Fate/Apocrypha beast~TS変態オヤジの聖杯大戦~   作:あんぱんくん

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筆者の知識不足で本当にお目汚し失礼しました!


No.007 赤と黒の激突

1

 

 

 

 

「さて、さっそくで悪いが、君は圧制者だな?」

 

僅かに目を細めて目の前の巨人を見上げる。

ニッコリと笑いかけてくる赤のバーサーカー(スパルタクス)に対し、実際のところ黒のライダー(アストルフォ)はどう攻めようか考えあぐねていた。

ライダーと赤のバーサーカー。

二者の身体能力には圧倒的な差がある。

 

(正直、相性が悪すぎる)

 

屈強な肉体に加えて、そのタフネスっぷりは破格。

恐らく自分のでは傷を負わせることはできても、仕留めきれない。

 

「だけどまあ、ボクはこのために召喚されたんだし。しょうがないったらしょうがない!よーし、やってやるかッッ!」

 

顕現させた黄金の馬上槍を振りかざすライダー。

なんという蛮勇か。

彼はたったの槍一本で真正面から戦車の如き怪物と戦う道を選んだのである。

 

「遠からん者は音にも聞け!近くばよって目にも見よ!!我が名はシャルルマーニュが十二勇士アストルフォ!!いざ尋常に勝負ッッ!!!!」

 

さらりと告げられる真名。

それはサーヴァント同士の戦いにおいてそれは致命的なものである。

だが、そんな物を彼という英霊は端から気にしない。

 

その蛮勇に歓喜の咆哮があった。

 

「はははははは!!良い!その傲慢さは素晴らしいな!!さあ、私を踏みにじってみるが良い!!!」

 

応じる拳、高々と。

 

メキィッッ!!!!!

 

天高く振り上げられる巨腕があまりにも固く拳を握り締める。

 

叛逆(おやすみ)!」

 

真下にいるライダーに向かって巨大極まる拳が振り下ろされる。

 

「はッ!!!」

 

上段からの振り下ろし。

小さな体を押し潰しかねない赤のバーサーカーの凄絶な一撃をライダーは華麗に躱す。

 

ズガンッッッッ!!!!

 

「いッ!?」

 

想像が甘かったと言わざるを得ない。

 

直撃を避けたと思った直後、ライダーの身体は無様に宙へと投げだされる。

完全に躱した筈の一撃。

拳が地面へと与える衝撃で傍らにいた彼を巻き込み、吹き飛ばすなど誰が想像出来よう。

クラスターのように砕け散った大地の破片がライダーへと幾つも降り注ぐ。

 

「いよっと!!」

 

しかし、そこは彼も英霊だ。

手にした槍を振り回すライダーは飛来してくる破片を粉々に粉砕し空中で身体を捻ることで事なきを得る。

 

「ははは!」

 

次の一撃は小剣(グラディウス)

轟速で剣が迫る中、敢えてライダーは後ろでも横でもなく前へ跳躍した。

 

(まぁ、相手の間合いを外すにはこれしかないよねッ)

 

だがそれは赤のバーサーカーの腕そのものが届く距離ということでもある。

案の定、小剣をくぐり抜けた先に剛拳が襲いかかった。

ライダーはそれを紙一重で避け、カウンター気味に己の馬上槍を繰り出す。

 

「『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』!!!」

 

ライダーの持つ馬上槍(ランス)は殺傷する事を前提にしていない。

無論のこと槍は槍。

刺されば負傷もするし、心臓を貫けば殺しもするだろう。

けれど所詮はただのランスだ。

強化魔術が付与されている訳でもなく、あらゆるものを貫くわけでもなく、心臓に狙いを定める因果があるわけでもない。

しかし他の何よりもこの槍の力は戦場において致命的なものだった。

 

「むぅっっ!!!???」

 

ぐらり、と瞠目し崩れ落ちる赤のバーサーカー。

初めて彼の顔に喜色以外の色が浮かび上がる。

明確なダメージが入った訳では無い。

それでもその一撃は確実に彼から両足(・・)を奪った。

 

「この槍に触れるとね、強制的に足を霊体化させるんだ。凄いだろ!」

 

ふふん、と胸を張るライダー。

自分の自慢の一撃が決まり久々のご満悦だった。

しかし迂闊にも生きている(・・・・・)赤のバーサーカーの前で浮かれる彼は一つ大事な事を忘れている。

 

スパルタクスという英霊はこの程度で止めることは出来ないということを。

 

「愛ッ!」

 

こんなものは序章に過ぎないと言わんばかりだった。

ズシン!!!

地面へと繰り出される強烈な頭突き。

地盤が低く揺れる。

 

「……へ?」

 

あまりに唐突なその行為に、さしものライダーも呆気に取られる。

ズシンズシン!!!

