Fate/Apocrypha beast~TS変態オヤジの聖杯大戦~   作:あんぱんくん

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めちゃくちゃ投稿遅れたことをおわびします。


No.008 不死身のアキレウス

1

 

 

 

城塞の一室に籠って今後の策を練っていたダーニックは莫大な力の圧を感じ取り、窓へと思わず駆け寄っていた。

サーヴァントの戦いを眺めるなら七枝の燭台があるので本来そうする必要はない。

しかし、分かっていてもその光景を肉眼に収めようとダーニックは思わず駆け寄ってしまう。

 

「素晴らしい……」

 

龍の如く荒ぶりながら夜空をのたくる杭の群れを目の当たりにしたダーニックの喉から感嘆の声が漏れ出る。

禍々しい杭の奔流。

黒のランサー(ヴラド三世)の『極刑王(カズィクル・ベイ)』。

ルーマニアを守り抜いた鬼将の象徴。

 

「こちらはまだまだ余力が残っている、か。加えて切り札もこの手に。まぁランサーの領土がルーマニアである限り私の勝ちは揺らぐまい」

 

戦況は間違いなく地力が上である此方のランサーが有利である。

そうである限り戦いに口出しする気はダーニックになかった。

サーヴァントの事はサーヴァントに任せる。

自分は息を殺して見守るだけだ。

 

『報告。激戦区から少し離れた崖にて赤のマスターの一人を捕捉。特徴は銀の髪、背丈は小柄、性別は女。歳は十代前半だと思われる』

 

念話の主は黒のキャスター(アヴィケブロン)

ダーニックは天空へと向けていた視線を己の手元にある資料に落とす。

 

『妙だな。時計塔に潜り込ませていた血族からの名簿にはそのような特徴の者はいない』

 

女性というだけでも候補は二人に絞られてくる。

 

疾風車輪(ジーン・ラム)』、『冠位の魔術師(蒼崎橙子)』。

 

二者ともに歴戦の猛者、おまけに片方は悪名高い元封印指定。

最初この書類に目を通した時、ダーニックは自分の顔から血の気が引いたのを覚えている。

それはそうだ。

時計塔でこそ彼は蒼崎橙子と同じ冠位(グランド)であったが、彼の本来の実力は色位(ブランド)

自分は亜種聖杯戦争の乱発による魔術師不足という情勢を利用して更に上の称号を取っただけの偽物で、その実力は本物の冠位(グランド)には及ばない。

幸いな事はキャスターが捕捉した少女の特徴はその二人のどちらにも当てはまらないということだろうか。

 

というよりも────

 

『十代前半で聖杯大戦に?いくら何でも若すぎるだろう?』

 

『此方にもロシェがいる。別段珍しいことでも無いだろう。それに若いが腕は確かだ。令呪の存在も確認済み。向こうで手違いがあったのでは?』

 

確かにその可能性はあった。

ダーニックも一回、在学中の蒼崎橙子を相手に教鞭を振るったことがあるから分かる。

あの猫のように気紛れで冷酷な女なら聖杯戦争を他者に放り投げて自分は外野からその行く末を高見の見物するくらい平気でやる。

というよりそっちの方が彼女に抱いた印象としては合致するのだ。

 

『それにしてもよく見つけられたな』

 

『此方のゴーレムを乗っ取ろうとしていたのかな?呪詛をけしかけてきていたのでそれを逆探知させて貰った』

 

恐らくはサーヴァントに好きにやらせ、自分も裏からゴーレム兵の主導権を乗っ取って場をかき乱す腹だったのだろう。

率直に言って相手が悪い。

ゴーレム兵を操っているのはカバラの元祖たるアヴィケブロンだ。

此方がキャスタークラスのサーヴァントである以上、人間の魔術師ではそもそもの勝負にすらならない。

 

『それにしてもやり方が青いな。攻勢に出るのも良いがそれで要石であるマスターの居場所が割れてしまっては元も子もないだろうに。戦闘はサーヴァントに任せて大人しくシギショアラでふんぞり返っていればいいものを』

 

『若人はそんなものだろう。さて、僕は城の守りを固めているし、サーヴァントの方も手の空いている者はいない。君の方で煮るなり焼くなり好きにしてくれ』

 

