空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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第肆話:龍驤ちゃんと『サイレン』(2)

「そして陸奥を守る戦いとなれば、この駆逐艦、長門が出ないわけにはいくまい! うむ、実に理に叶っているな!」

『ええいやかましいわ。叫ばんでもわかるから小声でしゃべらんかい!』

 

 はっはっはと胸を張る長門に、スピーカーから龍驤の声が突っ込みを入れた。

 

「む? しかしな龍驤よ。この私よりもおまえの方がこの場での声量は上だぞ?」

『そりゃそうや。こっちはスピーカーやけど、そっちの声は集音マイクやねん。正直、がっつんがっつん大声がこっちに流れてきて、めちゃくちゃうるさいんや』

「そんなものか。面倒くさいな」

 

 長門は吹く風に髪をなびかせ、腕を組みながら言った。

 艤装フルセット。いつでも戦闘に移行できるスタイルである。

 

「だがこの長門の配置はここでいいのか? この場所、わかりにくく偽装してはいるが一応は正門付近に該当するところだろう?」

『うん。せやね。まあ普通の施設なら、正面から敵は来ないやろね』

 

 龍驤は言った。

 

『せやけど、ここは施設が施設やからな。おおっぴらに警備を置けへんねん。結果として正面に最大戦力を置いて牽制しとかんと、裏をかかれかねん』

「こう、戦争に参加した艦としてはどうにも納得しかねるのだが、日本国もこすいことをするな。もうちょっとおおっぴらにこういう研究をしてもいいんじゃないのか?」

『まあ、政治はいろいろあんねん。()()()とまでは言わんが、原子力扱う施設となると、ちょいとな』

 

 そう。この施設は普通の施設ではない。

 かの『陸奥鉄』を使った放射線測定装置のある場所。となれば当然、放射線を測定する必要がある施設となるわけだが。

 原子力発電所の類は、最初から警備が極めて厳重で、敵もそうそう入れない。龍驤がなにをするまでもなく、物理的、呪術的、双方の側面で万全の体制である。

 大学の核物理研究などに使う施設も、大規模なものは警備がかなり厳重。一方で小規模なものは術式のために使い物になるような良質の陸奥鉄が手に入らない……と、こうやって絞っていけば、敵が狙う施設はだいぶ絞られる。ましてや、ここのところ活動しているとおぼしき首都圏に限定すれば……

 

『政府と自衛隊の共同参画による、対A兵器用設備研究施設。ここにはそうとうな量の陸奥鉄が運び込まれとるが、秘匿されてるが故に大規模な警備を置けない。その結果……』

「敵が狙うには、これ以上ないほど都合のいい施設というわけだな」

 

 長門はうなずいた。

 龍驤も同意して、

 

『日本政府にはすでに上申して、ここに緊急の戦力配備を要請しとるねん。せやから、うちらが守らなあかんのはここ数日が勝負や』

「うむ。正面から来た敵はこの長門が叩き潰す。仮に正面から来ない、卑怯者がいた場合は……」

『はいはーい。こちら野分です。侵入者対策トラップ、ばっちり準備済みですよー』

 

 スピーカーから、のんきな声で野分が言った。

 

『のわっち。ばっちりなのはええけど、寿司食いながらしゃべるのは行儀悪いで』

『ウウウウマーイ。え、これシツレイなんです? 最近とろサーモンにはまってまして。ニューロンがスパークするようなエネルギー効率ですよこれ』

『……なんか違法薬物みたいな説明やな、それ』

『アンコもメン・タイも合法なんですよねー、こちらの世界では。成分がクリーンなんでしょうね。まあ私は手を出す気にはなれませんけど』

「雑談はいいが、敵が来てもエネルギー補給が終わってない、などといった事態は避けてくれよ、野分。カンムス=ニンジャとしてのおまえの力量は信頼しているが」

『任せてください! オムラのテックを見せてやりますよ!』

 

 がしゃーん、ういーん、とメカな音が響き、長門はそれを聞いて深くうなずいたが、

 

「…………。

 おい龍驤。少し困った事態だ」

『ん、なんや?』

「気がついたら暗雲が立ちこめている。このままだと雨が来るぞ」

 

