空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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 というわけでお正月限定投稿再開です。
 今年は第参話と第肆話を投稿予定です。よろしくお願いします!


第参話:龍驤ちゃんと完全情報有限確定ゼロ和ゲーム(1)

 ある日のこと。

 

「まあやっぱマシマシだよねー。マシマシ。というか増さないと足りないんだよ。みんななんで増さないんだろうね」

「ですねー」

「なるほど……勉強になります」

 

 小田切と潮と朝潮が歩いていると、前方から大声が聞こえてきた。

 

「不条理だーっ! なんでわたしだけ挑戦できないのよー! 出るとこ出てやる!」

 

 ばたんっ! と中華料理屋の扉を開けて出てきた少女は、そう叫んで駆けだしていった。

 短い髪に精悍な顔、カーゴパンツとTシャツを着た、なかなかの美少女である。Tシャツは後ろだけしか見えなかったが、『つまり――貴様らも永遠である!』とかなんとか、そんな感じのことが記載されていた。

 

「あんなTシャツどこに売ってるんだろ?」

「たしかに珍しい人間ですねー。あれ本当に地球人類でしょうか?」

「え、そこまで言うほど?」

 

 潮の不規則発言に若干引きつつも、とりあえず小田切は中華屋の扉を開けてみた。

 

「らっしゃーせー」

「どもー! あのさ、いまの女の子、なんで追い出されてたの?」

「あー、あの子? そこのポスターのあれだよ、あれ」

「え?」

 

 小田切が壁を見ると、そこには。

 大食いチャレンジのポスターがあった。

 

「おお……『ドカ盛り豚ラーメン30分完食1万円、食べきれなかったら3千円』っていう、これ?」

「そうそう」

「あんなちっちゃい子ができないだろうって止めたの?」

「いや逆だ。ここ3日連続であの子に苦杯を舐めててな。いい加減にしろっつってんの」

「はー。出禁ってやつだねー。あんな子が食べるもんだねえ」

「まったくだよ。胃袋どうなってんだ。ブラックホールか?」

 

 ぼやく中華屋の店主に、小田切はにやりと笑って、

 

「でもおっちゃんも商売ベタだねえ。そういうときは出禁より、もっといい方法があるんだよ」

「もっといい方法?」

「うん。『殿堂入り』っつってさ、写真撮ってここに飾るんだよ」

 

 小田切はそう言って、ぺたぺたとポスターを触ってみせた。

 

「あんな華奢な子が完食できるなら、自分もできるかも! って人が次々チャレンジするじゃない? それで簡単に元が取れるよ」

「ほー、なるほどねえ。そういう手があるのか」

「そうそう。んでそういうわけで、わたしも大食いチャレンジ参加ねー。うしし、あんな子ができるんなら楽勝っしょー!」

「では、不肖この朝潮も参加します! これも修行ですっ」

「んー、じゃあわたしも……人間の食文化、興味深いですよね!」

「あいあい、じゃあドカ盛り豚3つね。ちょっと待ってな」

 

 

 ……とまあ。

 これが、中華料理屋『あじみ亭』において、一日で大食いチャレンジ出禁――もとい、『殿堂入り』を四名出した伝説の『血と汗と涙を流せ事件』のおおよその概要であり。

 そして、この町に威名とどろく伝説の女フードファイター、小田切双葉と木乃の初邂逅でもあったのだが……

 

 まあそれは、本編となんの関係もない話である。

 

 

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「で、どうすんねん。この状況……」

「俺に聞かれてもな」

「ねむい……おふとん恋しい……」

 

 龍驤とヘイヴィアが頭を悩ませ、初雪が横でごろごろしているこの場所は、地下である。

 自衛隊横須賀基地、特殊対策本部地下隔離区画。

 つまるところ、天使たちとその隣人に貸し出された、世界の危機対策の専門センターの一室なのだが。

 

「見事に閉じ込められたなぁ……しかもよりによって、直接戦力になりそうな奴がおらへん状況で」

「そうだな。長門とか野分とか、全員出てる状況を狙われちまった。

 ……ん? まな板、おまえ戦力じゃないの? この前すげえ術でバリバリ戦ってたじゃん」

「自分どうでもええけど、うちのことナチュラルにDASH島の失敗の副産物呼ばわり続けてるといつか呪殺するで?」

「そういうのはもうちょっと肉つけてから言え。なにその脂肪。スレンダー(笑)気取りなの?」

「ヘイヴィアってデブ専なん?」

「誰がデブ専だ! うちの婚約者はちゃんと出るとこ出て引き締まるところは引き締まってるっての!」

「まあ結婚してから性癖が暴露されて、それが亀裂の始まりになるパターンやねこれは。間違いないわ」

「おまえこそそのトゲつきまな板やめないといつか後ろから銃で撃つぞオイ」

 

 ふたりしてバチバチとにらみ合う……のだが。

 すぐに、ため息をついて二人とも、目線を外した。

 