了解の旨を伝え、ダーニックは念話を切る。

 

「取り敢えず一名脱落、と」

 

唐突に舞い込んできた朗報にふぅ、と息をつく。

別に取らぬ狸の皮算用という訳でもない。

確かに己の実力は冠位の化け物達には届かないが、それでも蒼崎橙子を除いた赤陣営のマスター全員を相手にして尚、勝利する確信があった。

 

(なるべく危険は犯したくはない。だがマスターを単独で撃破する好機をみすみす逃す手もない。難しいところだな)

 

苦笑しつつダーニックは窓からその身を躍らせた。

まるで階段を下りるように空中を踏みしめ地面に向かう。

正門前には既に複数のゴーレムを引き連れたホムンクルス達が整列していた。

そのうちの一人が淡々と『確認』を取ってくる。

 

「標的以外の部外者が作戦内に入ってきた時の対処は?」 

 

「勿論、全員消せ」

 

回答までに一秒すら存在しなかった。

一片の情すら窺うことが出来ない酷薄な横顔からは、普段の紳士然とした雰囲気は微塵も感じられない。 

 

「視界に入ってきた人間は敵マスターもろとも粉々にしてやれ。神秘の隠匿は重要だ。ちゃんと守らねば、な」

 

了解、と答える声もまた躊躇が無かった。

彼らに何かを躊躇ったりする感情は入力されていない。

ホムンクルス達は戦えと言われればどんなに分が悪い戦いにも赴くし、死ねと言われれば死ぬ。

そういう風に設定している。

そして侮るなかれ。

彼らはアインツベルンの技術を盗用して造りだした戦闘用ホムンクルス。

その近接戦闘能力及び魔術戦の能力だけで言えば、そこらの魔術師よりも遥かに上である。

 

「さて諸君」

 

含み笑いすら交えて、百年を魔道に生きた怪物はこう告げた。

 

「────狩りの時間だ」

 

 

 

2

 

 

 

 

「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄々々々々々々ッッッッ!!!!」

 

馬上槍で突っ込む黒のライダー(アストルフォ)に対し、赤のバーサーカー(スパルタクス)が大木を引っこ抜き横薙ぎに振るう。

 

「はっ!!」

 

バットの様に振られた大木をものともせず正面から刺し貫く馬上槍。

しかし、その木に刺さった獲物を引っこ抜く間を与えるほど赤のバーサーカーも甘くはない。

即座に砲弾のような剛拳が繰り出された。

咄嗟にライダーを突き飛ばし黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)が代わりにその拳を真っ正面から受け止める。

 

「グゥッ!!」

 

彼女の口から溢れ出る血を見て、ライダーは思わず声を上げる。

 

「ちょっとそれ大丈夫なの!?」

 

大丈夫ではない。

衝撃を完全に殺しきれていないのだ。

凄まじい打撃に胸骨が軋むのを感じたのだろう。

バーサーカーはその腕に体を巻き付ける事で衝撃を逸らし────

 

「ナァァァァァァァァッッッッッ!!!!」

 

そのまま背負い投げの要領で赤のバーサーカーを振り回し力任せに地面に叩きつける。

 

「はっはァッ!!もっと!もっとだァァァァッッッ!!!!」

 

咆哮に咆哮を返し赤のバーサーカーは倒れざまに腕を横薙ぎに一閃。

思わず距離を取るバーサーカーに対して、その丸太の様な怪腕を振りまわし砕いた岩礫での波状攻撃を見舞う。

 

「うわッ!ちょっと!?」

 

突き飛ばされたお陰か、ある程度離れていた距離。

それでも十分射程範囲だ。巻き込まれては堪らない。

即座に後方に飛びさすり、まだ辛うじて残っている大木を弾除け代わりにしてライダーは盛大にため息を吐く。

 

「もぉーこれじゃあジリ貧だよ!足を無くしても暴れるし叩き潰しても直ぐに回復するし!一体全体どうしろってのさ、あんなデカブツ!」

 

ちらりと赤のバーサーカーの方を木陰から覗けば、バーサーカーが一人であの巨体を相手に奮闘している。

状況は五分。けれど赤のバーサーカーはどういったワケか傷つければ傷つけるほどにその力を増していく。

均衡が崩れるのも時間の問題だった。

 

「……おっと」

 

唐突に木からこっそり出していた顔を引っ込めるライダー。

 

────ボヒュッ!!

