空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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第一話:龍驤ちゃんと胃袋ブラックホール(3)

「……しかしアレやな。なんかさっき、空気というか地の文というか、なんか変やなかったか?」

「空気って言葉がアトモスフィアって書かれそうな感じだったよねー」

 

 タクシーの中で語り合う双葉と龍驤。

 

「んで、いまどんな風になってるの?」

「とりあえずのわっちの信号はウチの携帯で受信できる状態にしてあるわ。

 まだ交戦中ってわけではなさそうやな」

「でも、斬奸状って言っても、場所を指定してあるだけでしょ? だったら、警察や自衛隊に頼んで包囲しちゃえばいいんじゃない?」

「どーかなー……正直、ウチならそー簡単にはいかへんようにするわ」

「どうやって?」

「手っ取り早いのは人質やな。後は、爆弾仕掛けるとか? 実際にはブラフでもええねん。それだけで、うかつな攻撃はできなくなる」

「あー……そりゃそーだね」

「狙撃って手も考えたんやけど、町中に狙撃銃手配置するのは日本じゃ難しいやろしな。それに準備の時間もない。相手が若葉との一騎打ちを所望してるとなれば、応じざるを得ん状況や」

「応じないで包囲して時間を稼げば? しばらくすればあのひと、勝手に消えるんでしょ?」

「あの「心の一方」相手に通じるとは思えへんな。包囲を抜かれてそのまま永田町に繰り出されたら、最悪のケースもあり得る。……ああもう、こんなんなら最初からながもんあたり、調査室に派遣しとけばよかったかもなあ」

「後悔先に立たずだねー」

「ん、ここでええわ。運ちゃん、釣りはいらへんから!」

 

 言って一万円札をたたきつけて降りる龍驤と双葉。

 

「けっこう豪勢なことするよね龍驤ちゃん。おつり4000円超えてたよ?」

「キミの食費と違って経費で落ちるからな」

「あー……そのへん抜け目ないんだねぇ」

「よし、間に合ったで!」

 

 龍驤は、先を見て言った。

 河原、橋の下。そこが鵜堂の選んだ戦場だった。

 およそ8メートルほどか。その距離を隔てて、若葉と、鵜堂刃衛が対峙している。そこからもう少し離れたところで、野分が腕組みして二人を見つめていた。

 

「観客は集まったようだな」

 

 鵜堂は言って、にやりと禍々しい笑みを若葉に向けた。

 

「なあ、なんでおまえを選んだかわかるか?」

「…………」

「似た気配を感じたんだよ。おまえ、他の連中と違って、最初から生け捕りとか考えてなかっただろう? いや、考えてはいたかもしれんが、殺しても構わんと思っていたはずだ」

「…………」

「明治の世でも退屈だったのに、この令和とやらは輪をかけて退屈だ……が、おまえのような奴もいるのなら、案外それほど世は変わってないのかもしれんな」

「おしゃべりな男だ」

「ああ。俺はおしゃべりなんだよ。なにしろこれから人を斬れるんだ。楽しくて楽しくて口も軽くなる。おまえはどうだ?」

「人殺しを楽しいと思ったことはない。というか、人を殺したことなんてないよ」

「うふはっ! うふわはははは! そいつはいい!」

 

 鵜堂は爆笑した。

 

「それでその気配か! いやはや納得したよ――俺よりいびつな奴なんてそういないと思っていたが、どうしてどうして、おまえは面白い!」

「人を変態であるかのように言わないでもらおう」

「いやいや失礼失礼。しかし面白い奴だな。この時代、剣なんて残っているかも怪しいと思っていたが、おまえは剣を使っていたな。何者だ?」

「自衛官……否。貴様にわかるように言えば、要は「軍人」だよ」

「ほう」

 

 龍驤は話の合間に、こっそり野分に近づいてささやいた。

 

(なあ、のわっち……あいつの後ろに、不意打ちで攻撃とかできへんかな?)

