Fate/Apocrypha beast~TS変態オヤジの聖杯大戦~   作:あんぱんくん

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進級試験ようやく終わったああああああああああああああああああぁぁぁっっっっ!!!


No.003 アタランテの苦手な物は(カルぺ・ディエム)

1

 

 

 

 

ぐびぐびもりもり食うわ飲むわ。

飲み会という名の酒乱達の宴。

 

「そ〜れイッキ!」

 

「「イッキッキ〜のキ〜♪」」

 

赤のアーチャー(アタランテ)の前で言葉通り一気に空になる三つのジョッキ。

確かに全員最初は静かに飲んでいた。

そう。飲んでいた……筈なのだが、酔いが回るにつれて盛り上がる雰囲気と共に繊細な造りのグラスは無骨なジョッキへと早変わり。

おまけに誰が言い出したのか怒涛の飲み比べだ。

 

「はっはっは!まぁオレは王になる騎士だからな!酒も強ぇし?」

 

「おん?王様にゃ申し訳ないがこればっかりは譲れねぇな。小娘どもにゃ悪いが大人の飲み方ってモンを教えてやるよ」

 

「おやおやおや可哀想に。どいつもこいつも力の差を理解出来ない愚物ばかりらしい。格の違いを見せつける良い機会だな」

 

盛り上がる雰囲気。

激突の瞬間は間近、最後の一人が倒れるまで続く聖戦の幕開けに向けそれぞれが酒飲みとして闘志(プライド)を胸にジョッキを掲げる。

そんな中、内心焦っている者が一人……

 

(……マズイな)

 

それはアーチャーであった。

実の所アーチャーは酒がそこまで強くはない。

酒を飲むとすぐに頭がぼぉっとして五感が鈍るのだ。

あの飯を食べていないのに腹が脹れる感覚は好きになれないし、何よりその後の二日酔いが酷いのだ。

よって自然と飲み比べも苦手な部類に入る。

 

「あーそのマスター?ツマミや酒の追加などそれぞれがやっていたら大変だろう?私にしては珍しくその役を買って出てもいい気分なのだが」

 

空になったそれぞれのジョッキに新たに酒を追加していた銀の少女が眉を顰める。

 

「いつも何かと理由をつけて酒を飲まないな君は……もしかして酒が弱かったりするのか?」

 

「っっ!?……いやその……そういうワケでは断じてないぞ!昔はアルゴノーツでもヘラクレスと飲み比べで一騎討ちするくらいだった!ギリシャの女狩人は伊達ではないと酒飲みとしてその名を鳴らしたものだ!あ〜酒が飲めなくて本当に残念だ」

 

我ながら拙い演技だ。

そもそもアルゴノーツでは酒を飲めば船の揺れも相まってあっという間に吐くからアスクレピオスから禁酒令が出されていた程である。

曰く、用法と用量は守れ!らしい。

 

「まぁ好きにすればいいが本当に良いのか?飲みたくない?」

 

「後で飲むさ。うん、まぁそのうちな」

 

ありがたいことに、ジロジロと疑わしそうに見つめていたアレイスターもそこまで追求する気にはなれなかったのか、ふいっと顔を背けて再び酒を飲み始める。

とりあえずはこれでマスターの了承も得た。

危ないところだったが何とか飲み比べ回避の成功にグッと拳を握る。酒を飲み散らかして醜態を晒すなど絶対御免だ。

 

しかし、蜜酒運び兼酒のつまみ作成係を申し出ることによって弊害も勿論あるのだ。

 

「おーい肉切れたぞアーチャー!肉!肉肉!!」

 

喧しい酔っ払いの声。

そう、こいつら飲むスピードも食うスピードも尋常ではないのだ。

酒のつまみとなる熊の肉を焼く回数が十を超えた辺りで、心は無の境地。

もしかしたら酒をとっとと飲んで意識を手放した方がマシだったかもしれない。

 

「はぁ……」

 

自分と不釣り合いなまでに大きい熊の片手を掴むとアタランテはキッチンへ赴く。

冷蔵庫に一通り揃う、赤ワイン 、赤ワインビネガー 、蜂蜜 、オイスターソース、醤油 。

アタランテとしては獲物の肉には下手に調理などせず食材のそのものの味を楽しむべきだと思うのだが、ワガママな主はそれでは満足できないと言うのだ。

 

「まったく食の暗黒大陸出身のくせに味にうるさいとは」

 

手始めに熊の手を食品用洗剤でしっかり洗い、熱湯で湯通しして、ひたすら毛を抜く。

抜き残しは勿論カミソリなどで剃るのも忘れない。

肉切り包丁で片手をバラして塩コショウを振り、油で軽くポワレ?をする。

 

「にしてもよくまぁここまで出来るようになったものだ」

 

元々主婦とは縁のない人生だったこともあって、そこら辺の女磨きをしていなかったアーチャー。

こと料理に関しては苦手分野どころか天敵だった。

手料理が食べたいと駄々を捏ねたマスターに熊の心臓を生で出した時の顔は忘れられない。

 

────君は野獣か何かかね?

