「それで、一体どう言うつもりで俺達の前に現れたんだ?」
ロキ達の撤退を確認後、アーシアと小猫にイッセーの治療をするよう馬車の中へ移動させた。
その間に俺達は場所を変えようと、助太刀してくれた者達を連れて地上へ降りていた。今は駒王学園近くにある公園にいる。言うまでもなく一般人達が来ないよう、人除けの術は施し済みだ。
俺が問うと、白龍皇――ヴァーリは嘆息しながら苦笑する。
「随分な言い草じゃないか、聖書の神。そちらが不利な状況だったから助太刀したと言うのに」
「ああ、そこは大変感謝しているよ。本当だったら俺が個人的な礼をしたいところだ。けど生憎、今の俺は
ヴァーリに今の俺は
「君が何故か同行しているエリーの事もあって、思わず碌でもない事を企んでいるんじゃないかと思ってな」
「ひっど~い。ダーリンが私をそんな風に見てたなんてショックだわ」
「何がショックだ、白々しい。今まで俺達の前に現れて碌な事しなかっただろうが」
ショックを受けたジェスチャーをするエリーに俺はバッサリと切り捨てるよう言い放つ。
リアスたちグレモリー眷族も同感だと頷いているのか、揃ってエリーを殺気を出しながら睨んでいる。嘗てコカビエルと一緒に現れて俺達と敵対し、更にはアーシアを攫ったディオドラの手助けをした件があるから、エリーに対する警戒感が半端ない。
「エリガン・アルスランド。白龍皇と一緒にいるとは言え、よくも私たちの前に姿を現わせたわね」
「あら? 随分と強気な発言ね、リアス・グレモリー。やっとイッセーくんを正式な眷族に出来たからって増長してるの? 多少強くなったところで、今も私の相手にすらならないと言うのに」
「ッ!」
挑発するエリーに、リアスの身体から凄まじい魔力を放出しようとしている。下手をすればエリーに滅びの力をぶつける勢いだ。
リアスは短気な性格だが、エリーの言い方が問題だ。アイツは態と煽ってリアスの反応を楽しんでいる。
「止めろ、リアス。コイツはこういう女だって事を知ってる筈だろ?」
「……くっ」
「エリガン、向こうを刺激する発言は止めてもらおうか。俺達と同行してる間は指示に従う条件の筈だ」
「は~い」
俺はリアスを宥め、ヴァーリがエリーを窘めた。
と言うかエリーの奴、今はヴァーリ側に付いているのか。てっきり、もう『
これは先日サーゼクスから聞いた話だが、どうやらエリーは死んだディオドラ・アスタロトの用心棒として雇われただけじゃなく、旧魔王派のシャルバ達とも繋がっていたらしい。嘗てアルスランド家はあの連中と懇意な関係だったと。恐らくエリーはその事もあって、シャルバ達に従わざるを得なかったんだろう。
しかし、その旧魔王派は既に瓦解した。なので既にお役御免となったエリーは『
だと思っていたんだが、それが今も『
「先ずは確認させてもらおうか、エリー。今回ヴァーリと一緒に来てまで俺達の前に現れたのは、何か良からぬ目的があるからか?」
「いいえ。私は久しぶりに愛しのダーリンと再会する為に、ヴァーリくん達に付いてきただけよ。今回は裏事情なんか一切無く、私個人の意思で動いているわ。信用出来ないなら、私の頭の中を探っても良いわ。勿論、そうしていいのはダーリンだけよ」
「あっそ。じゃあ俺達が今敵対しているロキとは密かな取引とかしてないだろうな?」
「そんな下らない事は一切してないと断言するわ」
「………はぁっ。分かった、信じよう」
「ちょっとリューセー、たったそれだけの質問だけで信じるの!?」
嘘を言ってないと判断した俺が信じた事に、リアスは正気なのかと問い詰める。
「コイツは普段から秘密主義な女だが、俺に一切嘘は言わん。過去に何度も戦った事はあるが、少なくとも俺を騙して陥れるような手段を取らないのは確かだ」
尤も、それは俺相手に限った話だがと付け加えた。
