空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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第一話:龍驤ちゃんと胃袋ブラックホール(2)

 コウシュウ=ストリート。大通りは大量の人々でごった返し、ビルの壁際にあるパネルビジョンがTVショウを垂れ流す。「そこでポイント倍点!」「ワースゴーイ!」パネルの中の明るい世界と比較して、行き交う人々の顔は暗い。世の中はフケイキだ。少なくとも野党はそう言っている。

 

 

 猥雑な気配を見せるこのストリートにも、昔ながらの光景というものが存在する。ステーションの付近に集まるトラディショナルな気配のヌードル屋台へと、酔ったサラリマンの二人組が近づいていく。「オットット!」「オットット!」いつもの光景。

 

 

 その中にひときわ目立つ屋台あり。「おいしーい!」叫ぶのは、この場には若干場違いなミドルティーンの少女。だがそのオデン屋台の彼女の椅子の前には大量の空になった皿。「おいしーい!実際おいしーい!なんというか、屋台の味って感じがする!普通においしい!」

 

 

 なんたる広告効果か!それに引き寄せられるかのように二人組の客が彼女の隣に座る。「ご注文は?」「……タマゴだ。それとコンニャク」「アイ、アイ」店主は手際よくオデン・スープの中に浸された具をすくい取って皿に入れた。「そちらの方は?」

 

 

「うふふ。そうだね。ダイコンとキンチャクがいいな」「アイ、アイ」「それと練りカラシ」「アイ、アイ」手際よく具をよそう店主。注文した客は店主から目を逸らさない。「いつも出してるの、この店?」「ハイ」

 

 

「フウーン……ふん、ふん」彼はじろじろと店主をねめつけた。「なーんか怪しいなぁ……」慌ててもう一人の客がたしなめる。「コラっ。シツレイだろ、フジタ=サン」「うふふ、そうかね」「スミマセン、ドーモ。連れがどうも礼儀知らずで」

 

 

「いえ、いいんですよ」店主はこともなげに言った。「お連れの方のほうが正しいですから」「アン?」言われて、客が店主を見た。まだ若い、中性的な美貌の持ち主。声からすると女性だったが、しかしその視線は鋭い。そしてなにより、顔の半分を覆う禍々しいメンポ。その表面には「野」「分」の文字……!

 

 

「アッコラー!?」「ドーモハジメマシテ。モーターノワキです」悠々とおじぎをするモーターノワキは、しかしその実、その男の連れの客から顔を逸らさない。彼女のニンジャ第六感が告げているのだ。敵は彼一人だと。「そちらの方は……ウドウ・ジンエ=サンとお見受けします」

 

 

「アイエエエエ!?」男のほうが叫んだ。「ナンデ!?正体バレナンデ!?」「状況判断や」答えたのは店主ではなく、その横でずっとシラタキと格闘していた女だ。その胸は平坦であった。「この空母探偵龍驤ちゃんからすれば、この程度の欺瞞はまるっとお見通しっちゅうわけやな」

 

 

「斎藤一あたりと誤認させようとしたようやけどな……念のため、剣術の専門家に映像の確認取ったわ。あんたの突きは、突きの専門家としてはダメダメやってな。突く速度は一流やけど、返す速度と態勢が隙だらけや」龍驤は言った。

 

 

「斎藤一……藤田五郎には、ウィキペディアにすら乗っとる有名な言葉があるんや。突きはなかなか当てられへんから、突くコツよりもむしろ返すコツのほうが重要……せやけど、偽装しとったアンタにはそれができへんかった。よって」

 

 

「代わりに、二階堂平法「心の一方」を用いて、相手を催眠術で縛って当てやすくして対処したわけだね。バレバレだってわけよ」ミドルティーンの少女、双葉が繋げる。「んでまあ、催眠術を含む剣術が出てくる、斎藤一が出てくる有名な創作――って言ったら、そりゃ「るろうに剣心」だよね」

 

