Fate/Apocrypha beast~TS変態オヤジの聖杯大戦~ 作:あんぱんくん
地下にある入り口に、看板もない店構え。
まるで人目から隠れるようにひっそりと経営している店にてロードエルメロイⅡ世は鴉を携えた少女と会話をしていた。
「科学によって多くの魔法は魔術に堕とされた。焔を始め、四界の理も原石も、人の飽くなき好奇心の前に膝をつき、その神秘を暴かれ役割を終えた。空は箒が無くとも飛行機で、焔はライターで、占いをせずとも衛星で天体すら観測されるようになった。お陰でいまだに魔法と呼ばれる存在自体、両指の数で事足りるようになってしまった。そして聖杯もその数少ない一つである事は間違いあるまい」
「えぇ。万能の願望機、根源の渦への架け橋。十五騎もの英霊召喚を成した事からその力も看板通りと言えますな」
「儂も英霊とやらを見かけたことがある。あれは使い魔などというレベルではない。まさしく地球そのものに刻まれた人理の影よ」
そう呟く彼女の顔は悩ましげだ。
時計塔に所属はしているものの権力争いに興味はなく中央からは距離を置いている少女。
時計塔の権力争いに関心を持たないのであれば、聖杯大戦などもはや些事に過ぎない。
そんな立場の彼女が何を憂いているのか。
疑問が顔に出ていたのだろう、少女がふっと笑って話を続ける。
「英霊とは本来、人の手に余る存在だ。儂らと同じく願いを……いや、それ以上に並外れて特別に強い想いを持つのがサーヴァント。だから意見の不一致から暴走の可能性が付きまとうし、儂らはそれが起こらないよう最大限に気を使う。だが」
「英霊が人の手に余るのなら、それを呼び寄せる聖杯は果たして儂らの手に負えるものなのか。最近、儂はそう思うことがある」
「……杞憂だと笑い飛ばせませんな」
「はは、すまぬな。折角の飲みの席でつまらない事を言った。老人の戯言と流してくれて構わんよ」
いえ、と被りを振る。
「どちらにせよゲームはとっくに動いている。チップを乗せ、カードも揃ってしまった。プレイヤーは赤のマスター達であり、バンカーは私達です。賭けに乗ってしまった以上、勝負がつくまでは決して降りられない、お互いにね」
1
自身の提言を黙殺し今も戦い続けているセイバー。
どうやら赤のライダーは凄まじい耐久力を持っているらしい。
使い魔の仕掛けで確認する限り、ステータスも極めて優秀。
しかし、だからこそ混戦となりそれぞれのサーヴァントがもたついている中、赤のライダーを討ち果たせればその功績は計り知れないものとなるのだ。
『……ッセイバー!セイバー、宝具だ!宝具を使えッ!!奴を倒すにはそれしかないッ!!!』
根拠のまるでない発案。
しかしゴルドはそれを硬く信じ込んでいた。
自分こそが正しいと。
通常、マスターはサーヴァントとサーヴァントが戦う際に細かい指示を出したりはしない。
それはサーヴァントという存在が戦闘という領域においては絶対的な信頼を持っているからだ。
少なくとも魔術師をはるかに上回る経験と技量を持つ。
故にマスターは戦略的な部分でのみ口を出す。
サーヴァントの戦いはサーヴァントに任せる。これは暗黙の了解であり鉄則なのだ。
そして不幸なことに、彼はそれをまるで分かっていなかった。
一つ言っておくとすればゴルド=ムジーク=ユグドミレニアという男は決して馬鹿ではない。
三十六歳の齢で現実と夢想の区別がつかない欠点こそあるが、その点に目を瞑りさえすれば本来、比較的に優秀な部類に入る。
実際、魔力の経路の分割を提案し実現までこぎ着けた。
しかしその頭脳も生来のプライドと身に余る従者のせいで鈍くなっているらしく今や見る影もないが。
『おいッ!!聞いているのかッセイバー!!!』
諌める者が一人でもいれば、それで良かった。
しかし一人部屋にこもって指示を送り続けている彼を止める者はいない。
召喚して早々にセイバーとのコミュニケーションを放棄したことも災いした。
相手を分かろうとする努力をせず、ただ真名の露呈を恐れた彼のその判断は正しく絶望的な誤りである。
ゴルドはわからない。セイバーが何を思っているのかわからない。
そこにあるのが不平か、反逆か、殺意か、侮蔑か、あるいは何も思ってないのか。
サーヴァントを自身の装飾品のように扱おうとしたツケが回ってきたのだ。
所詮は使い魔という思考が、侮りが、不利に陥らないまでも勝利を掴むことができないでいるゴルドに、愚かにも焦燥を抱かせたのだ。