不本意だが、エリーは俺に(一方的な)恋慕の情を抱いている。なので俺を屈服させる為に、いつも正々堂々の真っ向勝負を仕掛けてきた。自分が勝ったら何でも言う事を聞いてもらうと。
リアスは俺の言い分に納得したのか、取り敢えずと言った感じで引き下がる。
「念の為に言っておくがエリー、リアス達に下らん事をしたらどうなるか覚悟しておけよ」
「分かってるわ。彼女達に一切手を出さないから安心して。だけど……それとは別に、どうしても許せない事があるのよね」
すると、さっきまでニコニコしていたエリーが急に殺気立った。俺の腕に引っ付いているフレイヤを見ながら。
因みにフレイヤはエリーが『愛しのダーリン』と聞いた瞬間、いきなり俺に引っ付いてきた。エリーに見せ付ける様に。
それを見たのが原因なのか、エリーはもう我慢の限界が訪れたかのように殺気立ったと言う訳だ。
「そこの貴女、確か女神フレイヤだったかしら? どうして私のダーリンにくっ付いてるの? さっさと離れてくれない?」
「何が私のダーリンよ。リューセーは私の恋人なんだから、こうするのは当然じゃない。そう言う貴女こそ、私のリューセーに馴れ馴れしくダーリンなんて呼ばないで欲しいわね」
殺気立つエリーにフレイヤも負けじと睨む。
あとフレイヤ、俺はお前の恋人になった覚えはないからな。お前が勝手にそう思ってるだけだ。
しかし、エリーにはとても聞き捨てならない発言だったのか、フレイヤに対する殺気をもう一段階上げている。
「ふざけた事を言うわね。あのオッタルって言う愛人や多くの男達と関係を持っていたのに、今度はダーリンと恋人だなんて……本当に伝承通りの色ボケ女神だったのね。どうせ何れダーリンに飽きて、他の男と宜しくするつもりなんでしょ?」
「男を食い物にしている
「生憎だけど、それはもう昔の話よ。今はダーリンと純愛な関係を築こうとしてるの。軽い気持ちでダーリンに手を出そうとする貴女と違ってね」
「本当に失礼な
「あらあら、言ってくれるじゃない。色ボケ女神の分際で……!」
「こっちだって低能な変態
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! ビキビキッ!
『………………………………』
…………………お前等、喧嘩するのは勝手だが俺を巻き込まないでくれ。
エリーとフレイヤの凄まじい殺気と怒気の所為で、周囲に張られている結界が罅割れようとしている。
二人からの巻き添えを喰らいたくないのか、アザゼルやオーディンにグレモリー眷族、そしてヴァーリ達がいつの間にか避難している。アイツ等、完全に俺を助ける気は無いようだ。薄情な奴等め。
すると、馬車の中から治療を終えたであろうイッセーが出てきた。
「………え? 何、この超重くて息苦しい空間は?」
事情を呑み込めていないイッセーは思わずそう呟く。しかし、俺の方を見た途端に納得して、声を掛けようとせずアザゼル達の方へと行っていた。
おいこらイッセー! 無視してないで助けろ! 何でこう言う時だけ空気読んで逃げるんだ!?
そしてアザゼル達はエリーとフレイヤを俺に任せようとしたのか、向こうで話を勧めようとしていた。俺が抗議の視線を送るも、完全無視だよ。
俺が女二人の争いに巻き込まれてる中、ヴァーリはこう提案していた。
「今回の一戦、俺は兵藤一誠と共に戦ってもいい。あんな神如きに俺のライバルを横取りされては我慢ならんからな」
ロキと戦う為に自分達と手を組もうと。ヴァーリ達を除く、この場にいる全員が驚愕したのは言うまでもなかった。
………どうでもいいけどさぁ、俺を挟んで言い争っているエリーとフレイヤをどうにかしてくれないか?
久々に登場したエリーとフレイヤの言い争いに辟易するリューセーでした。