 

仕方あるまい。別に料理などせずとも狩った獲物でその日その日を食い繋いできたのだ。

それに肉は生の方が大抵美味い。

 

「とはいえ出来るようになってみると料理というものも悪くないな」

 

壊滅的な料理の腕はアレイスターに教わりながら作るうちに人並みに出来るようにはなっていた。

最初はモタついていた手順も今では手に染み着いたようにつつがなく行える。

 

(存外、あの変態は教師の才能があるのかもしれないな)

 

そんな事を考えながら別の鍋に移し、赤ワイン、赤ワインビネガー、蜂蜜、オールスパイス、オレガノ、ニンニクを入れて煮込んだ後はオイスターソース、蜂蜜、醤油、ローズマリーを足して照りを出して完成。

淡々と冷えた酒と共に持っていく。

 

「遅い」

 

どこか不機嫌そうに頬を膨らませている銀の少女。

どうやらウワバミ共の戦いに我がマスターはお敗れになったらしい。

とはいえそれでアレイスターが酒に弱いというわけでも無い。そのことはその足元に転がるいくつもの小さな酒瓶が証明している。

 

「これは全部蜜酒か?」

 

「そうとも」

 

もういらないとばかりに渡されるジョッキ。

代わりに彼女が新たに懐から出したのは黄金の杯だった。

どこから持ってきたのか分からないそれに黄金色の液体をなみなみと注ぐ光景には半ば胸ヤケを覚える。

 

「一体いつまで呑んでいるつもりだ。いい加減飽きると思うのだが」

 

「古来から酩酊による非日常感は人々の絆を深めるといった霊的交流や宗教、儀礼行為へとつながっていった。なんと言ってもケルトでは不死の飲み物だし、当時の私では恐れ多くて手が届かない代物でもあった。それにエールより断然こっちの方が美味い」

 

何故こういう輩は三行で纏まる話も無駄にカッコつけて言おうとするのか。

難しいウンチクを語ってはいるが、ようは昔は手が届かなかった玩具を成人して大人買いする程度の話であろうに。

しかもこの変態、前に行ったガールズバーでもこの返しをしていた気がする。

しょうもない酒飲みが繰り広げる興味ない話にも笑顔で対応する彼女達のプロ意識の高さにはアーチャーも唸らされたものだ。

アレイスターの隣で未だに赤のセイバー(モードレッド)と飲み比べをしている獅子劫が笑う。

 

「そりゃどっかで聞いた事があるな。確か…古代アイルランド、ケルト人は先王が失脚すると敬意を込めて蜂蜜酒の桶で溺死させ、祖先のもとに送るっていう話の元になったって」

 

「はっ!文字通り死ぬほど飲ませるってワケだ。酒好きには贅沢な死に方かもな。王を送り出す方法としては不遜に過ぎるが」

 

そう言って顔を顰めたセイバーはこっそり霊体化する事で酩酊状態をリセットしている。

狡い手ではあるが、確実に飲み比べに勝つ一手だ。

 

……まぁそれがマスターである獅子劫に気づかれなければの話だが。

 

「あっセイバー!ズルは無しだぞ!卑怯な小細工しやがって。お前の不正なんて魔力消費量で簡単に分かるんだからな!!」

 

案の定、己のサーヴァントの状態から事態を悟った獅子劫が抗議の声を上げる。

しかし当のセイバーといえばどこ吹く風といった様子。

 

「やられる方が馬鹿なんだよ。それとももう一回飲み比べするかいマスター?」

 

「上等だ!不正なんてせずとも真っ正面から叩き潰してやるよ!!」

 

一気に酒瓶を逆さにして飲み干す両者。

まったく誰の金で飲んでいると思っているのだろうかこの破落戸共は。

まぁ自分の金でもないので一向に構うところではないが。

ガツガツバクバクムシャムシャ!!

銀の少女の方に目を向けるとこっちはこっちで早速アーチャーの料理に手をつけている。

 

「うんうん!これは美味い!!熊の手の赤ワイン煮込みというチョイスは悪くないぞ!実にエレガント!君はやれる子だと信じてたぞアーチャー!!」

 

それは結構な事だが、文明人を自称するならフォークやナイフを使って食べて欲しい。

いくら酔っているとはいえ、肉を手掴みで食うなど見苦しい他ない。

それどころか────

 

「っ!?おい!ベタベタした手をソファーに擦り付けるな!」

 

ソファーの生地をハンカチ代わりにしようとした行儀の悪い手を反射的に叩く。

ムスッと口をへの字に曲げて見せてもダメなものはダメなのだ。

家政婦一つ雇っていないこの屋敷で誰がその後始末をするのか少しは考えて欲しい。

おまけにその口元も肉の脂でテカテカ光っている、まるで子供だ。

 

