「ほう」
長門は不満げにため息を漏らした。
「なんだ男か。帰っていいぞ」
『おい、ながもん!』
「ほう?」
不満げな顔をしていた少年は、そこで少しだけ愉快な顔をした。
「なんだ。力がいるんじゃないのか? 我が主とやらよ」
「まあ、そういうことになっている。だがまあ……」
長門は肩をすくめ、
「愛でるために現れた幼女ならともかく、子供に戦を任せるわけにはいかんよ。すっこんでろ」
一瞬、少年はなにを言われたかわからないといった表情をした。
その顔が、次第にほころんでいく。
「く、ははははは……っ」
「どうした? なにがおかしい」
「いやいや、なに」
少年は手を振って。
次の瞬間、長門の身体がぶっ飛ばされた。
「ぐごあああああああああああ!?」
「よりによって俺をガキ扱いするとはな、主どの。殺されたいか?」
モニター越しにそれを見ていた龍驤は、ため息をついた。
『ながもん、アホなことはそこまでにしとき。創作の人物が見た目通りの年齢であるとは限らんっちゅーの、言わんでもわかるやろ?』
「よっ!」
ぶっ飛ばされて地面に倒れた状況から簡単に起き上がり、長門は頭をかいた。
「いたた……衝撃で舌を噛んでしまった」
「俺の
くつくつ、と少年は笑う。
その頭の横を、どひゅっ――と、なにかが過ぎた。
それははるか遠くへと飛んでいき、施設の壁に着弾して爆発四散した。
「無礼な小僧だな」
こきこき、と首を鳴らしながら、長門が言った。
「しつけがなってないな。まず名を名乗れ。一応戦えるようだが、ガキがなめた口利いてるんじゃない」
「あん? 嫌だね」
「なんだと?」
少年は面白そうに笑いながら、
「先に名乗るのは格下からというのが決まりだろう、
「……ほーう」
長門の目が輝いた。
「どうやら、鉄拳制裁が必要なようだな」
「同感だ。どちらが上か、教えられないとわからんらしい」
『お、おい、あんたら、敵がこれから来るっちゅうのに同士討ちとか勘弁――』
「「後にしろ!」」
二人同時に叫んで、そして戦闘が始まった。
即座に距離を詰めたのは少年側。異常な速度で長門の前面にたどり着くと、拳を振り抜こうとする。
長門がそれに対して行ったことは、回避――でもない。防御ですらなかった。
彼女は一切、攻撃を避けなかった。その拳撃を受けつつ、正面から肩を相手の身体にぶつけていく。
少年と目が合った。
が、それも一瞬。かち割るような頭突きが少年の頭にたたき込まれ、二人はお互いにふらついて距離を取った。
長門は悠然と言った。
「ふ……いいパンチだ。ただの筋力ではない、あの念動力で強化したな?」
「
「無論だ」
長門は鷹揚にうなずいた。
「この私、戦艦長門は鋼鉄の船。そしてそこに集いし戦士達の
多少人間離れした怪力やら、精神操作やらを使える程度で届く存在ではない。これ以上を見たければ、貴様の本気を見せることだ」
「言うねえ」
少年は、楽しそうに言った。その目の周囲に、ぼっ、と小さな炎が灯って、すぐに消える。
「だがそうだな、おまえは思ったよりやっかいだ。だから使ってやろう。
「誰に向かって物を言っている――小僧!」
「言ったな、小娘!」
少年は笑い、そして即、その紅い目で長門を見据えた。
そして長門の全身が炎に包まれ――だが、長門は笑った。
「は、たしかに火気はやっかいだが……この程度の火力なら、ダメージコントロールはたやすい!」
そして即座に、背負った艤装の砲を少年に向け、
「故に、今度は当てる! 撃て!」
爆音が響いた。
いや、それは音と呼んでいいものだったのか。
かつて戦艦長門に装備されていた、41cm連装砲。その威力をそのまま内包した射撃――それ自体は、少年はギリギリ、念動力で受け止めたのだが。
だが、その火力を実現するための炸薬、その炸裂音はすさまじかった。少年の顔が苦痛にゆがむ。
「ぐ、がっ……!」
「隙あり!」
「がっ!?」
長門の鉄拳が少年のみぞおちに入り、少年が苦痛のうめきを上げる。
さらに追撃を仕掛けようとした長門だが、少年はすばやく飛びずさって距離を取った。
その顔は憤怒と、屈辱にゆがんでいる。
「こ、の……『緋眼のゼルマン』相手に……『逃げ』を選択させたか! 小娘!」
「おうよ。そして私は逃げん」
腕を組んで、長門は言った。
「なぜならそれが戦艦だからだ! あらゆる攻撃を受け止めて人々を守る、海に浮かぶ城塞、それが私だ! 重ねて問う、ではそれと相対する貴様は何者だ、小僧!」
「面白い!」
ばっ、と少年は構え、そして突撃した。
途中、長門の顔付近が発火したが、長門は不敵な笑みとともに黙殺。
ふたりの拳が交錯する――その、寸前に。
雷電が、空気をつんざいた。