東京拘置所死刑囚棟の廊下に冷酷な足音が響く。
どの囚人も、自分の房を通り過ぎるのを祈っていた。もし自分の房の前で止まったら・・・。死刑囚にとってその音は死刑執行よりも恐ろしい拷問のようなものなのかもしれない。
そして、その日その靴音が止まったのは極左集団「ノーザン・ブラック」の岡島隼大の房だった。
刑務官が開錠し中へ入ると、胡坐をかいて本を読んでいた。そして顔を上げ
「ついにオレか・・・」
と言って本を閉じ立ち上がった。
刑務官に両脇を固められて房を出ていく岡島に囚人たちは自分たちの房の壁を叩き、最後の別れを告げた。
翌朝、珍しく右京より早く出勤した亨は特命係の小部屋で朝刊を読んでいた。
「おはようございます」右京が声をかけた。
「おはようございます!杉下さん、これ」
モーニングティーと亨の為に煎れていたコーヒーを置いて新聞を覗く。
「執行は昨日でしたか」
一面トップで岡島の死刑執行の記事が出ていた。
一方、こちらも警視庁の捜査一課の刑事である高木が同じ新聞を読んでいた。
「高木君って新聞読むのねぇ」不意に声をかける
「ホヘッ!?びっくりした・・・。佐藤さん、驚かさないで下さいよ・・・」
そういう高木を無視して、佐藤は新聞にくらいついていた。
「岡島隼大、死刑執行か・・・。」
佐藤の頭には同僚の伊丹が言っていた、岡島を巡ることの経緯をなぞる。
一昨年、テロリストかぶれの若い連中が岡島の娘を人質に脅し海外逃亡していた密かに帰国させた。しかし、特命係という係の活躍によって犯人と共に岡島の身柄も確保したという事だった。
「まぁ、稀代の革命の使者も晩年は哀れなものですね・・・」高木が意味深な事を呟いた。
ところ変わって、米花町の毛利探偵事務所でも同じ新聞が読まれていた。
「岡島の死刑が執行されたか・・・」小五郎がつぶやく。
「ねぇ、お父さん。その岡島って人は何を犯したの?」娘の蘭が尋ねた。
「えーっとな・・・」
「左撃集団≪ノーザン・ブラック≫の大幹部で,80年代に数多のテロを起こし全国に指名手配された。その前にはもう海外に高飛びしていたんだけど、一昨年密かに帰国し入国しようとしていたところを捕まったんだ。
因みに、≪ノーザン・ブラック≫は≪赤いカナリア≫の残党どもが集まって構成されているんだって」コナンが回答する
ゴツンッ!!
「お前は口をだすな、ボケ!」
「ごめんなさい・・・」
そんな頃、東京拘置所では異例の出来事が起こっていた。
昨日死刑が執行されたはずの岡島隼太がまだ生きていて、別室に連れて行かれたのだ。
その部屋の正面には何人かの黒服のボディガードと思わしき人物に挟まれ、ピンクのピースーツを着た女性がそこに君臨していた。
「アンタ、どこかで見知った顔だな」岡島が言う。
それを聞いた女性はクスリと笑い、
「顔だけでも知っていてくれたことは光栄ですわ。片山雛子と申します。国会で総理補佐官をしています。」そういって、岡島に席を勧めた。
「そんなお偉いさんは1日懲罰房にカンヅメにするのがご趣味なんですかね?」岡島が皮肉る。
雛子はまたクスリと笑い、よく通る声でこういった。
「これは、超法規的処置です。あなたをこれから釈放します。」
「あらま」
「えぇ。しかしあなたは公には死刑が執行された身。戸籍は当然ありません。つまり、貴方は死んでいながら、生きている、まるで亡霊のような存在になるのです」
「亡霊なら、今と大して変わらん」自嘲する岡島に、雛子はわきの台を指差した。
「あら、なら話は早い。これ、お返しします」
そこには収監されたときに預けた私物が入っていた。