「はー、おいしいねー。やっぱお寿司っていいなー」
「ウウウウマーイ。いいですねーいいですねーやっぱりスシはオーガニックですよ。そしてトロ!」
「野分ちゃんはトロ好きだねー。わたしも好きだけど。あ、板前さんとりあえずウニとエンガワとカンパチとイクラとスズキ追加でー」
「あ、こちらはタマゴお願いします」
「でもお寿司はおいしいんだけど、値段考えると量食べられないよねー。そのせいで普段は控えてるんだけどさー」
「だったらここでも控えんかいっ! なんやその皿の数ふざけてるんかいな!」
「? まだ50皿行ってないよ?」
「十分過ぎるわっ!」
龍驤は絶叫した。
「おおお支給されたばかりの今月分のゼニが……笑顔になれるものは野口に樋口と福沢諭吉という古き言い伝えは本当やった……!」
「金の亡者みたいだねー。名古屋人?」
「ウチは生まれも育ちも神奈川県民や! なめんといて!」
「あ、そ、ソウデスカ……」
ならなんで関西弁? という顔をしている相手に、龍驤はため息。
「ちゅーか小田切。確認しとくで」
「ん? なにさなにさ龍驤ちゃん。なんか言いたいことあるの?」
「自分はウチの「従者」っちゅうことで問題ないんやな?」
「そだよー。アナタの従者の小田切双葉ですっ☆食費の確保はよろしく!」
「…………。で、特技とかは?」
「大食いで負けたことは一度もないっす!」
「まあ特技やな。他には?」
「えーと、うーん。あ、歌とか? 聞くとだいたいのひとが、逆に感動したって言うよ?」
「逆に……? ま、まあええわ。他には?」
「料理できるよ? わりと好評だよ?」
「……他には?」
「えー、まだ必要なの? あ、かわいい女子高生だよ?」
「んなもんが特技になるかいっ!」
「キレられた!?」
うがーと暴れる龍驤。
「あーもう、戦闘に使える特技とかなんかひとつはないんかい! 八極拳の使い手とかそういうの!」
「それは少なくともわたしの方向性じゃないよね。あ、板前さん中トロとホッキと赤貝と炙りサーモン追加でー」
「うがあああああっ!」
「怒られてもなー。呼んだのはわたしじゃなくてそっちだしさー」
「……ガチで外れ枠引くとはなー。先が思いやられるわ」
「なんだよー。そもそもそっちは艦娘とかだから戦闘できるんでしょ。だったらわたしが戦闘できなくてもいいじゃんかさー」
「艦娘は基本、陸ではまともな戦力にならへん。ウチは陰陽道をちょいとかじっとるからまだマシやけど……他のも含めて、陸上戦でどの程度使えるかは未知数やで」
「ですねー。わたしもカイジュウを陸に上げる前に倒すのが仕事なんで、装備も基本的に海仕様です」
野分はそう言いながら大トロをぱくり。
「あさたんやてるりんも似たようなこと言うとったわ。ながもんもな。初雪はわからんけど。潮ちゃんは……まあアレとして、そしたらあと使えるのはもう若葉くらいか」
「悪くない」
「うわあっ!? 横にいるなら先に言えや!」
いきなりひょこっと顔を出した若葉に龍驤は絶叫した。
「一応私も自衛官だ。陸戦ができないということはない」
「CQCって奴やな」
「そう。宇宙CQC」
「それは違うジャンルの奴や!」
「大丈夫だ」
しゅっしゅっ、とジャブの形で拳を出しながら、若葉。
「あのアニメと同じくらい手段を選ばないから」
「怖っ!」
「ところで……この四名がチーム、ということでいいのか?」
「あー、まあそうやな。残りの連中は情報収集側に割りふっとる」
「では、この四名で
若葉は双葉のほうを見つつ、言った。
龍驤はうなずいた。
「まあ、そういうことやな」
「だが、戦力として使えるのは私だけではないか?」
「のわっちは若干戦えるっぽいけど、まあ基本はそうやな。不安か?」
「いや。それも悪くない。……が、この四名に絞った理由を聞きたい」