続けて行われるのは地面への拳の連打。

考えてみよう。

本来なら子供が駄々を捏ねるような可愛らしいその行為。

しかしそんな行動すら赤のバーサーカーがやれば一つの脅威になるのではなかろうか。

 

「愛ッッ!!愛ッッッ!!!愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛ッッッッ!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!」

 

爆音が撒き散らされた。

土や木々が空高くへと飛ばされた。

発生した余波に爆風が吹き荒れ、ライダーどころか赤のバーサーカーの体まで十数メートル後ろへ転がされる。

 

「ちょっ……大分、想像以上過ぎるでしょこれ!!」

 

急いで立ち上がったライダーは地面に大きな亀裂が入っているのを見て顔を青ざめさせる。

傷つけられても傷つけられても回復する異常再生が恐ろしいのだと思っていた。

一撃でサーヴァントすら屠るに足る怪力が恐ろしいのだと勘違いしていた。

 

違ったのだ。

 

最も恐ろしいのはそんな複雑なことではない。

諦めないという思い。

たとえ何があっても撤退を試みず、ひたすらに敵へと進撃するその精神性を持つ敵。

それこそが本当に恐ろしい存在であるということに、ライダーはようやく気づいた。

 

「はははははははははははッッッ!!!良いぞ良いぞ良いぞ良いぞ!!!哀れな圧制者の人形よ。我が愛で滅びよッッ!!!!」

 

まるで羆の形をした猪の様だった。

直ちに赤のバーサーカーの直線上にある、あらゆる物が吹き飛ばされる。

木は這う腕に薙ぎ倒され、飛び散った瓦礫は膝に踏み砕かれる。

風景全てを破壊し這いつくばって進撃してくる怪物染みた姿に、ゾワッと背中を嫌なものが駆け抜ける。

 

(あ、これボク死んだかも……)

 

結論だけ言うとライダーは神に見放されてはいなかった。

 

ズガンッッッ!!!!!

 

止まらないかと思われた赤のバーサーカーの暴走が唐突に止まる。

 

「ナアアアアアアア────!!!!」

 

空から墜ちてきた黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)がその戦鎚で赤のバーサーカーの頭を地面へとめり込ませたのだ。

予想だにしない援軍の到着にライダーは安堵から思わずへたり込む。

 

「助かったぁ〜」

 

地獄に仏とはまさにこのこと。

一対一なら分が悪くとも二対一なら勝ち目は十分にある。

 

(しかも今の強烈な一撃で赤のバーサーカーは気を失っているみたいだし。これなら捕獲も作戦通りいけるかも。こういう時、日頃の行いって出るよねぇ)

 

仮に意識を回復させた赤のバーサーカーが暴れだしてももう問題は無い。

相手はライダーのアルガリアで足を霊体化されている状態だ。

これならただ敵に突っ走って来る赤のバーサーカーの攻略も容易い。

 

「よしッッよしよしよしよしッッッ!!!これで完全に形成逆転だよ!!!!」

 

 

────果たしてそれはどうかな?

 

 

独り言に返ってくる筈のない返事があった。

 

「ギャ……ッ!?」

 

声に反応した時にはもう遅い。

飛来する矢により腕を貫かれたバーサーカーが苦悶の声を上げる。

慌てて振り返るライダーはその視界の端に翠の獣が森の闇に飛び込んでいく様を僅かに捉えた。

 

「……赤のアーチャー!?」

 

恐らくだが赤のバーサーカーがやられると踏んだ上で機会を待っていたのだろう。

戦闘が有利に運び、此方が隙を見せる僅かな瞬間を。

そしてほんの些細な隙を好機とし、地面を滑る様に疾走しながら此方に矢を放ったのだ。

 

(……今の動き、完全に暗闇での戦闘に慣れてる感じだった。脚も恐ろしく速いし。こっちが完全に向こうを察知する前に森の中に身を隠すなんて並の芸当じゃ出来ない……そもそもアーチャーって接近戦より遠距離狙撃の方が得意じゃなかったっけ!?)

 

「ゥゥゥゥッッ……!!」

 

混乱するライダーの隣でバーサーカーが呻きながらも刺さった矢を引き抜き、放り捨てる。

 

「……ん?」

 

捨てられた矢に違和感を覚え、何とはなしに拾ったライダーは目を剥く。

 

矢は鏃どころか全体が黒く塗られていた。

 

夜間戦闘において、矢の接近に気づかれるあらゆる可能性を排除しようとした結果だろう。

どうにも最初のやり口といい、奇襲を好むその戦闘スタイルは弓兵というより狩人に近しいものを感じる。

 

(なるほどねぇ……ここは完全に向こう側のフィールドってわけだ)

 

静寂が痛い。

音が止まり、風の音だけが吹き抜ける。

何となくだが相手が直ぐ近くにいるという予感があった。

何処に隠れているかまでは分からないがサーヴァントの濃密な気配が森の中で息を潜めている、それが嫌でも分かるのだ。

スっと息を吸い、ライダー達は緊張を高めながら武器を闇へと構える。

 

────おいおい。汝らは何処に向けてソレを構えているのだ?

