「……で。この頭痛い状況を整理するところから始めるで」
「名探偵、皆を集めてさてと言い、って奴ですねっ」
「いうて探偵とか、もうなんも関係ないやん。この状況……」
しかめっ面で、龍驤はまわりを見回した。
背が高いのから低いのまで。ボインボインからつるぺったんまで。いろいろ取りそろえてる7人組がそこにいる。
「ま、自己紹介から始めよか」
龍驤は言った。
「うちは龍驤や。艦娘艤装研究所の職員やな。通称は『探偵』やけど、別にヤクやってもおらんしバリツも使えへん。ほとんど海には出ぇへんけど、研究の都合上一応『艦娘』――艦種は軽空母や」
「艦娘、ですか」
反応してつぶやいた娘に、龍驤はうなずく。
「せや。キミらもそやろ? なんやけったいな気配やけど、一応ご同類って感じやしな」
「まあ、同類と言えばそうかもしれませんが……」
その娘は少しだけ迷ったそぶりを見せてから、
「一応、艦娘とはなにかについて、確認のために説明していただきたいのですが」
「……ん、まあ、そやな。事情が事情やしな」
龍驤はちら、と部屋の窓から外を見て、それからこほん、と咳払い。
「まあ、艦娘っちゅうのは、イタコさんの現代版やな。昔の戦争で戦った艦と、それと供にある戦士達の魂を召喚し、自分の力として戦う存在や。昔は国に抱えられとったんやけど、今では法律の都合とかでほとんど民間企業勤めやね」
「……なるほど」
「じゃ、せっかくやから次はキミ、自己紹介行ってみよか」
「わ、私ですかっ?」
「せや。ほれほれ、はよう」
「あ、はい。……こほん。では失礼して……
地球連邦政府軍所属、『艦娘』型ヒューマノイド25085番個体、『駆逐艦』朝潮です。勝負なら、いつでも受けて立つ覚悟です!」
「お、おう……」
とっさの反応に困って微妙な返しをしてしまう龍驤。
「その……ええと。ヒューマノイドなん?」
「はい。遺伝子改良を受けておりますので人間ではありません。国際人権憲章の適用対象外ですのでこの年齢で戦場に立っても合法です!」
「意外にブラックやな地球連邦!」
「ちなみに艦娘というのは私のような戦闘タイプヒューマノイドのうち海で戦う訓練を受けたものを指す用語です」
「カメラ目線なのはええんやけどお話するときは目ぇ見て話そ。な?」
なぜか部屋の監視カメラらしき物体に決めポーズで言う朝潮に突っ込む龍驤。
「最初っからずいぶん飛ばしたなぁ……まあええわ。んじゃ次。キミ」
「……私?」
「うん。キミやキミ。さっきからぼへーしとるけど眠いん?」
「コタツに入りたい……引きこもる……」
「自己紹介の後でな」
「ううー……初雪……です。よろしく……」
嫌そうな顔で初雪が言った。
「キミも艦娘なん?」
「そう……艦娘……大自然の意思を受けた……人類の守護者……」
「またずいぶん話が飛んだなあ!」
「でも戦うの面倒……人類滅びればいいのに……」
「そして設定投げっぱなしたなあ!」
人類の守護者としての誇りとかないんかい。と龍驤は思ったが、そこまでは言わないでおいた。
「自己紹介終わった……コタツは?」
「ウチに言うなや。この部屋の管理人に言え」
「管理人……どこ?」
「ウチが知るかい」
「いやだ……もう……引きこもりたい……」
「ダメやなこの守護者。使えへん」
切り捨てて、そして龍驤は三人目を見る。
「んじゃ次はそこのボインちゃん」
「あ、わたしですかっ」
「うん。なに食ったらそんなナイスバディになれんの?」
「ごぼうサラダとか?」
「予想外に渋いな!」
「あ、あの、龍驤さん。自己紹介ではっ?」
「朝潮ちゃん……あのな。物事には優先順位っちゅうもんがあるんや」
「ゆ、優先順位、ですか」
「せや」
龍驤は深くうなずいた。