(いや……そういえば子供だったなこいつも)

 

普段あまりにも子供から掛け離れた行動を取るため忘れがちだが年齢は未だ十代後半もいってないはずの我がマスター。

これはこれで年相応なのか、と無理矢理納得したアーチャーはとりあえず持っていたナプキンで口を拭ってやり、手を拭かせて杯を渡す。

まったく手間の掛かる主人である。

 

「むぐむぐ……っぷはっ!うん、苦しゅうない。流石は私のネコ型家政婦サーヴァント!」

 

「おっと酔いが回りすぎているようだなマスター。酔い冷ましに蹴りを入れるか?」

 

ビクリ、と跳ねる肩。

 

「そっ…そのオプションは遠慮しておこうかな……あれは結構痛いし」

 

若干顔を青ざめさせたアレイスターは少しアーチャーから距離をとる。

あの時は華麗に着地して見せたものだが、どうやら痩せ我慢だったようでかなり痛かったらしい。

 

「ゴホン!まぁ先程の話に戻るがね?酒というのは古来より異界への身近な扉でもあったんだ。特に蜜酒。この酒と金の杯はある伝承と切っても切り離せない関係にある」

 

ゆらゆらり、と揺れる杯。

 

「古代ペルシアのある名君が、蜜酒の水面から世の中で起きるあらゆる事を映し出すといわれる酒杯を持つという伝承を知っているかね?」

 

この蜜酒を入れる杯にも小細工をすると面白い事になるんだこれが。

そう囁く彼女の手の中で蜂蜜酒の色がぐるぐる回り出す。

端正な顔を映していた黄金は次第に違うモノを彩り始める。

赤らんだ顔でその様子を見物していた獅子劫が感嘆の息を吐いた。

 

「────『ジャムシードの酒杯』。レプリカにしちゃ良く出来てるな」

 

千里を見透す遠見の術式。我ながら都合のいい話ではあるがこういうときだけ魔術は便利だなとアーチャーは思う。

杯に満ちている密酒はいつしか、黄金の大剣を構えている男と肉体と一体化したような神々しい輝きを放つ鎧を身に纏った青年を映し出していた。

水面に映る剣士の佇まいは、セイバーとしても優秀な部類に入るモードレッドに何ら引けは取っていない。

そして、ここで酒を飲み干す彼女が赤のセイバーである以上、必然大剣の持ち主は黒のセイバーという事になる。

 

「私に言わせれば無駄に高度な覗き見術式だが、酒の肴に好きな景色が見れるというのは良いものだよ……にしても場所はトランシルヴァニア高速道か。トゥリファスに行く唯一の国道だな」

 

既に戦いが始まっている事に反応したのは、やはりセイバーだった。

面白くなさそうに鼻を鳴らし勢い良く立ち上がる。

 

「今からでも遅くはねぇ!乱入しようぜマスター!!!」

 

良いと言えば今すぐにでも飛び出して行きそうな様子。

どうやらセイバーはよほど暴れたいらしい。

アーチャーが館内から伺っていた時も彼女だけは戦いたそうにウズウズしていたのをよく覚えている。

そんな己のサーヴァントを酒を飲みつつ獅子劫が諭す。

 

「今から参戦しても漁夫の利は得られねぇぞセイバー。忘れたのか?俺達は赤にも喧嘩を売られてんだ。最悪、黒のセイバーと赤のランサーを纏めて相手取る羽目になる」

 

その慎重な意見に内心アーチャーはホッとする。

同時に酔っ払いでもここまで差が出るのか、と横でニヤけている己のマスターを思わず蹴り飛ばしたくなったが。

 

「適度な緊張も乙なモンさ。戦争なんだ!全員叩き潰しゃ良いだろうが!」

 

攻撃的かつ楽観的な思考から出た言葉に頭痛がする。

こいつの頭蓋骨には藁でも詰まっているのだろうか。

まさか致命的な懸念材料を鼻で笑い適度な緊張感と言い放つとは。

それともこれが戦争中毒(ウォージャンキー)というものなのだろうか。

獅子刧は挫けず説得を続ける。

 

「それは最終手段だ。このままほっといてもどっちかの三騎士が一体減るような状況で進んでやることじゃない。無謀に死地に特攻するのは英雄じゃなくて早死にする馬鹿のやる事だぞ。ここで見物してれば発動された宝具を見て、真名の看破や弱点を見つけられる。殺し合いをゲップが出るほどやるのはそれからでも遅くはない筈だ。スカウティングってヤツだよセイバー」

 

「そりゃそうだけど……」

 

敵を知り己を知れば百戦危うからず。

慎重なものだ。己のマスターにも見習わせたい。

とはいえセイバーの顔は未だに不満を表している。

戦いたがりもここまでくると大変だ。

フム、と顎を撫でてて獅子刧が残念そうな声を出す。

 

