奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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The Fourth Man

 

〈春蘭〉「はあああああああああああああああああああっ!」

 

〈季衣〉「でりゃああああああああああああああああああ!」

 

 城下町に入った春蘭と季衣は、猛烈な勢いで城へ続く大通りの敵を薙ぎ払っていく。

 

〈白翼党〉「うわぁぁぁッ! 何だあれは! 逃げろ、逃げろぉッ!」

 

〈白翼党〉「こら、お前らばかり先に逃げるな! 逃げるのは俺が先だぁッ!」

 

 白翼党は二人の猛進撃を止めることなど出来ず、自ら道を開けていくのみ。

 

〈春蘭〉「雑魚は捨て置け! まずは城までの道を切り開くのだ! 行くぞ、季衣!」

 

〈季衣〉「任せて下さい! どりゃああああああああああああっ!」

 

 春蘭と季衣によって掃除されていく大通りを、鎗輔たち後続は、やや呆気にとられながら安全に進んでいく。

 

〈鎗輔〉「……あそこまで行くと、敵がかわいそうになってくるや」

 

〈真桜〉「あれ、完全にあかん奴やで」

 

〈沙和〉「春蘭さまたちが味方で、ホントに良かったの……」

 

〈秋蘭〉「ほら、お前たち。無駄話をしていないで次の作戦に移るぞ」

 

 うわー……と言葉をなくす鎗輔たちの意識を、秋蘭が現実に引き戻した。

 

〈香風〉「お兄ちゃん、華琳さまがお城の中に行くって」

 

〈沙和〉「えーっと、北門を抜けたら、沙和たちは何するんだっけ?」

 

〈真桜〉「残った門の開放やな。内側から街中を掃除して回る組と、門の外側に回り込んで敵軍を後ろから叩く組に別れるんやて」

 

〈凪〉「私たちは全員、門の外側から賊の背後を叩く側だ。それでは隊長、行って参ります」

 

〈鎗輔〉「もう勝ち戦とはいえ、みんな油断しないようにね」

 

 ひと言注意して、凪たち三人を見送る鎗輔。彼は華琳とともに城に向かう組だ。

 

〈香風〉「なら、シャンたちも行こー」

 

〈鎗輔〉「季衣ちゃんは連れていかないの?」

 

〈香風〉「華琳さまが、この方がいいって。だから今日は、シャンが華琳さまの護衛」

 

 見れば、季衣の鉄球が残っている敵兵を宙に舞わせたところだった。

 

〈鎗輔〉「……うん。あのままにしておいた方がいいよね」

 

〈秋蘭〉「うむ。姉者と季衣の手綱は私が何とかしよう。華琳さまを頼んだぞ、二人とも」

 

〈鎗輔〉「分かりました。秋蘭さんもお気をつけて」

 

 城下町……というか春蘭と季衣のことを託して、鎗輔と香風は華琳に合流しに行った。

 

 

 

 城に近づくにつれて敵勢力も小さくなっていって、鎗輔たちは無事に城内に入り、陳珪の元までたどり着くことが出来た。

 

〈陳珪〉「来ていただけたこと、改めて礼を言わせていただきますわ、曹孟徳殿。……正直、間に合わないかと思っていたもの」

 

〈華琳〉「同盟のよしみだもの。礼には及ばないわ」

 

 城は既に苑州軍が防備を固めており、白翼党は指揮官を欠いて混乱を来たしている。戦闘が終了するのは時間の問題であった。

 

〈鎗輔〉「陳登ちゃんも無事で良かった……」

 

〈陳登〉「うん。何とか助かったよ。……ありがとう」

 

 鎗輔は陳登の無事も確認できて、安心していた。

 

〈陳珪〉「しかし、どうやってここまでこんなに早く来られたの。私の遣いは、賊討伐の遠征先に着いたはずでしょう?」

 

〈華琳〉「そこから直接来たのよ。陳留に戻る時間も惜しかったしね」

 

〈陳珪〉「そんなに糧食に余裕があったの?」

 

〈華琳〉「まさか。手持ちの糧食など、ここに来る道程の半分も持たなかったわよ」

 

〈栄華〉「ですが、どこの太守や県令も、少し声を掛けただけで今までの恩返しとばかりに快く糧食を貸して下さいましたわ」

 

 そこに、苑州軍の行軍速度の秘密があった。栄華が本隊に先行して進路上の街の役人たちから糧食を借用したことで、苑州軍は足を止めることなく沛国までたどり着けたのであった。