 

背後から呆れたようなケモノの声が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

咄嗟に相手に当たるよう振り回した槍が空を切る。

勿論、振り返ってもそこには誰もいない。

ただ静かな森の闇が立ち込めるだけだ。

 

────確かにその槍は脅威だが。当たらなければ意味は無いぞ?

 

今度は上から揶揄う様な声。

反射的に頭上を仰ごうとしたライダーは────その天性の勘で槍を持つ右手と反対の手を顔を庇う方へと動かした。

 

ザクッッ!!!

 

肉を裂く、嫌な音がした。

咄嗟に顔を庇った腕に矢が突き刺さる。

 

────ほう。頭を捉えたと思ったのだがな?良い勘をしている

 

再び射られる矢。

先程とは違う方角から声と共に放たれるそれは傍らのバーサーカーの脚を貫く。

 

「ァァアアアアアッッッ!!」

 

「ッ!大丈夫!?」

 

悲鳴を上げるバーサーカーに思わずライダーが気を取られる。

 

────他人の心配をしている場合か?

 

此方の動きを全て見透かすかのようだった。

嘲笑うような言葉と共に再び矢が走り、アストルフォの槍がその手から弾き飛ばされる。

 

「クソッ!!」

 

アサシンクラスの気配遮断スキルにも似たその接近は一向に存在を掴めさせない。

言い知れぬ不気味さに冗談抜きでライダーの全身の毛が逆立つ。

 

────締めだ

 

そんな中、勝ち誇った声と共に森の中から躍り出る者があった。

 

赤のアーチャー、アタランテ。

 

美しいギリシャの女狩人の姿が夜気を揺らして露わになる。

その弓に番えられた二本の矢は言うまでもなく此方の頭蓋を狙っていた。

 

「ナアアアアアアアアアオオオオッッッッッ!!!!!」

 

己の傷をものともせずに前に出るバーサーカー。

自死の危険も顧みず踏み出す一歩は狂戦士故に出来たことか。

咆哮と共に振り回された戦鎚が急所を狙った矢を見事に弾いてみせる。

 

「ははッ!その無謀、血で贖うがいい!!!」

 

数本の矢を口に咥えるとその獣は四つん這いになり、生い茂る木々を飛び交いながら二人に襲いかかろうとする。

無防備な背後から首を、死角から足を、真上から脳天を。

敵を点と定め、獣は立体的に駆け巡る線となる。

 

「させないよッ!!『恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)』!!!」

 

ライダーは待ってましたとばかりに声を張り上げる。

同時に腰にぶら下がった角笛が巨大化する。

 

それは音色を聞いた妖鳥が恐怖で逃げ出すという角笛。

 

龍の咆哮・巨鳥の雄たけび、神馬の嘶きに比肩するほどの魔音を発生させる純粋な音波による広域破壊兵器。

ライダーは大きく吸い込んだ息を角笛に向けて吐き出す。

 

「散れっ!!!!!」

 

ぶわぃあんッッッ!!!!

大気が震え、耳が遠くなるほどの音の爆発があった。

文字通り、音の衝撃波が壁となって赤のアーチャーの華奢な体躯に激突する。

 

「ぐッッ……!」

 

岩に背中から叩きつけられた赤のアーチャー。

めり込むように体が沈んだのは音の衝撃で岩全体が圧迫されたからか。

 

とはいえ彼女も戦闘のプロだ。ただでは転ばない。

 

新たに飛来する二つの矢が、頭を地面に叩きつけられ沈黙する赤のバーサーカーの両腕を穿つ。

 

「いい加減起きろ、愚鈍!バーサーカーならバーサーカーらしく果つるまで踊れ!役目を果たさぬかッ!!」

 

「……お、おお……」

 

ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこッッッ!!

 

泡でも吹き出るかのように肉が盛り上がり、ただでさえ太かった腕がさらに一回り大きく肥大する。

あまりにも悍ましく、僅かな滑稽さすら垣間見える異常回復にライダーは思わず息を呑む。

 

「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄々々々々々々々々ッッッッッッ!!!!!!!!」

 

直後に復活の咆哮があった。

赤のバーサーカーが上半身と首の筋力のみで頭に乗っているバーサーカーをオットセイのように振り飛ばす。

 

「ははははははは!!!我、勝利の凱歌を歌わん!!!!!」

 

声を轟かせながらゆらり、と巨人が立ち上がる。

 

そう。彼は立ち上がる事が出来た。

 

ライダーが霊体化させた筈の足、それが再び顕現し大地を踏みしめている。

 

「しまった……ッ」

 

宝具にて霊体化した足は一定期間を過ぎれば元に戻る。

今までの赤のアーチャーによる連撃はその時間を稼ぐ為でもあったのか。

 