「セイバー。俺の知っている騎士ってのは決闘を重んじる気高い連中だ。断じて面白半分に参戦して戦士の戦いを掻き乱すような無粋な連中(戦争フリークス)じゃないと信じていたんだが……」

 

上手い。英霊のプライドをくすぐる一言。

こういう輩は存外挑発に弱いものだ。

案の定効果は覿面。

 

「あーもう、分かった、分かりましたよ。英霊の殺し合いを酒の肴に一杯ひっかけるのも悪くはない」

 

再び座り込んで獅子劫から奪い取るようにスコッチを飲みだすセイバー。

どうやらこのコンビはマスターが抑え役として上手く機能しているようだ。

羨ましいものである。

二人の間で結論が出たのを確認すると銀の少女も再び視線を杯の中に向ける。

 

「これがサーヴァントの戦い、か」

 

槍が大気を引き裂き、剣が風と共に絶叫するのが映像越しに伝わってくる。

二人の織り成す戦闘の余波で高速道路の標識が分断され、大地には幾つものクレーターが出来上がっていた。

杯が映し出す先では槍の英霊の持つ恐るべき神技と荒々しい膂力によって振るわれる暴力の嵐に対して剣を構えた英霊が真正面に突っ込んでいく。

 

「おいおい、なんつう戦い方だよ。あんなんじゃあっという間に霊核を砕かれちまうぞ向こうのセイバー」

 

呆れたように呟くセイバーの言葉通り、黒のセイバーは懸命に真正面から弾丸の様に放たれる槍の連撃を最小の動きで受け流してはいるがその体には痛々しい傷が蓄積されていく。

あれではただの死にたがりだ。

肉体そのものは仮初のものであり基本的に魔力が尽きない限り活動できるサーヴァント。

それでも肉体の損傷は霊核の弱体化を招く。

心臓の喪失や首の切断などが起これば勿論、死ぬ。

どうにも何かおかしい。

静かに二人の英霊の戦いを観察する事数分。

 

「傷が浅い……!?」

 

戦いと狩りに明け暮れた自分の観察眼が見間違う筈はない。

アーチャーが見た限り赤のランサーが放つ槍の連撃は七十八回、黒のセイバーの急所を貫いていた。

 

なのに、まだ立っている。

 

「ふむ……ステータス面では、うちのセイバーとほぼ互角だな。おまけにどうも厄介な事に特殊な防御型の宝具かスキルがある」

 

獅子刧が苦い顔で淡々と事実及びそこから推測される事柄を口にする。

それを証明するかのように黒のセイバーの削れた鎧も双方の血に染まっていた屈強な肉体も、元々そうであったかのように傷一つ残さず元の形を取り戻していく。

不死身の英霊。何とも厄介なものだ。

こうなってくると急所もクソもない。傷を忌避する感情もないとくれば通常と戦い方も変わってくるだろう。

正直、非常にヤり辛い相手だ。

アレイスターは恐るるに足らずと鼻で笑う。

 

「世の中、不死身を謳う英雄は多いが真実不死身だった英雄はそれほど多くは無い。そして不死身の伝承には大抵、例外がある。かのギリシャの大英雄アキレウスがその踵を射られて死んだようにな」

 

とはいえ治癒役のマスターは近くにいる筈だとアレイスターが蜜酒を軽く揺らす。

ズレる景色、杯の水面が英霊の戦いからそれを見守っている二人の人物へと移り変わる。

 

『ルーラーよ、お願いします。彼奴の真名を……』

 

そう懇願するのはやや肥満体の男。

平和ボケしている腑抜けた顔、滲み出る尊大な態度、まるで温室で育てられた野菜をアーチャーに思い起こさせる。

 

『お断りします。中立のサーヴァントたる私がそれを伝えるのはルール違反です』

 

にべもなく断るのは金髪のまだ少女の面影を残す女。

此方はいるだけで花が咲くような清廉な立ち姿。

強い意思を持つその顔は男とどこまで対照的だった。

断られたというのにめげずに男が醜く言い縋る。

 

『ですが!彼は貴女を殺そうとしたのですぞ!ここで黒のセイバーが敗北すれば、彼は貴女をもう一度狙うやもしれません。ここは────』

 

『先も言いましたように、それはそれ。私個人の事情を鑑みる事によって彼らに色を加えることは、ルーラーとして召喚された私の誇りにかけて出来ません』

 

「頭固ってぇなこのアマ」

 

二人の会話から赤のランサーの真名が分かると期待していたセイバーが毒づく。

 

「逆に安心したぜクソッたれ。ルーラーが少なくとも窮地に陥った程度で片方に肩入れするチキンじゃねぇって確認できただけでも上等だ」

 

ホッとした顔で呟く獅子劫。

まったく同感だった。

これでホイホイ向こう側につく俗物ならば大変な事になっていただろう。

最悪、赤側が一方的に蹂躙される。

それだけルーラーのもつ『真名看破』と『神明裁決』は致命的なのだ。

 