「主戦力は若葉、キミや」
「それはわかっている」
「次にウチと小田切は……まあ、セットで扱うのが無難やからな。ウチが出る限り、小田切もおる」
「……なるほど」
「んで、のわっちは連絡担当や。元がロボだけに、のわっちはそうとう高精度な通信機能を持っててな。ジャミング等の心配はまずないねん」
「ふむ」
「で最後にウチの仕事やけど、これは情報の整理」
「整理?」
「情報っちゅうのはな、集めるだけやない。ゴミを取り除いて、正しい情報を整理整頓して、初めて使えるもんや」
龍驤は言った。
それから、手元のメモに視線を落とし、
「特に今回は……たぶん、最前線でやったほうがええっちゅうんがウチの勘でな。相手が玄人すぎるんや」
「板前さーん、鉄火とイワシとアナゴと甘エビとカツオ追加でー!」
「ってまだ食うんかい!」
「若葉は辻斬りっちゅうたけど、実際のところそう単純なもんでもなさそうなんや」
龍驤は歩きながら言った。
「まず状況の確認からやな。敵はおそらく神道系の魔術結社。狙った「従者」を高確率で一本釣りするための儀式――いわゆる『誘導召喚』のための触媒を探しているところを内閣調査室の連中に感づかれ、ガサ入れされたところで一体の「従者」が反撃、逃走。『語り部』と共に潜伏しつつ、ゲリラ戦的に調査室関係者を襲撃中ってとこやな」
「我々の目的はその「従者」を追い詰めて倒し、『語り部』を拘束すること。相手に支援がない単体戦であることはほぼ確定し、デビュー戦にはちょうどいい難易度……と、ガブリエルは言っていたが」
「あんまり鵜呑みにはできへんな。援軍はいないとしても、敵戦力は未知数や」
若葉と言い合いながら考える龍驤。
今回、内閣調査室が調査に乗り出した理由は、相手が『語り部』の魔術を使っていたこと……
そもそも、魔術を禁止する法制度など存在しないし、魔術自体が公にはなっていない。だから調査室も、別にそれだけで相手を罰することができるわけではない……のだ、が。
昨今は『語り部』の魔術自体が、世界のバランスを壊すということで、大きな魔術結社間では禁止協定が結ばれているらしい。だからそんなものに頼るのは小さなところ、しかもだいたいは外法と呼ばれる、やばいものを扱う連中である。
当然、査察に入られたら、それ以外の違法行為の証拠がずらり、というわけだ。
「せやからこそ、天使の紐付けがあるウチらに仕事が回ってくるんやろうけど……うーん」
「なにか問題でもあるんですか?」
「いや。今回、けっこうな量の証拠が残ってるやん?」
龍驤は言って、野分のほうを見た。
「映像記録、見たやろ? 査察官と従者が戦っている映像」
「見ました。カタナ使いでしたね。私のいた世界でもイアイドーというカタナを使うカラテ流派がありましたが、ちょっと違う技術に見えました」
「突きをメインとした戦い方やったな。それと服。ながもんに聞いたら戦前の警官の服であろうっちゅう話やったな」
「はあ。それがどうかしたんですか?」
「ちょっち、手がかりが多すぎやと思わん?」
龍驤はそう言った。
「戦前の警官で突きメインの剣士言うたら、有名どころはほぼ一人に絞れてまうやん。それに、扱いやすい奴とも思わへん。ブラフの気配を感じるんよ」
実際、弱点を隠蔽するために従者の正体を隠すのは、『語り部』の常套手段らしい。またそのせいで、有名な従者ほど長期戦では不利になると言われている。従者戦闘は一筋縄ではいかないのだ。
「なるほど……とすると、相手の正体は」
「そこが読めへん。んー、あの動画以外に手がかりがないとなると厳しいな。いまのままやと、そのまま当たるのはちょっち危険っちゅうのがウチの見解や」
「それは賛成だ」
若葉が言ったので、龍驤は首をかしげた。