殺気がピリピリと、届くはずの無いライダーの肌を刺す様な錯覚を生み出させる。

 

悪夢の暴走が、歪な形を取り戻して加速し始める。

 

 

 

 

2

 

 

 

 

赤のアーチャー(アタランテ)赤のバーサーカー(スパルタクス)が繰り広げる激戦。

遠目からそれを見ている者がいた。

それは草原での爆発に気を取られ完全に出るタイミングを逃した赤のライダー(アキレウス)である。

 

「なんつうか無茶苦茶だな」

 

二人の脳筋とも言える戦い方に思わず嘆息する。

黒のライダーの宝具に転ばされ足を霊体化されれば凶暴な両腕のみでやたらめったらに暴れ回る此方のバーサーカー。

弓兵だというのに接近戦での戦いで直に獲物を仕留めようとするアーチャー。

そのゴリゴリの戦闘スタイルにはさしものライダーも若干ヒき気味である。

 

「それにしても気付け代わりとはいえ、矢を射って起こすかね普通」

 

仮にもバーサーカーは赤側、つまり味方だ。

アーチャーにとって不利な戦況だったとはいえ、失神する駄馬への鞭にまるで容赦がない。

グズグズするなと言わんばかりのその行為は、女はおっかないという事実をライダーに再確認させていた。

 

そして彼は森に潜むもう一つのサーヴァントの気配の方を完全に失念していた────わけではない

 

「む?」

 

唐突とも言える視界外からの奇襲。

 

ガキィンッ!!

 

振り向きざまに向い来る黒のセイバーの『幻想大剣(バルムンク)』を『 宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)』で難なく受け止めたライダーがそのまま横に受け流す。

得物を食いそびれた大剣がライダーの真横の地面に小規模のクレーターを開けた。

 

「ほほぅ」

 

予想以上に重い衝撃に口元がニヤけるアキレウス。

完全な奇襲をあっさり流された黒のセイバーは内心驚愕しつつ、それでも無言で大剣による凄絶な剣撃を加え続ける。

大地が罅割れ、木屑と石片が周囲に舞う。

 

「ふむ……ッッ!!中々にッッ良い動きッッ!!!!」

 

品定めでもするような調子で鋭く重い斬撃を捌きながら、トロイア戦争最強の戦士は獰猛に笑った。

不意を突かれたというのに、この余裕。

絶対的な自信とそれに釣り合う実力はまさに破格である。

 

「……ッ!!!」

 

一際重い一撃を放つ為、黒のセイバーが大きく大剣を振り被った。

だがライダーとてヘラクレスと遜色ない実力者である。

何時までも防戦一方という訳がない。

 

「ンなもん無意味なんだよッッ!!!」

 

まるで傷つく事など意にも返さないような踏み込み。

脳天目掛けた一撃に対し、ライダーは打ち合うのではなく籠手を翳して受け止める。

 

「!?」

 

渾身の一撃は生身のライダーの躰に見事、防ぎ切られた。

その事実に相手の顔に驚愕の色が混じるのを見る。

やはり自分の一撃を無効化されて動揺している敵の間抜け顔はいつ見ても面白い。

 

「おらよッ!!」

 

狼の様に舌舐めずりをしたライダーはガラ空きの鳩尾に自慢の拳を叩き込む。

剣を受け止められた衝撃でたたらを踏む黒のセイバーにそれを防ぐ術はない。

結果、彼は呆気なく空に打ち上げられる。

 

しかし、違和感。

 

(なんだ……今の?めちゃくちゃ硬かったぞ(・・・・)

 

盾を素手で殴ったような違和感に眉を潜めつつ、それでも獲物を逃がさないとライダーは体を一瞬沈ませ、飛び上がる。

ひとっ飛びで人の背丈の倍以上の高さの木の枝に飛び乗り、再び跳躍。

ここまでの行動に伴った時間は一秒もない。

そもそもギリシャの大英雄には視界に入る全ての光景が自分の間合いであり、距離など関係無いのだ。

空にて体勢を立て直し、此方に大剣を掲げる黒のセイバーを射程圏に捉える。

 

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

 

咆哮と共に人の形をした脅威が「あらゆる時代の、あらゆる英雄の中で、最も迅い」という逸話に恥じぬ速度で、全てを貫く流星と化す。

 

────激突

 

音は消えた。

光が爆ぜた。

まるで空中をスライドするかのようだった。

重力を力業でねじ伏せた黒のセイバーとライダーが渾身の力で己の武具を叩きつけ合う。

それだけで爆風が生じ、再び二人を中心に発生したドーム状の衝撃波が周囲の全てを平等に叩き伏せていった。

 

「はぁっ!!」

 

「っらぁああッッ!!!」

 

