「おいおい。いきなり何をやってるんだよ、ゼノヴィア」
俺が少々呆れながら、デュランダルを振るったゼノヴィアへ向けながら言った。今も聖剣から大質量のオーラが立ち上っている。
「申し訳ありません。主……ではなく隆誠先輩を元凶扱いする暴言に我慢出来なく攻撃しました」
そう言い放つゼノヴィアに思わず苦笑する俺。
……まぁ良いか。どの道、ロキと戦う事に変わりはないからな。それに――
「やはり、私の攻撃は効かないな。流石は北欧の神か」
ロキがアレくらいでやられる奴じゃないのは既に知っている。
ゼノヴィアの言う通り、攻撃を受けた筈のロキは何事もなかったように空に浮いていた。しかもダメージすら受けていない。
「聖剣か。確かにいい威力だが、神を相手にするにはまだまだ。そよ風に等しい」
ノーダメージ姿のロキを見た祐斗は聖魔剣を創り出し、イリナも光の剣を手に発生させていた。
「ふははっ! 無駄だ! そこの聖書の神と違って我は純粋な神なんでね、たかが悪魔や天使の攻撃ではな」
ロキが左手を前にゆっくりと突き出す。
その手からプレッシャーだけでなく、光り輝く粒子が集まろうとしている。圧倒的な力を圧縮された塊となって。
「やらせるかよっ!」
『
突然イッセーが気合の入った声を出した途端、ドライグの機械的な声も聞こえた。
その直後にはイッセーの体を赤い
僅かな時間だけで
突然の不意打ちにロキは驚いた顔をするも、イッセーが繰り出す打拳を軽やかに避けた。
「――っと。忘れてた忘れてた。ここには聖書の神だけでなく、赤龍帝もいたんだった。以前ヴァルハラへ来た時とは比べ物にならないほど強くなったな。――だが」
そう言ってロキは再び左手を突き出し、再度光の粒子を収束させていく。
「その程度の強さで我と挑むにはまだ早い!」
「ドラゴン波ぁっ!!」
放たれるロキの波動に対し、イッセーはカウンターとして最大威力を誇るドラゴン波を撃った。
ドッパァアアアアアアアアアアアンッ!!
二つの凄まじい波動が宙で派手にぶつかった瞬間、勢いよく弾け飛んだ。
それによる爆風が襲い掛かろうとするが、俺はこの場にいる裕斗達と馬車を守ろうと防御結界を張る。イッセーは俺達がいる場所から離れ過ぎて除け者となってしまったが、あの程度の爆風で参るほど柔じゃないから心配ない。
ロキは相変わらずの無傷……とは言い難かった。波動を放った手が火傷しているように煙が立ち上っている。少しばかりダメージを与えたようだ。
「おいおい、嘘だろ……?」
「……ふむ、どうやら我は赤龍帝を少しばかり甘く見過ぎていたな。この我に傷を負わせるとは面白い限りだ。これは面白くなりそうだ。嬉しくなるぞ。取り敢えずこの場は笑っておこう。ふはははははっ!」
どうやらイッセーが一切手加減せずに撃ったドラゴン波でも、まだまだロキには届かないようだな。あれでも一応名の知れた神だから、そんな簡単に倒せる相手じゃない。
だが、それでも充分に凄い事だ。ロキはゼノヴィアの聖剣を受けても無傷だったのに対し、イッセーのドラゴン波では傷を負わせている。神を相手に傷を負わせるのは即ち、勝てる可能性があると言う事だ。尤も、あくまで可能性に過ぎないので、必ず勝てると言う訳ではないがな。
そしてリアスや朱乃達も翼を広げて馬車から出てきた。特にリアスは
「その紅いオーラに紅い髪。グレモリー家……だったか? 確か現魔王の血筋だったな。堕天使幹部が二人、天使が一匹、悪魔がたくさん、赤龍帝と聖書の神も付属。オーディンにフレイヤ、ただの護衛にしては厳重だ」
「お主のような大馬鹿者が来たんじゃ。結果的に正解だったわい」
「それでロキ、この後どうするつもりなのかしら? いくら貴方でも、これだけの人数をたった一人で勝てると思うほどバカじゃないわよね?」
オーディンとフレイヤの台詞にロキはうんうん頷き、不敵な笑みを一層深めた。
「確かに貴女の仰る通りだ。ならばここは援軍を呼ぶとしよう」
そう言って、マントを広げて高らかに叫ぶ。
