鎗輔は華琳、季衣と少々の親衛隊とともに、陳留から離れたところにある村を訪問していた。
〈鎗輔〉「ぜ、ぜぇ……ぜぇ……長い道のりだった……」
……到着した頃には、鎗輔は既に疲労困憊だった。
〈季衣〉「お疲れさま、兄ちゃん」
〈華琳〉「もう……少しはマシになってきたかと思えば、まだ馬に乗ったくらいでそんな這いつくばって」
馬の傍らで、四つん這いで息を切らしている鎗輔のありさまに、華琳はため息。
〈華琳〉「あなたも今や警備隊の総隊長よ? そんなことでは、下の者に示しがつかないわ」
〈季衣〉「兄ちゃんは今更かもしれませんけどね」
〈鎗輔〉「こ、こんなに長時間を移動に掛けるなんて、行軍中でもなかったじゃないですか……」
〈華琳〉「今日中には済ませたいのよ。急に入った視察だもの」
鎗輔は徐々に呼吸を整えて立ち上がった。
〈鎗輔〉「ふぅ……馬での移動もしんどいものだよ。揺れがひどいし……せめて、自転車があればなぁ……」
〈PAL〉[ですが鎗輔。舗装されていない道路を自転車は、逆に疲れるのではないでしょうか]
〈鎗輔〉「ああそうか……それを思うと、文明の発展ってホント偉大だなぁ」
〈華琳〉「つまらないこと言っていないで、荷物を置いたら早く行くわよ」
ぼやいている鎗輔を、華琳が促した。これから向かう先は、村の端にある手つかずの土地。
陳留の現在の一番の問題は、人口増加に対して仕事が不足していることであった。職にあぶれた人間は犯罪に走る。しかし兵隊や警備隊の人員にも限りがあるので、今必要となっているのは新しい事業の確保であった。そこにおあつらえ向きに、開墾できそうな土地の情報が入ってきたので、早速視察に赴くことになったのであった。
〈鎗輔〉「でも、いくら何でもその日の内に出発なんて、急すぎませんか? 予定にねじ込んでまでする必要が……」
ここから先は足で移動しながら、華琳に尋ねかける。
〈華琳〉「もちろん理由はあるわよ。田畑を作っても、植える物の時期を逃せば無駄な空き地を作るだけになるでしょう」
〈鎗輔〉「ああ、まぁ……」
この大陸では、土地は現代日本ほど使用目的がある訳ではないので、田畑に使えないなら何か別の物に、と簡単に切り替えることは出来ないのである。
〈季衣〉「今すぐ畑を作り始めれば、秋は無理でも、冬に収穫できる野菜を植えるのにはギリギリ間に合うだろうしね」
〈華琳〉「種や苗の手配もすぐに準備できる訳ではないし、次の作物を植える時期まで人手を飼い殺しておけるほど、余裕もないのよ」
〈鎗輔〉「農業の下準備も、色々あるんですね……」
〈フーマ〉『何だ、珍しく疎いじゃねぇか』
感心し切りの鎗輔に、フーマが呼び掛けた。鎗輔は大体のことは知っているのに、農業には明るくないようである。
〈鎗輔〉「いやぁ、正直、農業って興味なかったから」
〈華琳〉「農業は国の基礎でしょう。それを学ばずに済ませるなんて……天の国の仕組みは奇々怪々ね」
〈鎗輔〉「農業を専門に学ぶ施設はありますけどね。通うのは、希望者だけですよ」
〈華琳〉「そんなことで民の食料をまかなえるとは……よほど作業能率が良いみたいね」
〈鎗輔〉「まぁ、色々と前提が違いますし」
〈季衣〉「いいな~、天の国は」
話し合いつつ、村の人の案内で開墾予定地に向かっていった。
そうしてたどり着いた先は、なるほど、人の手が入っていないのがひと目で分かるほどに完全な荒れ地であった。
〈華琳〉「これは開拓し甲斐がありそうね……」
〈鎗輔〉「確かに、やり甲斐はありそうですが……」
鎗輔の細腕では、年単位の時間が掛かっても開墾できるか怪しいレベルの荒野だ。これが畑になるという想像がつかない。
〈季衣〉「これなら、いい畑になりそうですねー」
〈フーマ〉『けどこれ、全部手作業で耕すのかよ。大変そうだな』
〈鎗輔〉「そう言えば、フーマのところの農作業はどんな感じだったの?」
〈フーマ〉『O-50も大体はお前んとこと同じようなもんだよ。科学技術だけはあるからな。農作業を全くしねぇのは、M78星雲ぐらいのもんだな。タイガの国』
