「しゃ~した~」
「ちょっとモカ、真面目にやりなよー」
あたしはいつもの気の抜けた返事で、お客さんを帰す。そして今、あたしの隣には、リサさんがいる。さすがだなあ、きっとリサさんも大変な状況なのに、しっかりバイトには来てる。
「二人とも~!そろそろ上がっていいよ~」
「お疲れ様です」
「お疲れ様で~す」
あたしたちは特に会話もないまま、とりあえず更衣室に向かった。あれ~、困ったなあ。こういう時、どうやって話を持ち出せばいいんだろう。
「...リサさん」
「ん~?どうした~?」
リサさんは、こっちに背を向けて着替えている。今日は、あんまりあたしの顔見てくれないなあ。
「その...蘭から聞きました」
「あぁ、Roseliaのことね。そのことなら大丈夫だから」
「えっ...」
まさか、そんな返しをされるとは。もっとこう、勝手に蘭が話したことを怒るかな~、とか悲しい顔するかな~、とか思ったけど、意外だよ。
「もう~、リサさん、そんなこと言わずに...」
「モカには関係ないことでしょ」
「いやいや~、あたしだっていつもお世話になってますから、力になりたくて...」
「だから!その話はアタシたちの問題だから!!」
「あっ...ごめんなさい」
リサさんは、俯きながら私に強く言い放った。やっぱり、そんなリサさんは珍しい。
「...こっちこそ急に怒鳴ったりしてごめん、ありがとね、モカ、声かけてくれて」
「...リサさん、話してください。あたしだって、相談乗りたいんですよ。蘭だけずるい...」
「あはは、それもそうだね...!」
リサさんは、笑って返してくれた。あたしはRoseliaが置かれている状況をより詳細に説明してもらった。蘭だけの説明じゃ分からなかった部分もあった。それは...
「リサさん、幼稚園の先生になりたいんですか?」
「うん、そうだよ。だから大学もそういう学科に進んだんだ。Roseliaのことも大好きだし、できれば続けたいけど...私の夢も、どうしても諦めきれなくて...」
「リサさん...」
「でも、アタシは...友希那の悲しむ顔も、見たくなかった。アタシって自分勝手だね...。モカも分かると思うけど、幼馴染って、それほど大切な存在なんだよ。だからアタシは、今まで友希那に相談できずにいた。きっとこのままRoseliaを続けていたら、仕事の方にも影響が出ちゃうかもしれない」
あたしとリサさんって、なんか似てるなあ。どちらにも幼馴染がいて、その幼馴染を本気で大切に思ってる。あたしは普段照れくさくてそんなこと言わないけど、改めて考えてみると、そうだなあ。
「でもそんな時、紗夜が話を切り出した」
「紗夜さん、海外留学するんでしたっけ?」
「そうそう。あの子はストイックだし真面目だから、顔や言葉には出さずに夢のために今までたくさん努力して、勉強も頑張って大学に合格したんだ。あれだけ毎日ギターやバンドの練習を重ねて、陰の努力も凄くて...アタシには到底、できっこないよ」
「...でもリサさんだって、凄いじゃないですか。自分の夢のために頑張ってて。しかも湊さんを悲しませないために、それを相談できずにいた。あたしなら、すぐ蘭に言っちゃうな~」
「モカ...そんなことないよ」
リサさんは少し顔が赤くなっていた。
「あたしも、もうそういう時期なのかな~」
「そういう時期?」
「将来のこととか、夢とか、自分が何をしたいかまだ分からないけど、決めなきゃいけないですよね」
「あ~、モカも来年は受験とか進路とかあるもんね」
「まあモカちゃんは天才だから~余裕で突破しちゃいますよ~」
「あはは、さすがモカだね~!」
口ではそう言うけど、あたしだって不安は多くある。まあ口で言ってないと、きっとあたし、顔に出ちゃうから。
「...ありがとね、モカ、話聞いてくれて。すっきりしたよ、色々」
「お役に立てて、モカちゃん光栄です~」
「そろそろ行こっか、家まで送ってくよ」
「えぇ~いいんですか~ありがとうございます~」
...この子は、優しい子だ。いつもバイトで一緒にいるけど、やっぱり、境遇がアタシと似てるのかもしれない。まあRoseliaのボーカルとAfterglowのボーカルは良くも悪くもライバルって感じだし時には言い争いになることもあるけど、その時はアタシとモカで止めたりするからね。でも、今日は話聞いてもらっちゃって、アタシ、先輩として不甲斐ないなあ...
外に出ると、空は雲が多くかかって月明かりが途絶えたり現れたりを繰り返していた。
「寒いですね~」
「そうだね、もう4月になるのにね...」
「リサさん、卒業ですね」
「...やっぱり、少し寂しいなあ。華のJKライフが終わっちゃうのは」
「そこですか~。まあリサさん、JDになっても変わらなさそうですけどね~」
「ちょっとそれどういう意味~?」
「あはは~」
アタシはモカを送り届けて、家路につく。この時は少しばかり、誰かと一緒にいたかった。本当に、誰でもいいから、人の温もりが欲しかった。
「...もう、アタシらしくないじゃん」
もうすぐ、Roseliaは終わってしまう。友希那とあこがどういう決断をするかは分からないけど、
きっと、このまま仲良くRoseliaが未来永劫続くことは、もうないだろう。