「それにしても聖杯戦争の参加者が裁定者であるルーラーを殺そうとするなど前代未聞だ。囲い込もうとするならまだしも、排除とは……何を考えているのだ赤のランサーは」

 

肥満体の黒のマスターのようにルーラーを囲い込もうとするのはまだ分かる。

その特権ゆえにルーラーを囲い込んだ陣営が圧倒的に有利になる事は間違いないからだ。

 

だが、排除となるとその目的が見えない。

 

ルーラーを排除しようとした所で、並大抵のサーヴァントではその特権の前に太刀打ちできない、つまりは時間と魔力の浪費なのだ。

 

「あぁ、そういうことか」

 

くだらなそうに指を鳴らしたのはアレイスター。

頭の中で何がどう繋がったのかは分からないが、彼女の中では一つの結論が出たらしい。

悪い顔をしている。

ニヤニヤと。

悪意と害意をもって全てを嘲笑い飛ばさんとする皮肉げな笑み。

 

「何処か不自然な聖杯大戦、有耶無耶に終わった第三次聖杯戦争、ルーラーの出現。なるほど……これはとうの昔に終わった筈の戦い、その延長戦に過ぎないってワケだ。まったく引っ掻き回してくれるものだよ」

 

「マスター?何か分かったのか」

 

「どいつもこいつもスカンク野郎ばっかりってことだよアーチャー。下手に突っつくと臭い屁を撒き散らされる、関わりたくないものだ」

 

説明する気ゼロの回答。

母親に向かって息子が母さんお茶!と催促する以上に必要な言葉が省かれている。

簡潔に言おう。分かるわけがない。

同情するようにセイバーが酒瓶片手にアーチャーの肩を叩く。

 

「気にすんな。シルクハットの中から鳩を出して喜ぶようなガキ相手にアドバイス仰いだってどうにもなんねぇさ」

 

その言葉にむくれた顔でアレイスターは腕を組む。

表情から、ここまで言っても理解できないのはお前の頭がわるいからだっつぅの!と思っていることは明らかだった。

 

『出てこい、赤のマスターよ!魔術協会の狗め、このゴルド=ムジーク=ユグドミレニアが相手をしてやる!見ているのだろう!見ているのだろォォォッッ!!!』

 

響き渡る黒のセイバーのマスターの怒号。

怯えと怒りの混じったそれは滑稽なほど部屋に虚しく木霊する。

 

「ぶふっ!っくく……あぁ見ているよ」

 

不機嫌だった銀の少女がたまらないと肩を震わせ

 

「あぁ。見ているな」

 

と失笑しつつ獅子刧が冷静に呟く。

 

「馬鹿丸出しだな。この太っちょ」

 

セイバーの率直な感想にアーチャーも同意する。

明らかにサーヴァントの格に対してマスターの器が釣り合っていない。

男の体型も相まって脳裏に豚に真珠という言葉が浮かぶ。

我ながら辛辣な評価ではあるが、サーヴァントの戦いから何かを見いだそうとすることもなく他力本願を当てにしている姿を見せられてはしょうがないというものだ。

仮に自分が黒のセイバーの立場なら早々に見切りをつけているだろう。

さっさとマスターを片付けて新しいマスターを探すのも一つの手ではあるのだから。

 

「まぁこいつらの方はもう良いだろう」

 

映し出す光景を黒のセイバーと赤のランサーの激しい戦いの方に設定し直す銀の少女。

その杯を獅子劫に手渡す。

 

「あとは君に任せるよ。赤のランサーと黒のセイバーの実力は拮抗している。宝具の発動も私が見るより君が見た方が真名の真実には近づけるだろう」

 

もっともらしい事を言ってはいる。

しかし短くも濃い付き合いのお陰だろうか?

なんとなく気紛れな己のマスターがこの戦いに飽きたことをアーチャーは直感していた。

 

「うーんどこだっけか」

 

カウンターに戻り何やらゴソゴソし始めた銀の少女を見て嘆息する。

熱しやすく冷めやすいのは性分だから仕方ないにせよ敵情視察くらいマスターなのだからちゃんとしてくれないものか。

 

そんなアーチャーの呆れにも似た感情は────

 

「あったあった!」

 

アレイスターが嬉しそうに持って返ってきたものを見て一気に雲散霧消することになる。

 

「……なぁマスター、なんだそれは?」

 

「ん?やっぱりアーチャーにだけ雑用係させるのもあれだし。良きマスターとして日頃頑張ってくれてるサーヴァントを労わないのは違うかなぁって☆」

 

────何を言っているんだコイツは?