お互いに、足場の無い空中戦。

重力落下の法則に従い、ニーベルンゲンの大英雄とトロイア戦争最強の大英霊は真下へと降下を開始する。

だが、そこで終わるほどサーヴァントの戦いは甘くない。

黒のセイバーが落下に構わず身の丈もある大剣を振るう。

ライダーが攻撃を受け止めたエネルギーを逆に利用して体を回転させ、更に強力な一撃を見舞う。

そのまま、鍔迫り合いながら地面に着弾する両者。

 

「無愛想……いや寡黙と言った方がいいのかね。なんで黙りなのかは知らないが、あんたは黙っていてもその剣はこれでもかってくらい俺に語りかけてくるぜ?戦いが嬉しい、殺し合いが楽しい、もっともっと刃を交えたいってよ」

 

着地した地面が弾ける中、至近距離で黒のセイバーに囁きかけるライダー。

やはりというか相手は無言。しかしミシリ、とその大剣の圧が目に見えて増え、ライダーの獲物を押す。

ズズン!!と特大の重圧が受け止める槍から腕、胴体、足へと走り抜け、ライダーを数センチほど地面にめり込ませる。

力で捻じ伏せられつつある事を悟ったライダーが薄く笑って囁いた。

 

「力技だけじゃ物事は上手く運ばんぞ?緩急をつけるってのは何事にも求められるモンなのさ。このように!」

 

唐突に己の槍を引くライダー。

勢いよく前のめりに倒れかけた黒のセイバーは無理矢理、体勢を立て直しつつ大剣を構える。

だが、その針の様に小さな間があればギリシャの大英霊にとっては十分だった。

 

「ふっ!!」

 

ライダーの息を吐く音が聞こえる。

その行為が力の『溜め』だと黒のセイバーが気付いた時にはもう遅い。

複数の爆音が炸裂した。

槍の苛烈な連撃による場の蹂躙、相手の視界は無数の光線に染まる事となる。

 

「ッッ!!!!!!」

 

咄嗟に黒のセイバーは苛烈な刺突の連撃をその巧みな剣技で捌こうとする。

だが、それはあまりにも無謀な策だ。

彼の武具は大剣、スピードで上をいくライダーの槍に速度が一歩追いつかない。

たちまちに鎧が削れ、その肉肌が露出していく。

 

「トロイア戦争で英雄達の血を吸い続けた槍だ。貴様如きを狩るのにそう手間は要らん!!!!」

 

更に深く一歩、相手へと踏み込む。

足の速さと絶妙なタイミングの合わせ技たる一歩は疾風の異名を持つ彼だからこそ出来た一踏みか。

大剣すら届くことの無い間合い、ゼロ距離。

完全に懐に入り込んだライダーの『宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)』が黒のセイバーの分厚い胸板の装甲を穿つ。

 

そして突き出した槍はそのまま鎧を強引に打ち破ってその皮膚を貫く……筈だった。

 

(あ?なんだよこりゃ……)

 

確かに肌の柔らかい感触は槍の穂先から伝わってきた。

だが、その先に槍が進まない。

岩を思いきり突き刺したように全く槍が刺さらないのだ。

手加減など勿論していない。

ライダーの一突きはその体を貫通させて余りある一撃だった筈だ。

例外があるとすれば、それは。

 

「……なるほど、同類か」

 

先ほどから感じていた違和感の正体が明確になる。

確かに不死身は何もライダーの専売特許ではない。

良く見れば、黒のセイバーの躰には傷一つなく己の放った今までの攻撃がほぼ全て無効化されている事に気がつく。

 

そして、脅威はそれだけに留まらない。

 

微かな風切り音と空気の揺らぎを察知した時にはもう遅かった。

久しく感じなかった鮮烈な痛みが肩に走る。

 

「ッ!?……マジかよ」

 

自身に矢が刺さった事実を受け止めライダーは静かに驚愕する。

宝具『勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)』。

それは全身にかかる不死の祝福、如何なる攻撃を受けても無効化する絶対防御。

踵という例外こそあるがそんなものは大英霊アキレウスにとって弱点ともならない些細なことだ。

射れるものなら射ってみろ、そんな不遜さえ持ち合わせていた。

 

しかし現実はどうだろうか。

 

己に放たれた矢は今までのサーヴァント達の攻撃とは違って神の守護を破り、己の躰に傷をつけている。

即ち、ライダーと同じ血統と実力を併せ持った同等の存在からの攻撃。

自分の体に傷をつける事が出来る敵の存在が現れた事に、ライダーが壮絶な笑みを浮かべた。

弱点程度では焦らない。

戦いとはそんなものではない

 

「良いねぇ聖杯大戦」

 

同じ不死身の英雄に、己の体に傷をつける事が出来る英霊までも存在する。

やはり今回の聖杯戦争は規格外と言わざるを得ない。

そして、そんな状況でライダーはこみ上げる感情を抑え込む事が出来なかった

 

