殺戮王子の異世界奔走記   作:迷子の鴉

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五話 狂った王子と箱入り王女

 剣が刺さらなかった理由。

 

 それはカムイが上空でリンカを突き飛ばし、剣先から回避させたことであった。

 突き飛ばされたリンカは体勢を崩すが受け身をとって着地。カムイは身軽に体をひねり足先から綺麗に着地を決めた。

 すかさずカイムは追撃のために近くにいたカムイに剣を振るう。カムイは剣を打ちつけるが圧倒的な腕力の差に徐々に後ろに押される。

「ウウッ!…やっ‼」

 しかしカイムの剣を僅かながらずらすことで後ろに引き、スズカゼたちを守る為に再び魔剣ガングレリを正面に構える。

 

「‥‥…何のつもりだ」

「彼らに、争う意思はありません」

 カイムの問いかけにカムイは当然というように言葉を返す。

 

 この女は何を言っている。争う意思がないからだと。

 そんなものは戦いの場では無意味なものだ。大抵は命乞いの為、「自分はもう戦えない」と相手を油断させて形勢逆転を狙うものが使うもの。見てみろ、コイツラは未だ俺を殺そうと必死に機会を伺っている。

 

 どうでもいい殺す。まとめて殺す。

 元々ごちゃごちゃ考えるのは得意ではない。

 邪魔をするなら殺す。それでいい。

 

 そしてカイムはカムイに近づく。

 

 

 

 

 

「両者そこまで!」

 突如、マークスの声が庭に響く。

「カイム!これ以上戦いを続けるのならお前の雇用の件、無かったことにする」

 圧力のかけた声でカイムを抑える。

 

 チッとカイムは足元の血溜まりに剣を振り付け庭を後にする。

「ッ待て!勝手に出歩くな!」

「ディト、ベルカ、彼を医務室へ行かせて」

「…了解」「はいはい」「ちょっとあたしは!」

「ルーナは私と来てちょうだい」

「んもう!分かったわよ!」

 

 

 こうして乱闘騒ぎになったカイムの死合は本人が意外に軽く引き下がったため終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

平和を愛する白夜王国、戦によって勢力拡大を目論む暗夜王国。

この二つの王国が今この世界において存在する大国であり。

各地で戦乱が巻き起こる多くの原因である。

暗夜は一年を通して日の光が届かないことがあり、大地は荒れ作物は育たず食料困難に陥ることが多い。

対し白夜は温暖な気候に清純な水に恵まれ、作物は豊富。平穏な暮らしを享受していた。

 

 

 

暗夜はその資源を狙って度々戦をしているらしいが、なんともまぁ無謀な試みだ。とおおまかに話をまとめた結果そう感じた。

 

兵士の練度がどれくらいか知らないが、食料もままならないのに戦争を仕掛けるとは無謀すぎる。

帝国軍との戦いも熾烈を極めたが食事はまぁなんとか調達できていた。多くの国が集まり、食料を出し合っていたからだ。

だがこの国は国土全域が荒れ地ときた。

一体どうやって兵を賄い食わせているのか?

略奪しても限りがあるだろう。

 

(まぁどうでもいいが)

俺にとって重要なのは唯一つ、戦えるか戦えないか。

 

ただそれだけで十分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    [見ないで]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

嫌なことを思い出し、置かれていたパンを齧る。

 

 現在彼は医務室で木製の机に載せられたパンを皿から取り出し、食事を取っていた。

 本来ならあの強さから危険性を覚え、医務室ではなく牢屋にでもぶち込んでおいたほうがいいのだろうが、先程の戦いで傷が開いたらしく処置と休養させるためこの場に運び込まれたのだ。

 

 パンを食い終えた頃、レオンが医務室へと入り椅子をカイムのベッドの横に置き座り込んだ。

「遅くなったけど…お前にはいくつか質問したいことがある」

「……ああ」

怠くなってきたのでカイムは背を壁につける。

「一つ、お前はどうやってこの王城に入った?」

「知らん。気づいたらあそこにいた」

「…二つ、あの怪我はどこで?」

「…巨大な【敵】と戦った後に鉄の鳥にやられた」

「……三つ目、お前何処の兵士だ」

「……ミッドガルドの連合軍兵士」

一連のカイムの応答にレオンは顔を顰めた。

「さっきから聞いていると信用にかける内容ばかりだね。実際、現れた時のことが信じられない方法だから一応飲み込めるけど」

「事実だ」

「嘘をつけるように見えないし、一応はそういうことかな」

頭を抱えたくなる。

 

「とりあえず、実力はわかったから次は忠誠心を見せてもらうよ」

「今度は何だ」

 

レオンは今までの悩みを隅へと置き、冷淡な様子でカイムを見据える。

 

「姉さん。僕の姉、カムイ王女の護衛だよ」


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