「出てこいッ! 我が愛しき息子よッッ! そして、女神フレイヤの英雄よッッ!」
「ッ!?」
ロキの叫びに一拍空け、宙に歪みが生じる。フレイヤが聞き捨てならなかったのか、目を見開いている。
ヌゥッと空間のゆがみから姿を現したのは――灰色の狼と男だった。
十メートルはある巨大な灰色の狼に俺、と言うより
狼はこちらを見た瞬間、グレモリー眷族たち全員が全身を強張らせて震えていた。イッセーですら狼を見た瞬間に震えながらも警戒している。
威嚇でもないのに、ただ視線だけでコイツ等を射抜くとは相変わらずだな。
無論、リアス達だけじゃない。俺とアザゼルですらも、奴の登場に緊張している。
「お、おい兄貴、あの狼ってまさか……!?」
狼を警戒してか、イッセーはすぐに距離を取り、俺の隣に浮遊しながら確認してきた。
「ああ、あれは――
俺の台詞に全員驚愕し、同時に納得していた。
「フェンリル! まさか、こんなところに!」
「……確かにマズいわね」
フェンリルの危険性を理解してるのか、祐斗やリアスは完全な警戒態勢になっていた。
「イッセー。以前にも教えたが、アレは最悪最大の魔物の一匹だ。そして
「わぁーってるよ。
更に警戒を高めるイッセーに、ロキがフェンリルを撫でながら言う。
「そうそう。気を付けたまえ。こいつは我が開発した魔物のなかでトップクラスに最悪の部類だ。何せ、こいつの牙はどの神でも殺せるって代物なのでね。試したことはないが、そこの聖書の神や他の神話体系の神仏でも有効だろう。上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる。おっと、忘れるところだった。そこにいる奴も一応紹介しておこう」
フェンリルについて説明したロキは、次に現れた筋肉質の美丈夫を指す。
「コイツの名はオッタルと言ってな。嘗てフレイヤが多くの
まるで反応を楽しむように問うロキ。アイツは自分がとんでもない事を仕出かした事を分かってながらも訊いているな。本当に性格の悪い奴だ。
フレイヤは北欧の女神として、オーディンやロキに並ぶほどの有名な存在だ。伝承の中に、美と愛の女神としても知れ渡っている。
美と愛の女神などと聞こえは良いが、実際は色恋沙汰が絶えない問題だらけな女神だ。人間側から見れば『色ボケ女』と呼べる。嘗てのフレイヤは正にソレだった。
しかし、今のフレイヤはもう恋愛に興味を失って退屈な日々を送り続けていた。人間に転生した
「………一応確認させて。ロキ、貴方がオッタルを連れて来ていると言う事は……私の部屋に忍び込んだのかしら?」
「ああ、貴女がオーディンと一緒に冥界へ行ってる時にこっそり拝借させてもらったよ。帰ってきても全然気付かなかったのは、それだけ聖書の神に夢中だったようだね」
フレイヤからの問いに、ロキは何の悪びれもせずにあっさりと答える。
その瞬間――フレイヤの全身から凄まじい殺気が放たれた。しかも怖い笑みを浮かべながら。イッセーやリアス達なんか、フェンリルとは違う意味でフレイヤに恐怖している。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふふ………随分と良い度胸してるじゃないのぉ、ロキぃ。私の大事なものを盗むなんて……覚悟は出来てるわよね?」
「落ち着かんか、フレイヤ。逸る気持ちは分かるが、今は迂闊に動くでない。ロキの傍にはフェンリルがおるんじゃぞ」
今にも突撃しそうなフレイヤをオーディンが抑えようとしていた。
非力そうに見えるが、外見とは裏腹に途轍もない力を持っている。それはロキにも引けを取らないほどの力だ。
フレイヤの伝承には戦闘に関するものもあった。途轍もない破壊の力を秘めており、世界に影響を及ぼしかねないほどだ。下手をすれば、ロキが望む『
オーディンはそれを危惧してるから、早まった行動をさせないように宥めている。俺としても、ここでフレイヤに力を開放して欲しくない。
どうでも良いんだが、オッタルが現れてからずっと俺を凝視してる。一体どういうつもりだ?