「くそっ……セイバーの奴!!赤のランサーの時と同じように戦いを楽しんでいるのか!?早く宝具を使え!!!」
信じ切れなかったのだ。
生前と同じく、背中を刺されてジークフリートが無様に聖杯大戦から脱落してしまうという事を恐れ過ぎていた。
いや案じていたのは無様に聖杯大戦から脱落した後に辿るであろう己の行く末かもしれない。
安全な場所で戦場を眺める彼は、万が一セイバーが滅んでも自身の名誉が穢されるだけで生命の危機には陥らないのだから。
これだけ理由が揃っていれば、彼が最大級の間違いを犯すのも必然ではある。
「セイバァァァァッッ!!!令呪をもって命じる!!全力の宝具『
ただ、ここにはいない
2
暗い暗い森の闇。
爆音響く夜の帳の中、
とはいえその戦いは先刻と違う様相を呈し、最早拮抗している様子はなかったが。
「……ぐぅっ!!」
地面に剣を突き立ててこちらを睨み据える赤のセイバーの口から、決して少なくはない量の血液が零れ落ちる。
その凄惨な光景を冷徹に俯瞰しながら、ランサーは僅かに面白がる口ぶりで語りかける。
「いい加減、力の優劣が理解できた所だと思うが?動物は勝ち目の無い戦いは避けるものだ。相手の強さを量る能力ならば犬や猫にもあるぞ狂犬よ」
そう言いつつもランサーは欠片足りとも油断をしていなかった。
大量の遠隔攻撃を前に一歩も引かぬ姿勢もさることながら、不利な状況を前に委縮するどころか更に燃え上がる闘志はもはや狂戦士そのもの。
そして手負いの獣ほど厄介なものはない。
ここで仕留めねば禍根となると黒の王は確信していた。
「……数が多いだけで粋がってんじゃねぇぞ?黒のランサー」
その身に巣食う狂気、憎悪、そして戦闘の喜悦といった暗く、しかし炎のように燃え盛る激情。
流れてくる魔力の波動からそれらを確かに感じ取ったランサーの脳裏を本気でやるか?という物騒な考えが過ぎる。
(────いや)
即座にその選択肢を脳裏から消す。
一度に二万本の杭を大量射出。
それによる天地を埋め尽くす絶望の吊り天井の再現。
そんな事をすれば何処にいるかも分からない味方陣営のサーヴァントまで巻き込んでしまう。
無論、宝具の一つや二つでくたばる連中とは思えないがその行為が与える影響は計り知れない。
よって本気は出さない。出せない。
「……ッッ!?」
そして。
あまりにも唐突にそれは訪れた。
心臓を握られるような痛み。
一瞬だが、確実に己の存在が酷く弱まった事を自覚し、ヴラド三世は瞠目する。
「ダー、ニッ、ク……?」
3
『私だ。そろそろ連絡が来るんじゃないかと思ってたところだよ』
「お前が無事に生きていてホッとしてるぜ。どこもかしこもドンパチやってるからな。俺もまるで生きた心地がしねぇよ」
『ふむ。そう言うわりには自分から死地に留まっているみたいだが。一応、老婆心から言っておくが
電話越しだというのにまるで此方を見ているような言い様に獅子劫界離はそっと溜め息を吐く。
恐らく件の黄金の杯でも使っているのだろう。
「
現在、獅子劫は
自分としてももう少し離れた場所で高みの見物を決め込んでいたかったのだが、予想以上にセイバーが押されているためここまで出っ張って来ざるを得なかったのだ。
『君のサーヴァントが聞いたら怒りだしそうな言い草だな。きっと「マスター、そんなにこのオレが信用できないか!!」と怒鳴り始めるぞ』
「あー言いそうだな。その場にいたら頭を叩かれるまである」
しかしその事に関しては我儘な王サマには目を瞑ってもらうしかない。
セイバーとは一蓮托生なのだ、相方が殺られればその先に勝機は無し。
そして獅子劫界離という男は命の賭け時を見誤るつもりは無かった。
「とはいえ怖いことに変わりはないが……」
なんせセイバーと黒のランサー、そのどっちかの攻撃が掠るだけで生身の獅子劫は大惨事になるのだ。
しかも良くて虫の息、悪くてミンチといった具合にあまり結果は変わらないという類の。
『それで?どうだ、セイバーの調子は』
「……ボチボチだな。こっちのコンディションは悪くねぇが相手が悪過ぎる。まず串刺し野郎の手数が尋常じゃない。セイバーの戦い方を見るに、奴さんが手にしてる槍も嫌な感じだ。おまけにどういったわけか魔力消費している様子もない』
『それは困ったな。困ったついでに聞いておくが君の相方、頭に血が上って周囲の事まで気が回ってなかっただろう?』
そう言われて、あらためて双眼鏡越しに暗い森を見回す。
