「...以上で、卒業生代表答辞を終わります。花咲川女子学園生徒会長、白金燐子」
盛大な拍手と感動の涙で溢れる体育館を見下ろしながら、私はステージ上から降りた。私は、正直卒業式どころではないのだが。
「白金さん、今まで生徒会長として、本当にお疲れさまでした」
「氷川さん...ありがとうございます」
卒業式が無事に終わり、私たちは校庭に出て友達や後輩と最後の言葉を交わす。氷川さんは、いつもと至って変わらず私に話しかけてくれた。
「燐子先輩~~!!今までありがとうございました~!!」
「わっ...戸山さん!?」
「おい香澄!!燐子先輩困ってんだろ!!すいません...」
「い、いえ...大丈夫、です」
「白金先輩...氷川先輩...今まで楽しかった...です...ぐすっ...」
「ちょっとりみ、大丈夫?」
「先輩たちがいなくなっちゃうなんて...悲しすぎるよ...!!」
「りみ、先輩たちは死なないよ?」
「おたえ!」
変わらないなあ、この子たちは。これからもずっと、バンドを続けていくんだろうな。
「うわぁぁ~~!!千聖ちゃん~~!!花音ちゃん~~!!」
「彩ちゃん...?少しはアイドルとしての自覚を持ちなさい...って、今は仕方ないのかしらね...」
「そ、そうだね...千聖ちゃん」
「花音、今まで本当にありがとう。これからもよろしくね?」
「う、うん!もちろんだよ!」
「あ、紗夜ちゃん!燐子ちゃん!今までありがとね!」
「あら、丸山さん」
「白鷺さんに、松原さんも...」
「燐子ちゃんの答辞、凄く感動したよ~~!」
丸山さんはさっきから号泣し続けているけれど、大丈夫なのでしょうか...まあ、それほどこの学校に思い出が多いのでしょう。いいことです。
「ありがとう...ございます。私の答辞、少し噛んでしまった部分があったのですが...大丈夫でしたか」
「全然大丈夫だったよ~~!もう、これ以上私を泣かせないで~~!」
「あっ、彩さん、千聖さん...!!」
「イヴ~~!あなた走るのとっても速いのね!やっと追いついたわ!」
「ねえこころ!!掴まないで!!」
「ちょっと~!三人とも置いていかないで~!」
向こうから、若宮さん、弦巻さん、それに連れられた奥沢さん、そして北沢さんが走ってきた。若宮さんはやっぱり丸山さんと同じく泣いていた。
「わっ...!?イヴちゃん!?」
「彩さん、卒業なんて嫌です...もっと一緒に学校にいたかったです...!!」
「イ、イヴちゃん~~!!」
「もう手がつけられませんね...」
号泣する二人の前で立ちすくむ氷川さんは、少しだけ笑顔だった。久しぶりだなあ、氷川さんが笑っているのは。
それから私たちは、学校で最後の時を過ごした。今まで重ねてきた思い出だったり、ガールズバンドパーティーでの話だったり、とにかく泣きながら皆で話した。気づけば空はオレンジ色に染まり、各々解散した。まだ、丸山さんは少しだけ泣いていたけれど。私は、生徒会長として自分がどれだけ学校に貢献できたかは分からないけれど、楽しい3年間だったと思う。そして、この瞬間も、とても楽しかった。
...だからこそ、私は忘れていた。この街にある高校は花咲川だけではない。
「...白金さん。やはり、宇田川さんのこと...」
「もういいんです、氷川さん」
「いいって、あなたは本当にそれでいいんですか...?」
「...もう、離れなきゃいけないんです。私が、依存をやめなきゃ」
「依存って...あなたたちの関係は...」
「氷川さん、今までありがとうございました。楽しかったです」
「ちょっ...ちょっと!白金さん!?」
私は氷川さんから逃げるようにして家路についた。
私は例の話し合いの後、もう一度今後について考えるようになっていた。「Roseliaが解散しても関係は続ける」なんて、もしかしたら無理なのかもしれない。友希那さんの言う通り、決して円満な解散ではないこの現状で、果たしてまだ友好関係を続けるなんてことが、私にできるのだろうか。
当初の予定では、花咲川での卒業式の後、羽丘に向かうことになっていた。向こうには友希那さん、今井さん、それに...あこちゃんもいるから。でも、私は行くのをやめた。そして、氷川さんにこのことを伝える気にはなれなかった。
私は、きっとあこちゃんに会うのが怖いんだ。話し合いの時に、あこちゃんに嫌われてしまったから。
私は自室に戻る。夕日の光を浴びてオレンジ色に染まるグランドピアノは、私に色々な思い出を無理やりにでも思い出させる。あこちゃんに出会い、Roseliaのオーディションを受け、Roseliaに加入し、様々な舞台に立ち、FUTURE WORLD FESのステージにも立った。私の人生の中で一際明るく輝くはずのその思い出たちが、私の心を締め付ける。
「...前も、ここで泣いたっけ」
私は、グランドピアノの椅子に座りながら大声で泣いた。友希那さんが、氷川さんが、今井さんが、あこちゃんが、記憶からだんだん抜け落ちていく。楽しかったはずの3年間が、闇に染まっていく。
「...湊さん!!今井さん!!」
「...あら、紗夜、遅かったじゃない」
「...紗夜、燐子は」
「...彼女は...」
「...そう」
「...宇田川さんは!?宇田川さんはどこですか!?」
「...卒業式が終わった途端、すぐに帰ったわ」
「そ、そんな...!?」
「あこはもう、元には戻れない...よ」
私はかつてないほどの焦りと恐怖を感じていた。そして、気づけば羽丘女子学園の門をくぐっていた。
生徒の大半は既に帰宅しており、残っているのは恐らく私たちだけだった。
「元には...って、どういうことですか...!!」
「燐子も、同じ状況じゃないの?」
「えっ...?」
「燐子は、今日どうしていたの」
「...普通にしているように見えましたが」
「...燐子はずっと無理してるんだよ、きっと」
「無理って、どうして...」
「燐子の人生の中で、あこに出会えたことは本当に大きいんだと思う。だから、昨日の話し合いで...」
「...あっ...」
私の中でショックが大きすぎて忘れかけていたが、白金さんは宇田川さんに...
「...Roselia、こんな終わり方だけは、したくなかったなぁ、アタシ」
「...リサ...」
「...もう、状況は良い方向に動かないのかもしれません」
正直、私が今までしていた彼女たちとの会話は一体何について話しているのか、私たち誰も分からない。各々が自分の考えやメンバーへの心配を述べるだけで、誰も事態を良い方向に動かそうとはしなかった。いや、できなかった。
その時、門が音を立てて開いた。
「ユキナ...!!」
「なっ...なぜあなたが...」
「チュチュ...」
「Roselia解散は、本当なのかしら」
「...しつこいわね、放っておいてくれるかしら」
「放っていられると思ってるわけ!?私は一度はあなたたちの音楽を認めた身なのよ!?簡単に解散してもらっちゃ困るのよ!!」
「...いくらなんでも非常識です、帰ってください」
「嫌!!解散を取り消すまで...帰らないわ!!」
彼女は、泣いていた。柄にもなく、顔を伏せて泣いていた。
「...ねえ、あなたはRASという自分の音楽を見つけたんじゃないの?それに、Roseliaをぶっ潰すとかいつも言ってるのに...?」
「そうです、今更あなたがRoseliaに、私たちに言及することなんて...」
「あるわよ!!私は...あなたたちの音楽が大好きなの!!」
ガールズバンド時代を終わらせる、そんな彼女の目的は、きっと近いうちに叶うのだろう。