 

風を切る音が静かに響く。

それと同時に、先程までライダーの顔があった位置を轟速の矢が突っ切っていった。

 

(こっちのアーチャーもほんっとに面倒臭い。慎重派なのか知らないけど滅多に突っ込んで来ないし。その癖、嫌なタイミングでちょっかい掛けてくる。こういう相手が一番やりにくいよねぇ)

 

接近戦ならまだしも相手は夜目に慣れた弓兵。

このままいけば間違いなくなぶり殺しにされる。

 

(これはちょっと相談(・・)が必要かなぁ?)

 

赤のアーチャーが詰めてきても対応出来るよう、周囲に気を配りつつライダーは城塞にて狙撃を行う黒のアーチャー(ケイローン)へと念話を飛ばす。

 

『ねぇケイローン。そっちの景気はどう?』

 

『良くはないですね。それとライダー?真名は言うなとあれほど言った筈ですが』

 

『念話なんだから堅いこと言わない!』

 

それもそうですか、と向こうで相手が諦めの溜息を吐く。

何事にも諦めは肝心だ。

特に重要な局面では。

 

『それでご用件は?』

 

『うん。森の中に潜んでる赤のアーチャーが五月蝿い。何とかならないかな?』

 

『……私は向こうのライダーの相手もしているのですが。君は忘れているかもしれませんがね』

 

『それは分かってるさ。だから一瞬でいい。一瞬でも奴の気をそらしてくれれば、後はこっちで方をつけるから』

 

それはまるで『食器の片付けは後でやっておくから』とでも言うような呑気な調子だった。

しかしその言葉の裏にある不穏なものを感じたのだろう、電話越しのアーチャーがわずかに沈黙する。

 

『何をするかは知りませんが、無茶はやめてくださいね』

 

『無茶なんてしないさ。ボクは(・・・)ね』

 

そう言ってほくそ笑むライダー。

向こうもそれ以上は追求しようとはしなかった。

同じサーヴァントである以上、戦闘方面にはそこまで口出しする気はないのだろう。

 

『はぁ……分かりました。タイミングはどうします?』

 

『それはボクよりケイローンの方が得意だろ?そっちに任せるよ』

 

了承の返事を聞き念話を切る。

 

「うーん、コイツは結構魔力吸うから本当は使いたくなかったんだけど」

 

とはいえ、事態を打開するにはこの一手は必要不可欠だ。

相手がキャスタークラスならまた違った対応も出来るのだが、その点も含めて今回のライダーは運が無かった。

 

「まぁ無い物ねだりしてもしょうがないっか!」

 

気合い注入。

己の頬を叩き、ライダーはニンマリと口角を吊り上げた。

 

 

────……

 

 

「化け物め。加減というものを知らんのか」

 

大木が何本か吹き飛び、吹き荒ぶ衝撃波は味方である赤のアーチャー(アタランテ)すら思わず手で顔を庇う程、しかしそう呟く彼女も十分化け物だ。

時速100キロメートル以上もの跳躍高速移動。

弓に矢を番え、姿勢を微塵も変えることなく放つ。

一射。二射。気配を感じとるのとほぼ同時に前方の敵影に放たれる不可視の矢はそれだけで敵を混乱に陥れる。

 

「とはいえだ。いい加減、敵も慣れて(・・・)きたな」

 

最初の一矢で仕留められなかった時点で奇襲は奇襲でなくなる。

その証拠に黒のライダー(アストルフォ)黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)は明らかに此方の弾道を予測し最小限の動きで避けながら赤のバーサーカー(スパルタクス)へと迫っている。

これは自分の失態だ。

内心そう恥入りつつ、それでも冷徹に次の矢へと手を伸ばし弓を引き絞る。

 

「次弾、次々弾準備────装填(セット)

 