(アンブッシュですか? たぶん無理でしょうね……ニンジャでもないのにあの男、異様に隙がないです。その上、こちらが手を出せば、逃走しつつ無差別に辻斬りすると言われました)

(やっぱそうか……若葉、大丈夫かな)

「軍人か。ならば問おう。おまえは人殺しを罪と思うか?」

「もちろん、犯罪だ」

 

 若葉は言って、

 

「だが戦争犯罪ではないな」

「……素敵な答えだ」

 

 にぃ、と鵜堂は笑った。

 

「快楽のためでもなく、大義のためでもなく、()()()()()()()()()()。一見して格好良く見えるがな。俺に言わせれば、おまえは俺よりずっと外道よ」

「…………」

「快楽のための人斬りは自分を満足させ、大義のための人斬りは世界を満足させる。だが義務のための人斬りは誰も満足させん。おまえ、それでも人を斬るつもりか?」

「意味がわからん」

「だろうな。だが生き残れば嫌でもわかるだろうよ。……うふふ、こいつは存外面白い。抜刀斎よりもある意味、楽しめるかもな?」

 

 言って鵜堂は、刀を抜いた。

 

「どうした。おまえもさっさと刀を抜けよ」

「刀は使わん」

 

 言って、若葉が懐から取り出したのは、刀ではなく。

 

「多節棍……? 珍しいものを使うな」

「違う」

「なに?」

 

 若葉はその棍の関節部分をひねり、がちりがちりと固定していく。そして、それが終わると、懐から大きな鉄の穂を取り出して、棒状になった棍の先端に差し込んだ――

 

「槍」

 

 若葉はつぶやいた。

 

「このご時世だ。武器の携帯には制限が強い。携帯武器の種類は、貴様の時代より増えたよ」

「うふふ。面白い」

 

 鵜堂は笑った。

 

「剣は槍と相性が悪い。というより、()()と相性が悪い。普通、武器は一撃必殺だ。斬られれば死ぬし、刺されれば死ぬし、殴られれば死ぬ。抜刀斎の逆刃刀だって、あれで殺さないのは奴が練達の技で手加減していたからに過ぎん。そしてリーチが長いということは、一撃必殺の攻撃が先に届くということだ」

「……」

()()()()()()()()んだろう? 甘いよ」

 

 鵜堂はひょうひょうと言った。

 

「剣道三倍段。槍相手には三倍の段位がないと勝てないなどと言われてるがな。なぎなたならともかく、槍相手に三倍もいらん」

 

 言って鵜堂は――無造作に踏み込んだ。

 

「かっ!」

「! はあっ!」

 

 一瞬動きが止まった若葉は、しかし即座に「心の一方」をはね除けて槍を突き込む。しかし、一瞬の遅れがたたって、鵜堂に易々とかわされ、踏み込まれた。

 

「突きは遅い」

 

 がきん! とかろうじて若葉の槍の柄が鵜堂の剣を受け止める。

 

「斬撃と違い、穂先の速度にはてこの原理が働かん。故に遅い。剣客ならだいたい、止まって見える」

 

 つばぜり合いは体格に劣る若葉が不利。飛び離れようとするが、鵜堂はしつこく追いすがって横薙ぎ。がきん! と今度は、若葉が軽く吹っ飛ばされてたたらを踏んだ。

 

「そしていったん詰めてしまえばリーチの差など関係ない!」

 

 追いすがった鵜堂は今度は唐竹割りに行く。だがここで若葉は逆に踏み込み、槍の柄で相手の手を下から打ち据えた。

 

「ぬっ……!」

「ふっ……!」

 

 若葉は槍を捨て、小太刀を懐から取り出して襲いかかり……次の瞬間、それも捨ててはじかれるように左に跳躍。すれすれのところを、鵜堂の刀が通過していった。

 

「……ほう」

 

 両者は距離を取って対峙する。最初と変わらない――否。戦況は大きく変わっている。

 若葉は槍を失った上に、小柄な身体のせいで体力を大きく消耗し、肩で息をしている。

 そして対する鵜堂は――

 

「面白いな。いまの『背車刀』は、抜刀斎すら初見ではかわせなかった技だ……なぜかわせた?」

「あまりおしゃべりは好きではないが」

 

 言いながらも若葉は答える。

 

「貴様が死んだ後の150年ほど……我々の技術が進歩しなかったと、本当に思っているのか?」

「…………」

「攻撃のための手を背後に隠し、どちらの手で攻撃するかを読ませない。こんなもの、()()()()()では基本の一つだ。だからその技は『知っていた』……そして、破り方もな」