見渡す限りの木々は黒のランサーとの戦いで全てへし折られ薙ぎ払われたらしく、あちこちに散乱して山となっている。
獅子劫の隠れている十メートル先ですら、もはや掘り返された黒土と剥き出しの切り株だけだった。
まるで爆心地のような有様に獅子劫は頭を掻く。
「あぁ……これはその……やりすぎだな」
『そうだな。ちなみに森の外が見えていない君に良いことを教えてやろう。異変に気づいた近隣の街の住民達がイデアル森林の入口付近に殺到している。時計塔の息のかかった警察が動き始めているから問題はないが……一応気をつけろよ。そこから一番近いのが君達だからな』
告げられた事実に暫し絶句した獅子劫は一段、声を低くして口を開く。
「おいおい……流石に森にわざわざ入ってくる連中にまで気を使って戦うのは無理があるぞ」
『まさか。私が言いたいのはだね。いざという時、小事を気にかけるあまりに大事を見失うなことはするなということだよ。必要なら切り捨てろ。意味は分かるよな?』
その言葉にゾッとする。
最悪、
そう言っているのだ、このクソガキは。
『まぁ君達が引き時を誤らなければそれで済む話ではあるが。頑張ってくれよ?怒りで緩みかけているセイバーの頭のネジを締め直す役割は君だ。分かっているとは思うがね』
「……ったく悪夢だ。あいつの宝具の矛先がちょいとズレるだけで街の連中が月まで吹っ飛ぶ。しかもそのクソは全部俺がひっ被るときた。やってらんないね」
半ばヤケになってグチグチ言う獅子劫の様子が可笑しくてたまらないのだろう。
電話越しにでもくすくすと耳障りな笑い声が聞こえる。
「笑ってる場合かよ。ここまで規模が大きくなってんだぞ?劣勢に陥ったらそこから潰される。元は取れんのかよチクショウめ」
『そればっかりは日ごろの行い次第だな』
「お前のか?」
それならば絶望的だ。
がしがしと頭を掻いてどっかりと近くの倒木に腰掛ける獅子劫。
『君のといったら?』
「……なら安心だ。シギショアラの教会に行ったときに寄付したからな」
『どうせ一円とか五円だろう?』
「そればっかりは神様がケチじゃねぇ事を祈るしかねぇが。まぁそこは天にまします我らが父さ。金額じゃなくて寄付するという行為そのものに価値を見出してくれるくらいには器が広いことを信じてるぜ」
昔、数円の誤差でスコッチが買えなかった事を思い出した獅子劫の口から本日何度目か分からない溜息が出る。
正直、ここまでやって神様に見放されたら堪らない。
電話越しの揶揄うような声が柔らかなものに変わる。
『ふん、
「そいつはご機嫌だな」
どうやらこっちが味方をしている甲斐があるくらいには仕事をしていたらしい。
黒陣営の情報の入手は大戦果といえるだろう。
ここまでのリスクにようやく勘定が合ったことで、獅子劫は安堵の息をついた。
『聞いて驚け。ダーニックの奴め、機密事項のパスワードを時計塔に喧嘩を売った日にしていた。驚きの四桁だよ。他も似たり寄ったりだ。己の誕生日をパスワードにしてるのが大半、1234や1111に設定している連中までいた。歯応えがあったのはフォルヴェッジ姉弟の弟くらいなものだよ。ユグドミレニアの情報管理体制はザルを通り越して枠だな』
「そりゃまた……」
笑いながら告げられた事実に流石の獅子劫も絶句してしまった。
確かに魔術師は総じて最新の電子機器を軽視する傾向にあるが、これは酷い。
これを反面教師にして自分も気をつける様にしよう。
そう密かに肝に銘じておく。
『何はともあれ情報の確度は生死を分ける。こちらで勝手にヴラド三世の宝具やスキル等を纏めておいた。今、そっちに情報を送ろう』
言葉と共に地面に置かれている羊皮紙にインクのような黒い点が生じた。
それは見えない羽ペンが走るように、図面や滑らかな筆記体の文字をびっしりと記していく。
「日本人って分かってんだから日本語で送ってくれよ。読みにくい」
『気合で解読してくれたまえよ、応援している』
「しみったれが」
舌打ちしつつ、獅子劫は送られてきた情報と具体的な数値に素早く目を通していく。
望んだ情報は割とすぐに見つけられた。
「『護国の鬼将』……こいつだな。あの串野郎を極端にブーストしてやがるのは。ホムンクルス共を魔力タンク代わりにするとはね」
これで漸くヴラド三世が持つ異常な魔力量に納得がいく答えを得られた。
よくもまぁここまで都合よく魔力を搾取するシステムを考えつくものだと半ば感心する獅子劫。