〈季衣〉「ええ!? 農作業しないで、食事はどうするの!?」
〈フーマ〉『あそこは国民全員ウルトラマンだから、みんな飲まず食わずの仙人みてぇなもんだよ。そもそも、農作物が育たねぇんだって。元々は全土が死んだ土地みてぇなもんだからな、光の国って』
〈鎗輔〉「土壌の栄養がないのか……」
〈季衣〉「怖い話だね、それって……」
〈華琳〉「無駄話はそれくらいにして、視察に取り掛かるわよ。鎗輔、この辺りの土地に手を入れるとして、どのくらいの規模の人手と期間が必要か分かるかしら?」
〈鎗輔〉「そう言われましても……」
流石に門外漢では、計算もおぼつかない。
〈鎗輔〉「喜雨ちゃんがいれば、話は早かったんですが」
〈華琳〉「でも都合がつかなかったんだから、しょうがないでしょう。では季衣は、意見はあって?」
〈季衣〉「この辺りなら、二百軒くらいかなぁ……? 向こうの土地は、もうちょっと多くても大丈夫だと思いますけど」
〈華琳〉「そう。やはりそのくらいかしらね」
〈季衣〉「だと思います。土はそんなに悪くないから……後は水だけ何とかすれば、秋が来るまでには何か植えられるんじゃないでしょうか?」
〈華琳〉「なら、水路の工事で新しい人手を確保する必要があるわね……」
すらすらと答える季衣に、鎗輔は少し意外そうな顔。
〈鎗輔〉「詳しいね、季衣ちゃん。思えば、以前の水路掘りも上手だったし」
〈季衣〉「そりゃあね。村じゃ、田んぼも畑もやってたし」
〈フーマ〉『農家より、猟師の方が似合いそうだけどな』
〈季衣〉「熊も捕まえてたけど、田んぼとかもやってたよ。でないと食べていけないし」
〈鎗輔〉「そっか……」
改めて、過去の世界での生活の困難さを実感する鎗輔。
〈華琳〉「今から人手を集めて送り込めば、何とか間に合いそうね。大体の様子は分かったから、後は城で詰めましょう」
〈季衣〉「はーい」
話は纏まりそうになるが、そこに鎗輔が待ったを掛けた。
〈鎗輔〉「ちょっと、一ついいですか?」
〈華琳〉「どうしたの?」
〈鎗輔〉「あの岩はどうしますか」
鎗輔の指差した先にあるのは、荒れ地のど真ん中に鎮座する巨大な岩。見るからに、作業に当たっての障害になりそうだ。
鎗輔たちは近寄っていって、岩を見上げた。彼らの身長の倍くらいはある高さだ。
〈華琳〉「そうね……鎗輔、何かいい案はある?」
〈鎗輔〉「これだけ大きいと、難しいですね……。撤去するのにも苦労しそうだ。爆破して破片にすれば楽になりますけど」
〈華琳〉「火薬は、こんな岩を壊すために使えるほど安いものではなくてよ。岩一つ壊すのに、どれだけ予算を使うつもり?」
〈鎗輔〉「ですよね……。ニトログリセリンでも作ってくれば良かった」
〈フーマ〉『作れるのかよ!?』
〈鎗輔〉「あッ! いやいや、今のはほんの冗談だよ。……PAL、そういうことにしよう」
〈PAL〉[分かりました]
知識のない華琳たちには、今のがどれだけまずいことなのかは分からない。
〈鎗輔〉「ともかく、今どうこうするのは無理がありますよ。開墾作業時にはどうにかなるかもしれませんが」
〈華琳〉「いいえ。出来れば、作業を始めるまでにはこんな邪魔な岩、無くしておきたいのよね。でないと種まきの時期を逃してしまうわ」
〈鎗輔〉「そう言われましても……」
〈華琳〉「天の国の知識で、どうにか解決策を出しなさい」
〈鎗輔〉「いくら何でも、出来ることと出来ないことがありますよ」
〈フーマ〉『それこそ、季衣がぶっ壊すとかでもねぇとなぁ』
冗談交じりにフーマが言ったのだが、
〈季衣〉「いいよ」
〈鎗輔・フーマ〉「『え?」』
〈華琳〉「季衣、行ける?」
〈季衣〉「もちろんですっ!」
季衣は持ってきた鉄球を引っ張ってきて、巨岩の前に立った。
〈鎗輔〉「あの、季衣ちゃん? 薪割りとは違うんだけど……」
〈季衣〉「華琳さま、兄ちゃん、ちょっと離れててね」
〈鎗輔〉「あ、うん……」
季衣は意気揚々と鉄球を振り回し、
〈季衣〉「いっくよ―――っ! えいっ!」
鉄球を勢いよく岩に叩きつけた。
岩は一撃で木っ端微塵!
