「聞いたぜそれ。レオン様が医務室に運んだらしいが二週間も目を覚まさないって」
「レオン様も変わってるなぁ。不審者をわざわざ手当てしマークス様にまで報告して、ラズワルド様やオーディン様に監視をつけるなんて」
「確か、北の城砦に行くために男の監視を命じたんだろ」
「あの二人も元は王城に突如現れた不審者だったのにな。すげぇ活躍ぶりで一気に臣下入りだもんなぁ」
「それいったらディト様やルーナ様もだろ」
「あの二人も突然一緒に四人まとめてきたんだよなぁ」
「ほんとなんか不審者多いよな、この城」
「俺ら云うのもなんだけどザルじゃね?この城の警備」
「あんま喋んない方がいいぞそういうこと」
…………ム。
き……え……か。
すま……わ……おま……。
楽しか…………。
お前に伝え……らぬ……ある。
それが我の名だ。
今からお前は帝国軍などより強大な敵と戦わねばならぬかもしれぬ。
我とお前の契約は
安心しろ。少しばかりの力と緩みをお前に施しておく。
我はもうおま‥‥‥…出来ぬ。
頼む……生きよ。
生きて我を……
薄く目が開き、辺りを見渡す何処かの部屋のようだった。色あせている煉瓦の壁にいくつか備えられたベッド。
カイムは目を完全に開け、ようやく覚醒した。
体に掛けられた軟かな純白のシーツ、自分が横にされた固めのベッド。シーツをめくり上げて体を起こす。
上半身は服を脱がされ、至る所に包帯を張り巡らせ薬を滲みさせていた。
「ッ!……クソッ」
痛みが走りまた横に寝る。どうやらあの不明な飛行物体、鉄の鳥にやられた攻撃はかなり体に大きく負担を残したらしい。それ以外でも直前に「母」との訳の分からない音での戦いに天から降ってくる「赤子」との戦いで体力を奪われていた。生きているのが不思議だと今更思った。
帝国軍との戦いは武器に薬品、消耗品をただ使いまわしてあの狂人どもと闘っていたから。ロクな治療は軍内では行き届いていなかった。
皆、ただ生きようと恐怖を押し殺してダニどもと闘っていた。
だがここは何処だ。あの後の記憶が飛んでいる。確かいつの間にか地上に降りていた俺は傷を処置しようと歩き出した。砂が傷に入り込むが構わずにいられなかった。歩いた先には三人の男が。かなりいい装備だったから連合軍関係者でないのは確かだが、あんな装飾の服は見たことがなかった。
兵士や賊の風体ではない。貴族かもしれんがまだ王子として富裕層と付き合っていた頃に見た者達の服より戦用に整えられ、あの法衣を裏返しに着ていた奴は他の二人より魔力が桁外れだった。
何故か知らんが裏返しのソイツと薄着の魔術師は
竜共が人間と交わるなど二十四年間生きてきて聞いたこともない話だが。
誰だそいつは。そんなヤツ俺の知り合いや記憶にいない………?
待て。何かおかしい。
何か見落としているような。
「何か、何か、何…………!?」
声が、出ている!
何故だ!俺は契約で「声」を失った、死ぬか契約が無かったことにならねば声は二度と戻ってこない。何故、声が。
「……契約が破棄、された?」
ありえなくは、ないだろう。
契約を結ぶならその解約、破棄も出来なくはないだろう。詳しく知らんが。
ならアンヘルとは?だれのなまえだ?王宮でも帝国軍を殺しまくるために各地を渡り歩いていた時にも連合軍として戦っていた時にも聞いたことがない名だ。
ドラゴンの名前。アイツの名。
「ドラゴンの名前、か?」
アイツの名前は聞いたことがなかった。あるのかどうかも分からないが、聞いたことは一度もなかったのでアンヘルとはドラゴンの名前かもしれない。
根拠は分からないがもしかしたらあの夢かもしれない。
アイツの声だけ響いていて俺は何も言えなかった。何か色々と言っていたと思うが。
「‥…疲れた」
元々色々ごちゃごちゃと考えるのは好きでない。
傷もまだ癒えていない。おとなしく横になってさっさと出ていこう。
もう一度寝る体勢に入りシーツを上にかけ、睡眠へと落ち行く。
「お兄ちゃん、ここにカミラお姉ちゃんたちが言っていた兵士さんがいるの~」「エリーゼ、お前は下がっていろ。危ない」「子供扱いしないでよ!レオンお兄ちゃん」「危険なんだ。今から会う奴は」
くそ、
カイムの脳内に憂さ晴らしにダニ共を斬って、焼いて殺す映像が流れ始める。
ガチャ
「何だ、起きていたのか」
お前らに起こされた。余計な口を開かぬよう無言でいるように心がける。
恐らく、かなりいい身分の人間だろう。見た目から分かる。
整えられた金髪。黒で統一された装束。今回は法衣は裏返っていないらしい。
「目を覚ましているなら丁度いいや。確認させてくれ、お前今戦えるか」
「…どういう意味だ」
「とにかく答えてくれ。まぁその傷じゃまだ動けないだろうけど」
戦え。敵がいるなら戦う。今俺が出来るのは戦うことだけだ。こんな訳の分からないところで安心できるのは殺すことだ。
「……まだ時間が必要だ。食事が欲しい。あと二、三日あれば剣は握れる」
「へぇ、じゃあ動けるんだ」
「…二、三日は必要と言ったぞ」
こいつ話聞いていたか。今の俺は重傷だ。動けるが体は絶不調だ。
「とにかくお前には今すぐ戦ってくれないと困るんだ。僕も‥‥お前も」
「‥…」
チッ。舌打ちを鳴らし、カイムはゆっくりとベッドから立ち上がった
俺も困るとはどうにも気にかかるが、さっさと終わるなら終わらせたい。
「回復はしておく。軽食くらいは今すぐ出せる。まだまともに剣は振れないだろ」
「なら剣は何処だ。戦うにしても武器が必要だ。俺が持っていた剣は何処にある」
「悪いけどまだ渡せない。お前は突然このクラーケンシュタイン上に落ちてきた不振者だからね。警戒しないといけないんだ」
「どう戦うんだ。丸腰で戦えというのか」
「こっちから用意するよ。とにかく話は歩きながらする。付いてこい」
面倒なことになった。
「あ、そうだお前の名前。聞いておかないと一応呼びにくいし」
戦えの次は名前か。人使いが荒いな。迷惑だ。
こっちはお前の名前を聞いていないぞ
「カイム、カールレオン。カイムでいい」
だが殺せるならなんだっていい。敵がいるなら殺す。
戦いは全てを忘れさせてくれる。
アイツらもイウヴァルトもフリアエも。
憎悪を滾らせ振りまくる。
この胸に空いている虚しさも
「あああああああああああ」
「うっさいディト!ぶー垂れてないでさっさと手伝いなさいよ!」
「うっさいんだよ買い物バカ」
「買い物バカァ~⁉あんたいい加減に痛い目に遭わないと分からないみたいね!」
「痛い目にね。ああ、ほんとムカつくよ。何で僕がこんな奴らを運ばなきゃいけないんだよ」
「文句言わない。私たちのこれは任務。カミラ様の命。そして」
「ガロン王様の命令。分かってますよー。ったくあの王様もいい趣味してるよ。傷つきの敵を王女の模擬戦に使うなんてさ」
「あんたも似たようなもんでしょ」「ディトも戦場では痛めつけている」