「破り方?」

「意図的に、貴様の右側に視線を常に寄せておいた。貴様が無意識に、左手の攻撃を選択するようにな」

「う、ふふ」

「そして……読めていれば、その隙は攻撃に利用できる」

 

 若葉は鵜堂の左肩を見ながら言った。

 そこには、二本の鉄の棒が、突き立っている。

 

「あれは……クナイ・ダート? いや、スリケン? どちらとも違う……」

「棒手裏剣だよ」

 

 鵜堂はその鉄を抜いて放りながら、言った。血がそこから噴き出した。

 

「なるほど……わかってきたぞ。おまえは、剣士でもなければ槍術師でもない。その本質は――」

「そうだ」

 

 若葉はうなずいた。

 

「自衛官、若葉。普段は海上勤務だが――本来の専門は、『暗器使い』だ」

「……うふ、わはは」

 

 鵜堂は愉快そうに笑った。

 

「槍も小太刀も捨てるのが早いわけだ! 面白い――面白い面白い面白いぞ! おまえを斬ってやりたくて仕方がなくなってきた!」

「無理だ」

 

 言って若葉は、もう一本の小太刀を懐から取り出して、右手に構えた。

 

「貴様には我が攻撃は見切れん」

「…………。

 我、不敗なり」

 

 ぼごん、と、鵜堂の身体が不自然に跳ねた。

 

「我、無敵なり」

 

 ぼごん。すさまじいプレッシャーが地を駆け、当てられた双葉がぶるりと震える。

 

「我……最強なり! うふわははははあ!」

 

 ぼごん。最後の震えと同時に、鵜堂が仕掛けた。

 駆け寄って、全力真っ正面からの平突き――それに対して若葉は小太刀でいなしつつ、左手に隠していたデリンジャーを発砲。鵜堂の右腕から血が吹き出る。だが止まらない。

 

「この程度では止まらん! 『憑鬼の術』を用いた俺はなあっ!」

 

 次いで一文字、横薙ぎ。だが若葉は後ろに飛びずさりつつスーパーボールを地面に投げる。バウンドしたそれは追ってこようとした鵜堂の眉間に着弾、たたらを踏んだ鵜堂にスライディング気味に近接した若葉は小太刀を足に突き立てる。だが自己暗示で肥大化した筋肉は容易には貫き通せない。十文字、唐竹割り――それを転がってかわしつつ、若葉はピンを抜いた閃光弾を投擲。爆発。閃光で一瞬なにも見えなくなる。が、それでも鵜堂は止まらない。大上段からの一撃が迫る。若葉にはかわす手段が――ない。

 

「若葉ぁ!」

「アブナイ!」

「いや……!」

 

 次の瞬間。

 

「かっ!」

「なにっ?!」

 

 鵜堂の動きが一瞬ぶれる。その瞬間、若葉は前転して鵜堂の横に移動すると、全身のバネを使って伸び上がりながら、寸鉄を眉間に叩き込んだ。

 それでも効かない――はずだ。『憑鬼の術』で超人化した鵜堂には効かない……()()()()()()()()()

 

「あ、が、は……!」

 

 鵜堂が、二、三歩、後退する。

 

「お、おまえ、それは――」

「心の一方、と言ったな」

 

 若葉は平然と言った。

 

「言っただろう。150年の間に我々は進歩したと。催眠武術の類を貴様だけが使えると、()()()()()()()()()()?」

「お、なじ、技術……!?」

 

 鵜堂が目を見開く。その身体に、気配に、先ほどまでのプレッシャーはもう、ない。

 

「貴様に、我が奥義を見せてやろう」

 

 若葉は言って、……目を、軽く閉じる。

 

 

『我は駆逐艦――英傑たる駆逐艦――

 その身を以て海原を駆け、力示す者。

 かつて沈みし鋼鉄の船、『若葉』の継承者』

 

 

 ごう、と若葉を取り巻く空気が一変した。

 背丈も小さく、細身の少女であるはずの若葉が……なぜか、とてつもない重い存在であるような錯覚。

 

「『憑鬼の術』というのは、要は、()()だろう?」

「……うふ」

「自己暗示によって自己の力を高める術。それに我々は、かつての艦船のモチーフを混ぜることで、飛躍的に完成度を高めた。それが我ら『艦娘』……貴様は、鋼鉄でできた2000トンの艦に、勝てる自信はあるか?」

