奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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The Barrier

 

 陳留の隣の郡に白翼党の大軍が接近しているとの報があってから数日後、苑州軍本隊は目的の街に向かって馬を飛ばしていた。

 

〈春蘭〉「急げ急げ! 急いで先遣隊に合流するぞ!」

 

〈鎗輔〉「ば、馬上で休むんじゃなかったんですか……」

 

 春蘭が隊全体を叱咤しているのに、鎗輔が息を切らしながら突っ込んだ。春蘭や華侖は出立時からずっと兵を鼓舞し続けており、ろくに休んでいないのに調子が途切れない。ちゃんと睡眠を取ったはずの鎗輔が疲弊しているというありさまだ。

 

〈華侖〉「そんなことしてられないっす! 柳琳や季衣だって、もう戦ってるかもしれないんすよ! 進め、進むっすー!」

 

〈華琳〉「そんなに急がせては、戦う前に疲れてしまうわよ、二人とも」

 

 ひたすら隊を急かす華侖たちを、華琳が冷静に諭す。

 

〈春蘭〉「う、うぅ……っ。華琳さまぁ、わたしだけ、先遣隊として向かってはダメですか?」

 

〈華侖〉「だったらあたしも行きたいっす! 華琳姉ぇ!」

 

〈華琳〉「駄目よ。目と鼻の先ならまだしも、今の位置で隊を分けても効果は薄いわ」

 

 気持ちばかりが逸る二人を、きつく咎める華琳。この数日で、もう何度目になるか分からないやり取りだ。

 学習しない二人がもどかしさで震えていると、華琳の下へ桂花が馳せ参じる。

 

〈桂花〉「華琳さま。秋蘭から報告の早馬が届きました」

 

〈華琳〉「報告なさい」

 

〈桂花〉「既に敵部隊と接触したようです。張角や怪獣は確認していないようですが、予想通り敵は組織化されており、並の盗賊よりも手強いだろうとのこと。……くれぐれも余力を残して合流してほしいそうよ、春蘭」

 

〈春蘭〉「うぅぅ……」

 

 流石秋蘭は、春蘭の性格をよく分かっており、伝言であらかじめ釘を刺してきた。

 

〈華琳〉「数は?」

 

〈桂花〉「目測では街の兵と先遣隊を合わせたよりも多い模様。迂闊に攻撃はせず、市街に籠城して時間を稼ぐそうです」

 

〈華琳〉「そう。流石秋蘭、懸命な判断ね」

 

〈鎗輔〉「春蘭さん。秋蘭さんたちが心配なのは分かりますが、そういうことですので、無理なく行軍しましょう。着いた時、戦える状態になかったら本末転倒です」

 

〈春蘭〉「……うむぅ、仕方ない」

 

 説得を受け、春蘭は渋々ながら己を抑えた。

 

〈華琳〉「張角本人が指揮を執っているかもと期待したけれど……別の指揮者がいるようね」

 

〈桂花〉「揚州で十五万もの大軍を集めていたからには、指揮の出来る人間は白翼に少なくない数いるものと思われます。流石に、張角と姉妹の三人だけで統率し切れるはずがありません」

 

〈華琳〉「厄介なことだわ」

 

〈鎗輔〉「人を惹きつける才能……この時代で最も求められるものの一つですね」

 

〈華琳〉「あら、良く分かっているじゃない」

 

〈鎗輔〉「嫌でも分かりますとも」

 

 華琳を近くから見ていれば、自ずと理解できることだ。

 

〈桂花〉「ちょっと、誰と張角を比べてるのよ」

 

〈鎗輔〉「黙秘権を行使します」

 

〈華琳〉「その才を持ちながら野心を持ったか、誰かに利用されているかは分からないけれど……面白い相手ではあるわね」

 

〈栄華〉「お姉様。柳琳たちの命が懸かっているのに、悪い癖ですわよ」

 

〈華琳〉「強い相手なら、気持ちが昂ぶらないはずがないでしょう」

 

〈華侖〉「もぅ……。不謹慎っすよー」

 