「確かにこれならば効率的に魔力を無限に供給し続けられるだろう。とはいえ魔力供給の為だけに無闇やたらと命を消費するやり口は気に入らねぇが」
『そうだな、まるで不出来な自分の黒歴史を見せつけられているような気分だ。恥ずかしくなる』
感慨深げにアレイスターが重い溜息をつくのが電話越しに響いた。
「まぁそれが分かったとしても状況は面白くねぇぞ。持久戦になれば勝ち目は薄くなる一方だ」
『そればかりは仕方が無いな。最初から決めていたことだろう?黒のランサーに出くわした方がギリギリまで相手を引きつけると。それにすべきことを見失わなければそこまで難しい話でもない』
簡単に言ってくれる。
確かにあのセイバーなら黒のランサーの足止め役には最適であろう。
獅子劫もそれには納得しているし、この話が出た時点で自分達が引き受けようとは思っていた。
問題なのは引き付け役として戦わされているセイバーがその事実を知った時だ。
まず間違いなくアッパーが飛んでくるか、チョークスリーパーをかけられる羽目になる。
まぁそれも無事セイバーが生き残れたらの話ではあるのだが。
「だぁーもう……スコッチが死ぬほど飲みてぇよクソが」
『良い事を言った。私の分も買ってきてくれるとパーフェクトだ』
「金持ちなんだから自分で買え馬鹿野郎が……やれやれ」
そう言って、獅子劫は腕を翳す。
そこには赤々と輝く三画の令呪があった。
────……
「では、次の連絡は未定だ。生きていたらまた連絡してくれたまえ」
ブツッと切られる電話。
獅子劫界離という魔術師が戦場でドライになれるタイプの人間で本当に良かった。
彼は言葉でこそ渋ってはいたが、自分に振られた役割を淡々とこなしてみせるだろう。
いざとなったら一般市民の一人や二人くらいは簡単に切り捨てる覚悟も持っている。
マスターたる者やはりこうでなければならない。
自分達はサーヴァントの要石であり、魔力を供給し令呪を使って彼らを全面的にバックアップする存在だ。
生半可なことを言っているようでは聖杯戦争に出る資格すらない。
「おや?」
ゆったりとした足取り、緊張から解放され完全に弛緩した人間独特の動き。
隙だらけといった調子の銀の少女がふと足を止める。
同時に木々を引き裂きながら、人間離れした速度で襲い掛かってくる存在があった。
此方を害そうとするその手に斧槍を握り締めているのは察するにホムンクルスか。
「やれやれ」
雨どころか雲一つない星空が煌めく中、己の身に危険が迫っている状況でアレイスターが取った行動はシンプルだった。
フードを被り、そのまま右手を横に薙ぐ。
「────!?」
直後に上空を赤い閃光が走り抜け、襲い掛かってきたホムンクルス達は一瞬で戦闘不能状態に陥いる。
噴出した血が雨のように大地に降り注ぎ、真っ赤に染め上がる銀の少女の外套。
いや血だけではない、肉や臓物なども空中で無造作にバラ撒かれていく。
『まだこれだけ
『単なる油断であろ。命のやり取りの時くらい真剣にやれ』
念話で呼びかけると即座に
恐らくこの保護者様はヒポグリフと戦いながらも
つくづく心配性な相棒である。
『私は真剣にやっているつもりだがね』
『手加減を、であろ?』
その返答に皮肉げに口元を歪める。
確かに銀の少女の足元には複数のホムンクルス達が転がっていた。
だがそのどれもが意識を失うか、あるいは痛みに呻き続けているだけで死んではいない。
『うん。やはりこれだけの数がいると命を奪わないように戦うのは難しいな』
『……それはポリシーなのか?』
『まぁな。ある出来事を境に勝手に決めて勝手にやっていることだ。気にしなくていい。それにしても────』
アレイスターはスっと自分の背後へと視線を滑らせる。
たまらず漏れる苦笑。
『幾らサーヴァントが脅威だといっても、マスターへの采配があまりにも雑ではないかね?』
そこにはいくつもの瓦礫の山があった。
石人形。その残骸を十も二十も積み上げた骸の山。
幾分見渡しが良くなった、と銀の魔女は笑う。
駆除。排除。殲滅。
彼らとの戦闘は実時間にして三分くらいだろうか。
そしてそれは
「やはりゴーレムはゴーレムだな。その頑強さは些か面倒ではあるが、動きが鈍重かつ単調なのであればデカい的と大差はない」
消し飛ばされた森が赤土を剥き出しにして横たわる様は壮観だ。
若干、想定していた威力を上回る出力が出たが、自身の魔力コントロール自体に問題はない。
「そういえば一人魔術師も混じっていたような……まぁいいか」
統率者らしき彼は何処かで見たような気がしなくもなかった。