鏃に篭められる魔力。

狙いは必中。

威力は直撃すれば今回の聖杯大戦において、最高の物理防御力を誇る赤のランサーも無傷ではいられまい。

 

「双星、射ッ!!」

 

放たれる二矢、風よりも速く。

獲物がどれほど機敏に動こうと関係はない。

魔力の軌道操作で自在に蠢くこの矢は必ずその急所を狙い穿つ。

 

────その筈だった。

 

「なんだ、と?」

 

まだアーチャーは聖杯大戦というものを理解していなかったのかもしれない。

戦う相手が真実、本物の英霊であるということを。

自身と同等の力量を持つ弓兵がもう一騎、敵方に居るという可能性があるということを。

 

「……っ」

 

暫しの忘我。

信じ難い事実、しかし結果は撃ち落とされた矢が無慈悲に物語っている。

無論、相手が躱したり防御したりした結果がこれならばアーチャーもそこまで驚くことは無かっただろう。

 

しかし今回のそれは、そのどれとも決定的に違い、異質なものだった。

 

「我が矢を狙って、撃ち落としただと!?」

 

生前にすら存在し得なかった恥辱。

自身が狙いを定めて放った矢を第三者に撃ち落とされるなどあっていい出来事ではない。

 

そしてもう一つ重要な事がある。

 

己の矢がここまで正確に迎撃されたのだ。

ならば当然、此方の居場所も割れているということ。

 

────バサリ!

 

「なに?」

 

それは突然だった。

背後からの羽音。振り向けば視界いっぱいの灰色が。

 

「ッ!?」

 

爆ぜる空気。

繰り出される馬のような蹄に身体を蹴飛ばされたのだと分かったのは猛烈な蹴りを食らって宙空に投げ出された後。

何事かと前を見れば鷲の翼が森の影に隠れるのが見える。

 

「獣!?」

 

一瞬の混乱、そして視界の隅を過ぎる影。

背後の枝へと跳躍しつつ射撃。避けられる。

予想よりも速い。

敵が追い縋ってくる気配を本能で察知し、すかさず枝を蹴りつけ前へと突貫する。

 

すれ違いざまに一射。

 

「……なるほどな」

 

矢を射る際にチラリと見えた標的。

大気に混ざって溶ける独特な気配に鼻を鳴らす。

 

一泊置いて、ズン!!と地面に降り立った影。

 

バサリと広げられる鷲の翼にアーチャーはほう、と感嘆の息を吐いた。

 

「上半身は鷲、下半身は馬。グリフォンと雌馬の間に生まれた幻想種ヒポグリフ。こんなものまで出てくるとはな」

 

猛禽類特有の鉤爪のような嘴、知性すら感じさせる鋭い眼光。

正真正銘の幻想種の登場にさしもの女狩人も驚きを隠せない。

 

「神代の忘れ形見、非常に誇り高いがグリフォンのように気性は荒くない。私も生前はよく見たが……さしずめ黒のライダーの馬といったところか」

 

油断なく矢を番え────違和感に気づく。

右腕に痺れるような熱が残っている。

視線をやればアーチャーの篭手に守られた細い腕が肉ごと抉られ、痛々しい三本の獣傷を外気に晒していた。

 

「ッ……獣めが」

 

此方の不利を悟ったのだろう。

甲高い鳴き声と共に突進してきたヒポグリフが前脚の鷲のような鉤爪を振り下ろす。

上半身を軽く後ろに傾け、それを回避。

カウンターでその側頭を蹴り飛ばす。

 

「悪いが素手でも強いぞ?私は」

 

マトモに直撃した影響でよろけるヒポグリフに更に蹴りを見舞おうと踏み込むアーチャー。

それに対し、ヒポグリフは大きく両翼を広げ地面へと叩きつける。

 

「むッ!!」

 

巻き起こる突風。

竜巻にも似たそれは小規模とはいえアーチャーを吹き飛ばすには十分だった。

即座に空中にて体勢を立て直し、着地と同時に近くの茂みへと飛び込む。

 

「やはり弓を引けないのは痛いな」

 

あまり気は進まなかったが仕方がない。

即座にマスターとのホットラインを開通。

 

『すまない、マスター。少しドジを踏んだ』

 