 華侖にまで咎められる。華琳はどうも、戦闘狂のきらいもあるようである。

 

〈栄華〉「まさか……張角たちを部下にしたいなどとはおっしゃいませんわよね、お姉様。相手は得体の知れない旅芸人ですのよ」

 

〈華琳〉「さぁ? それは張角の人となり次第。利用価値のない相手なら、舞台から消えてもらうだけよ」

 

 行軍しながらも普段の調子を崩さない華琳であったが、伝令が飛び込んでくると即座に表情を切り替える。

 

〈兵士〉「曹操さま! 曹操さまはいらっしゃいますか!」

 

〈華琳〉「どうした!」

 

〈春蘭〉「むぅ。貴様は秋蘭の部下の……」

 

〈兵士〉「はッ! 許緒先遣隊、敵軍と接敵! 戦闘に突入しましたッ!」

 

〈華侖〉「え、籠城して時間を稼ぐんじゃなかったんすか!?」

 

 つい先ほどの報せとは全く違う内容に、一同に緊張が走った。

 

〈華琳〉「……状況は!」

 

〈兵士〉「籠城で時間を稼ぐつもりでしたが、初手から向こうの大攻勢が始まり……至急、援軍を求むとのこと!」

 

〈鎗輔〉「そんな、至急と言っても……今からじゃ……」

 

 青い顔の鎗輔。連絡手段が人伝手のこの時代では、情報のタイムラグがひどく大きい。援軍要請が届いた時には既に敗戦していたということは、珍しいことでもないのだ。

 

〈春蘭〉「馬鹿を言うなっ!」

 

〈華琳〉「ええ、秋蘭のことだもの。苦戦すると読んで、あらかじめ遣いを出したのでしょう」

 

〈兵士〉「おっしゃる通りです。ですが自分が出された段階で、既に防壁には敵の兵が殺到し……恐らく、今頃は」

 

 そう聞かされては、ゆっくりなどしていられないに決まっている。

 

〈華琳〉「余力を持ってとは言っていられなくなったわね。総員、全速前進! 追いつけない者は置いていくわ!」

 

〈春蘭〉「総員、駆け足! 駆け足ぃっ!」

 

 春蘭の号令で、兵たちは隊列も無視して馬を飛ばし始める。脱落する兵は殿で回収されながら、本隊から外れた遊撃部隊として行動する態勢で街へと強行していく。

 

〈鎗輔〉「くッ……!」

 

〈フーマ〉『鎗輔、気張れよ!』

 

〈鎗輔〉「うん……!」

 

 鎗輔も、お世辞にも馬術に優れているとは言えない身ながら、必死に本隊に食らいついていく。フーマの力が必要となる場面が来た時に、居合わせていませんでは話にならないからだ。せめて、彼の足は引っ張りたくない。

 

〈鎗輔〉(秋蘭さん、柳琳ちゃん、香風ちゃん、季衣ちゃん……みんな、無事でいてくれ……!)

 

 

 

 死に物狂いで急行したことにより、苑州軍本隊はどうにか秋蘭たちが防壁一枚で白翼党を押し留めているというギリギリのところで間に合うことが出来た。銅鑼をガンガン鳴らし、白翼党を威嚇するとともに、街を守る味方に到着を報じる。

 

〈春蘭〉「鳴らせ鳴らせ! 鳴らしまくれ! 秋蘭たちに、我らの到着を知らせてやるのだっ!」

 

〈桂花〉「敵数の報告入りました! およそ三千! 我ら本隊の敵ではありません!」

 

〈栄華〉「部隊の展開も既に完了していますわ! いつでもご命令を!」

 

〈華琳〉「さて、中の秋蘭はちゃんと気づいてくれたかしら……?」

 

 つぶやく華琳に、鎗輔とPALが告げる。

 

〈PAL〉[街の砦より、矢の束が空へ向けて放たれました。旗印は夏侯です]

 

〈鎗輔〉「無事に気づいてくれたみたいです!」

 

