大和さんと別れた私は家に戻り、彼女に後押しされたあこちゃんとの「約束」を果たすために勇気を振り絞る。バンドメンバー全員に連絡し、明日の12時にCiRCLEで集合することを伝えた。氷川さんと今井さんからは、こうやってバンドを仕切るのは私らしくないと少し心配されたが、この険悪な状況を打破するためには全員で話し合うことが必要だと私は思っていたし、だからこそ行動した。私じゃないと、ダメな気がした。
「...私、本当に変わっちゃったなあ」
私は一人、部屋のグランドピアノの椅子に座りながら呟いた。確かに、生徒会長の一件を含めて私の引っ込み思案な性格はこの一年でだんだんと消えていっている気がする。でもそれは...
「Roseliaの、皆のおかげだな...」
気づけば、目の前の鍵盤が少し濡れていた。いつの間にか涙を流していたみたいだ。最近、色々と泣くことが多かったから、自分でも気づかなかった。悲しい現実に、慣れてしまっていた。
...どうして、私たちはこうなってしまったんだろう。いつから、私たちの中に亀裂が走っていたんだろう。考えても何も起こらないのに、考えずにはいられなかった。
翌日、私たちRoseliaはCiRCLEのカフェスペースに集まった。幸い、知り合いのガールズバンドは今日は練習を入れていないみたいだ。
「...白金さん、予定通り集まりましたが...そろそろ話し合いを始めてもいいですか」
「氷川さん、待ってください...」
「...燐子?」
「あの、今日は、私が進めます」
「...りんりん!」
「私がなぜ今日ここに皆さんを呼んだのか。...それは、私も氷川さんや今井さんと同じように、Roseliaを終わらせる覚悟ができたからです」
「えっ...!?」
「白金さん...?」
「燐子...」
「ちょっと!あなたまで何を言ってるのよ!それが何を意味するか分かってるの!?」
友希那さんは席を立って私に迫り、怒鳴った。
「ちょっと友希那落ち着きなよ!いいよ燐子、続けて」
今井さんは友希那さんを制止して言った。
「りんりん!!どうしちゃったの!?あこ言ったじゃん!Roseliaに何かあればあこが全力で守るって!!りんりんは何も心配しなくても大丈夫だから...!!これ以上りんりんに負担かけたくない!!どうしてそんなこと言うの!?だって解散したら...あこたちはもう...」
「会えるよ、あこちゃん」
「えっ...?」
「Roseliaは、解散してもRoselia、だよ」
「燐子...?あなたは何を言ってるのかしら...?」
「私は今、ここで約束します!Roseliaが解散しても、私はあこちゃん、友希那さん、氷川さん、今井さんとの関係は絶対に絶ちません!!」
「り、りんりん...!」
「...白金さん」
「皆さんも...!!ここで今そう約束してください!!」
「燐子、それは無理よ」
「えっ...?」
「私は、このバンドが解散したら元メンバーとの付き合いは控えるわ」
友希那さんは、俯きながら呟いた。彼女の歌とは程遠い、暗く、悲しい声で。
「友希那さん、どうしてですか...!!」
「あなたは...」
「...友希那?」
「...あなたは!!今まで何のためにRoseliaというバンドで活動していたの!?仲間と会いたいから!?あこと会いたいから!?私はそんなことを目的にこれまでバンドを続けてきたんじゃないの!!頂点を目指して、私が選んだ最高のメンバーで練習して、私たちの音楽を届けるライブをしたいから...バンド活動がしたいから私はRoseliaに全てを賭けていたのよ!!それが解散しても...バンド活動ができなくなってもRoseliaはRoseliaだなんて...メンバーとはまだ関わっているだなんて...!!よくもそんな無責任なことが言えるわね!!」
友希那さんは大声で泣きながらそう訴えた。
「友希那さん...」
「うっ...私は...Roseliaも、皆のことも大好き、ずっと、続けていたかった...会えなくなるのだって、もちろん寂しいに決まってるわよ...!!それでも、私にはその約束はできない...今まで続けてきた大切なRoseliaが抜け殻になるなんて...悲しすぎるもの...」
「...そうだね」
「今井...さん?」
「アタシも...その...どっちかっていうと友希那と...同じ意見かな...って」
「リサ姉!?」
「私は、別に関係をそこまでして絶つ必要は無いと思うのですが」
「氷川さん!」
ようやく現れた肯定的な意見。私の冷え切った心に暖かい風が吹いた。
「紗夜...あなたも今までストイックにバンドを続けてきたわよね?それなのに約束をするっていうの?」
「ストイックに続けてきたからこそ、するんじゃないんですか」
「紗夜...」
「湊さん、あなたも分かるはずです。解散するだけなら、その瞬間今まで死ぬ気で続けてきた私たちの音楽が消えることは、きっとありません...。私たちは今までのバンド活動で瞬間瞬間、観客の心に響く私たちだけの音を披露してきました。それは、必ず解散した後でも観客の心のどこかに残っているはずです。私たちの目指す頂点は『FUTURE WORLD FES』でしたが、私たちの真のゴールは...」
氷川さんは、静かに涙を流していた。
「解散しても、私たちが全員関係を保ったまま生きていくこと、ではないでしょうか」
「紗夜...」
「紗夜ぉ...」
今井さんは涙で顔が分からないほど泣いていた。
「...あなたは、それで後悔しないのかしら?」
「当然です。私は...Roseliaのギタリストであったことを誇りに思います。ライブハウスで湊さんと出会って、私は自分を表現できる居場所をようやく見つけられた。感謝しています。解散という選択肢は決して別れではない、まあ、そう考えていないときっと私もいずれ寂しさに打ちひしがれる瞬間がやってくるはずですから」
氷川さんはそう言うと、静かにその場を去った。
「...紗夜」
「友希那、アタシ...」
「リサ、もういいわ。今日はあなたの家に泊まってもいいかしら?」
「うん!!アタシも、友希那と二人きりで話したいことがあるから」
そして、二人も去っていった。今井さんは少し落ち着いたようだ。
「...あこちゃん、私たちも...」
「りんりん、やっぱり、解散するんだね」
消え入りそうな声で彼女はそう呟いた。決して、こちらに顔を向けなかった。
「あこのこと、嫌いになっちゃった?」
「ど、どうしてそんなこと!?」
「...りんりんに、信頼されてないんだなぁ、あこって。ごめんね、今までたくさん迷惑かけて。りんりんは2つも上の先輩なのにずっと馴れ馴れしく接しちゃって、ゲームで困った時とかもすぐ連絡しちゃって、りんりんだって受験を控えていたのに...」
「あこちゃん!!やめて!!そんなことない!私はあこちゃんと出会えて本当に...」
「...あこ、ゲームもアンインストールするね。もうこれ以上、りんりんがあこなんかと関わってたらダメだよ。りんりんは...あこと出会わず、自分だけの人生を生きてほしい。あこは、りんりんが大好きだから、だから、もうりんりんとは関係を持たないよ」
あこちゃんは、下を向きながら走り去っていった。
そういえば、明日は卒業式だったっけ。