 

てへぺろ☆と可愛いらしさ全開の笑顔とその片手にある普通のサイズの倍はあるジョッキの存在は不釣り合いに過ぎる。

そこになみなみ注がれる酒が本当に怖い。

泡を除いたとしても通常の3倍はある量に思わず自分の顔が引き攣るのが分かる。

 

「これはその……些か量が多いんじゃないかマスター?」

 

「そうか?私はそういうのに疎くてね。そんなことよりも早く飲みたまえよ。皆待ってるぞ」

 

ほら、という言葉に振り返るとゆらゆら揺れる二つのジョッキ。

顔を赤らめ肩を組んだ酔っ払い共が合唱を始め出す。

 

「「アーチャーのちょっといいとこ見てみたい!飲〜んで飲んで!飲〜んで飲んでッ!ここで飲まなけりゃいつ飲むの?そーれ!!」」

 

「だそうだ」

 

ポン、と肩に置かれる白い手。

無理矢理握らされるメガジョッキ。

断るのは許さないよ?とこちらを見上げる目が語っている。

 

「もちろん見せてくれるよね?ギリシャの誇る女狩人の豪快な呑みっぷり!早く見たいなぁ☆」

 

「……きひっ☆」

 

召喚に応じてから毎日が悪夢です。

どこかにセクハラをせず人使いの荒くない優良なマスターはいないものでしょうか。

これを期に真剣にマスター探しの旅に出るのもいいかも知れません。

 

 

 

 

 

2

 

 

数時間後、、、

 

「薄々察してはいたが……」

 

そう言って床にダウンした赤のアーチャー(アタランテ)を足蹴にするアレイスター。

ぐっと腹を押されたアーチャーは己の喉を胃液がせり上げることで意識が覚醒。

途端に酩酊感と胃もたれが襲いかかってくる。

 

「踏むなっ……うぷっ!……死ぬぅ……」

 

いくら英霊とはいえどもアルコールがたぷんたぷんに詰まった腹を踏まれれば苦しいのだ。

芋虫のようにバタバタするアーチャーを見てアレイスターが嘆息する。

 

「はぁ……まったく酒が弱いのなら意地を張らずにそう言えばいいものを」

 

言えるものか。

こいつの性格上、自分が下戸と知ればことある事にそれをネタにして尚且つ度数の高い酒をたらふく飲ませてくること請け合いである。

死に体でそう告げると銀の少女は呆れた顔をする。

 

「バカを言え。飲めない者に強い酒を強要するほど私は無粋じゃない。飲めないなら飲めないなりにジュースかその体にあったアルコール度数の物を調達していたさ」

 

気を抜く時には楽しくしたいしな。

そう呟くアレイスターに絶句する。

まさかThe理不尽の塊がこんな殊勝なことを口にするとは。

 

「なんだその顔は?まさか私は君にメリハリも出来ていないろくでなしだと思われていたのかな」

 

そういうことで驚いたわけではないが、酷い酩酊感と吐き気で言葉にならない。

そんな様子のアーチャーを見かねたのか深いため息をつく銀の少女。

 

「とにかくだ。その様子では辛いだろう?自家製の酔い止め薬を贈呈しようじゃないか。明日になれば私達も動くことになる。のんべえのせいで足を引っ張られるのは御免だからな」

 

そんな言葉と共に錠剤らしき物をズボッと無理矢理口に入れられる。

 

「これで身体に溜まったアルコールをある程度分解出来る筈だ」

 

言葉通り、アレイスターお手製の酔い止めは凄まじかった。

ものの数分でアーチャーを支配していた酩酊感は失せ、胃もたれもほとんど感じ無くなる。

先ほどよりスッキリした頭で周囲を見渡すアーチャー。

暫くしてようやく、酒瓶が相変わらず散らかっているこの部屋に先ほどまで飲んだくれていた客人がいなくなっていることに気づく。

 

「獅子劫達ならとっくに寝たよ。まぁ飲み比べは彼の圧勝だな、肝臓が鉄か何かでできているらしい。終盤でも鼾をかいたセイバーを背負うくらいの元気があった」

 

「そういう汝もウワバミだがな。あそこまで飲んでまだ意識があるとは……っとと」

 

酔い止めの薬で大分マシになったとはいえ未だに足元がおぼつかない。

自分と同じで、少なくない量の蜜酒を煽っていたにもかかわらずよろめくアーチャーを咄嗟に支える余力があるアレイスターが苦言を呈する。

 

「意地を張って馬鹿みたいに全部飲み干すからだ。まったくガキじゃないんだから自分の限界を知らないわけでもないだろうに。ほら、私達も寝室に行くぞ」

 

銀の少女の肩を貸りアーチャーはフラフラとそのまま部屋を後にする。

これではいつもと立場が逆だ、情けない。

 

「そういえばアーチャー。君は女狩人だったわけだが、男はいなかったのか?」

 

長い廊下を歩きながらアレイスターがふと思いついたように言う。

またくだらないことに興味を持つものだ、とアーチャーは苦笑した。

 

「唐突だな」

 

「会話なんて唐突なもんさ」

 

