オリアーヌが先ほど召喚した使い魔だ。

 毛並みは灰色と黒、体高90サント(約90cm)ほどと大型で、156サント(約156cm)の小柄なオリアーヌならその背中に乗ることもできるほど。

 体のあちこちに小さくない傷跡があり、彼が幾度となく視線を潜り抜けた、歴戦の猛者であることを語っている。

「しかし、どうなるのやら」

 ルイズを見てため息をつく。

 ルイズが『サモン・サーヴァント』に失敗したのはこれで2度目だ。聞けばこの儀式は進級にかかわる重要なものであるという。このまま使い魔を召喚できなければ、ルイズは退学になる可能性も…………。

 実際にはもっと温情な措置を取られるのだろうが、しかし勉学と素行で退学を言い渡されそうになったオリアーヌにとっては、気が気ではなかった。

 ルイズは友人である。勉強を習って以来、たまに食事をしたり、度々一緒になって授業を受けたりもしている。

 キュルケに聞けば、それは『友人』という関係性であるらしい。

 『友人』。オリアーヌにとって、初めての他人との関係。

 前世では、他人と慣れ合う事自体あり得ないことだった。

 転生した直後こそオリアーヌを愛でた両親も、今では顔を合わせるたびに微妙な表情をする始末。

 だからオリアーヌにとって、ルイズという『友人』は、かけがえのない宝物だった。

 失いたくはない。

「でも、何も」

 オリアーヌはうなだれる。

 彼女にできることは何もなかった。

 ルイズは彼女に学業を教えた。だがオリアーヌはルイズに魔法を教えられない。

 そもそもなぜ、ルイズの魔法が『爆発』という結果をもたらすのか、オリアーヌはそこからして理解できなかった。

 だから教えようがない。

「…………始祖ブリミル」

 オリアーヌは以前ルイズに習った、始祖への祈りをする。

 古の時代にハルケギニアに降り立ったかの偉大なる魔法使いは、伝説の『虚無』を操り、人々に傾倒魔法を授けたとされている。

 その偉大さゆえに彼は『神』に等しい存在として崇められ、今なお続く一大宗教としてハルケギニアを席巻していた。

 その姿を描写することは忌避されており、ただ『両手を前に突き出した人型のシルエット』というあいまいな形のみが、像として信仰される。

 聞いた当初は、何千年も前の人間に対して『祈る』など、アホの作った迷信だと小ばかにしていた。

 だが、今のオリアーヌにできることは、そのアホの作った迷信に縋る以外なかった。

 オリアーヌは己の無力さを恥じた。

 『弱い』ということを、これほど苦々しく感じたのは、前世でも一度もなかった。

 

「我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』――――」

 

 ルイズの3度目の『サモン・サーヴァント』が聞こえる。

(どうか、今度こそ)

 

「五つの力を司る、ペンタゴン――――」

 

(今度こそ、ルイズに使い魔を)

 

「我の運命(さだめ)に従いし――――」

 

(私の『友達』を、助けてください)

 

「"使い魔"を召喚せよ――――っ!」

 

 呪文が終わる。

 杖が振るわれる。

 爆発は――――

「…………」

 爆発は起きなかった。

 はたっ、とオリアーヌは顔を上げる。

 誰もが見つめる先、2度にわたり爆発を繰り返した、桃色髪の少女の傍ら。

 そこにいたのは、おそらくルイズによって呼び出されたであろう――――

 

 

 ――――黒い髪をした、変な格好の少年がいた。

 

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