〈華琳〉「流石ね。なら、こちらが率先して動くわよ! 秋蘭たちなら、呼応して動いてくれるでしょう!」

 

〈桂花〉「後々、敵の本隊と戦わなければなりません。ここは迅速に処理すべきかと」

 

〈華琳〉「春蘭、華侖! 先陣は任せるわ!」

 

〈春蘭〉「はっ! あのような雑魚の群れ、一瞬で蹴散らしてご覧に入れます! 華侖っ!」

 

〈華侖〉「分かったっす! みんな、街で頑張ってる柳琳たちを、絶対、絶対助け出すっすよーっ! 突撃、突撃ぃーっ!!」

 

〈苑州軍〉「「「うおおおおぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!」」」

 

 華侖の掛け声を合図に、苑州軍が街を襲う白翼党の背面に向かって怒涛の勢いで突撃していく!

 

 

 

 白翼党側も、背後から急襲してくる敵の姿に気がついて激しく動揺していた。

 

〈白翼党〉「し、指揮官様、大変です! 我らの背後に敵が!!」

 

〈白翼党〉「敵数はこちらの倍以上! とても敵うものではありませんッ!」

 

 一般兵士はどうすれば良いのかと狼狽しているが……指揮官は、倍以上の敵が背後から迫ってきているにも関わらず、何故か余裕に構えている。

 

〈指揮官〉『焦ることはない。後ろの奴らは……一人たりとも、この街には()()()()()()()()()のだからな』

 

〈白翼党〉「え……!?」

 

 

 

 苑州軍は春蘭を先頭に、まっすぐに街へ押し寄せていく。

 

〈春蘭〉「進めぇーっ! 賊どもを蹴散らすのだぁっ!」

 

 隊全体を鼓舞しながら、自ら先陣を切って白翼党に突貫しようとする春蘭。

 だが、白翼党が群がる城壁の手前で、ガンッ! と激しい音とともに突然落馬する。

 

〈春蘭〉「あだっ!?」

 

〈華侖〉「し、春姉ぇ!? 大丈夫っすか!?」

 

 馬ごと倒れた春蘭に、後に続いていた華侖と兵たちが驚いて急停止した。

 

〈桂花〉「何やってるのよ、春蘭の奴! こんな時にドジを踏んで!」

 

 先陣が突撃に失敗したので、追いついてきてしまった本隊の中で桂花が大きく舌打ちした。一方、鎗輔は怪訝な表情。

 

〈鎗輔〉「待って下さい。今の落馬、明らかに不自然ですよ……! 慣性が働いてませんでした……!」

 

〈華琳〉「ええ……壁のようなものにぶつかったとしか思えない落ち方だったわ……」

 

 華琳の推測通りであった。

 

〈春蘭〉「な、何だこれは!? 見えない壁があるっ!」

 

 起き上がった春蘭が目の前の空間にペタペタ手をやり、驚愕していた。何もない空中に腕を出しているはずなのに、手の平がある一面より先に進まない。

 

〈春蘭〉「これでは、秋蘭たちの救援に行けんではないかっ!」

 

〈華侖〉「ほ、本当っす! 壁があるっす!」

 

 華侖が剣の柄で、空中をガンガンと叩く。パントマイムをやっているのではない。もしそうなら、音など鳴らない。

 

〈兵士〉「夏侯惇さま、こちらも同様です!」

 

〈兵士〉「右も左も駄目です! 見えない壁に道がさえぎられています!」

 

 春蘭たちの隊が左右に広がっていくが、どこまで行けども、不可視の壁に切れ目はなく、苑州軍は一定の距離から街に近づくことが出来ないでいる。困惑する兵たち。

 

〈栄華〉「撃てぇーっ!」

 

 栄華が己の隊に、街へ向けて一斉に矢を射らせたが、矢も一本残らず空中で弾かれてしまった。見えない壁は、空にも広がっているようだ。

 

〈栄華〉「駄目です、お姉様……! この分ですと、街の周囲全てが見えない壁で覆われているようですわ!」

 

