空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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第肆話:龍驤ちゃんと『サイレン』(5)

 同時刻。

 施設内部で待機していた龍驤達は、長門への通信手段としてのスピーカーを破壊され、仕方なく戦いの趨勢を見守るのみ――では、なかった。

 

「な!? なんですかこれは!」

「おや、戻ってきてしまったか」

 

 驚愕の声を上げた野分に対して、その男は悠然とそう言った。

 その片手は施設の壁につけており、なんらかの超自然力がその手から施設のどこかに送られていることが、野分のオムラセンサーに捕捉されている。

 そして、龍驤はうずくまって、頭を抱えていた。

 

「のわっち……敵襲、や……うぐっ」

「おのれ卑劣な襲撃者ですね! 私がニンジャ対応力維持のために厠……ではなくて便所……ええとニンジャ語彙力が不足してますちょっと失礼。オムラ出版の脳内辞典によれば、そう、お花摘み! お花摘みに出かけている間になんと卑怯な!」

「いやまあ、いろいろ突っ込みどころがあるけど僕は突っ込まないよ?」

 

 若干引き気味に男は言った。

 長身の、西洋系の容姿をした男である。服装は現代風だが、なぜかこの男が着るとどことなく古風な、戦前の様式のようにも見える。雰囲気がそうさせているのか、あるいはなにかの精神攻撃か。

 ともあれ、野分は油断せず、きっと彼をにらみつけた。

 

「龍驤さんになにをしたんですか! あなたも陸奥鉄が目当てなんです!?」

「まあ、そんなところだね。というか君は平気なのかい?」

「はい? なにがです?」

「いや、だからね?」

 

 男はうずくまる龍驤を見下ろしながら、悠然と言った。

 

「そこに陸奥鉄があって術者がいれば、『サイレン』はいつでも発動可能なんだよ。こうやってね。直接触る必要すらない。

 だから君も艦娘である以上、効かないはずがないんだけど……」

 

 そこで彼は首をかしげ、

 

「艦娘なのに効かないんだね、『サイレン』。なんでかなあ」

「まあ、私は艦娘である以前にニンジャですので。ドーモ、モーターノワ……ではなく、野分です」

 

 この世界にニンジャネームの文化がないことを学習していた野分は、途中で訂正してアイサツした。シークレット事務所は地元の人間が実際知っている。ミヤモト・マサシのコトワザである。

 対する男も悠然と、

 

「僕は魔術師ハワード。外の騒動を囮として、陸奥鉄を確保させてもらいに来たよ」

「なるほど! 家に火がついていれば泥棒してもバレにくい、というコトワザ通りですね!」

「いやそんなことわざは聞いたことが……火事場泥棒の話?」

「おっと失礼。脳内辞典を展開状態だと知識人モードになってしまっていけませんね」

 

 野分は言って、脳内辞典アプリをシャットダウンした。

 そして特徴的なモーターカラテの構えを取り、

 

「とにかく! あなたのもくろみもここまでです、魔術師ハワード=サン! モーターカンムスは実際強い。ましてやニンジャソウルが憑依となればモーター理念とニンジャのカラテで百倍です! わかりますかこのさんすうが!」

「いやわからないけど。まあ、アクシデントに対応するには、追加の一手が必要かな」

 

 言ってハワードは、懐から一冊の本を取り出した。

 

「力ある魔導書は、それだけで兵器たり得る。

 今回取り出したるこれは『ケライノーの破片』と呼ばれるもの。さあ、この呼びかけに従い応えよ、アエロー! オキュペテー!」

 

 ハワードの言葉に従って魔導書はひとりでにぱらぱらとページをめくり、そこから二匹の鳥人間のような怪物が姿を現した。

 

「なんとっ! これは『語り部』系ではない召喚のジツですね!」

「その通りだ! ギリシア神話に名だたるハルピュイア三姉妹、その力を見るといい!」

「面白い! ならばモーターカラテの力、お見せしましょう!」

 

 野分はがちゃこん! と靴からローラーを出し、不安定なはずの姿勢から信じがたいほどどっしりした受けの構えを見せる。機械、AI、そして物理学と神秘が渾然一体となったモーターカラテの構えだ!

 最初に動いたのはアエロー。高々と跳躍して野分の顔面に蹴りをたたき込む! だが野分はミニマルな動きでその蹴りをいなすと、左足のブースターからロケット放射! 勢いでたたき込まれるロケット・ケリ・キックがアエローの胴に突き刺さり、アエローは悲鳴を上げて吹っ飛ばされた!

 続いてやってきたオキュペテーは地面を滑るように滑空して野分へとタックルをしかける! だが野分はミニマルな動きでそのタックルを切ると、右足のブースターからロケット放射! 勢いでたたき込まれるロケット・ケリ・キックがオキュペテーの胸に突き刺さり、オキュペテーは悲鳴を上げて吹っ飛ばされた!

