空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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第肆話:龍驤ちゃんと『サイレン』(3)

「ほう」

 

 長門は不満げにため息を漏らした。

 

「なんだ男か。帰っていいぞ」

『おい、ながもん!』

「ほう?」

 

 不満げな顔をしていた少年は、そこで少しだけ愉快な顔をした。

 

「なんだ。力がいるんじゃないのか? 我が主とやらよ」

「まあ、そういうことになっている。だがまあ……」

 

 長門は肩をすくめ、

 

「愛でるために現れた幼女ならともかく、子供に戦を任せるわけにはいかんよ。すっこんでろ」

 

 一瞬、少年はなにを言われたかわからないといった表情をした。

 その顔が、次第にほころんでいく。

 

「く、ははははは……っ」

「どうした? なにがおかしい」

「いやいや、なに」

 

 少年は手を振って。

 

 次の瞬間、長門の身体がぶっ飛ばされた。

 

「ぐごあああああああああああ!?」

「よりによって俺をガキ扱いするとはな、主どの。殺されたいか?」

 

 モニター越しにそれを見ていた龍驤は、ため息をついた。

 

『ながもん、アホなことはそこまでにしとき。創作の人物が見た目通りの年齢であるとは限らんっちゅーの、言わんでもわかるやろ?』

「よっ!」

 

 ぶっ飛ばされて地面に倒れた状況から簡単に起き上がり、長門は頭をかいた。

 

「いたた……衝撃で舌を噛んでしまった」

「俺の力場思念(ハイド・ハンド)を真っ正面から受けてそのダメージか。頑丈さだけは評価できるな、主どの」

 

 くつくつ、と少年は笑う。

 その頭の横を、どひゅっ――と、なにかが過ぎた。

 それははるか遠くへと飛んでいき、施設の壁に着弾して爆発四散した。

 

「無礼な小僧だな」

 

 こきこき、と首を鳴らしながら、長門が言った。

 

「しつけがなってないな。まず名を名乗れ。一応戦えるようだが、ガキがなめた口利いてるんじゃない」

「あん? 嫌だね」

「なんだと?」

 

 少年は面白そうに笑いながら、

 

「先に名乗るのは格下からというのが決まりだろう、()()()()()()()。それとも、力では俺に勝っているとでも言うつもりか?」

「……ほーう」

 

 長門の目が輝いた。

 

「どうやら、鉄拳制裁が必要なようだな」

「同感だ。どちらが上か、教えられないとわからんらしい」

『お、おい、あんたら、敵がこれから来るっちゅうのに同士討ちとか勘弁――』

「「後にしろ!」」

 

 二人同時に叫んで、そして戦闘が始まった。

 即座に距離を詰めたのは少年側。異常な速度で長門の前面にたどり着くと、拳を振り抜こうとする。

 長門がそれに対して行ったことは、回避――でもない。防御ですらなかった。

 彼女は一切、攻撃を避けなかった。その拳撃を受けつつ、正面から肩を相手の身体にぶつけていく。

 少年と目が合った。

 が、それも一瞬。かち割るような頭突きが少年の頭にたたき込まれ、二人はお互いにふらついて距離を取った。

 長門は悠然と言った。

 

「ふ……いいパンチだ。ただの筋力ではない、あの念動力で強化したな?」

視経侵攻(アイ・レイド)が効かないか。いや、空回りしているのか? どちらにしろ小娘、おまえも人間ではないな」

「無論だ」

 

 長門は鷹揚にうなずいた。

 

「この私、戦艦長門は鋼鉄の船。そしてそこに集いし戦士達の化身(アバター)である。

 多少人間離れした怪力やら、精神操作やらを使える程度で届く存在ではない。これ以上を見たければ、貴様の本気を見せることだ」

「言うねえ」

 

 少年は、楽しそうに言った。その目の周囲に、ぼっ、と小さな炎が灯って、すぐに消える。

 

「だがそうだな、おまえは思ったよりやっかいだ。だから使ってやろう。

 視経発火(アイ・イグナイト)()()()()()()()()()魔技、貴様に受ける覚悟があるか、長門?」

「誰に向かって物を言っている――小僧!」

「言ったな、小娘!」

 

 少年は笑い、そして即、その紅い目で長門を見据えた。

 そして長門の全身が炎に包まれ――だが、長門は笑った。

 

「は、たしかに火気はやっかいだが……この程度の火力なら、ダメージコントロールはたやすい!」

 

 そして即座に、背負った艤装の砲を少年に向け、

 

「故に、今度は当てる! 撃て!」

 

 爆音が響いた。

 いや、それは音と呼んでいいものだったのか。

 かつて戦艦長門に装備されていた、41cm連装砲。その威力をそのまま内包した射撃――それ自体は、少年はギリギリ、念動力で受け止めたのだが。

 だが、その火力を実現するための炸薬、その炸裂音はすさまじかった。少年の顔が苦痛にゆがむ。

 

「ぐ、がっ……!」

「隙あり!」

「がっ!?」

 

 長門の鉄拳が少年のみぞおちに入り、少年が苦痛のうめきを上げる。

 さらに追撃を仕掛けようとした長門だが、少年はすばやく飛びずさって距離を取った。

 その顔は憤怒と、屈辱にゆがんでいる。

 

「こ、の……『緋眼のゼルマン』相手に……『逃げ』を選択させたか! 小娘!」

「おうよ。そして私は逃げん」

 

 腕を組んで、長門は言った。

 

「なぜならそれが戦艦だからだ! あらゆる攻撃を受け止めて人々を守る、海に浮かぶ城塞、それが私だ! 重ねて問う、ではそれと相対する貴様は何者だ、小僧!」

「面白い!」

 

 ばっ、と少年は構え、そして突撃した。

 途中、長門の顔付近が発火したが、長門は不敵な笑みとともに黙殺。

 ふたりの拳が交錯する――その、寸前に。

 

 

 雷電が、空気をつんざいた。

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