〈桂花〉「これでは白翼党に近づくことも出来ません!」

 

〈華琳〉「初手から攻勢を仕掛けた理由はこれか……! 背後から攻撃を受ける心配がないから……!」

 

 救援を待っている秋蘭たちは目と鼻の先なのに、見ているしか出来ないという屈辱を味わわされて、華琳が激しく歯ぎしりした。

 更に街の一角の地中より、巨大生物が地響きを立てて出現する。

 

「ピィ――――――!」

 

 頭頂部に太い一本角を生やした怪獣。平べったい両手には二本の爪が生え、その間から触手のような鞭が伸びている。

 

〈鎗輔〉「やっぱり、怪獣か!」

 

〈フーマ〉『街を覆ってるバリアーは、あいつの仕業だな……!』

 

 フーマが吐き捨てた通り、怪獣の正体はバリヤー怪獣ガギ。広範囲の不可視の障壁を張る能力を持っており、獲物の逃げ場をなくして閉じ込めると同時に外からの攻撃を遮断して、ゆっくりと狩りを行うというおぞましい宇宙怪獣である。

 

「ピィ――――――!」

 

 白翼党に操られるガギは、鞭を叩きつけて街の守護隊を蹴散らす。更に最後の防壁が破壊されたことで、白翼党の大群が市街の内部に押し寄せていく。こんな状況下に置かれては、如何に秋蘭たちでも長くは持つまい。

 だというのに、苑州軍本隊は障壁に足止めされて救援に行けない。

 

〈春蘭〉「おのれぇーっ! 出てこい、賊どもぉっ! 男らしく正々堂々戦わんかぁーっ!!」

 

〈桂花〉「東雲っ! ボサッとしてないで、早く何とかしなさいよっ!」

 

〈鎗輔〉「分かってますよ!」

 

[タイガスパーク、スタンバイ]

 

 もちろんこんな暴挙を、鎗輔は黙って見過ごしたりはしない。右手でフーマキーホルダーを掴み取って、変身を行う。

 

〈鎗輔〉「Buddy Go!!」

 

[ウルトラマンフーマ、変身完了]

「セイヤッ!」

 

 変身を遂げたフーマが空に飛び上がって、街の状態を俯瞰する。

 ウルトラマンの眼からだと、街全体をドームのような障壁がすっぽりと覆い込んでしまっているのがはっきり視認できた。これではどの方位からでも、ガギと白翼党の暴挙を止めることが出来ない。

 

〈フーマ〉『極星光波手裏剣!』

 

 壁を破壊しようと光波手裏剣を投げつけるフーマだが、彼の攻撃でも障壁は破れず、手裏剣は全て弾き返される。

 

〈フーマ〉『駄目だ……あの壁を壊す、いい手段はねぇのか……!?』

 

〈鎗輔〉『「せめて、あれの主成分が分かれば……!」』

 

 フーマでも手をこまねいていると……彼と鎗輔の耳に、何者かの声が聞こえてきた。

 

〈???〉『ウルトラマン、そのバリアーには水素に酷似した分子が多分に含まれている』

 

〈フーマ〉『ん!? だ、誰だ!? テレパシー!? いや、電波通信か!?』

 

 いきなりの、聞き慣れない声の助言に面食らうフーマ。

 

〈???〉『急速に凍結させれば分子が暴れて崩壊するはずだ。健闘を祈る』

 

〈フーマ〉『お、おい誰だよあんた! タイガと旦那じゃあねぇな! 何のために俺にアドバイスを……!』

 

〈鎗輔〉『「……今の声って……まさか……」』

 

 困惑するフーマの一方で、鎗輔は愕然としながら聞き返す。

 

〈鎗輔〉『「き、君! もしかして君は……もしもし!?」』

 

 しかし、謎の声は障壁の攻略法だけ授けて、以降は完全に何も言わなくなった。

 

〈フーマ〉『何だったんだ、一体……。だが助かったぜ! 凍らせればいいんだったらッ!』

 