そう適当に返す銀の少女の顔は前を向いていて見えない。

 

「そうだな……友はいた。アルゴー船に乗り、幾多の冒険を乗り越えた仲間もいた。だが己の人生を懸けてまで愛そうと思った人間はいなかったし、また作ろうとも思わなかった」

 

「ヒッポメネスは違うのか?」

 

知っていたのか。

まったく人の悪い。知ってて人の口から言わせようとするのだからとんでもない性悪である。

 

「……あれは言わば契約だ。私は条件を課した、奴は条件を満たした。それが黄金のリンゴを使った策略の上であろうともな。故に汝の思うような甘ったるいものでは断じてない」

 

「なんだつまらん」

 

どうやらアーチャーの話に銀の少女の食指は動かなかったらしい。

元々そういう話に疎い己に、どこぞの恋を司る神と王の末娘のような切なく燃えるような恋愛物語を期待されても困るのだ。

 

「そういうマスターこそどうなんだ?どうせマセた汝のことだ。恋愛の一つや二つはしたのであろ」

 

「もちろんモテたぞ?父の遺産があったから遊んで暮らせていたし。詩人でもあったから睦言を囁くのは得意だった」

 

得意そうな反面アレイスターは少し思うところのあるような表情でこちらを向く。

 

「とはいえ、恋愛も良い事はそう多くない」

 

「ほう?」

 

齢十年と少しの子供の言葉にアーチャーは僅かに瞠目する。

遥か過去、己にまったく同じ事を告げた英霊がいたからだ……あれはそうペレウスだったか。

 

────とどのつまり恋愛なんて恋に恋してるだけだからなぁ。君の求める愛というモノとはまた違うものだと思うよ?

 

理由は忘れたが彼を投げ飛ばした際に頭を掻きながら言われた言葉。

正直、意外だった。

女神テティスと子を儲けた彼の話はアルゴノーツでも語り草だった。

まぁその子供の方針が元で別れることになったとこっそり教えられた時には結婚する事の難しさを痛感したものだが。

 

「男女両方とも恋人の前では良い格好をしようとするからな。おまけにそれを相手にも求めてくる。友人に自慢出来るカッコイイ恋人、自分に無条件で優しくしてくれる恋人、本当の自分を分かってくれて引っ張ってくれる恋人、お金を自分の為に使ってくれる恋人。現実はそんな甘いもんじゃない。相手に隠してる事の二つや三つなんてザラ、付き合ってみたら思ったほど優しくなかった、相手との身体の相性が良くなかった、意外なことにケチだった、暴力を振るってきた、ヒステリーで束縛が激しい奴だったって具合にな。人間なんて色々さ、理想の恋人像に当て嵌る方が珍しい」

 

「シニカルだな。汝くらいの歳ならもっと前向きに恋愛事に関心を向けてもいいものだが」

 

「前向きだろうと後ろ向きだろうと変わらない現実もある。求め過ぎてもダメ、与え過ぎても飽きられる。恋愛なんぞ流行病と同じだ。利点はタダでいつでもセックス出来る事くらい。それだって最近は風俗業が身近なものとなることで付き合っている娘よりもよほど上玉の嬢と端金で寝れる。寧ろそっちの方が気を使わなくて済むし、金の額だけ見れば付き合っている彼女よりも安上がりだったりする」

 

驚くほどに自分の欲求に忠実なアレイスターの発言にアーチャーはドン引きする。

普通そこまで恋愛事にかっちりと割り切れないものだ。

変態も突き詰め過ぎると効率重視になるのだろうか。

 

「違うね。これは大人になるということだアーチャー」

 

見透かしたように語る銀の少女は寝室に着くとダブルサイズのベッドにアーチャーを投げ込む。

ぼふっと自身を包む柔い衝撃、このベッドの柔らかさは元々生きていた時代には無いものだ。

簡潔にいうとフカフカ過ぎる。

 

「スランバーランドだ。イギリスの王室と同じのを使うのは抵抗があるが、どうにも寝心地が良くてね。気に入って頂けたかな?」

 

「とてもな」

 

そうは言いつつもベットのスプリングを鳴らしてくつろぎモードに入っているアレイスターにアーチャーも思うところはある。

この少女、思った以上に達観しているのだ。

しかも悪い意味で。

アレイスターは愛を育み子を成す行為ですら人間に起きる生理現象と割り切っている節がある。

 

「なぁマスター。恋愛というものがお互いの求める理想の押しつけ合いという捻くれに捻くれた汝の考えは理解した。ならば汝が相手に押しつけたパートナーとしての理想像とはなんだったんだ?」

 

「ん、私か?そうだな……」

 

ふむ、と考えるように銀の少女が顎を撫でる。

ここまでスラスラ話していたのにここに来て妙に歯切れが悪くなった。

今さら性玩具が欲しいだの、命令絶対服従の下僕のような女が欲しいと言われてもアーチャーは驚かない。

それはアレイスターも分かっているはずなのだが。

もしかして己の想像を超えた下賎で悪辣なことでも考えていたのだろうか?