 

〈栄華〉「沛国の相殿をよしなに、だそうですわ」

 

〈陳珪〉「……そう」

 

〈鎗輔〉「恩を笠に着て、無理に徴収したとかじゃありませんよ」

 

〈栄華〉「ええ。涙ながらに訴えただけですわ。こちらも賊退治で満身創痍ではあるけれど、大切な盟友である沛国の相殿を何としてでも助けねばなりません……とね」

 

〈陳珪〉「随分と、大衆受けしそうな手段を取ったものね」

 

〈桂花〉「その方が民の語り草になるでしょう? こういう時は、危機感や悲壮感を出すくらいの方がちょうどいいのよ」

 

 打算的な物言いの桂花に、鎗輔は苦笑いを浮かべた。

 種明かしをしたところで、陳珪が不意に華琳に申し出る。

 

〈陳珪〉「曹操……いえ、曹孟徳殿。ちょうど良い機会だし、お願いがあるの」

 

〈華琳〉「これ以上何を求めるつもり?」

 

〈陳珪〉「ええ。……あなたとの同盟を解消させて下さらない?」

 

 陳珪の発言に、全員が驚きを見せた。とても、一連の流れから出てくる要望とは思えない。

 

〈華琳〉「この時期に、随分と一方的な話ね。……それで、破棄した後はどうするつもりなの?」

 

 しかし後に続く言葉は、輪を掛けて驚愕の内容であった。

 

〈陳珪〉「この豫州を、あなたの下にお預けするわ」

 

〈鎗輔〉「えッ……!?」

 

〈華琳〉「……」

 

〈陳珪〉「最早あなたには、この沛国……いや、私と同盟を結ぶ旨味はないでしょう?」

 

〈桂花〉「だからと言って、本当に売国の徒となるつもり!?」

 

〈陳珪〉「ふふっ。今更でしょうに」

 

 陳珪は豫州を華琳に売るつもりではないか、とは苑州軍の予測にも上がっていた。しかし、まさか当人の口から直接言われるとは。

 

〈陳珪〉「……曹洪殿、正直に答えていただきたいわ。先ほどの件、ここまでの通り道で立ち寄った沛の県令たちは、皆本当に喜んで糧食を差し出してくれたのではなくて?」

 

〈栄華〉「……」

 

〈陳珪〉「曹子廉殿。遠慮は無用よ」

 

〈栄華〉「……県を預かる令ともあろう者たちが、わたくしのような遣いの小娘に媚びへつらう……とてもおぞましい光景でしたわ。正直、二度と思い出したくありませんわね」

 

 栄華は、ひどく顔をしかめながら語った。よほど気味が悪かったようである。

 

〈鎗輔〉「それって……」

 

〈桂花〉「暴徒如きにいいようにされる陳珪に見切りをつけて、華琳さまに乗り換えたってことでしょ」

 

〈鎗輔〉「文若さん! 失礼ですよ、本人の前で……!」

 

 わざわざ聞こえるように言い放った桂花を鎗輔が咎めるが、当の陳珪は苦笑するだけだった。

 

〈陳珪〉「軍師殿は本当に遠慮がないわね……。でも、残念ながらその通りよ。恐らく、豫州の他の郡でも状況は変わらないでしょう」

 

〈華琳〉「陳珪……」

 

〈陳珪〉「豫州は最早、あなたのものということよ。私が何をしようとね」

 

〈華琳〉「そう仕向けたのは、あなたでしょうに」

 

〈陳珪〉「……で、どう? 外の戦いももうすぐ終わるでしょう。今の内に決めておいた方が、戦後処理に手間取らなくて済むと思うのだけれど?」

 

 回答を迫る陳珪に、華琳は尋ね返す。

 

〈華琳〉「なら……一つだけ答えなさい」

 

〈陳珪〉「何なりと」

 

〈華琳〉「あなたの目的は、何だったの? 私を刺史にまで引き上げ、自分の属する州を売り渡すような真似までして……あなたは、一体何を見ていたの?」

 

 陳珪は、相変わらず底の見えぬ微笑を浮かべたままに答える。

 

〈陳珪〉「そうね……有能な後進に道を与えたかった、では駄目かしら?」

 

〈華琳〉「おためごかしは嫌いよ」

 

〈陳珪〉「……なら、この地を守るための大樹が欲しかった、とでも言えば満足する?」

 

〈華琳〉「育てた大樹に屋敷を潰されていては世話はないわね」

 