まぁ実力はそこまででも無かったので、そこら辺で石人形と一緒に肉塊になっているだろう。
何もかも無くなった光景にさしたる関心もない。
再びアレイスターは湖の畔へと続く道に向けて歩き始める。
『なぁマスター、本当に行くのか?大丈夫なんだろうな。私が居なくて』
『大丈夫さ。私を信じろ』
『信用してないわけじゃないが、一人というのはな……』
『君はよくよく私を子供扱いしてくるが。もう私はちゃんとした大人だぞ。道を間違える筈がないだろう?』
何処かズレた発言をする銀の少女。
その発言通り、確かに彼女の歩みはここら近辺の事を隅々まで知っているといった具合でブレる事が無い。
だがアーチャーが心配しているのは断じてそんな事ではないのだ。
『そうじゃない!問題なのは汝が今から行こうとしている場所だ!そこは黒の陣営のど真ん中だぞ!?』
正確には敵陣地の真横の森だが、そこに大した差はない。
敵地に一人で向かっていること自体に変わりはないのだから。
しかし行かなければならないのだ。
『原初の巨人。その完成系を私はこの眼で見ないと気が済まないのだよ。この好奇心は魔術師の困った性だな』
そう。彼女の目的はこの先にある湖に沈んでいる絶大な宝具だ。
黒のサーヴァント達が所有する数多ある宝具の中でも一番厄介だとアレイスターに判断させる程の逸品。
是非とも見て触って弄って実験したい。
『彼らから抜き出した情報はデータ化して全部保存だ。随分と多くの事柄を教えて貰った』
黒の陣営に関する膨大な情報を写す携帯の画面からアレイスターはその翡翠の瞳を天へと向ける。
視線の先である空にはユグドミレニアの放った使い魔、しかし問題はない。
タネが割れてしまえば、この銀の少女に怖い魔術など存在しない。
『獅子劫との共闘に応じたのは魔術師達をバラけさせて多面攻撃するためだったんだが、予想以上に事が上手く運んでくれている。大分楽をさせてもらえそうだ……っともうか。早いな』
背後の森から立ち上る橙色の光の柱、絶大な魔力の奔流、宝具解放の予兆。
予想より随分早い。
自然と緩む口元。
『想定していたよりも彼の沸点は低かったようだな。付き合うサーヴァントも大変だ』
『む?何の話だ?』
『ふふっなんでもない。強いて言うのなら物事が思い通りに運ぶのは楽しいってところかな?』
4
力任せに討って出ることをせず、ひたすら戦い続けるもう一騎の不死身の剣士、
「はあああああぁぁぁッッッッ!!!!!!!」
眼前に迫った
「はッッ遅せぇよ」
紙一重の差でフワリと躱される大振り、ガラ空きの背中へと突き出されるであろう剛槍。
しかし問題はない。
そのまま倒れ込むようにセイバーは剣を横に薙ぐ。
元々第一の刃は避けられる前提、狙いは足元。
予想が正しければ────
「うぉッッ!?」
ガッキィン!!!と弾かれる得物。
すんでのところで背中を穿とうとした槍を反転させた赤のライダーが
(……やはりな)
わざわざ優勢である体勢を捨ててまで赤のライダーは脚への守りに徹した。
セイバーの中で予想が確信へと変わる。
「随分と重点的に脚を守るようだな。赤のライダー」
初めて口を開いたセイバーからの挑発とも取れる発言。
赤のライダーの顔が一瞬、引き締まる。
次いでニィと引き裂かれるように笑みを形作る口元。
「それを確かめる為にわざわざ隙を俺に見せた、か。面白ぇ事しやがる。その調子だと今ので俺の真名も分かっちまったかね?」
トントン。
トントントン。
トントントントントントンと赤のライダーは槍の石突きで大地を叩き続ける。
その行為に意味は無い、示されるのは笑顔の裏にある彼の感情。
赤のライダーが立つ地面にビシビシッと亀裂が入っていく。
「……」
沸き立つような苛立ち、フツフツと。あるいはチリチリと。
常人なら震え上がり失神する方がマシだと断じるその激情を前にして、セイバーはただ静かに彼の様子を観察する。
確かに赤のライダーは苛立っている。
そう。苛立ってはいるが、それだけだ。
己の急所がバレたというのに、苛立ちこそあれ一ミリ足りとも彼は恐怖を感じていない。
弱点程度では焦らない、戦いとはそんなものではない。
英霊の中でも異質なその胆力にセイバーは内心驚愕する。
「なぁ黒のセイバー」
トン……
地面を叩く音が止まる、同時に場の空気も変わった。
肌を刺すような殺気。
確実に体感温度を下げる声音。
やんわりと踏み込まれる地面。
────来るか?