「ロキよ、何故にそやつを手駒として連れてきたのじゃ? お主には自慢の息子共がおるんじゃから必要無いだろうに」
「確かに我も最初はそんなつもりなど毛頭無かった。だが、この男から叶えたい願いがあるからと懇願されてな。我はその願いに応えてやったのだ」
「願いじゃと?」
「そう。それはそこにいる――聖書の神だ」
「………は? 俺?」
いきなりの名指しに俺だけでなく、オーディン達も不可解な表情をする。
ちょっと待て。俺はオッタルとの面識なんか無いぞ。当時の
「この男は魂となって保管されても、フレイヤに眺められているだけで満足な日々を送り続けていた。だが……そのフレイヤが急に見向きもされなくなった事に不安を抱いてな。それを我がコイツに理由を教えた途端、凄まじい憎悪と怨念が混じる色と変わり果てた。余りの事に流石の我も驚いたよ。愛する女との時間を奪われた嫉妬のみで変貌するとはな。余りにも滑稽だったが、笑わせてくれた褒美として願いをかなえてやる事にしたのだよ。オッタルが聖書の神を殺す為に必要な仮の肉体を」
ロキの長ったらしい説明を聞いた俺は辟易してきた。オッタルの一方的な逆恨みに対して。
ったく。この前に戦ったラディガンといい、オッタルといい。何で俺は一方的に言い寄られてる女の関係者から、ここまで恨まれなければならないんだよ。もう訳が分かんない。イッセーやリアス達はフェンリルを警戒しながらも、凄く気の毒そうに俺を見ているし。
「………聖書の神……貴様だけは……絶対に許さん……!」
すると、ずっと無言だったオッタルがポツリポツリと喋りながら、手にしている大剣を構えようとする。
何かもう、アイツは完全に俺を狙う気満々だ。ロキやフェンリルをどうにかしなければいけないってのに……!
「さて、オッタルの紹介はこんなところだ。一先ず聖書の神の相手はオッタルに任せるとして、我が息子フェンリルには――」
すーっとロキの指先がリアスに向けられる。
「本来であれば、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないのだが……。まあ、この子に北欧の者以外の血を覚えさせるのも良い経験になるだろう」
ロキがフェンリルに差し向けようとするのは、
「――魔王の血筋。その血を舐めるのもフェンリルの糧となるだろう。――やれ」
言うまでもなくリアスだった。
オオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオンッッ!
指示を受けたフェンリルは、闇の夜空で透き通るほど見事な遠吠えをしてみせた。
ヒュッ!
一迅の風が吹いた。眼前のフェンリルが俺達の視界から消える。
だが――
「俺の大事な女に触るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ドゴンッ!
リアスの眼前に現れて神速で襲い掛かるフェンリルに、イッセーがフェンリルの横顔を思いっきり殴り飛ばしていた。
多分イッセーの事だから、自分が物凄く恥ずかしい事を言ってる事に気付いてないだろうな。リアスは大事な女と聞いた瞬間、不謹慎ながらも顔を赤らめているし。
「イッセー……」
顔を赤らめているリアスはイッセーを見る。
「大丈夫ですか、部長? ケガは?」
「い、いえ、だいじょうぶよ。イッセーが助けてくれたから」
その言葉を聞いたイッセーが安堵して息を吐いている。
「イッセー、リアスが狙われたからって焦り過ぎだ」
「わ、悪ぃ、兄貴……」
俺の指摘にイッセーが申し訳なさそうに謝ってくる。
「取り敢えず、お前はリアスと一緒に下がってろ。もうついでに、咄嗟に躱したその傷をアーシアに治してもらえ」
「くっ……やっぱり分かってたか……」
すると、イッセーは急に腹部を手で押さえた。そこからはドクドクと血が流れ始めている。
「イッセー!」
「イッセーくん!」
リアスと朱乃が悲鳴のような声をあげていた。
イッセーが傷を負った原因は分かっている。そうなったのはフェンリルがやったからだ。
その証拠に、フェンリルの左前足の爪先から血が付着している。奴はイッセーの攻撃を受けた後、咄嗟に爪を振るっていた。それに気付いたイッセーは何とか躱して致命傷を避けたが、それでも決して浅くはなかった。
だが、問題はそこじゃない。イッセーが
イッセーは致命傷を避けて何とか浮遊しているも、あの出血を抑えなければ不味い。
「アーシア! 早くイッセーの治療を頼む!」
「はい! イッセーさん! 早く!」
馬車で待機してる回復役のアーシアが涙交じりで叫んだ。
本当だったら俺も一緒に治療したいところだが――
ガギィンッ!