「状況よりなにより、ナイスバディに出会ったらセクハラ! これは人類の義務やろ!」
「そうなんですか! 勉強になります!」
「キミぃ……そこは突っ込むところやでぇ……」
流されるととても困る。
当の相手の方はきょとんとして、
「あ、あれ? いまのセクハラだったんですか?」
「軽い奴な。重いのやとシャレにならへんし」
「龍驤さんスタイルがスタイルですからマジ質問かと」
「キミもキミでええ性格しとるな! まずは名を名乗れぃ!」
「あ、はい! 照月です! 魔法の長一〇センチ砲ちゃんに選ばれて世界を守る『艦娘』になったの!」
「またファンシー方向が続くなあ……」
「悪い敵艦載機は片っ端から皆殺しなんだから!」
「それはファン死ーって感じやな」
「お札貼ってもおとなしくならないんだから!」
「それはキョンシーや」
「セガが昔大爆死した?」
「シェンムー……ってそれはさすがに無理ありすぎやろ! 文字数と最後伸ばすとこしか合ってへんやん!」
「ぶぶー。答えはマークIIIでした!」
「爆死ってほど悪くないわ! セガに謝れ!」
「あ、あの。さっきから話が盛大に脱線してますよ?」
困り顔で、朝潮。
「ちっ……まあええわ。あさたんの顔に免じて今日はこのへんにしといたる」
「あさたんって……」
「朝潮なんて画数多い名称いちいち言ってられへんやろ。せやからあさたん」
「画数が関係あるんですかっ!?」
「当たり前や。ウチの知り合いの阿武隈とか悲惨やで? ケッコン相手に漢字覚えてもらえへんからな」
「それはひどいですねっ」
「よっしゃ! なんか調子出てきたで! じゃあその調子で五人目行ってみようか!」
びし! と指さした先にいた女の子は、ちょっと焦ったような顔で、
「あ、ええと、綾波型駆逐艦の、潮、です……緊張してます」
「リラックスやリラックス。どーせ設定違えど同じ艦娘やろ?」
「え、いえ。わたしは艦娘とはいいますが……ちょっと、種族が違いまして」
「種族?」
「初めて人間の皆さんにお会いできて……もうとっくに滅びたはずの種族なんで、なんだか感激ですっ!」
「…………。
ちなみにキミ自身はなんなん?」
「あ、すいません。人間形態だと発音できないんですよ、わたしたちの種族名。だから艦娘という自称で」
「なんかファンシーから一気にホラー面行ったで!?」
「いまわたしたちの間で大人気なんですよ、人間の真似。とってもこっけ……素敵ですよね!」
「しかも内面まで黒そうやで!?」
恐れおののく龍驤。
「これは深く突っ込むとやばそうやな……次行こ、次。キミや」
「……駆逐艦、若葉だ」
「ほう」
「…………」
「…………。
それだけ?」
「二十四時間、寝なくても大丈夫だ」
「どこ向けのアピールやねん」
「……そういうことにしておかないと、査定がな」
「悲しすぎるわ! なんなんキミの職場、ブラック企業か!」
「いや、自衛隊だが」
「……それは、ブラックぽいな」
「大丈夫だ」
「…………。
次、いこか」
深く突っ込めない雰囲気を察して、龍驤は次の人間に視線を移した。
そいつは筋骨隆々の鍛え抜いた肉体を晒しながら、
「うむ! 駆逐艦、長門だ! ながもんではないぞ! 最近よく間違えられるが!」
「って嘘つけやーーーーーーーーーーー!」
絶叫。
「む? なにが嘘だと?」
「自分の艤装見てもの言いや! どこが駆逐艦やねん!」
「なに!? 戦艦も鍛えれば駆逐艦になれるのではないのか!?」
「その台詞とよく似た言葉は聞いたことあるが逆やし!」
「ほら、どこかのインターネッツにも現代ではヘリ空母を駆逐艦とすることなど茶飯前だと」
「そのコピペは自分と時代が違うやろ……ちゅうか、まだウチが駆逐艦自称する方が自然やわ」