「ハハハハハ!!!素晴らしい、素晴らしいぞ!!!オリュンポスの神々よどうかこの戦いに栄光と名誉を与えたまえ!!!!!」

 

不死の体が獰猛に震え、歓喜の咆哮が戦場を支配する。

 

 

3

 

 

 

無数の杭が踊り狂い、赤い閃光が夜の闇を払拭していく。

岩から岩へ、枝から枝へ。

木々を蹴りつけ森の中を恐ろしい速度で駆け抜けていく者達がいた。

赤く輝く大剣が悍ましい杭を打ち払い、数百もの杭が大剣から放たれる赤雷を塗り潰す。

 

黒のランサー(ヴラド三世)赤のセイバー(モードレッド)

 

平行するように移動しながら互いの力を激突させる両者の戦いに終わりはなかった。

 

「ただ闇雲に杭を生やすだけか?飽きたぞ、いい加減に」

 

風に乗って届く挑発の言葉。

そこに確かな嘲りを感じ取った黒の王を中心に、圧倒的な重圧が炸裂した。

自然とそれぞれの足が止まり、二騎の間で殺意が膨張する。

そんな空気の中、セイバーがにやにや笑いながら手の平を返す。

クイ、クイ、と人差し指だけを動かした手招き。

その相手の気分を逆撫でするような仕草に黒のランサーの眼が細められる。

 

「不敬な」

 

槍が地に突き立てられ、ドンッッ!!!という轟音と共に幾数もの杭が大地を砕いて現出する。

そのまま凄まじい勢いで伸長した数十の杭は所々で折れ曲がりつつ、様々な角度からセイバーを取り囲むように一斉に襲いかかった。

逃げ場など無い。

下手に直撃すれば鎧を粉々に砕き、その柔肌を血で染め上げるだろう。

しかし、そんな光景を前にしてもセイバーはつまらなそうに鼻を鳴らすだけだった。

 

「数で囲めば勝てるとでも思ったのか?この、オレに!!!!」

 

セイバーの剣が莫大な光を放つ。

たちまち森の暗闇が凄絶な赤で埋め尽くされていった。

迫りくる杭を薙ぎ払いながら、ドーム状の赤い光の嵐がどこまでも破壊の渦を広げていく。

あらゆる物を食い散らかす様はまさしく破壊の権化だ。

地表を舐め尽くす光の暴虐の後には土煙と粉塵が舞うだけで何も残らない。

 

「絶対的強者ってのは数なんぞに囚われねぇ」

 

土煙を裂いて現れたセイバーが『燐然と輝く王剣(クラレント)』を肩に担いで獰猛に笑う。

宝具開放ではない。

その剣にありったけの魔力を籠め、噴出しただけの通常攻撃だ。

それだけでこれほどの馬鹿げた破壊を巻き起こす。

かのキング・アーサーに比べれば些か見劣りこそするものの、赤のセイバーであるモードレッドもやはり規格外の英霊であった。

 

「小娘が囀りよるわ。勝ってからものを言え」

 

とはいえ黒の王であるヴラド三世も十分に規格外である。

あらかじめ地脈を確保し、スキル『護国の鬼将』によって作成された半径一キロメートルにも及ぶ広大な『領土』。

そしてその領土内において呼び出せる杭の数は最大二万本という桁外れな数字を誇っている。

故に、矛であり盾である数の暴力を従えた王の顔に焦りはない。

 

「そうさせて貰うよッッ!!!!!!」

 

凶暴に歯を剥き出したセイバーが黒のランサーの懐に真正面から踏み込むべく、大地を蹴って飛び出した。

その突貫は音速の壁をいとも容易く突き破る。

砕けた大地の破片が周囲を飛び交い、大木が次々と薙ぎ倒されていく。

 

「────壁よ」

 

即応だった。

黒のランサーが槍を凪ぎ、大地が不気味に揺らめく。

ドドドドッッ!!!と周囲から大量の杭が噴き出し、その身を守るように渦を巻いた。

それを見たセイバーが下から上に剣を寝かせて勢いよく振り抜く。

空気が爆発した。

莫大な衝撃波と赤雷が黒のランサーに鉄砲水の様に突っ込み、数百もの杭をゴッソリと削り取る。

しかしそんな破壊に意味はない。

ホムンクルス達がいる限り、その魔力が無限に近い黒のランサーは杭を再生し生み出し続けられる。

後から後から湧いて出てくる杭の濁流。

その圧倒的な物量は喰らいつく破壊の光を、あっさりと喰い潰していった。

 

「なるほど?気軽に破るには少々分厚い壁だったようだ。だが叩き壊せないほどではないぞランサーッッ!!!」

 

「────大地よ」

 

黒の王が手を掲げ、その身を守っていた杭の渦が音も無く天へと翔け上がっていく。

一定の高さまで達したそれらは均等に円形に広がり、見る者に恐怖と精神的圧迫感を与える絶望の巨傘となった。

 