 その隙に復帰したアエローが回り込んで空中からのかわしにくいチョップを仕掛ける! だが野分はミニマルな動きでそのチョップをずらし、右手のブースターからロケット放射! 勢いでたたき込まれるロケット・ポン・パンチがアエローの顔面に突き刺さり、アエローは悲鳴を上げて吹っ飛ばされた!

 その隙に復帰したオキュペテーが回り込んで側面から腕を取りに行く! だが野分はミニマルな動きでその手を振り払い、左手のブースターからロケット放射! 勢いでたたき込まれるロケット・ポン・パンチがオキュペテーの肩に突き刺さり、オキュペテーは悲鳴を上げて吹っ飛ばされた!

 その隙に復帰したアエローが正面からストレートパンチ! 野分はミニマルな動きでそのパンチをずらしたが、ロケット燃料がもうない! しかしそこはモーターカンムスである野分、がちゃり、と腰から12.7cm連装砲を取り出し、

 

「ここから先はピストルカラテです!」

 

 叫んで発砲! あまりの威力にアエローの身体が爆ぜる! と同時に、その反動をローラーで制御して推進力に転化した野分は、復帰しようとしていたオキュペテーの首筋にチョップをたたき込んでひるませ、さらに背後に回り込んでつかむと回転ジャンプ! そのまま暗黒カラテ奥義、アラバマ落としで顔面からオキュペテーを地面にたたきつけた! 首筋がごきりと音を立て、オキュペテーは動かなくなった。

 

「どんなもんです!」

「……すさまじいな、艦娘は。こんなのを何人も呼ぶとは、守護者たちもよほど追い詰められていたと見える」

 

 ハワードはつぶやいた。が、その顔に動揺はなし。

 そしてその横に、何事もなかったかのようにアエローとオキュペテーが現れた。

 

「なっ! たしかに倒したはずの敵が……!」

「甘いよ君。この二人の召喚は魔術だよ? それも魔導書の加護を得たものだ。僕と魔導書の力、これが尽きない限り何度でも召喚は行える」

 

 得意げにハワードは言って、

 

「では次だ。さて野分くん、君は何人目まで耐えられるかな?」

 

 

「いや、これで終わりだよ。魔術師ハワード」

 

 

 ぱん、という炸薬の爆ぜる音と共に、ハワードの胸に風穴が開いた。

 

「ば、あ、……え?」

 

 信じがたい、という顔でハワードは後ろを見る。そこには、小型のライフルを構えていままで隠れていた、ヘイヴィアの姿があった。

 

「だいたい、陸奥鉄による『サイレン』を使える魔術師の奇襲なんて、最初から考えられていたことだ。なら、ここの防備を艦娘だけが担うわけがねーだろ。まあ、その『サイレン』が野分に効かなかったのは予想外のラッキーだったけどな」

「…………」

「そこであんたを生け捕りにできればよし。無理なら殺せってのが指示でね。しょせんは魔術師の使い魔、魔術師が倒れれば消える。そうだろ?」

「……そうだな」

 

 ハワードは胸から盛大に流血しながら笑い、ごふりと血を吐き出して、

 

「まあ、いいだろう。今回の陸奥鉄奪取はあきらめよう。元より、情報が漏れていて防備を固められたのが間違いだった」

「…………?」

「『タイコンデロガ』。次なるキーワードを与えておこう。これを手がかりとするもしないも、君たちの自由だ。

 ではまた会おう、艦娘と従者たち。さらばだ」

 

 言ってハワードは、そのまますうっ、と薄くなり、アエローとオキュペテー、二人と共に姿を消した。

 後に残ったのは、数枚の紙のみ。

 ヘイヴィアはため息をついた。

 

「これ、式神とかいうやつか。ほんっとうにオカルト方面は面倒くさいな」

「本体じゃなかったんですねー、あのひと。まあ一応回収しておきますか」

「ダメや! 止まれのわっち、ヘイヴィア!」

 

 言葉に、びくっ、と二人の動きが止まる。

 声を出したのは、ようやくかろうじてといった形で立ち上がった、龍驤だった。

 

「な、なんだよ。なにか問題あるのか?」

「う、うぐぐ頭いたい……! せやけど、ダメや。その紙に触るのはおろか、直視するのもまずい。それはやつの魔導書や。絶対に呪われる」

「魔導書って、『ケライノーの破片』とかいう? え、これって素人お触り厳禁系のブツなの?」

「普通の魔導書なら、そこまででもないねん。けどこれはあかん。やつは名前をごまかしとったけどな、ギリシア系の名前は外のアガメムノンを呪的強化するためと、正体を悟られんためのフェイクや。あらかじめ資料を改めといたうちにはわかる」

「名前をごまかしていた?」

「そうや。その魔導書の真名は()()()()()()。こことは違う宇宙での禁断の大図書館から持ち出されたとかいう、汚染された狂気の塊や。触ったらそれだけで発狂しかねん」