「なんだ。自虐ネタか?」
「胸見て言うなや!」
「大胸筋の鍛え方、教えてやろうか?」
「ウチが欲しいのは筋肉やなくて脂肪や!」
「では徹甲弾でも装備するのはどうか」
「そういう知り合いいるけど悲しくならへんかなあ? うっかりタッチイベントでもあろうもんなら擬音カーンやで、カーン」
「いや、衝撃で爆発するかもしれんぞ」
「その場合の擬音はドカーンやな」
はっはっはと歓談するふたり。
「……って、違う! だから自分は戦艦やろ!?」
「たしかに私は戦艦かもしれない……だが、心はいつも駆逐艦だ!」
「ハートの問題なんか!?」
「他になんの問題が!?」
「あー、まあ……人間でないのまでおるしな……んで、キミのところでは艦娘ってなんやの?」
「いやあ、それがな」
ぽりぽりと頭をかいて、長門。
「まったく記憶にないんだ、これが。艦娘……というのか? 我々は?」
「…………。
元の世界の記憶、ないんか?」
「最後は新型爆弾の試験台で沈んだ記憶ならあるが」
「あー、そりゃ……実艦の記憶やね」
「そうなんだろうな。おまえ達はなにかしら艦と切り離されている別側面があるようだが……私のほうには、艦の記憶しかない」
「ある意味最も純粋に艦娘しとる感じやね……
まあ、じゃあ最後行こか。そこのキミは?」
「ドーモ! モーターノワキ、です。スシっ! スシを、ください!」
「……自分?」
「はっ! ……す、すいません。搭載UNIXのエネルギーが足りてなくて、オムラAIの自律モードが暴走して」
「また絶妙に尖ったのが来たなあ……」
「スゴサのー、オームラー! ……あ、すいません! また暴走を」
「こういうこと聞くのアレなんやけど……ロボなの? キミ」
「あ、はい! ネオサイタマを狙うカイジュウ対策用予算によってオムラ・インダストリ社により作られた、対カイジュウ用決戦兵器、モーターカンムスです! そこにノワキ・ニンジャのニンジャソウルが憑依しまして」
「待て待て待て待て突っ込みが追いつかんわ!」
「あ、ニンジャご存じないです? ニンジャ。平安時代に日本をカラテで支配したと言われる伝説の存在ですよ。太古の世界に伝わる神話・伝承はニンジャ由来のものが多いんです。チェルノボグとかメジェドとかオルフェウスとかツチノコとかバルドルとかみんなニンジャです!」
「だから突っ込みが追いつかんっちゅうとろうが!」
「それで聞いてくださいよ! よりによってオムラは、私たちの研究をリー先生にマルナゲしようとしたんですよ! リー・アラキですよリー・アラキ! それで必死で逃げたのはいいんですが、途中で迷って気がついたらこんなところに」
「……まあ、ともかく野分ってことでええんやな? のわっちって呼ぶことにするわ」
ちょっと死んだような目で龍驤は言った。
ふむ、と長門は腕を組んで、
「しかしこんなところに駆逐艦七隻と空母探偵を呼んで、連中はなにをする気だろうな」
「もはや突っ込む気力もないわ……まあ、でも。ながもんの言うことももっともではあるわな」
「ながもんではない。長門だ」
「まったく本当に、こんなところ……冗談やあらへんわ」
うんざりした様子で、龍驤は窓の外を見る。
そこには、真っ暗闇の中に輝く星々と。
「ベッドなのに妙に下が固いなっちゅうて起きてみたら、よりによって「UFOの中」やて? 誰やねん、こないなドッキリ仕掛けたんは」
青く輝く美しい地球を眺めて、龍驤は吐き捨てた。
読み比べていただければわかりますが、龍驤のみ、前作『清霜の戦艦代理日記』と同じ設定の世界観出身です。
ちなみに早霜の就職先の同僚という裏設定がありますが、たぶんこの作品では一切使われません。