卒業式から逃げるようにして家に帰っていた私は、気づけば家を飛び出していた。さっきまでのオレンジ色はとうに消えて、空は青みがかった曇り空になっていた。
私は、本当に焦っていた。急に、あこちゃんからあんなメールが届くのだから。きっとあの文面からして、他のメンバーにも転送しているだろう。
「あこちゃん...!!あこちゃん...!!!」
私は今すぐに大声で泣いて叫びたい気分だったが、それはできなかった。それをしてしまうと、あこちゃんが遠くに行ってしまう気がするから。あのRoseliaでの話し合いの時に気づいておけばよかった。
あこちゃんは、Roseliaというあの場所で自分が探し求めていたものを見つけた。あこちゃんが探していたものは、私じゃなかった。あこちゃんは、「カッコいい」をひたすらに追い求めていたんだ。彼女のお姉さんのような、ひたすらなカッコよさを純粋に求めていたんだ。
私は夜道を駆け、必死で彼女を探した。途中息が切れて、止まって、また走り出して、気づけば何時間経っただろうか。
その時だった。
「燐子さん!!」
振り向くと、あこちゃんがひたすらに追い求め目指していた世界一のドラマーとと、その後ろにはAfterglowの残りのメンバーがいた。
「巴さん...!あこちゃんが...あこちゃんが!!」
私は柄にもなく、彼女に抱きついていた。情けないなあ、こんなことじゃ、あこちゃんの求める姿には...
「落ち着いてください!事情は全て把握してますから!アタシたちもずっと探し回ってます!燐子さんも一緒に来てください!!」
「分かりました...!本当に、ありがとうございます、ごめんなさい...」
「燐子さんが謝る必要なんてないです!それより今は、あこが無事に見つかるように全力を出しましょう!!」
彼女はそう言うと、私を優しく起こして、ついてきてください、と一言。
巴さんは凄い。もし私に妹がいたなら、妹が消えたというこんな状況下では冷静に判断できず取り乱しまくっているだろう。それなのに、巴さんはあこちゃんのこと本気で心配しているはずなのに、冷静だ。
「巴さん...あこちゃんは...」
「はは、大丈夫ですよ!アタシが絶対見つけますから!」
「...やっぱり、凄いです。私があこちゃんのお姉ちゃんなら、今よりずっともっと取り乱していました。それなのに巴さんは落ち着いていて...」
「トモちん、さっきまで泣きそうだったんですよ~」
「おいモカ、無駄なこと言うなよ!」
「ごめんなさい~~」
無理はない。それでも、この場で冷静にできることの凄さは私もAfterglowの皆も気づいているだろう。
「燐子さん...あこのお姉さんみたいですよ」
「...え?」
「あこ、練習から帰ってきた時いつも燐子さんの話をするんです。今日はりんりんめっちゃかっこよかったよ~とか、今日はりんりんのキーボードとあこのドラムでセッションできて楽しかった、とか」
「そんな...私なんて...巴さんみたいにカッコよくないですし、あこちゃんが探しているカッコいい所なんて一つもないですから」
「何言ってんですか!あこは、燐子さんのこと大好きなんですよ!?あこは、Roseliaに入る前から燐子さんのことずっと話題に出して、その話をしている時のあいつ、本当に楽しそうだったんですから!!あこが探し求めているのは、単純なカッコよさだけじゃないです。あこは...燐子さんが何よりも大切なんですから」
私は再び泣いてしまった。あこちゃん、ありがとう。何の取り柄もなくて、気弱で、自分を出せなくて、カッコよさなんて一つもない私を大切にしてくれて。
「...巴さん、あこちゃんに...あこちゃんに会って、お礼を言いたい...あこちゃんと、離れたくないです!!」
私はまた巴さんに抱きついてしまった。
「ちょっ、燐子さん!?...絶対、あこのこと見つけましょう!あいつなら、絶対無事ですから!!」
「はい!」
「うぅ...感動だよぉ」
「ひまり、さっきから泣きすぎ」
「ひまりちゃん...私たちも頑張ろうね!」
「白金さん!巴さん!待ってください!」
「あっ...!!紗夜さん、それに、湊さん、リサさんも」
「私もいるわよ!」
「えっ...チュチュ?どうしてここに」
「それはアタシたちが聞きたいよ...」
「あなた達、仲間を探しているんでしょう?私の車に乗りなさい!」
そう言うと、チュチュはいかにも高級そうな黒い車に私たちを誘導した。
「まさか、あなたの世話になるとは」
「いいのよユキナ、困った時はお互い様よ。さっきは取り乱して悪かったわね」
「...あこちゃん...無事でいて...!」
「燐子大丈夫だから、落ち着いて!ほら、アタシの手握って」
「ありがとうございます...今井さん」
「あこが行きそうな場所...見当がつきませんね」
「なら、まずはCiRCLEに向かってください」
「紗夜さん...?」
「...宇田川さんはもしかしたら、話し合ったあの場所にいるのかもしれません。事態は一刻を争います。車、頼みます」
「OK。任せなさい」
チュチュはそう言うと、恐らく執事であろう屈強なドライバーに行先とルートを伝えた。
「...着きましたが、いませんね。まりなさんにも確認を取りましたが、宇田川さんは来ていないみたいです...」
「クソッ...ここは違ったか」
「氷川紗夜、他には行先の候補は?」
「さあ...巴さん、彼女と連絡はつかないんですか?」
「それが...充電が切れてるみたいで」
私たちはそれから、あこちゃんが行きそうな場所を次々探し回ったが、見つからなかった。場所を変えるたびに、私たちの心には不安な空気が押し寄せていた。
「どうするの...もう22時近いわよ。これ以上いないのなら警察に...」
「まだ待って!あと少し、絶対見つけるから...くっ...」
巴さんの目にも不安の涙が浮かんでいた。無理もないだろう。愛する妹が、ずっと今まで過ごしてきた自分の妹が安否不明の状態なんだから。
「はぁ...あれ?ちょっと、これ見て!!」
...困った。本当に困った。
「おいお前、こんな所で何してんだよ。顔上げろよ」
「...ますき...さん?」
「はぁ...家出か?」
「家出...ってことにしといてください」
「お前、Roseliaのドラマーだろ?そうだよな?」
「ひっ...そ、そうです」
「仲間はどうしたんだよ」
「...もう、Roseliaなんて昔の話です」
「は?まさか、解散でもしたのか?!」
「...はい。しました」
「いやいやいや...この間対バンしたばっかじゃねえか。何かの間違いだろ?」
それから、この可愛いドラマーに事の経緯を話された。なるほど、まだ解散って訳じゃないのか。よかった、この前チュチュが余計な争いをしたせいで解散なんてなっちまったら、どんな顔していいか分かんねえ。
「...で、お前は何でここにいるんだ?」
「もう、りんりん...の顔を見れない...怖い...これ以上あこがRoseliaに関わったら、友希那さんにも、紗夜さんにも迷惑だし...」
「おい!お前、バンドメンバーのこと信頼してねえのか?!」
「そ、そういうわけじゃ...」
「今まで散々お世話になったんじゃねえのかよ!?」
「それは...」
「乗れよ、説教してやる」