 気を取り直したフーマが、一気に高度を上げてはるか上空へと昇っていった。

 

 

 

〈???〉「……」

 

 戦場から少し離れた、小高い丘の陰に身を潜めながら、高空へ上昇していくフーマを見つめる人影があった。

 その腰に提げているのは、日本刀……華琳の前にいきなり現れて、一方的に忠告を残した人物と同じであった。

 

 

 

〈フーマ〉『よし、ここでいいだろ』

 

 一直線に、成層圏付近の空気が薄い高度まで上がったフーマは、腕に旋風を発生させて、周囲の冷たい空気を絡め取る。同時に熱を奪って冷やし、極低温の冷風に変換した。

 

「セイヤァァァァァッ!」

 

 その冷風を、地上目掛け高速で射出する!

 まっすぐ地上へ伸びた冷風の竜巻はバリアーに命中し、見えないドームを瞬時に凍結させた。それによって、街全体を覆う障壁が音を立てて砕け散る!

 

〈指揮官〉『な、何だと!?』

 

「ピィ――――――!?」

 

 驚愕して首を上げたガギへと、フーマが矢のように急降下を掛ける。

 

「セイヤァッ!」

「ピィ――――――!」

 

 フーマの突撃をもろに食らって、ガギがばったりと横転した。

 

〈春蘭〉「やった! 壁が破壊された! 総員、掛かれぇぇぇーっ!」

 

〈華侖〉「柳琳たちを助けるっすーっ!」

 

〈苑州軍〉「「「おおおおおおお――――――――ッ!!」」」

 

 バリアが破壊され、足止めがなくなった春蘭たちは今度こそ白翼党に背後から飛びかかっていった。卑怯な手を使われたことで、彼女たちは余計に猛っている。

 

〈春蘭〉「この賊どもがぁーっ! よくも薄汚い真似をしてくれたなっ! その首、一つ残らず叩っ斬ってくれるわーっ!!」

 

〈華琳〉「無軌道に暴れるしか能がない賊徒の分際で、この曹孟徳を虚仮にしたこと……身を以て思い知るといいわ」

 

〈白翼党〉「ひぃぃぃーッ!?」

 

 背後を突かれた上に、途轍もない怒気をぶつけられた白翼党は早くも震え上がっていた。

 

〈華琳〉「はっ! せやぁっ!」

 

〈春蘭〉「でぇぇぇいっ!」

 

〈華侖〉「せいやーっ!」

 

〈栄華〉「隙ありっ!」

 

〈白翼党〉「「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!!」」」

 

 槍や弓矢、剣に大鉈等の刃の雨が飛んできて、元より数で負けている白翼党は瞬く間に斬り伏せられていく。

 

「ピィ――――――!」

「ハッ! セイヤッ!」

 

 フーマの方も、ガギが振り回す鞭をかいくぐってキックを浴びせ、街から引き離しながら徐々に追いつめていた。

 

〈春蘭〉「よーし、我が軍の優勢だ!」

 

〈指揮官〉『くッ……増援を! 街の制圧は後回しだ! 全員転身しろ!』

 

 華琳たちに辛酸を舐めさせながら悠々と街を陥とすはずが一転、背後から軍を引き裂かれて劣勢になった指揮官が、焦りながら街の攻略に掛かっていた前衛を呼び戻す。

 だがその判断を、桂花が鼻で笑い飛ばした。

 

〈桂花〉「ふふん、いくら援軍が来ようと、最早我が軍の優勢は変わらないわ!」

 

〈秋蘭〉「姉者たちを援護するぞ! 狙いなどいらん。撃ちまくれ!」

 

 慌てて反転した兵が華琳たちの勢いを止められるはずもなく、逆に攻撃が途切れて持ち直した秋蘭らから矢を浴びせられる挟撃を食らい、余計に追いつめられてしまった。

 

〈白翼党〉「「「ぐわああぁぁぁぁぁ―――――――――!!」」」

 

〈指揮官〉『お、おのれぇ……!』

 