「ちッッ!!!」

 

その意味を悟ったセイバーが歯噛みしながら、射程内から逃れようと後方へ跳躍しようとする。

 

「天よ!!!!!!!」

 

振り下ろされる手。

爆発的な射出があった。

先程のような様々な角度から小さな獲物を狙う仕様ではない。

標的は点ではなく面。

セイバーを含む一帯へと、杭の豪雨が四方八方無差別に撒き散らされていく。

 

「クソッたれッッ!!!やっぱりそうきやがったか!!!!」

 

絨毯爆撃のようなその攻撃に対して逃げるのを諦めたセイバーが『燐然と輝く王剣』を握り込み、ジャイアントスイングでもするかのように一回転した。

凄まじい速度で振るわれた剣が空気を攪拌させ、ソニックブームを引き起こす。

一泊遅れて爆音が轟く中、数百数千の杭が形を奪われながら吹き散らかされていく。

 

「ハッ!しけた棒切れ共だぜ。一人前なのは格好だけか?」

 

土砂降りの杭を打ち払ったセイバーがせせら笑う。

そして黒のランサーも一々そんな軽口に応じる事は無かった。

激情を押し殺した声が重々しくその真名を謳う。

 

「────『極刑王(カズィクル・ベイ)』」

 

ぞぞぞぞぞぞぞぞっっという気味の悪い音と共に、吹き払われた杭達が分裂し増殖しながら空で再集結していく。

黒の王の意思に沿って自由自在に動き、速やかに侵略者を葬る人災。

数百数千の杭が彼の手の動きと連動し、天をのたくり蠢き出す。

その悍ましい光景は意思を持った凶悪な龍を想起させた。

 

「露骨な野郎だ。自己紹介のつもりかよ、くだらねぇ」

 

「杭の群れに限度は無い」

 

吐き捨てるセイバーに黒のランサーがうっすらと微笑みかける。

グバァ!!!と、大きく展開される杭の群れが目の前の叛逆者を呑み込まんと牙を剥く。

 

「────己を追い立てる恐怖が真実無限であると絶望し、己の血で喉を潤すが良い」

 

宣言と共に。

音速を超える速度で、杭の群れが大地にいるセイバー目掛けて殺到した。

数ある杭の内、一発の余波だけで生身の人間をグシャグシャに破壊するだけの威力があると見て良いだろう。

即座にガトリング砲を一発一発丁寧に弾くような神業が実現される。

 

「ッッッ!!!」

 

ドガガガザザザザガガガギギギギギッッッ!!!!!!!

無数の火花が散っていく。

地盤そのものが低く揺さぶられ、セイバーを支える地面に大きな亀裂が入る。

弾いて逸らされた杭達がその背後にある木々を粉々に爆散させた。

 

「こんなん自然破壊も良いところだぞ、ちくしょうめ!!」

 

全身を覆う鎧がところどころ砕け、傷つけられた柔肌を外気に晒している。

杭の一本一本が生物のように動き回るため、全てを完全に捌き切れた訳ではない。

致命傷は尽く避けたが、それで精一杯といった所か。

迎え撃つ事が出来ても反撃に転じる余裕がないことに密かに歯噛みするセイバー。

 

「先程から面白いほどに神懸ってくれるが……君の魔力供給はいつまで持つ?そろそろ限界ではないのかね」

 

対照的に傷一つない黒のランサーはにこやかに笑いかけてくる。

明確な疲労があった。

向こうのランサーはともかくとして、セイバーの魔力の根源は獅子劫ただ一人。

スタミナには限度がある。

このまま削り取られていけば、確実に消耗したセイバーは致命的な一撃を喰らう羽目になるだろう。

 

 

 

────……

 

 

 

『戦況は上々。アーチャーも己のスキルを上手く利用して立ち回っている。それにしても黒のバーサーカーの登場が予想以上に早いな……令呪でも使ったか?まぁ良いか。この程度ならいくらでも調整は効く』

 

片手に揺らす黄金の杯の向こうでは続々と怪物達が集結していく。

錚々たる面子による周囲への影響を無視した乱癡気騒ぎにため息が出ないでもないがこんなものだろう。

 

『それにしても、だ』

 

銀の少女は死骸のような笑みを浮かべる。

 

『予想以上に魔術の妨害が強いな。本来ならゴーレム兵は既に此方が掌握していても不思議ではないが……これはカバラの元祖様が関わっているかな?』

 

『……何でも良いが。独り言を念話でブツブツ呟くな、気が散る』

 

うんざりとした声が念話越しに届く。

自分に関係のない独り言が念話からたれ流されるのだ。

戦闘中の赤のアーチャー(アタランテ)からすればさぞ迷惑だろう。

だがそこは人の事などミジンコ一匹足りとも考えていないアレイスター、反省などするわけもなかった。

 

『そう言えば出る直前、頼んだブツはどうした?』

 