 長門の言葉に、龍驤は少し沈黙した。

 雨に濡れてしまう、というような低レベルな話ではない。雨、そして嵐というのは、船たる艦娘とは()()()()根本から相性がとても悪いのである。

 大規模などしゃ降りでもあれば、こちら側の戦闘力を削ぐ可能性がある。それを、長門は言っているのだ。

 ふむう、と龍驤は考え、

 

『天気予報にはなかったな。この雨』

「敵の攻撃、あるいはその予兆か?」

『可能性はある。けど……』

「けど、なんだ?」

『その場合、おそらく来るのは従者の方やな。『語り部』側やない』

「ほう」

 

 長門は腕組みを解かず、言った。

 

「根拠は?」

『天候操作ってな、けっこう難しいんよ』

 

 龍驤は言った。

 

『考えてみい。雲ってのは、まあいろいろ混ざっとるけど、基本的には水やろ?』

「まあ、そうだな。それが?」

『水がふわふわ、お空の上を漂ってるんやで。そのための()()()()()が最低限必要や。このあたり一帯を覆う雲ともなれば、それはもう桁違いのエネルギーを持ってるねん』

「そのエネルギーを捻出するだけの力が必要、というわけか。しかし……」

『しかし、なんや?』

「いや。創作ではよくあるだろう、天候操作能力。物理的には無理なことでも、魔術などといった物理の外の力ならば、なんとかなるのではないか?」

『そこが問題でな。つまり、笹目ちゃん達――オーヴァードの能力は魔術とかと違って、物理寄りやねん。せやから、こんなことは無理や。もしこれが攻撃だとすれば……呼び出した従者が、こういう能力系統だったんやろうな』

「ふむ。警戒するべきか……野分のほうはどうだ?」

『あー、それなんですけどね』

「?」

 

 野分は珍しく、若干早口で言った。

 

『これ、()()()()()()()。間違いありません』

「……根拠は?」

『いえ、その。たいへんな偶然で、どうにも説明しづらいんですけど』

 

 野分は若干歯切れ悪くそう言って、

 

『私の出身地と類似世界観からの従者なんですよ。もっと露骨に言うと、敵は()()()()です』

「ニンジャ……? あの忍者か?」

『あ、この世界で情報アップデートしましたので、言いたいことはわかります。そして違います。ここでのニンジャというのはこの世界での概念ではなく、異世界においてかつてカラテの力で古代日本を支配した超自然的存在(イモータル)のことです』

『うん。何度聞いてもよくわからんなあそれ』

 

 龍驤がぼやいた。

 

『せやけど、つまりニンジャ反応を検知ってとこかね、のわっち』

『はい。アーチニンジャ級、あるいはそれ以上の、強大なニンジャソウル反応を付近に検知しています。おそらくこの雷雲はそのニンジャのジツ……つまり、攻撃であろうと推測します』

「そして、野外にこれだけの用意をしたということは」

『せやな』

 

 龍驤は言った。

 

『敵は正門から、警備をぶち破ってくる可能性が高い! ながもん、いまが召喚の時やで!』

「よかろう。この長門にふさわしいゴージャスな従者を、いまこそ呼び出すとき! 胸が熱いな!」

 

 長門はばっ、と両手を前に差し出し、呪文を唱えた。

 

「混沌を以て秩序を成すべく定められし異界の勇者よ。いまこの呼び声に応え、我が下へ応じよ!」

『よし、打ち合わせ通りの詠唱や! これでここには、ばっちりいまの状況に最適な従者が呼び出されるはずやで!』

「はっはっは! 期待しておこう!」

 

 長門はひとしきり笑った後、

 

「しかしどうだろうなあ。戦闘力とか私でどうとでもなるだろう。やはり幼女が至高なのでは?」

『あっこら、雑念混ぜるな馬鹿! まだ詠唱シーケンスは終わってないんやで――!?』

「え? ――うわっ!?」

 

 龍驤の言葉に首をかしげた長門の目の前に怒濤の光が現れ、それは瞬く間に人型へと収束して――

 

「……うん?」

 

 黒いニット帽。

 黒いジャージ。

 黒いスニーカー。

 少しクセのある赤毛に、真っ白な、磁器を思わせる白い肌。

 そして耳にアクセントとばかりに黄金のピアス。

 そこには、眠たげな紅い目をした一人の美少年が、やや不満げな顔で立っていた。

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