 歯噛みする指揮官だが、もうどうすうことも出来ず、白翼党はただやられていくばかり。

 

〈華琳〉「やぁーっ!」

 

〈華侖〉「気合いを入れ直すっすー!」

 

〈春蘭〉「掛かれーっ!!」

 

〈栄華〉「奮発して差し上げます!」

 

〈桂花〉「ふふっ、ご苦労さま」

 

 華琳たちの迅速な攻勢に、白翼党は総崩れ。パニックになった兵士たちは、逃亡を選択して街から離れていく。

 

〈指揮官〉『ぐぅッ……情けない人間どもめ……! こうなったら、ガギだけが頼りだ……!』

 

 指揮官は、ガギ一体だけでもあればまだ巻き返せると、フーマとの対決に目を向けた。

 

「ピィ――――――!」

「ハッ!」

 

 ガギは一本角から赤い電撃光線を発射してフーマを狙う。それを疾風の走りでかわすフーマだったが、

 

「ピィ――――――!」

 

〈フーマ〉『うわッ!?』

 

 一瞬の隙を突かれ、伸びてきた鞭に首と胴を絞められた。更に鞭越しに電流を浴びせられる。

 

「グワアァァァッ!」

「ピィ――――――!」

 

〈指揮官〉『いいぞガギよ! そのままウルトラマンを倒すのだ!』

 

 フーマを苦しめるガギにはしゃぐ指揮官。だが、

 

[華琳リング、エンゲージ]

 

 鎗輔が華琳リングを召喚して、フーマの援護をしていた。

 

〈フーマ〉『覇王絶手裏剣ッ!』

 

 放った三日月手裏剣が弧を描いて、ガギの鞭を両方とも切断した。

 

「ピィ――――――!!」

 

 支えを失ったガギが派手に転倒し、反対にフーマは空中に飛び上がる。

 

[香風リング、エンゲージ]

 

 鎗輔が続けて香風リングをリードして、フーマが巨斧を作り上げて飛ばした。

 

〈フーマ〉『断空戦烈斧ッ!』

 

 斧が下弦の弧を描いて飛び、ガギの肉体を貫通した。

 ガギの身体は左右に真っ二つに割れて、粉々に爆散したのだった。

 

〈指揮官〉『ぐッ、ぐうぅぅぅぅッ! ウルトラマンめぇ……覚えてろッ!』

 

 完全に打つ手をなくした指揮官は、捨て台詞を吐いてすたこら逃げ出していった。

 

〈桂花〉「賊軍壊滅! 残った兵も散り散りに逃げていきます!」

 

〈華琳〉「追う必要はないわ。街の開放を優先しなさい」

 

 指揮官も欠き、街を襲っていた白翼党は全滅した。敵を追い払った苑州軍は、守衛の秋蘭たちの隊との合流を図る。

 

〈春蘭〉「うおおお! 今行くぞ、秋蘭! 季衣!」

 

 真っ先に春蘭が市街へと走っていく中、街を守り抜いてひと息吐いた守備隊の中で、柳琳が着地したフーマを熱い瞳で見やっていた。

 

〈柳琳〉「ああ……鎗輔さん……!」

 

 ――彼女の胸元からひと欠片の光の粒が飛んで、フーマがキャッチした。

 鎗輔の手の中に、柳琳の髪型と剣を組み合わせたリングが現れる。

 

〈鎗輔〉『「これは、柳琳ちゃんのリング?」』

 

〈フーマ〉『これで三つ目だな』

 

 新たなリングも入手して、戦いを一発逆転勝利で収めたフーマが、地を蹴って飛び立っていった。

 

「セイヤッチ!」

 




 
バリヤー怪獣ガギ

 苑州の街を襲撃した白翼党軍が使役した宇宙怪獣。角から水素によく似た分子で出来た障壁を周囲に張り、獲物の逃げ場をなくすという手段で狩りを行う。ネオフロンティアスペースの遊園地地下に潜伏していた個体はメスであり、人間の成長ホルモンに溢れた子供を、卵を産みつける苗床のために狙った。

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