『どうしたね?』

 

『商売道具の右腕を潰されて弓が引けない。素手でも何とか出来ると思うたが考えが甘かった。何とか出来るか?』

 

『君に傷をつけるとは獣のくせに存外にやる』

 

揶揄うような念話と共に少なくない魔力が流れ込み、立ち所に腕を修復。

これで一先ず問題無し。

大きく息を吸い、肺に空気を送る。

 

「さぁ久々の幻想種狩りだ、気張っていこう」

 

 

 

3

 

 

 

 

 

『何をしているセイバー!!!奴には傷一つついていない!宝具だ!宝具を使え!!!』

 

幾度となく念話で届けられるマスターからの提言。

本来ならば命令無視など有り得ない。

しかし、今この瞬間だけは黒のセイバー(ジークフリート)も黙殺せざるを得なかった。

赤のライダー(アキレウス)が持つその傷一つつかない無敵さの謎が分かっていないのである。

 

宝具を使えば最悪、真名を露呈させただけの愚か者になるだろう。

 

「……」

 

分かって欲しい、と思う。

通常ならば言葉を尽くしてでも説明するべきなのだが、生憎とそんな余裕はなかった。

 

(……厳しいな)

 

恐らく赤のライダーは本気を見せていない。

何をしてもその身体に傷一つつかないのだ。

明らかに自分の宝具と同等の力ではないだろう。

恐らく一段か二段、格上の力あるいは加護。

今でこそ黒のアーチャー(ケイローン)による援護射撃で意識を分散させどうにか対等に持ち込めてはいる。

しかし、仮に切り札である向こうの宝具が此方の竜の血を上回るものであったなら直ぐ様均衡は崩れ去り、凄惨な蹂躙劇へと移り変わるだろう。

 

そんな状況下で宝具解放────つまり真名を晒せばどうなるかは言わずもがな。

 

赤のライダーを仕留める為に打つ手としては圧倒的にデメリットの多い話だった。

 

「つぅおらぁッッ!!!」

 

ドッパァアアン!!!

爆音が炸裂する。

禿げ森の大地、その中心で互いの武器を相手に叩きこんだままの姿勢で固まる二人。

赤のライダーの槍による刺突は穂先をセイバーに掴まれた形で失敗している。

その一方でセイバーの大剣は赤のライダーの首元へと叩き込まれていた。

 

「死ぬぜ?」

 

超然とした表情で苦悶の表情をしているセイバーを見下す赤のライダー。

やはり、当然のようにその体に傷は無い。

首を刎ねて余りあるその一撃は、赤のライダーの不死身の前ではたった一滴の出血すら許されなかった。

そして彼によって突き出されたもう一方の剣。

セイバーは咄嗟の機転で死角からの剣撃を空いた手で真横に弾いていたが、代償にその腕はゴルドの治癒魔術でも数分はかかる程に損傷していた。

 

「底は見えた。お前の刃が俺に届くことは無い」

 

首に大剣を押し当てられたまま赤のライダーは表情を変えずに言う。

何でも無い素手でその刃を掴もうと赤のライダーが手を伸ばし、急いで後ろに後退するセイバー。

そのまま僅かに距離を開けると、セイバーは再び前方に飛び出した。

 

「はァァァッッ!!!!」

 

咆哮と共に凄まじい速度で展開される斬撃の蹂躙。

それを赤のライダーは細い剣で捌きながら、同時に心臓を貫こうと槍を突き出す。

音速の刺突を紙一重で躱すも、セイバーの表情は依然晴れない。

実際、今のはたまさか運が良くて死を免れたというレベルの、奇跡に近い回避だった。

 

「ぬんッ!!!」

 

セイバーが中段の蹴りで赤のライダーの体を蹴り飛ばし、距離を取る。

同時に魔力をありったけ叩き込んだ剣を、弧を描くように振り回した。

放たれた斬撃が橙色の魔力を周囲に噴出させながら宙にいる赤のライダーを襲う。

 

「しゃらくせぇッッ!!!」

 

バランスを保ち難い空中だろうと関係はない。

槍による豪快な一振りが、魔力を纏う斬撃を相殺し霧消させる。

そのまま危なげなく地面に着地した赤のライダーは愉しげに笑った。

 