 

「うふふ……うふわはははは!」突如として彼、鵜堂刃衛はまわりに剣気を放出!バァァーン!「ぐっ!?」「あっ!?」「はあっ!」バツン!野分は自由を回復!だが残りの二人が自由を失った隙に鵜堂は傍らの男を引っ張って車道に飛び出す!「逃げるぞ!」「あ、ああ!」

 

 

「かっ!」鵜堂は道行く車に剣気を放出!バァァーン!催眠にかかった運転手がブレーキを踏んで車を止める!「出せ。出さねば殺す……ムウーッ!?」鵜堂が車に侵入しかけたところでブリッジ回避!直後、カタナの一閃が彼のいた場所を貫く!「若葉だ」

 

 

 ゴウランガ!車の運転手は若葉であった。龍驤はあらかじめ鵜堂が取るであろう行動をシミュレートし、先回りしてこのタイミングで若葉が駆けつけるように手配しておいたのだ!なんたる空母探偵の深慮遠謀か!「退路は断った。二人で逃げられるほど我々は甘くない」

 

 

「うふふ、そうだねえ」鵜堂はむしろ嬉しそうに言った。それから、カタナを大きく振り上げ――横にいた男を、なんのためらいもなく、頭から切り捨てた。「アババババーッ!?」絶命!

 

 

「な!? なにすんねん自分!」「どうもこうもない。鬱憤たまってたんだよ。なにしろこいつときたら、俺のスタイルを一方的に縛りやがる。正体がバレたら不利だのなんだの……うっとうしい」「相手は貴様の主人やろ!」「だから斬る理由がないとでも?」鵜堂は平然と言った。

 

 

「甘く見るな。「従者」が術者を斬れない理由などない。それが『語り部』の術が嫌われる所以だ。もちろん、こうなっては俺も長くはないがな……好きに人を斬れない人斬りなんざ、死んでるようなもんだよ。なにも変わらん」「……言うたもんやな」

 

 

「若葉と言ったな。おまえを俺の最後の標的とする」言って鵜堂は、紙を若葉に投げつけた。その表面には「斬奸状」の文字。「せいぜい楽しませてくれよ……うふふ、うふわはははははあ!」そして、鵜堂は駆けだした。その先にいたのは、腰を抜かして横転したスクーター乗り!

 

 

「邪魔だ!」「アイエエエエ!」鵜堂はスクーター乗りを蹴っ飛ばしてどかし、「はあっ!」いままさにスリケンを放とうとしていた野分に向けて剣気を放った。バァァーン!「ヌウーッ!」完全には封じられないものの、意表を突かれて行動が止まる野分。

 

 

 一方の若葉の方は、カタナを捨てて拳銃を構えた。だが鵜堂はスクーター乗りの身体を巧妙に盾にして射線を遮ると、スクーターのエンジンを吹かした。間に合わない!「……無理だ」若葉は拳銃を下ろした。

 

 

「逃げられた……か」「うわぁ……マジで人殺しの現場見ちゃった。マジ怖い」双葉が青ざめた顔で言う。「さすがに予想外やったけど……でも、これで終わりちゃうのん? 術者がいなければ従者って、一日くらいで消滅するんやろ? 無視しとけばええねん」「そうもいかない」「え?」

 

 

「斬奸状……これは、この中の誰に向けたものでもない」若葉はそう言った。「前もって用意していたのだろうから、当然だ。宛先は我々ではない――ただ、()()()()()()を標的とする。止めたければこれこれの場所に来い。そう書かれている」そして、拳銃をしまうと、ため息をついた。「無視はできない」

 

 

 すでに野次馬が大量に現れ、遠くからサイレンの音も聞こえる。「警察が来るな」「逃げますか?」「一応、前もって連絡はしとる。事情を説明するためにウチと小田切が残るから、二人は先行して追っててや」龍驤は言って、頭を押さえた。「やっかいな事態になりよったで、マジで」

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