空母探偵龍驤ちゃんと七人の駆逐艦たち   作:すたりむ

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第参話:龍驤ちゃんと完全情報有限確定ゼロ和ゲーム(2)

「イロウル?」

 

 龍驤の言葉に、「笹目いのり」と名乗った少女はうなずいた。

 

「わたしの解析ではそうです。『使徒イロウル』。出典は『新世紀エヴァンゲリオン』。ナノマシンの群体として活動する特異な人類の敵で、自己進化しながらコンピュータをクラックするといった挙動を取ります」

「それがこのハッキング劇の正体ってわけか……」

「敵の目的はなんだ?」

 

 ヘイヴィアの言葉に、笹目は答えた。

 

「わたしの予想している相手が『語り手』であった場合は……たぶん、一息でこの施設にいる龍驤さんたちを皆殺しにする予定だったと思われます」

「マジかよ。コンピュータウイルスでそこまでできると? それとも別働隊がいる?」

「ヘイヴィアさん。相手はナノマシンです。コンピュータウイルスではないんですよ」

「いや、それはわかっているけど」

 

 言うヘイヴィアに、笹目は厳しい目を向けた。

 

「わかっているなら認識を改めてください。コンピュータをクラックするというのはイロウルの、原典で示された能力の一つに過ぎない。ナノマシンであるというなら、人間の身体に入ってウイルスのように振る舞うこともできますし、近場の材料を使って爆弾を生成することもできるかもしれない。能力の限界が完全に未知数なんです。なにができてもおかしくはない」

「……なるほど。やっかいな相手だってことはわかったよ。

 それで、対策は? 恩を売りに来たっていう以上、あんたも成算があってここに来たんだろ?」

「もう半分くらいは済ませました」

「あん?」

 

 いぶかしむヘイヴィアに、笹目は肩をすくめた。

 

「わたしの能力を使って、この施設全体に『現実改変を阻止する』領域を展開しています。これによってイロウルの異世界的な能力は大幅に弱体化し、ただのコンピュータウイルス以上の能力を発揮することを防いでいるわけです」

「……能力、なあ」

「なにか疑いでも?」

()()()()()()

「…………」

 

 龍驤の言葉に、笹目はぴくん、と眉を跳ね上げた。

 

「図星やろ? この前の敵、朝田朝霧の身柄までは確保できんかったけどな。正体自体は割れてるねん。オーヴァード……つまりは、平行異世界でウイルスによって突然変異で生まれた『超人』たち。笹目、あんたもその一人やね?」

「……なぜわかったのです?」

「簡単なことや」

 

 くいっ、と帽子のつばを軽く持ち上げて、龍驤はにししと笑った。

 

「この空母探偵龍驤ちゃんにかかれば、この程度の謎はまるっと全部お見通しっちゅうわけやね」

「その決め台詞気に入ってるの?」

 

 ジト目で言うヘイヴィアとは対照的に、笹目は深くうなずいて、

 

「なるほど、空母探偵……そのようなものであれば、この程度は見通してしまうというわけですか。感服です」

「おいこの子実はボケ側だぞ!?」

「あっはっは! すごいやろ、もっと褒めてー!」

「まな板はまな板で調子に乗りすぎだ。ていうか、実際のところなんでわかったの?」

「企業秘密や。……で、さっきの理解でええんやね、笹目ちゃん?」

「はい。わたしは『ノイマン』のオーヴァードです」

 

 笹目はうなずいた。

 

「そこまで調べているとは知らず、失礼しました。隠すつもりはなかったのですが」

「んじゃあ、追加で話してもらえんかな。うちの知る限り、オーヴァードやらレネゲイドビーイングとかいう特定異世界系の存在には、『現実改変を阻止する』なんていう能力はなかったはずや。どこかに別のトリックがない限りはな」

「そうですね」

「実際には、なにをしたんや?」

「ええ。『語り部』としての魔術を行使しました」

「やっぱりか……呼び出した従者は?」

「シャンク/アナスタサコス恒常時間溝」

 

 笹目はすらすらと答えた。

 