「なんか思い当たることでもあるん?」
「映像は私も見た。……不自然だと思った箇所が一カ所あった」
「ふむ。どんなとこや?」
「正確には相手ではなく、その敵……内閣調査室の連中なのだが。連中、囲んでおいてなぜか、全員でかかっていくということをしなかった。不自然だと思わないか?」
「それは……」
言われてみれば。
「たしかに、へたな時代劇の撮影みたいやったな。袋叩きにすればよかったんやろけど」
「戦った連中は全員重傷で聞き取りもできないという話だったが、なんとか話を聞けないだろうか」
「それがええかな」
「無理だと思うけどなー」
「……?」
言った双葉に対して、龍驤は眉をひそめた。
「なんや小田切。なんか意見あるんかい」
「どーでもいいけど、そろそろ名字呼び捨てやめようよ」
「んじゃなんて読んだらええのん?」
「双葉ちゃん様でいいよ」
「キミはまた絶妙にネタ古いな」
「え、元ネタあるのこれ?」
「知らんで言ってたんかい!」
「まあ冗談はともかくさ……ガブリエルさん言ってたじゃん。うちらの連携先は自衛隊だって」
「言うとったなあ。それが?」
「内閣調査室と管轄違うでしょ? で、あのカメラ映像もどっちかっつーと内閣調査室の撮ったやつっていうよりは、防犯カメラ系の奴だったよね? たぶんよくある縦割りナントカで、横の連携取れてないんじゃない?」
「あー……ありえそうやな」
龍驤はしかめっ面で、考える。
「するとウチらは、あの映像以外の手がかりなしで推理せなあかんのか。……参ったなぁ」
「んで、わたし普通にひとつ心当たりあるんだけど」
「あん?」
龍驤は双葉のほうを見た。
「いやほら、映像の最初のところだよ。見てみてよ」
「お、タブレット持ってんのかキミ。……ん、最初?」
龍驤は動画に見入る。
「……特に違和感を感じへんけどな」
「もー、よく見てよ龍驤ちゃん。最初のタイミングで一瞬だけ、内閣調査室のひとたちがびたっと止まってるでしょ?」
「あ、たしかに」
「んで、わたしはこう思ったんだよね。このタイミングでなにか、相手が仕掛けたんだよ! そこで動きが止まったと見たね。どうよこの名推理!」
「具体的になにやったん?」
「え? さあ?」
「…………」
「………………」
「…………」
「か、影縫いの術とか?」
「忍者やないんやから」
「ニンジャですか? でしたらシャドウピン・ジツよりは、ゲン・ジツとかフドウカナシバリ・ジツの類のほうがありそうな気がしますよ。シャドウピン・ジツなら、食らったら光を操作しないとまず動けないでしょうし」
「む。……なるほど。のわっちは名推理やな」
「立場を取られた!?」
がーんとショックを受ける双葉をよそに、考え込む龍驤。
「んー、幻術……催眠術とかかなあ。妥当なところやと。しかし催眠術で剣も使うとなるとなにがあるかなあ」
「んじゃググってみようか」
「ん、そか、小田切のタブレットがあったか」
「『催眠術』と『剣士』で……あー、ダメだねこれは」
「女催眠術師……なんやこの動画」
「見なかったことにしよ。でもそうするとどうする? なんか調べ方が悪いのかなあ」
「……『催眠術』『剣術』ではどうだ?」
「お、若葉ちゃんないすー。んじゃそれでググって……ん?」
「松山……主水?」
龍驤と双葉は、互いに顔を見合わせた。
【従者名鑑】
No.001 小田切双葉
出典:「三者三葉」
術者:龍驤
属性:Neutral-Neutral
性別:女
外見:普通の女子高生
得意技:大食い、料理、サクラ
解説:空母探偵龍驤の従者。平和な状況で誘導もなしに呼び出したせいか、極めて平凡かつ平和な存在が呼び出されてしまった。大食いで普段の言動が軽いので馬鹿だと思われることもあるが、実際には割と頭が回る。胃袋だけは本当に謎。