「不死身同士の戦いはキュクノスの野郎以来か?久しぶりに歯応えがある」

 

直後にお互い前に飛び出し臨む超接近戦。

赤のライダーの細槍が風を切り、セイバーの大剣が唸る。

ドッ!!と轟音が炸裂し、大英雄達が鍔競り合った。

 

「ォォォォッッ!!!」

 

セイバーはそのまま固く握った岩のような拳を己の大剣に打ち込む。

新たに加わった衝撃に力の拮抗が崩れ、槍ごと赤のライダーの体が大きく吹き飛ばされた。

樹木や岩を巻き込んでその体が百メートルほどノーバウンドで突き進む。

 

「あんまナメんなッッ!!!」

 

地面に槍を突き立て無理矢理に勢いを殺す赤のライダー。

ガリガリガリギャリギャリギャリギャリリリリッッッ!!!!!!

それでも十メートル以上地面を滑ってしまうのだから恐ろしい威力である。

 

「ッッ!!!??」

 

そして、隙有りとばかりに城塞の方角から一切に掃射された矢の雨。

タイミングはこれ以上ないほどに良く、数の暴力はそのまま圧倒的戦力となって敵を叩く。

万が一にも無傷では済まない不可避の攻撃、しかしそれでも尚、赤のライダーが不敵な笑みを崩すことは無い。

 

「「「あっぶねぇな」」」

 

にやにやと笑う赤のライダーの姿が、その声と共に何重にもブレる。

全ての攻撃を避ける形で、幾つもの赤のライダーが立っていた。

一瞬セイバーは瞠目するが、それがあまりの俊足によって弾き出される残像である事を正確に看破する。

しかし分かった所で対策など取れる筈もない。

 

「隙だらけだぞ?」

 

真後ろから声が聞こえると同時に、武骨な手がセイバーの首を絞める形で鷲掴みにする。

 

あいつ(キュクノス)は首を絞めたら死んじまったが。あんたはどうなんだろうな」

 

無論そんな事では欠片もセイバーの躰は傷つかない。

だが、急所である背後を取られた事実は流石のセイバーとしても大問題だった。

無言で背後に裏拳を放つこと数度。

当たった感触はあれども、赤のライダーはまるでビクともしない。

 

「ッ!?」

 

即座に、牽制するように飛んでくる三本の矢。

赤のライダーは咄嗟に足を狙ったものを槍で弾いて的確に対処するが、他の二矢には流石の彼も対処が追いつかない。

肩と胸に深々と突き刺さった矢。

自身の肩に刺さった矢を引き抜き、赤のライダーが感嘆の息を吐く。

 

「まったく先程のもそうだが補助を入れるタイミングも矢の精度も申し分ない。これほどの英雄が他にもいたとはな」

 

確かに赤のライダーの言う通り、ありがたい援護だ。

黒のアーチャー(ケイローン)にはこの戦いだけで既に何度も救われている。

とはいえそれだけで簡単に力量差をつけられるのかというと、そんな事は決してないのだ。

 

(向こうもいい加減、焦れてくる頃合だが)

 

ちら、とセイバーは目の前の強敵を見やる。

これだけ動き回っているにも関わらず多少の息の乱れもない。

しかし向こうも余裕そうに見えて存外、この二騎の繰り出すコンビネーションに手こずっているのは確実だ。

 

(そこまでして様子見(・・・)に徹するということは……決まりだな)

 

ここまで来れば互いに決着が着かないことは流石に分かる頃合だ。

焦れた相手が引き出す宝具展開。

恐らく、赤のライダーは相手が決定的な切り札を切るのをひたすら待っているのだろう。

 

(まぁそれが分かったところでどうにもなる訳でもないが)

 

「おらァッッ!!!!」

 

即座に体勢を立て直し振るわれる神速の連撃。

有り得ざる速度で振るわれる剛槍はその全てが通常のサーヴァントならば一撃必殺のものとなる。

 

「ぐッ……!!!!」

 