「通称は『XACTS(イグザクツ)』。出典は『SCPファウンデーション』。現実改変が頻発する同作品群の内部において、それを一定程度阻止するために使われる『機器』です」

「機器? キャラじゃなくて?」

「はい」

「……『語り部』の魔術にそんなん、できるんかいな?」

「元々、XACTS自体、「どんなものか」の記述が少なかったので」

 

 笹目は涼しい顔で言った。

 

「キャラクター的側面があるという解釈をすり込んで、うまいこと条件召喚に成功しました。まあ、おかげでいまは、わたしの『ノイマン』としての能力まで多少、制限されてるんですが……」

「まあ、そっちのトリックはわかった」

 

 龍驤は言った。

 

「んで、この部屋に入って来れた理由は? 敵の能力が制限されたとはいえ、クラッキングを受けてロックがかかった状況は変わらんのやで」

「はい。ですから鍵開けをしました」

「どうやって?」

「『ノイマン』のオーヴァードは細かく繊細な頭脳労働に特に秀でているので」

 

 ぴっ、と指でピッキングツールをつまみながら、笹目は言った。

 

「イロウルのクラッキングによって時々刻々と変わる電子錠の鍵のパターンを解析して誘導し、弱衝突を利用して解錠しました」

「うん、さっぱりわからん! わはは!」

「胸を張って言うことか?」

 

 ジト目でヘイヴィアは言った。

 そしてそれから真顔になって、

 

「弱衝突ってことは要は誕生日攻撃(バースデーアタック)の類か。相手のランダムネスを制御できる手があると?」

「しょせんはナノマシン。人間の頭には勝てませんよ」

 

 ぺろりと舌を出す笹目。普通にかわいい。

 ちなみに龍驤はショックでガタガタ震えていた。

 

「へ、ヘイヴィアが宇宙語を理解してしゃべっとる……! もうだめや……!」

「おまえ俺をなんだと思ってるの? 一応軍人で貴族なわけで、暗号学の初歩くらいは普通に習得してるっての。

 それより、さっきは一秒かからず開けたな。あれに再現性があるってことか?」

「はい。ですから、基地の内部の移動はできます」

 

 笹目は、そう言って微笑んだ。

 

「もっとも、わたしにできるのはそこまでです。ここの位置だけは、XACTS展開前のイロウルの行動パターンから逆算して、誰かがいることは把握していました。しかし、それ以外の施設の情報となるとまったく手に入らずじまいで……」

「まあ、自衛隊も馬鹿じゃねえからな。この秘匿基地の情報はそう簡単には漏らさないだろ」

「そうですね。なので、あなたたちには地理不案内なわたしを案内していただきたい。

 うまく行けば、それで解決の糸口が見えてくるかもしれません。イロウルを殲滅する方法自体は、原典にもあるんですけど。今回はXACTSのせいでそれができるか不透明ですので、ここはひとつ、あなたたちのお知恵をお借りしたいと思いまして」

「そっか……」

 

 龍驤は考え、そして言った。

 

「なんにせよ、ちょっと基地内を見て回った方がよさそうやね。移動するか、ヘイヴィア、初雪……初雪?」

「むー……また負けた……」

「初雪、あのな。いまシリアスな状況やからゲームは後にしてな?」

「いや、ちょっと待ってください」

 

 と、あわてた様子で笹目が言った。

 

「なんや?」

「その子、()()()()()()()()()してたんですか? その、この基地がクラッキングされて外部と隔絶した、その状況で?」

「……あ?」

 

 言われて初雪は、ふんすと息を吐いて、

 

「そこまでうかつじゃない。信頼できないネットワークには繋がない。これ、引きこもりの常識……」

「い、いやいや。じゃあ誰と戦ってんねん自分。あ、ひょっとしてコンピュータ戦?」

「ヤマカワさん」

「いや、だから……」

 

 尋ねる龍驤に初雪は淡々と、こう言った。

 

()()()()()()の、ヤマカワさん。インターネットに接続しなくても、対戦相手してくれる……便利で、手強いひと」

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