「マジかよ……」

「そしてそれを持っている以上、相手の素性もわかるで。ガブリエルから事前に渡されとった要注意人物のリスト、その中でも上位にあった名前――」

 

 龍驤は、まだ痛む頭をさすりながら、言った。

 

「魔術師ハワード――()()()()()()()()()()()()()()()()()()。二十世紀を通じて自分の創作した神話の影響力で世界を汚染し続けた、とびきりヤバい思想汚染呪術の大家や。やつがオーヴァード達と組んでいるという情報がわかった。今回はそこで手打ちにせんとあかん……それ以上の追撃は禁止や」

 

 

--------------------

 

 

「ふむ。式神のひとつでも追跡してくるかと思ったけど、反応がないね。存外、あの龍驤とかいう艦娘は魔術師として一流らしい」

 

 同時刻。

 ここではないどこかにいた魔術師ハワードは、そう言って笑った。

 

「これは頭が痛い。わざわざ『レインボーロード』殿から借り受けたアガメムノンまで失いながら、結局陸奥鉄は手に入らなかった。それに、艦娘を生け捕りにする計画にも、弱体化させることにも失敗してしまった。まあ、こうしてみると、誘い込まれたのはむしろ僕の側だったということかな」

 

 独り言のように言ってから、ハワードは脇を見た。

 

「その辺、君はどう思う?」

「さて、どうかしらね」

「つれないなあ。全部わかっていることだろう? 君と従者として契約したときから、僕の運命は君の能力で見通せている。いや、君の能力が僕の運命を定めたのかな? 予言が先か未来が先か、少しばかり興味があるが……」

「そうよ。そして、ならばわかるでしょう? 必要以上の情報開示によって未来を狂わせることは、私にとって本意ではない。『原典』においても、私は最大限の効率を以て目的を達成するためにありとあらゆる無駄を排した。あなたなら知っているでしょう?」

「知っているとも。わざわざ君を呼んだのもそのためだ」

「……言っておくけど、その件に関しては私は、いまでもあなたを憎んでいるのよ。私の望みがなんであったか、あなたは知っていたはずよ」

「だがその望みの結果も、このままでは潰える。何度もした話だろう?」

「そうね」

 

 ハワードと会話した少女は、冷淡にそう言って、そして口を閉ざした。

 ハワードは愉快そうに笑って、

 

「けっこうだよ。最終的に君に背後からナイフで刺されることになろうとも、それはそれでかまわない。それにどんなに君が憎もうと、僕と君の利害は一致している。聡い君は、言われなくとも最大限の効率で僕のために役立ってくれるはずだ。違うかな?」

「そうなんでしょうね、おそらく」

「期待しているよ、我が従者、(そう)()(すみれ)。この世界において、君が、そしておそらくは君こそが最大の毒であり、そして救世主であると、僕は信じている」

 

 ハワードは、邪悪にも狡猾にも、そして爽やかにも見える不思議な笑みと共に、そう言った。

 

 

第肆話、了




おまけ:従者名鑑


No.004 ゼルマン・クロック
出典:「BLACK BLOOD BROTHERS」
術者:長門
属性:Chaos-Evil
性別:男
外見:燃えるような紅い瞳と髪を保つ美少年。どこか肉食獣めいた印象を与える
得意技:戦闘
解説:軍艦の化身、長門の召喚した従者。吸血鬼であるが、伝承にあるような弱点は少なく、銀と炎以外の目立った弱点は持たない。
 齢800を超える古血(オールド・ブラッド)であり、圧倒的な戦闘能力を持つ。念動力(力場思念(ハイド・ハンド))や催眠術(視経侵攻(アイ・レイド))などのポピュラーな魔術も非常に得意だが、なんといっても圧巻なのは見たものを焼き尽くす視経発火(アイ・イグナイト)と、それを極めた『螺炎』。ほとんどの吸血鬼が苦手とする炎を自在に操ることから、原作世界では敵に対して圧倒的優位を誇る。


No.013 アガメムノン
出典:ニンジャスレイヤー
術者:『レインボーロード』
属性:Law-Evil
性別:男
外見:褐色の肌、白髪めいた金髪、彫像のように眉目秀麗な男。灰色の瞳を持つ
得意技:デン・ジツ
解説:本名はシバタ・ソウジロウ。ソウカイヤが健在な頃は知事の秘書として雌伏しつつ機をうかがい、その壊滅後にアマクダリを設立。自分は表に立たずリーダーとしてラオモト・チバを迎え、世界を完全征服するための圧倒的な計画を遂行しようとした。
 特徴はなんと言ってもデン・ジツと呼ばれる、雷を操る強力なジツである。カラテも決して他者には劣らないのだが、デン・スリケンやデン・スフィア、デン・ブンシンといった極度に強力な技の数々には、サンシタどころか、マスター以上の位階のザイバツニンジャでもまともに相手になる者は少ないだろう。
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