当然といえば当然の苦言を難なくスルーして自分の要望をぶつけてくる銀の少女。

度重なる理不尽で慣れてしまったのだろう。

謝罪の言葉など端から期待していないアーチャーが嘆息混じりに返答してくる。

 

『はぁ……汝のバッグに入れておいた。私を家政婦代わりにするのは百歩譲って構わないとしてもだ。せめて自分が持ち出す物くらい確認しておけ阿呆』

 

『わかったわかった』

 

お小言を聞き流し、杯を傍らに置いたアレイスターはバッグを開く。

なるほど。注文通りノートパソコンとその他必要な物一式が揃っている。

 

『君は優秀だな』

 

『本当にそう思うのならいい加減、此方の待遇の改善を聞き入れて貰いたいものだが?』

 

『それは機会が出来たら前向きに検討しておこう』

 

いつ果たされるのか分からない約束を適当にしてアレイスターはノートパソコンの電源を入れる。

今のままではチェックメイトを決めるのに、些か手持ちが心細い。

何より、腕っぷしで何でも片付けるのはスマートさに欠ける。

文明人ならば己の流儀に美意識を持つべきだ。

細い指が忙しなく動き、即座にモニタの中央に普通のインターネットの画面が立ち上がる。

 

『電波は繋がっているな?よしよし。無線LANが使えるかどうかは賭けだった』

 

そのままアレイスターは一時サーヴァント達の戦闘を放り出し、ネットの海を彷徨う。

ユグドミレニアが管理していると思わしきシステムは大体此方に来る前に候補を絞っていたので行き着くのは容易い。

 

『問題はそのシステムが一般人に閲覧できるようにはなっていないということか』

 

黒の陣営の心臓ともいえる情報を一般公開なんぞするわけがないのは明白だ。

そこでアレイスターは外部の商人達と情報交換するための窓口に目を付け、そこからシステム内部への侵入を試みる。

 

目的はユグドミレニアに関するすべての情報の入手。

 

そして現在、アレイスターが行うべき事は典型的なパスワード解除だ。

数字や記号が乱雑に並ぶ情報の渦へ飛び込む。

表面には見えない情報を表に持ってきているといえば分かりやすいだろうか。

これ自体はコンピューター上で普通に処理されている事柄に過ぎないのだがそれを素人は知らない。

 

『ふむふむ。見ぃつけた☆……解除完了と』

 

パスワードの入力画面と格闘すること数分、思いの外に早く作業を終えられた銀の少女はにんまり微笑む。

ネットのセキュリティは正直ありきたりなものばかりでまったく歯応えがなかった。

魔術師もどんどん時代に置いていかれている良い証拠なのかもしれない。

そんな事を考えながらアレイスターは情報の収集を開始する。

タブキーや様々なショートカットを駆使してのハッキング。

指先一つで電子の海を高速で掻き分けていくアレイスターの視線が同じ画面に数秒と留まる事は無い。

 

『……ん?』

 

『どうした?』

 

キーを打つ手を緩めぬまま、アレイスターの眼が細められる。

ダーニックの個人的な資産からの出費に大きな変動があった。

今までも莫大な出費はあったが、正直比べ物にならない。

使用された金額はダーニックの全財産のうち三割に及んでいた。

 

『ここ三カ月ほど高額な金のやり取りが続いているな……明らかに石材、木材、鉄等の流通が増えている』

 

物流に不穏な流れを嗅ぎつけたアレイスターがさらに画面を操作すると、新しいウィンドウに乱雑な数字が表示される。

高速でスクロールし、正しい形式に変換され現れたのは商品リストだった。

得た情報をその頭脳で多角的に分析し、明確かつ有効な情報へと統合処理していく。

 

『これ、は…ゴーレムの材料?……にしては素材の数が桁違いだ。生きている物がリストの大部分を締め括っているのも気になるな。普通のゴーレムの素材にしては不自然極まりない』

 

次から次へと現れる情報を目で追いながら、訝しげな声を上げるアレイスター。

 

『……恐らくだが宝具であろ。単体の英霊が所有するには余りに巨大な物や未完成であるが故に伝説に刻まれた代物は、時に現在の物質を使って製造する必要があると聞く』

 

電動ミシンを思わせる速さでキーを打つ手がある画面で完全に止まった。

画面に表示されている項目は黒のキャスターであるアヴィケブロンの宝具について。

やるべきことが明らかになったとばかりに銀の少女の口が三日月に歪む。

 

『ドンピシャだよ、アーチャー』

 

宝具は通常、既に完成したものであり、発動する際に必要とされる条件を除けば、宝具そのものに必要な素材など存在しない。

 

しかし何事にも例外はある。

 

「……原初の巨人か」

 

これほどの金が動くのも納得というものだ。

 

なにせカバリストの悲願であるそのゴーレムは、まさしく原点であり頂点なのだから。

 

 

 

 

 


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