風のような連撃からの、大きく振りかぶっての一撃。

ズン!!!と剣の柄で受け止めたセイバーの足元が深く沈み込む。

正確に受け止めた筈なのに、肩の骨格が悲鳴を上げる。

 

「はははははッ!!良いね良いね!!そうでなくっちゃ!!!」

 

何が楽しいのか。

鍔迫り合いながら歯を剥き出しにして無敵の英雄(アキレウス)は哄笑する。

命の奪い合いを純粋に楽しむその哄笑はあまりにも悍ましい。

マスターとの約定を守り、無言でこそいるが此方の意図することが相手にも伝わったのだろう。

笑みを消した赤のライダーがやや不快そうな表情を形作る。

 

「無愛想な奴め、戦場で笑わぬものは楽園(エリュシオン)で笑いを忘れてしまうぞ?この世界は陰気に腐り、膿んでいる。散り様ぐらいは陽気にいこうぜ。そう思わないか?」

 

同意出来ない考えだった。

戦場での笑いは時に敵を侮蔑することになる。

少なくともそう思わせてしまう危険がある。

互いの力量を認め、笑い合うならば戦場の颯爽であるが、死体を前に笑うは単なる嘲りに過ぎない。

 

「……」

 

「そうか、よッ!」

 

無言のまま拒絶の意を示したセイバーの鎧にしなる蹴りが吸い込まれる。

予想外の動きにセイバーの呼吸は僅かに乱れるが無論、致命傷とまではいかない。

否、この戦いでは互いの全ての攻撃が決定打足りえないのだ。

 

「あんたイイぜ。最高に面白いね!!!」

 

蹴りを食らうと同時にその脚を叩き折るべく放った膝と肘。

本来不可避のタイミングで放った確実手。

しかし届かない。笑み混じりに軽く躱される。

 

(……?)

 

ふと生じる違和感。

何故、赤のライダーは今のセイバーの攻撃を避けた(・・・)

お互いに不死身同士。

しかも今のは致命傷にもなり得ない類の所謂、体勢を立て直す時間を得る為に放ったものだ。

そのまま受け止める方が向こうにとっては都合が良かった筈。

考えれば先程の三連の矢時もそうだ。

 

何故、脚に向けた攻撃だけ槍で弾いたのか。

 

肩はともかく胸に射られれば霊核を潰される可能性すらあるのに。

不死身だからこそ分かる圧倒的な違和感、唯一の勝機ならばそこにあるのかも知れない。

 

 

 

────……

 

 

 

「くっくっくっ……なるほどなるほど。ランサーに続きライダーまでもか。まったく神父め、あれほどの駒を手にするとはね」

 

両雄による壮絶な戦いの様子。

それを杯越しに見ていたアレイスター=クロウリーは一人、笑いを噛み殺していた。

 

「原初の巨人、バビロンの空中庭園、キング・アーサーの実子……その存在のどれにも驚かされたものだが。そうか、考えれば当たり前のことだったか。純血の狩人(アタランテ)が召喚出来るんだ、当然かの英霊も召喚出来ない道理はない」

 

足を庇うような防御の仕方。

脚部が弱点で不死身の英雄など一人しかいない。

少女の幼い口から力ある名前が世に放たれる。

 

「よりによってライダークラスで召喚されるとはな……トロイア戦争の大英雄、アキレウス」

 

これでこれからの展開が読めた。

自分のすべき事も。

 

「次から次へと。予定はあんまり詰め込みたくないのだがね」

 

そう言いながらもアレイスターの顔は嬉しそうに綻んでいる。

全ては許容範囲、多少の誤算もあるがそれすらも娯楽として呑み込むのがこの魔術師だ。

無論、悠長に高みの見物を決め込んでいる自分を狙って己の領域に近づく不届き者達の存在にも既に気づいている(・・・・・・)

とはいえ、わざわざそちらに向かい此方から何らかのアクションを起こすつもりはない。

その価値(・・)が無い。

来るなら来ればいい。アレイスターという正真正銘の怪物を止めることが真実出来るというのならば。

 

「それもまた、新たな可能性(お楽しみ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクターの名称を原作に沿って書くことにしたので大規模に編集しました。最初はなれないかもしれませんがよろしくお願いいたします!
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