そう勘繰っているとアレイスターはベッドに胡座をかいて、やおらこう呟いた。

 

「私の場合、求めていたのは寄り添ってくれる者であり暖かく送り出して迎えてくれる家族だった」

 

「家族、か?」

 

こくり、と頷く銀の少女。

予想以上にマトモな発言に思わずアーチャーは声がひっくり返るかと思った。

タチの悪いジョークを疑うもアレイスターは真剣そのものといった様子で話を続ける。

 

「私は元々金には恵まれても家庭に恵まれなくてね。父も妹も私を愛してくれていたが早々に逝去してしまった。残された母も縋るものが欲しかったんだろう、元々傾倒していた一神教にさらに力を入れ出した。別にほっとかれたわけじゃないが子供の時分にはそれが殊更異常に見えてな?それ以来あの宗教は肌に合わないし、それを信じる母もその周りも嫌いになっていった」

 

「それでも人間ってのは不思議なものでね。段々と歳を経るごとに私の中で、愛情への欲求は高まり続けていた。勿論、女も男もそれこそ腐るほど抱いたさ。しかしそれらはどこまでいっても生理的欲求を満たすものでしかない。早い話、愛の無い性行為をする相手は私にとって毎晩裏口に配達される牛乳と変わらないというわけだな。虚しさは片時も紛らわせなかったし、むしろ事後の人肌恋しさに苦悩したものだよ」

 

一々生々しい表現をする奴だ。

女も男もといった見境の無さもそうだが、仮にも一晩共にした相手を裏口に置かれる牛乳瓶呼ばわりするとは。

 

「一度でもいなかったのか?そんな汝の求めた相手は」

 

「いたとも。結婚もしたし子供も作った……だが大切な者ほど簡単に私の人生から零れ落ちていく」

 

翡翠の目がスッと翳りを帯びる。

 

「娘は死んだ。妻は私が壊してしまった。一度壊れた家庭はもう元には戻らない。だから私はここにいる」

 

救われない話だとアーチャーは思った。

こうまで普通の願いを抱えている彼女ですらそれを手にする事は無かったのである。

そこまで考えてふと気づく。

 

「どうして私達はこうも失われたものに目を向けることが好きなんだろうか。こんな話は無意味なのに」

 

銀の少女がカラリと笑った。

 

「未来が漠然としていて不安だからだろう。可能性なんてものはちっぽけな一人の人間にはスケールがデカすぎる。だから時々後ろを見て自分の踏み固めてきたものを見ていないと自分が今どこにいるのかすら分からなくなってしまうんじゃないか?ただでさえ人間というのは確実性を求める生き物なのだし」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものなのさ」

 

呟いてアレイスターはベッドの上から遠くの夜を眺める。

 

「この世界で生きていくルールなんて簡単なのにな。一つ、自分がこの世界に対し何か出来るなどと思い上がらないこと。私達が気にかけるほど世界は綺麗でもないし、私達の存在が世界にとってそこまで意味が有るワケでもない。二つ、多くの人と語らうこと。コミュニケーション障害なんて言葉が存在するくらい皆、人と関わり合うことを恐れがちだが私からすればまったくトンチンカンな話だ。どうせ他人の頭の中なんぞ分からない。せいぜい自分とおんなじだと割り切って関わるしかない話だ」

 

「……時々汝は鋭いことを言うな。まったく可笑しな話だ。人生経験なら私の方が上な筈なんだが」

 

「生きてきた年数は君より上さ。間違いなくな。それで何が出来たというわけでもないが」

 

どこまで本気か分からない言葉。

揶揄うように此方を見つめる翡翠の瞳に少したじろぐ。

 

「全ての男女は星である、だ。何もせずとも歯車は回っていく。残酷なまでに。まぁそれを正しく理解出来れば人生はそれなり以上に楽しく生きれるんじゃないか?」

 

まぁ私にはついぞ出来なかったことだが。

そう言ってまた笑う。

ある種の真理だった。

アーチャーには理解できない哲学ではあるが、それだけこの魔術師の人生にも色々あったのだろう。

その証拠に彼女の口元は笑みの形になっているが、アーチャーがそこから感じた感情は真逆だった。

 

(……難儀な奴め。笑っている時の方が寂しそうに見えるとは)

 

自分を蔑み、全てがばかばかしいとでもいうかのような笑み。

そんな翳りある態度を胸に押し隠してアレイスター=クロウリーはアーチャーの肩を軽く叩く。

 

「まぁその、アレだ……君はそうなるな」

 

普段なら聞き流す程度のとりとめもない会話。

しかしそれは鉛のように深く、そして永くアーチャーの胸に残ることとなる。

 

 

 

 

 

 




試験期間だったので更新遅くて本当にすみません汗

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