「やめよか。ツッコミがまわりにいないと盛り上がらんわ」

「同感。んでどうなんよ。その扉吹っ飛ばせたりしないの?」

「残念やけどうちの符術は、こういう鉄の扉とかには相性よくないねん。

 自分はどうなん? 腐っても軍人やろ? 爆弾とか持ってへんの?」

「いや、相棒ならともかく俺は持ってねえ。自衛隊から借りた装備にもなかったしな」

 

 目の前の扉を見つめて、ヘイヴィアが言う。

 自衛隊の秘密施設だけあって、鉄でできた愛想のない扉である。相棒の『ハンドアックス』と称される高性能爆薬さえあれば、ノブの部分をちょちょいと焼き切って脱出できるんだがな……と、ヘイヴィアは心の中で舌打ちした。

 ドアはいま、コンピュータに施錠された状態である。

 施設でいろいろあった場合に備えて、コンピュータで遠隔施錠できるようになっているという説明自体は龍驤たちも受けていたのだが、まさかハッキングによって閉じ込められる事態になろうとは。びっくりである。

 

「この中でコンピュータに一番詳しいのは?」

「うちは無理や。アナログな符術師やねん。

 自分は? 一応レーダー分析官なんやろ? なんかすごいハッキング技術とかあらへんの?」

「無茶言うな。俺の世界とこの世界じゃ、基幹となるコンピュータ技術が根本から違うんだよ。それでも一通り普通には使えるが、言語的制約がどうにもきつくて」

「言語的って?」

「こうやってしゃべるのはできても、読み書きがおぼつかないんだよ、日本語。『正統王国』で使われていた言語に似てる英語とフランス語はなんとかなるんだが、ぶっちゃけ漢字が出てくると手に負えねえ」

「あー。従者の言語能力設定って、そんな感じになるんやね……」

 

 一応「異世界人」でありながらも日本人だった龍驤たちとは、ヘイヴィアはだいぶ違うのだ。

 

「んで一応初雪は……自分、なにしとんの?」

「対戦」

「堂々とサボんなや! せめて会話に加わりぃ!」

「でもヤマカワさん、すごく強くて。このままだとわたし、負け越しちゃう……」

「ええから! ちゅうか、いくら引きこもりでもこの状況が続くとまずいんは自分もやろ!?」

「ううー……わかった」

 

 いやいやながら、身体を起こす初雪。

 

「でもたぶん役に立たない。わたし、いまなにもできないから」

「ちゅうても、コンピュータに一番精通してんのは自分やろ。ゲームのためのインターネット接続とかも自力で設定しとったし……」

「じゃなくて」

「うん?」

 

 初雪は、ぴっ、と人差し指を立てて言った。

 

「いま、この施設、へんな封印がかかってる。わたしみたいな超自然系の力を削ぐやつ」

「はあ!?」

 

 龍驤は眉を寄せた。

 

「どういうこっちゃ。ハッキングとは別にもうひとつ攻撃が?」

「攻撃かどうかまではわからないけど……とにかく、そういうわけで今回、たぶんわたし、役に立たない」

「でも、コンピュータの操作くらいならできるやろ?」

「できるけど、普通のひと並だよ?」

「それでええ。あそこのコンソール経由でなにかわからへん?」

 

 龍驤は、先ほどから謎の文字列が延々流れるモニターと、その下にあるキーボードを指さした。

 初雪は首をかしげて、

 

「いやぁ……無理……」

「せやろなぁ……」

「なにがどうなってこうなってるのこれ。完全にえすえふの光景だし」

「いや、この時代から見て近未来出身のこのヘイヴィアさんから見てもえすえふだぞこれ。実際、コンピュータってこんなんになるもんなのか?」

 

 ヘイヴィアも渋面で言った。

 と、そのとき。

 

 ごん、ごん、と重い鉄をたたくノックの音がした。

 

「…………」

「…………」

 

 瞬時に龍驤とヘイヴィアは目配せをし、

 

「誰や?」

「入ってもよろしいでしょうか?」

「入れるんならな。うちらは出れなくて困っとる」

「でしょうね。では、入らせていただきます」

 

 声と同時に、がちゃりとノブが回って、一人の女の子が中に入ってきた。

 年の頃は16、7だろうか。背はあまり高くないが、落ち着いた雰囲気の少女である。髪は若干茶色が入ったセミロングのボブだったが、その割には上品さがどことなくにじみ出ている。外見だけで、なんとなく不思議な子、と言いたくなるようなところがあった。

 

「もっかい聞くで。誰や?」

「わたしの名前は笹目いのり。あなたたちと同じ、『異世界人』です」

 

 龍驤の言葉に、彼女は答えた。

 

「率直に言いましょう。あなたたちの危機を見て、()()()()()()()()()。今回の案件の解決に協力する代わりに、わたしの案件の解決にご助力いただきたい。そういう話です」

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