「ちぃっ! お前に構ってる暇はないんだよ!」
「聖書の神、殺す……」
アーシアに指示した直後、オッタルが突進して仕掛けてきたから無理だった。オッタルの大剣を防ごうと、咄嗟に収納用異空間から槍――
リアス達から馬車から少し離れると、奴は俺だけにしか興味がないように追撃してくる。
ってかオッタルが使ってる大剣……よく見ると『魔剣レヴァンテイン』じゃないか! ロキの奴、オッタルにとんでもない武器を持たせやがって!
オーディンから聞いた話だと、『魔剣レヴァンテイン』は自身が抱いてる憎しみを糧にして威力が増す。その代償として、徐々に思考がまともに判断出来なくなる
だが、ロキから肉体を与えられているオッタルには関係無い。コイツは元から俺を殺す事だけしか考えてないので、代償なんか関係なく剣を振るい続ける。ハッキリ言ってラディガンより厄介な相手だ。
「ほう。我が貸し与えた武器をあそこまで使うとは、流石は嘗てフレイヤの英雄をやっていただけの事はあるな。これは予想外な展開だ」
オッタルの猛攻を見たロキが感心する様に言い放つ。
「今のところ聖書の神が防戦一方だから、この隙に赤龍帝を始末しておこうか。我に傷を負わせ、剰えフェンリルの動きに追いつくほどの実力を身に付けた以上、見過ごす事は出来ん」
あの野郎、やっぱりイッセーを警戒し始めていたか!
すぐに駆け付けたいが、オッタルの奴が思っていた以上に厄介で行けないし!
「ロキィィィィィィッ!」
アザゼルとバラキエルが光の槍と雷光をロキ目掛けて大出力で放った。
「ふんっ。フェンリルを使わずとも、堕天使二人程度では我の相手は無理だ」
堕天使勢の最強格二人が放った攻撃を、ロキは北欧の術で魔法陣の盾を展開して容易に防いだ。
それを見たロスヴァイセが加勢しようと攻撃魔術を放ったが、ロキの防御魔法陣が上な為に通用しなかった。
アザゼル達を攻撃を防ぎながらも、ロキはイッセー達に狙いを定めている。更にはフェンリルも一緒に。
「いい加減にしろ、オッタル! 貴様はロキの都合の良い操り人形にされてる事に気付いてないのか!?」
「……殺す、聖書の神。フレイヤ様を誑かした貴様を殺す……」
「くっ! どうやら既にまともな思考じゃないようだな……!」
今のオッタルは俺を殺す事だけしか考えていない人形同然みたいだ。恐らくロキは与えた肉体に、従順に動く為の細工を施したに違いない。
フレイヤには悪いが、コイツを――
『
グババババンッ!
すると、聞いた事のある声と音がした。
リアス達に襲い掛かろうとしていたフェンリルを中心に空間が大きく歪んでいくのが見えた。フェンリル自身も空間の歪みにその身を捕らわれて、動きが封じられている。
そして――
「ダーリンにしては珍しいじゃない。こんな相手に梃子摺るなんて」
ドドドドドドォンッ!
「ッ!」
こちらも聞き覚えのある声がした直後、オッタルの背中に強烈な魔力弾が当たった。それを受けているオッタルは少しばかり顔を歪めている。
不利だと悟ったのか、一旦俺達から離れようと距離を取った。
俺とオッタルの間に一人の女性悪魔が降りてくる。
「はぁい、ダーリン。久しぶりね♪」
「エリー……」
俺の目の前に現れたのは
………まさかこの女が俺を助けるとはな。
リアス達の方を見てみると、そこには予想通りと言うべきか、イッセーのライバルである白龍皇ヴァーリがいた。
ヴァーリ達の予想外な登場にロキが嬉々として笑むも、流石に不利だと思ったのか一時撤退をした。空間転移術でフェンリルとオッタルも一緒に。
新しいオリキャラのオッタルと、久々に登場したエリーでした。
先に言っておきますが、この作品のオッタルはダンまちのオッタルと違いますので。