「
走り出す……いや、弾け出すという表現の方が正しいだろうか。
溜めた力を解放する体重移動。
人一人では成し遂げられない程のエネルギーまで力は加速する。
ッッドン!!!!と、ロケットエンジンのような勢いでセイバーに突っ込む赤のライダー。
「ッッ!?」
瞬時に危険を感じたセイバーは、彼が飛び出すよりも先に地面を強烈に蹴りつけて後方へと大きく飛び退がる。
迅速かつ的確な判断。
それはニーベルンゲンの大英雄としての闘いから導かれた経験によるものだ。
だが間に合わない。
ギリシャ最速の大英雄の生み出すスピードには、かの女狩人でもない限り追いつけはしないのだから。
空中で絡み合う二つの影。
「はあああああああああぁぁぁッッッッ!!!!!」
狙うはやはり脚、今度こそ仕留めると大剣を大きく振り被る。
しかしセイバーが振り上げる大剣よりも、赤のライダーの接近の方が僅かに早い。
「ッオラァッッッッ!!!!!」
突き出されるように放たれたのは強烈な中段の蹴り。
わざわざ己の急所を使った猛襲にセイバーは一瞬、戦術を忘れた。
結果、モロに身体へと突き刺さる足の爪先。
ロケットさながらの一蹴に大きく弾かれたセイバーが地面へと叩きつけられる。
「ぐッッ……がッッ……!!!」
地面へと墜落したセイバーは、大木を数本巻き込みながらもんどり打って倒れる。
手から零れ落ちる『
「ッ!!」
あれだけの殺気を放ったのだ。追撃が止む筈もない。
赤のライダーに踏み込まれる前にセイバーはそのまま横に転がり、強引に落ちていた大剣を拾う。
だがセイバーに出来たのはそこまでだった。
「ははッッやっぱ遅せぇよ、あんた」
それなりに離れていた互いの距離を一瞬でゼロにする脚力は尋常ではない。
瓦礫も地面もまとめて薙ぎ払うような、強引極まりない一撃が地面を舐めた。
真横に振るわれた剛槍の追い込みに、奇襲するつもりだったセイバーはたまらず防御に回らざるをえなくなる。
「急所を見つけたからなんだ?それで形勢が逆転するとでも!?有り得ねぇんだよ!!!開きすぎた実力差はそんなモンじゃァ埋まらねぇッ!!そうだろォッッ!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッ!!!!!!!!
凄まじい速度と威力を伴った槍の連撃。
それ自体は魔力の一切伴わない物理的エネルギーによるもの。
しかし、その一撃一撃がAランクを明らかに凌駕している。
「くッッ……!!!!」
勿論、負けじとセイバーも応酬はするが威力も違ければ速度も違うのだ。
鎧は肉ごと削られ、あっという間にズタボロになっていく不死身の躰。
「死ねコラァ!!!」
一回転からの遠心力を乗せた無造作かつ豪快に振り回される剛槍。
咄嗟に横にあった一際大きい大木に背を押し付けて、セイバーはその凄まじい一撃を受け止めようとする。
しかし意味は殆ど為さなかった。
ゴキゴリゴリッッ!と武骨なセイバーの体がその後ろにある大木ごと纏めて薙ぎ倒される。
「ぐっ…ごほっ…」
攻撃自体は『
しかし全力以上で振りぬかれた剛槍からの凶暴な重圧に背後の大木が耐えきれなかったのだ。
ふらつきながらも立ち上がったセイバーは、無惨に折れた大木に赤のライダーの底知れなさを感じ絶句する。
(……化け物め)
いい加減に理解する。戦闘の均衡は破られたのだ。
先程からのセイバーへの攻撃、それは全て
赤のライダーは明らかにケイローンの矢の軌道を読み始めている。
急所が暴かれようが二対一だろうが、関係ない。
本気であり全力である
戦いはさらに自分達に不利なって行くだろう。
挙句、更に状況を悪化させる事態が巻き起こった。
『セイバァアアアアアアアッッ!!!令呪を持って命じる!全力の宝具『
瞬時に増大する魔力の絶対量、宝具の真名開放を促す絶対命令。
マスターからの令呪行使は強烈な言霊として剣士の魂に刻まれる。
同時にセイバーの意思に逆らった腕が大剣を掲げ、その秘めた力を開放し始めた。
蒼い宝玉が輝き、夜を引き裂くような眩い橙色の光が剣に灯る。
それはかつてニーベルンゲン族が鋳造し、龍殺しを成し得た聖剣の光。
「く、うっ……」
渾身の力で抑え込むが、それでもゆっくりと振り上げられる剣に魔力が満ちていく。
今この宝具を使う訳にはいかない。
確かに周囲に満ちる光の粒子と共に高まり切った魔力は壮絶の一言に尽きる。
己の手から放たれるであろう宝具の一撃『
「くはははははッッ!!令呪による強化で底上げされた宝具解放か?俺の真名が分かっているのになんとも馬鹿なマスターだ!!良いぜ、撃てよ!!俺は死なねぇ、俺に傷一つ付けられはせんとも!!」
けれど足りない。不十分に過ぎる。
彼の言葉は事実上全てを伝えたといっても過言ではない。
此方の宝具を迎え入れるかのように手を広げて哄笑する赤のライダーの無敵、母たる女神が彼に与えた不死の肉体の絶対を。
確信の笑い。嘲りの表情。
何とも忌々しいが、この一撃はどこまで威力を強化したとしても赤のライダーに決して通用しない。
