「私は、Roseliaを辞めようと思うの」
私は、白金燐子。Roseliaというバンドでキーボードをやっている高校三年。近いうちに卒業を控え、周りは一斉感動ムードの中。でも私は、私たちは、そうではない。感動の卒業とは程遠い、冷たい別れ。それが、きっと待ち受けている。
「りんりん...?冗談やめてよ、りんりんらしくないよ?」
「あこちゃん、私は本気だよ」
「ねえ、りんりん、どうしちゃったの?ねえ!?説明してよ!?りんりん!!」
あこちゃんは、涙をボロボロ流しながら私に詰め寄る。無理もないよね、あこちゃんが、ずっとRoseliaのためにドラムを頑張ってきたこと、私知ってるから。
「あこちゃん...うっ...ごめんね...」
「説明してよ!?ねえ!?泣いてばっかじゃ、あこわかんない!!」
この時点で、私にそれ以上の...氷川さんのことを伝える勇気はもうなかったのかもしれない。口が重くて、全然動かなかった。
「あこちゃん...あこちゃん...」
「り...りんりん...もう、わかんないよ...」
「私、怖いよ...卒業して、皆と、あこちゃんともいつか離れちゃう時がくるかもしれないことが...」
「そんなこと絶対ありえない!!あこは、りんりんが大好き!!Roseliaの皆も大好きだよ!?りんりんは、これからもずっとあこと一緒だよ!!ねえ!?離れるなんて絶対ないから、だから...」
あこちゃんは、涙を流しすぎてもう表情が分からない。でも、彼女なりの伝え方を目の当たりにして、私は余計辛い。
「りんりん...もしかしなくても辛いことがあったんだね。あこにはわかる」
「えっ...?」
「だってりんりんがここまで思いつめちゃうって、相当辛いことがあったんでしょ...?あこ、りんりんのこと大好きだから、一緒に解決したい...Roseliaの皆にも辛いことがあったなら、あこが絶対解決するから!あこのカッコイイRoseliaを、終わらせたくないよ...」
この子は、なんて優しくて純粋な子なんだろう。私とは大違い。でも私は少し気分が落ち着いた。ありがとう、あこちゃん。
「皆を、呼ぼっか。あこちゃん」
ライブハウスにて、私は友希那さんが出ていった後、しばらく二人と話していた。今後のこと、氷川さんの夢のこと、今井さんの決断、3人それぞれが色々なことを感情に任せて話した。考えてみればその時の私は、まだ二人が抜けることに反論できていたはずなのに...
「友希那さんのこと...追いかけなくていいんですか、今井さん」
「...燐子、今の状態じゃ、私は友希那とまともに話せる気がしないよ...」
「今井さん...」
「...白金さん」
「氷川さん?」
「...私だって、Roseliaが嫌だからとか、生活の負担になるからとか、そういう意味で脱退を申し出ているのではありません、そこは把握しておいてください」
「分かっています。でも...」
「逆に問います。白金さんは、どうしてRoseliaを続けたいと思うのですか?」
「それは...」
私は言葉に詰まってしまった。私だって、このRoseliaというバンドは、かけがえのない場所。人と話すことが苦手だった私を、変えてくれた唯一無二の大好きな場所。何より...あこちゃんと一緒に現実世界で一緒にいられることが本当に嬉しかった。今考えてみれば、それをそのまま口に出せばよかったのに、私は...
「私は...正直この先どうなるのか、自分の人生がどうなっていくのか、まだわかりません。でも、心の底から、このバンドを続けたいと思っています。昔の私なら、相手と面と向かって自分の意見を言うことなんて、できませんでした。でも、あこちゃんと、皆と出会って、オーディションを通ってこのバンドに入って、私は変われました。生徒会長になれたのも、こうした経験があってこそでした。だから、私は...」
「白金さん、私たちはあなたの性格を変えるためにバンドをやっていたのではありませんよ!?」
「ちょっと紗夜!!」
「そんなこと私だって分かってます!!」
柄にもなく声を荒げてしまった。
「そんなこと...分かってますから...」
「燐子...」
「すみません、取り乱しました。白金さん、すみません」
「いいんです。でも私は氷川さんのような責任感も技術もなくて、今井さんみたいな優しさも気遣いもありません。そんな何にもない私でも、頂点を目指せるのなら...皆さんと共に目指してみたかった...これからも...ずっと...」
私はそこで気づいてしまった。『これから』の保障は、どこにある?Roseliaがこれからも変わることなく仲良く続いていく保障が、どこに...?
「氷川さん、私、あなたの言っていたことが少し分かったかもしれません...」
「...やはり、その先が怖いのですか」
「皆でこうして、一緒の目標を目指してライブや練習ができるのも、いつか必ず終わりが来てしまう...あなたが言っていたのは、そういうことですよね」
「燐子...私も、終わりは怖い...友希那とまた話せるようになったのも、このバンドのおかげだし、Roseliaには感謝しかないよ」
「...卒業とは、決して高校だけの話じゃないのかもしれません。私は、妹に影響されてギターを始めましたが、所属していたバンドは私が脱退して、それからは分かりません。しかし、その後友希那さんにスカウトされて...私はRoseliaに入りました。いえ、正しくはその時にはRoseliaはできていなかったのですが...とにかく、私はこのバンドが大切なものになっていました。だからこそ、終わりが怖い...怖いのです...」
「紗夜...」
「うっ...あぁ...!!もっと、皆と演奏していたい...!!このメンバーで...!!終わりたくないよぉ...」
「氷川さん...」
私は氷川さんが本気なんだなと改めて思った。そんな姿を見せられたら、私だってその先を案じてしまいます...
と、その時、あこちゃんから電話がかかってきた。正直、出るのに戸惑ってしまった。
「...白金さん、宇田川さんにこのことを伝えるのなら、あなたが適任かと」
「私、あこちゃんを悲しませてしまわないか不安です...ただでさえ、私たちの卒業であこちゃんは落ち込んでいますし..」
「いずれ、私たちは5人で話し合う必要があります。その事前準備として、仕方のないことです...何かあった時には、私たちを頼ってください」
「燐子...お願い。あこに分かってもらうには、やっぱり燐子から伝えた方がいいと思う」
「...分かりました」
「りんりん...急にごめんね。今からうち来れる?」
「あこちゃん...いいよ。私も話したいことがある」
「あっ、ありがとう...!」
そうして、私の考えは傾いた。いつかくる終わりをずっと懸念して演奏を続けても、友希那さんの目指す頂点には、もう届かないのかもしれない。
「白金さん、宇田川さん。お待たせしてすみません」
「やっほー、二人とも!...って、そんなテンションでもないか」
「氷川さん、今井さん...急に呼び出してしまって、すみません...」
「いいんです。私があなたに頼んだことを実行してくれたのですから」
「...紗夜さん、リサ姉、辛いことがあるのなら、あこに相談して...絶対解決するから...」
「あこ、ごめんね...ずっとドラムを頑張ってきたのに、こんなこと」
「いいよ、リサ姉...」
「...宇田川さん、私たちの話、聞いてくださいますか」
私はこの時、この先に行われるであろう話し合いはきっと円満に終わるだろうと思っていた。