〈陳珪〉「そうね。それでも、大樹の陰や洞を新たな家とすることは出来るわ。何よりこれからは、国ごとその大樹の恩恵に預かっていられるのだもの。国一つを差し出した対価としては、まずまずだわ」

 

〈華琳〉「あなたには為政者としての誇りはないの?」

 

 呆れたような、叱責するような華琳の声。確かに、陳珪の行いは人の上に立つ者からすれば、無責任に過ぎる。己の求めるような主を得るために、民を秤に掛けたのだ。

 だが、陳珪は平然としたものだった。

 

〈陳珪〉「この土地と民もろともに果てるのが為政者の誇りというのなら、そんなものはとうに捨ててしまったわね」

 

〈華琳〉「……」

 

 ぽかんとする華琳。こんな覚悟の見せられ方は、彼女にとっても初めてであった。

 

〈陳珪〉「ふふっ。あなたのその顔が見られただけでも、十分な対価な気がしてきたわ」

 

〈華琳〉「……その言葉、私の寝首を掻いた時にも口にするつもり?」

 

〈陳珪〉「さぁ? そんな時が来ないことを願うだけだわ」

 

 陳珪は肯定も否定もせずに、改めて華琳に尋ねる。

 

〈陳珪〉「さて、曹孟徳殿。我が真名を預けるに足るお方よ。我が恭順を受け入れるや。あるいは我が首を刎ねた血と屍の上に立ち、此の地の主となるや」

 

〈華琳〉「……」

 

〈香風〉「華琳さまー。外の制圧、終わったって」

 

 部屋の外の見張りをしていた香風が、考慮の時間がないことを知らせた。

 

〈陳珪〉「曹孟徳殿。いざ」

 

 華琳はふぅと小さいため息を吐いてから――首を縦に振った。

 

〈華琳〉「いいでしょう。ならばその真名とこの地、私に預けなさい」

 

〈陳珪〉「……御意」

 

 

 

 ――豫州から陳留への帰り道、馬上で鎗輔が尋ねた。

 

〈鎗輔〉「華琳さま。陳珪さん……燈さんをあのままにしていいんですか?」

 

〈華琳〉「沛の事後処理もあるし、ひとまずの処置よ。まぁ、しばらくはこのままでしょうね」

 

 燈の恭順を受け入れた華琳であったが、だからといきなり何かが変わるでもなく、沛国のことは当分は引き続き燈が管理することとなった。しかし、鎗輔はそれを懸念していた。

 

〈鎗輔〉「でも、燈さんが国を、その……売ったという話は否が応でも広まるでしょうし。もしかしたら、燈さんに恨みを抱く人も出るんじゃ……みんながみんな、華琳さまを支持してるのでもないでしょうし……」

 

〈華琳〉「それこそ燈自身で片づける問題よ。私が口を出す話ではないわ。それに、喜雨もいるのだし」

 

 喜雨というのは、陳登の真名である。燈と一緒に預かったのだった。

 

〈鎗輔〉「……桂花さんは、何も言わなくて良かったんですか? ああいう局面じゃいつもは、いの一番に反対するのに」

 

 桂花に振り向くと、彼女は普段以上にしかめ面だった。

 

〈桂花〉「不満に決まってるでしょ。でも、燈が怪しいのは前々からずっと言っていたことだし、今更言っても仕方ないでしょう」

 

〈栄華〉「それに、お姉様のことですもの、どうせいつもの……」

 

〈華琳〉「ええ。罠があるなら食い破る、それだけよ」

 

 相変わらずの調子の華琳に、栄華たちはあきらめたように肩をすくめた。

 

〈春蘭〉「華琳さまの領地が増えるのだ。何にせよ、めでたいことではないか。お前たちもうたうだ言っていないで、素直に喜べ」

 

〈桂花〉「戦働きするだけだと色々考えなくて、楽でいいわね」

 

〈春蘭〉「ふふん、羨ましいか」

 

〈桂花〉「……その厚かましさ、羨ましいを通り越して腹立たしいんだけど」

 

 皮肉も通じない春蘭に、桂花は口をへの字に曲げた。

 

〈フーマ〉『まぁ何にせよ、これでようやくひと息吐けていいじゃねぇか。ずーっと休む暇もなかったんだしよ』

 

〈PAL〉[皆さん、一度纏まった休息を取ることをお勧めします。疲労が蓄積されているはずです]

 

〈鎗輔〉「でも、帰ったら帰ったでやること山積みだし……」

 