「っっ…ダメか……」
『そうか?諦めるのはまだ早いぞ』
唐突に、耳元で囁くような甘い声があった。
声は自分にだけ聞こえる念話ではないらしく、笑っていた筈の赤のライダーも片手で頭を押さえている。
セイバー達は知る由も無かったが、通常の人間がその場にいたならば頭を割って直接アルコールをぶち込まれたような鈍痛で発狂しそうになっていただろう。
『急ぎなものでね。生命力から生成される魔力を一定周波数で振動させてコンタクトを取っている。かなり大雑把になってしまって少し気恥しいが』
脳に直接飛び込んでくる声は音質すら伴っていて、幼い少女のあどけなさまで分かる始末だった。
『では時間もあまり無いようだし、本題に入ろうか。君が今、愚鈍極まるマスターの所為で放つ羽目になっている宝具だが。そのまま放ってみたらどうだ?』
「しかしッッ……」
その言葉にセイバーは思わずマスターとの約定すら忘れて声を上げる。
『なぁに心配はするな。君の危惧している所は私も十二分に解っているつもりだよ』
人を食ったような物言いにセイバーは思わず眉を顰めた。
信用するべきか否か、どちらにせよ時間はない。
諦めて首を縦に振る。
そうして顔も分からない誰かは、笑みすら滲ませたような声色で告げた。
『少々、力を貸してやろう』
────……
あまりに愚かと言わざるを得ない。
宝具を開放しようと剣を振り上げる
恐らくはマスターの令呪で強制的に発動させられているのだろう。
戦況を正しく理解している筈の黒のセイバーが、この局面で宝具を使うとは到底思えない。
酷いノイズ交じりの雑音が力を貸すなどと戯言をほざいていたが、気にする必要はないだろう。
精神干渉などの姑息な魔術はライダーの勇猛さに阻まれ意味をなさない。
故に、警戒すべきは
「剣よ、満ちろ」
「こい!!!」
膨大な魔力が凝縮し、一時、深い闇に沈んでいた筈の森が黄昏の風景に切り替わる。
同時にライダーは大地に沈み込むほど足を踏み込み、飛び出した。
「
黄昏が膨れ上がる中、ライダーは瞬間移動に等しい速さで黒のセイバーと肉薄する。
『
障害物など意に介さない。
そんなものはアキレウスという英雄の不死身の前では塵芥に等しいのだから。
「────
「っらぁッッ!!!!!」
かの大英雄ジークフリートの宝具に晒されて尚、ライダーが怯む事はない。
振り下ろされつつあった最強宝具を、迎え撃つ様に真っ向から突っ込んで片手で掴み取る。
ドゴアアッッッッ!!!!
それだけの行為で膨大な光が周囲に吹き荒れ、激突の轟音が鳴り響いた。
「ッハハハハハハハ…確かに、対軍宝具ってだけあって大した力だ。しかし足りんなぁニーベルンゲンの大英雄ジークフリート!!!!!」
笑みを浮かべる余裕すらあった。
この宝具は己に効かないと分かっていたのか、特に驚愕も無い黒のセイバーの表情はただただ険しい。
だからといって真名が分かった以上、遠慮などしてやる必要もない。
その背中を刺し貫こうとライダーは空いている方の手に持つ槍を力強く握りしめる。
『全ての男女は星である』
唐突に響く言葉にアキレウスは微かな悪寒を感じ取った。
宝具の威力を増幅させる小細工だろうか。
無駄な事だ。
恐らく最大威力の幻想大剣でも、『
『────後期魔導書より削除されし一文。秘奥を公電にて開陳し、振動を世界に伝える。マスターセリオンにまたがる叡智の聖母ペイバロンを見よ。かの御手にある金の杯を血で満たせ』
赤い閃光があった。
黒のセイバーの輪郭から滲み出る様にして禍々しい赤が黄昏の光に交わり始める。
大地の中に、我々全ての母、そして全ての人類を産み、彼らが安らぐ子宮、彼女の名はペイバロン。
彼女の三つの本質的な姿は、ピラミッドの都市の入り口、緋色の女、そして偉大なる母である。
その力は霊的役職を担う上での地上的側面があり、最も多産であるという意味で母なる大地ガイアとも同一視されるほどだ。
『イシスにカーリー、女性神格の輝きとは即ち赤。愚かなる旧態が封じた扉を打ち壊し、我、今こそ始源より星に根付いていた筈の天父と地母の理を開放せん』
「ッ!?」
滔々と流れる詠唱にいつしかライダーは聞き入っていた。
その事実に気がつき、背が言いしれない寒気で泡立つ。
戦士としての勘が告げていた。
これは危険だ、と。
『この世の善と悪に絶対はなく、全ては相対、不要なものなど何もない。創造の諸力は破壊のそれを上回る。故に力と力をぶつける迎撃で防げるものにあらず』
呼応するように橙色に輝く大剣にすら赤黒い閃光が纏い出した。
信じられない事だが、黒のセイバーの宝具が神性を帯び始め、余裕を保っていたライダーを窮地に追い込みつつある。
「くそっ…詠唱による神性付与、か…反則だろ…ちくしょう」
己の事を棚に上げてライダーは思わず呻く。
直後に、その呟きを脳内で鈴を鳴らすような怒号が塗り潰した。
『緋色の衝撃よ自然にある生命の営みすらも忘れた男性原理を此処に撃ち貫け!!!!!!』
(っ……仕方ねぇか!)