「うふ、うふふ、うふわははははは!」

 

 鵜堂は剣を横薙ぎに振るい――がきん、という音と共に、鵜堂の剣が折れた。

 若葉の身体に届いたはずの剣が、見事に折れていた。

 ……まるで、鋼鉄にたたきつけたかのように。

 

「終わりだ。もはや、続ける理由もない」

「……殺さないのか?」

「どうせ貴様は死んでいるようなものだろう」

 

 若葉はそっけなく言った。

 だが鵜堂は笑って、

 

「それはどうかな」

「なに?」

「かっ!」

「あっ!?」

 

 叫んだのは、双葉だった。

 その顔が青くなり、ぱくぱくと口を上下する。空気が、うまく吸えていない。

 

「心の一方を強くかけた。呼吸器に影響が出るほどにな。……こうなれば、俺にもこの術は解けん。俺を殺す以外の解決策はない」

「…………」

「殺せよ。さあ殺せ。栄えあるおまえの最初の殺人だ。俺は満足できる。おまえもあの娘を救える。ためらう理由はどこにもない――さあ、殺してみろ!」

「馬鹿か貴様」

 

 言って、若葉はすたすたと鵜堂を無視して双葉の前に行き、ぱん、と手を叩く。とたん、双葉はげほげほと咳き込んだ。

 

「げはー、し、死ぬかと思った……」

「…………」

「もう一度言う。……我々は進歩した。そう言ったはずだが」

「う、ふ」

「だいたい、さっきも言っただろう。人殺しは犯罪だ」

「……だが戦争犯罪ではない」

「そうだ。そして今は戦争ではない」

「…………」

「人殺しをためらうつもりも理由もないが」

 

 若葉は淡々と、言った。

 

「貴様ごときに殺しの罪悪感を植え付けられるほど、この若葉は未熟ではないよ。……馬鹿にするな」

「……俺の負け、か」

 

 鵜堂は、地面に倒れ、笑った。

 

「だが、満足だ。……そうか。これが「負け」なのか……」

「悪くないか?」

「ああ、悪くない」

 

 鵜堂はほほえんで……そして、ゆっくりと目を閉じた。

 それが、決着だった。

 

 

 

 

 帰り道。タクシーの中で。

 

「しっかし……めちゃくちゃ強かったなぁ、若葉」

「そうか?」

「せや。自己暗示で艦そのものになりきるとか、もうむちゃくちゃやん。ウチらの中でもそうとうなトンデモ度やで」

「ああ、あの()()()()か」

 

 ぴたり。全員の動きが止まった。

 

「はっ、たり……?」

「いくらなんでも、人間が鋼鉄の船になれるわけがないだろう。私の技術はあいつの『憑鬼の術』と大差ないよ。強くはなれるが、あくまで人間の範囲内だ」

「じゃ、じゃあ、なんで剣が折れたん?」

「閃光弾で目つぶししたときがあっただろう。あのときに薬品を投げといた」

「…………」

「そしてこの制服はケブラー製でな。本式の日本刀ならともかく、薬品で脆くなった刃などは通さない。なので」

 

 若葉は平然と、

 

「鉄の棒で思いっきり殴られた程度のダメージで済んだ」

「重傷やん!」

「大丈夫だ。あばら骨はたぶん折れてるが」

「大丈夫やないわボケ! あああ運ちゃん目的地変更! 病院! 最寄りの病院へ!」

 

 慌てる龍驤と、動じない若葉。きょとんとしている野分を見ながら。

 

「まあ、なんというか……」

 

 双葉はつぶやいた。

 

「従者のわたしが選べることじゃないんだろうけど……怖いところに呼び出されちゃったなあ、やれやれ」




【従者名鑑】

No.002 鵜堂刃衛
出典:「るろうに剣心」
術者:不明(名前を名乗る前に鵜堂に斬られたため)
属性:Neutral-Evil
性別:男
外見:明治の警官服で偽装
得意技:二階堂平法「心の一方」、背車刀、憑鬼の術
解説:神道系魔術結社が用心棒として呼び出していた従者。タネを割らせないようにするため、斎藤一の真似で牙突もどきで戦わされていた。タネが割れ、追い詰められると術者を殺害し、最後の戦闘を楽しむために若葉との一騎打ちに挑む。
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