 話しながら移動している最中――華琳の馬の鼻先に、どこからかポーンと細長い物が投げ込まれた。

 

〈華琳〉「あら……?」

 

 突然のことに、皆の馬の足が止まった。地面を転がっているのは、筒状の物体だ。

 

〈桂花〉「何あれ。筒……?」

 

〈栄華〉「どこから飛んできましたの?」

 

〈春蘭〉「何だ、誰の悪戯だ?」

 

 見慣れない物体に面食らっている一同。だが、鎗輔だけは目を剥いて泡を食った。

 

〈鎗輔〉「みんな、離れて! もしかして危険物じゃ……!」

 

 警告を言い切る前に、筒がカッ! と破裂して閃光を発した!

 

〈季衣〉「わぁぁっ!?」

 

〈華侖〉「ま、まぶしいっすーっ!」

 

〈鎗輔〉「くッ……!」

 

 ヒヒーン! と馬がいなないて一斉にパニックを起こした。騎乗者たちも閃光に目を焼かれて、何も見えなくなって動揺する。

 特に一番近くにいた華琳の馬はバタバタ暴れ、華琳を振り落としてしまった。

 

〈華琳〉「あうっ!」

 

〈秋蘭〉「華琳さま!?」

 

 視界を潰されながらも受け身を取った華琳が、お尻をさすりながら起き上がろうとするが――。

 その背後から、一本角を生やした謎のシルエットが混乱の最中に忍び寄っていて、刀を振り上げていた――。

 

〈華琳〉「っ!!」

 

〈春蘭〉「華琳さまぁぁぁーっ!!」

 

 殺気を感知したのは華琳だけではない。春蘭が動物的本能とも言うべき感覚で鉈を抜き、振り下ろされた刀を弾き返した。

 

〈無幻魔人サイオーガ〉『ふん……流石にそう簡単じゃないか』

 

〈春蘭〉「おのれ、何奴っ!」

 

 春蘭が華琳をかばったことで、角を生やした襲撃者は華琳から離れた。次第に皆の視力が回復していき、その姿を目の当たりにして驚愕する。

 

〈秋蘭〉「ま、またしても怪人っ!」

 

〈華侖〉「というより……鬼!? 角が生えてるっす!」

 

〈季衣〉「まさか、豫州に出るって鬼の正体って、あれ!?」

 

〈桂花〉「何者だろうとどうでもいいわよ! 皆、華琳さまをお守りしなさいっ!」

 

〈春蘭〉「おのれ、鬼めが! 華琳さまには指一本触れさせんぞぉっ!」

 

 春蘭や季衣、香風らの武闘派が華琳の盾となって鬼と相対するが、鬼の方はそれ以上危害を加えようとはしなかった。

 

〈サイオーガ〉『そう騒ぐな。今回のはほんの挨拶みたいなもんだ』

 

〈春蘭〉「何を勝手なことを……!?」

 

 苑州軍の兵士に取り囲まれながら、春蘭たちの目の前で、鬼は姿を変えていく。――鎗輔と同じ、現代の洋服を身に纏って、日本刀を肩に担ぐ青年の姿に。

 

〈沙和〉「に、人間なの!?」

 

〈真桜〉「けど、怪しい奴には変わりないで!」

 

〈凪〉「隊長、私たちの後ろに――えっ!?」

 

 凪は鎗輔を守ろうとするが――鎗輔は彼女を押しのけてまで、謎の青年の前に飛び出していく。この行動に目を見張る華琳たち。

 

〈華琳〉「鎗輔……!?」

 

〈柳琳〉「鎗輔さん、危ないですよ!?」

 

〈フーマ〉『おい鎗輔! んな無防備に……!』

 

 フーマまで制止するが、彼の声すら聞こえていないほどに、鎗輔は我をなくしていた。

 鎗輔は青年の正面まで来ると、必死の表情で叫んだ。

 

〈鎗輔〉「(ジュン)ッ!!」

 

〈楯〉「……鎗輔」

 

〈フーマ〉『……え? 知り合い?』

 

 苑州軍が一斉にどよめいた。我らが天の御遣いが、我らが曹孟徳の命を狙った男と、知らない間柄ではない様子なのだから。

 

〈春蘭〉「ど、どういうことなのだ?」

 

 鎗輔は周りの動揺にも気づく様子を見せないほどに、楯と呼んだ青年に困惑しながら呼び掛ける。

 