この一撃は槍では防げない。
そう悟ったライダーもまた、奥の手を使う事に躊躇いはなかった。
槍を投げ捨てたその手には、盾。
母である女神テティスが息子のために作らせた鍛冶神の神造兵装である宝具。
「良いだろう!!」
掘り込まれるは天と地と空、陽と月と星、神と人と国、兵と賊と贄、歌と生と死。
そして外周を取り囲む
構えた盾を力一杯、更に莫大な力が宿っていく『
「受け取れッッこの盾は我が世界、俺が俺の肉体で感じた全てッッッ『
真名の解放と共に、盾に刻まれた世界が動き出し膨れ上がった。
盾の前面に展開された極小の世界が、禍々しい赤光を跳ねのけながら空間と時間を再構築し始める。
世界そのものであるこの宝具は、あらゆる攻撃を防ぐだろう。
そしてライダーはこんな所で攻撃の手を緩めない。
そう、これは防御であり攻撃だ。
突撃することによってその極小世界で相手を押し潰す為に、万夫不当の大英雄が更に一歩踏み出していく。
5
ズン!!一気にジークフリートとアキレウスを中心に数百メートルの大地が陥没する。
膨大な量の粉塵が舞うが、『
城塞の屋上にて機を見計らっていた
「出鱈目な……」
空を、地を、赤黒いオーロラが満たしていく。
アーチャーもその力が大地から吸い上げたものである事までは理解をしていた。
しかし、それをどのような形で加工し付与させるに至ったかとなると想像もつかない。
分かるのは、唐突に
一体、誰が。
少なくとも
ゴーレム使いの彼ですら、ここまでの大規模かつ洗練された術式は構築できまい。
そして、驚嘆すべきは────
「これほどまでに成長していましたか……」
アーチャーは過小評価していたのかもしれない。
その駆け抜けた人生を。
世界に食い込み、恐るべき威力で全てを溶解させている神の一撃。
それを赤のライダーが生きた『世界』は、完全に阻んでいた。
それどころか赤のライダーは振り下ろされた幻想大剣を押し戻そうとすらしている。
「とはいえ、このままではマズいですね。あれでは押し切られてしまう」
確かに、あの盾の前ではセイバーの『
赤のライダーはあろうことか『世界』そのものでセイバーを押し潰そうとしているのだ。
恐らく作り手であるヘパイトスですらそんな風に使用されるとは思いもしなかっただろう。
感嘆半分、呆れ半分の溜息をつき、アーチャーは空を見上げた。
赤のライダーはああしている今ですら自分に傷をつける事の出来る自分を警戒しているだろう。
よって、避けられず、悟られず、正確無比な一撃が必要だ。
「幾多の戦場を駆け抜けた貴方でさえも読み間違えたことがあったなアキレウス。中空に浮かぶ星。それが私であるならば、私は矢を常に番えている」
夜空に燦然と輝くは射手座。
そして射手座はいつだって蠍座の心臓部に向けて弓を番え引き絞っている。
魔力を溜める必要も、真名を叫んで発動する必要もない。
名を『
その宝具は弓という武具に存在する致命的なラグを零にする。
「その不死性、確かに頂きました」
解き放たれた流星が夜空を引き裂き墜落していくのを見ながら、薄っすら笑う。
宝具開放の判断をマスターに仰ぐ余裕がなかった事は心残りだが、己のマスターは聡明だ。
分かってくれるだろう。
6
「くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」
記憶にある痛みが襲った。
己の全てを吐き出したような、生皮を剥がされた痛みには覚えがある。
踵を貫かれたのだ。
「ば……かな…いったい何処から…ッ!?」
矢を放たれれば即座に対応できるように
なのに、射抜かれた。
踵に目を向けるも刺さる矢は無く。
思わず見上げた満天の星空、そこに輝くのは。
「そうかッッ……貴方はッッ……」
瞬間、ライダーは悟る。
これは空の蠍を狙い、弓を引き絞り続ける星座にだけ許される絶対射撃だと。
だからといって動揺している暇など無かった。
駄目押しの踵への一撃は、絶対の位置に君臨していたライダーから確かに力を奪い取っていったのだから。
「ぐっ……」
あっという間に姿勢を崩し、膝をついたライダーの体を負荷が襲う。
頭上を守るように盾を掲げていた腕が鈍い音を立てて折れた。
体に走る激痛で、十分に力が出ないその手から盾が零れ落ちる。
「じぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ────────!!!!!!!!!!!!」
『
完全に振り降ろされた黄昏の一撃。
放たれたのは咆哮だった。
この一撃を防ぎきれないと悟った怨嗟の叫び。
莫大な赤い光の柱が、己の血に濡れて咆哮するライダーを簡単に呑み込んだ。
今さらだけどアキレウスの全力ってAランク凌駕するよな……しない?いやすることにしようぜ……多分明言されてないから誰もわかんないだろうし!……違和感あったらすみません泣