〈鎗輔〉「ジュン、何でここにいるんだ!? 今の姿は何だ!? その刀は、どうしたんだ! ……今までどこで何をやってたんだ! 行方不明になったって聞いて、ずっと心配してたんだぞ……!? 聞きたいことはいくらでも……」

 

 少しずつ歩み寄っていく鎗輔だったが――その鼻先に向けて、刀の切っ先が突きつけられた。

 

〈鎗輔〉「えッ……ジュン……!?」

 

〈楯〉「……なれなれしくすり寄ってくるな。おれとお前の関係は、もう昔とは違う。……分かってるだろう?」

 

 鋭い眼光を向けてくる楯に、鎗輔は絶句している。

 

〈凪〉「――隊長っ!」

 

〈香風〉「お兄ちゃん……!」

 

〈柳琳〉「鎗輔さん……!」

 

 凪たちは、何が何だかさっぱり呑み込めないながらも、鎗輔が危険だと感じて彼を引き離した。

 楯は間に入って構えを取る凪のことなど目に入っていないかのように無視して、鎗輔に告げた。

 

〈楯〉「鎗輔。お前がどこで、誰の厄介になってようがおれはもう関与しない。代わりに、いくらお前でもおれの邪魔をするのは許さない。場合によっては――斬り捨てることも辞さん。よく覚えておけ」

 

 楯が大きく刀を振ると、不自然に風が巻き起こって彼の姿を覆い隠す。

 

〈凪〉「うっ……!」

 

 風がやむと――周囲を全て囲まれていたにも関わらず、楯の姿は忽然と消え失せていた。

 

〈華侖〉「い、いないっす!」

 

〈春蘭〉「どこに消えたのだ!?」

 

〈華琳〉「まだ遠くへ行ってはいないかもしれない! 全員、手分けして捜索しなさい!」

 

〈秋蘭〉「は……はっ!」

 

 あまりにも唐突な出来事に唖然としていた一同であったが、華琳の命によって大捜索が開始される。

 

〈華琳〉「季衣、あなたも行きなさい」

 

〈季衣〉「で、でも華琳さま、一人は護衛がいないと……」

 

〈華琳〉「私なら大丈夫よ。……少し、鎗輔と話をさせてちょうだい」

 

 季衣もしばし離れさせて、華琳は鎗輔と二人という状況を作ると、彼に質問を投げかけた。

 

〈華琳〉「鎗輔、答えなさい。――今のは誰?」

 

 鎗輔はまだ狼狽していたが、どうにか心を落ち着かせて問いに答える。

 

〈鎗輔〉「……あいつの名前は、西園寺(さいおんじ)楯。ぼくの――ちょっとした知り合いです」

 

〈華琳〉「……そう」

 

〈鎗輔〉「でも、天の御遣いではありません……。他の二人は、ジュンとは全くの別人ですから……」

 

〈華琳〉「なるほど……言うならば、予言に記されていない第四の男というところかしら」

 

〈鎗輔〉「そこのところは、ぼくにも分かりません……。何でこの大陸にいるのか、どうして華琳さまを襲ったのか……正直、しばらく会ってませんでしたから……あいつの身に何があったのかは……」

 

〈華琳〉「つまり、あなたにも何が何だか分からなかった、ということね。……結構。では、あなたも捜索に加わってきなさい。人手は一人でも多い方がいいわ」

 

〈鎗輔〉「は、はい……失礼します」

 

 ペコリと頭を下げてから、鎗輔が華琳の元から離れていく。

 季衣が戻ってくるまで一人の間に、華琳は思考する。

 

〈華琳〉「……」

 

 天の国では、下の名前がこちらの真名に相当するという、普通は呼び掛けには用いない名前だということ。『あいつ』という、鎗輔にしては親しみのある呼称。何より、先ほどの取り乱しよう――。

 

〈華琳〉「……見え透いた嘘を。ちょっとした程度の知り合いに、あんな態度を取るはずがないじゃない」

 

 鎗輔はあの西園寺楯という男について、何らかのことを隠している。しかし、華琳はそれを無理に問い詰めようとはしなかったのだった。

 




 
無幻魔人サイオーガ

 西園寺楯という名の謎の青年が変身する魔人。日本刀を得物として扱い、人間の限界を超越した筋力から繰り出される剣技の威力は、一流の武将にも引けを取らないレベル。天の御遣いに何かしらの思いがあるようだが、その行動目的や、何故このような能力を持っているのか等は不明。鎗輔とは以前からの知り合いのようではあるが……。
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