〈鎗輔〉「……嘘でしょ」
〈季衣〉「ほんとー」
想像以上の破壊力に、鎗輔は呆然としていた。
〈華琳〉「流石は季衣ね。他にもあるから、全て片づけてしまいましょうか」
〈季衣〉「分かりましたっ!」
次の岩の破壊に移る季衣の背中を、鎗輔は一抹の恐怖を覚えながら見つめた。
〈鎗輔〉「……あんなの叩きつけられる人間が、よく生きてるもんだよ……」
〈フーマ〉『バラバラになってもおかしくねぇよな……』
それから季衣は、土地に転がる岩を見つけては壊し、見つけては壊しと、整地作業に精を出した。小さくなった破片は親衛隊が取り払って、荒れ地を綺麗にしていく。
しかし、最後に残った一つは、簡単には行かなそうであった。
〈華琳〉「……流石にこれは、無理かしらね」
季衣たちの目の前にそびえたつのは、最早小山という規模の岩塊だ。それでも季衣はやる気満々。
〈季衣〉「これが最後ですねー。でもちょっと大きいかなぁ」
〈華琳〉「無理をする必要はないわよ。これだけ大きな岩なら、見張り台として使う方法もあるのだし」
〈季衣〉「けど、ここって山から続くところですし。多分、水路を引くなら邪魔になると思うんですよねー」
〈華琳〉「なるほど。そう言われてみれば、確かにそうね」
あくまで破壊することにこだわる季衣。しかし、鎗輔は岩塊をよく観察して制止を掛ける。
〈鎗輔〉「ちょっと待って下さい。この岩、何か変ですよ」
〈華琳〉「変?」
〈鎗輔〉「他はみんな火成岩だったのに、これだけ礫岩です。しかもこんなに礫が緻密……。一つだけ種類の違う岩が混じってるなんて少し妙です」
訝しむ鎗輔だが、華琳はそれで待たない。
〈華琳〉「何の岩でも、水路上にあっては処理するしかないわ。そういうことだから、季衣」
〈季衣〉「はいっ! 本気でやりまーす!」
〈鎗輔〉「えッ、いや……」
〈季衣〉「兄ちゃん、そこ立ってたら危ないよ!」
季衣がブンブン鉄球を振り回すので、鎗輔は慌てて退避した。
〈季衣〉「いっくよ―――――! でええええええいっ!」
雄叫びとともに振るわれた鉄球が、最後の岩も粉砕した!
〈季衣〉「終わりました、華琳さまっ!」
〈華琳〉「流石季衣ね。古の猛将、樊カイにも劣らないわ」
〈鎗輔〉「劉邦の忠臣ですね……」
意気揚々と戻ってきた季衣の頭を、華琳が撫でる。
〈華琳〉「良くやったわ、季衣」
〈季衣〉「えへへー」
〈華琳〉「鎗輔も何か言ってはどう?」
〈鎗輔〉「は、はい……。すごかったよ、季衣ちゃ――」
だが鎗輔が称賛しかけたところで、PALが警告を発する。
〈PAL〉[異常事態発生。季衣が破壊した岩石の破片が、ひとりでに元の場所へ集結しています]
〈鎗輔〉「えッ!?」
見れば確かに、バラバラになった礫岩が時間を巻き戻すように集まっていき、元の岩塊に戻っていく。
〈華琳〉「これは……!」
〈季衣〉「むー!? 粉々になったのに抵抗するなんて、何てしつこい岩なんだー! もう一発……!」
〈鎗輔〉「ま、待った! これはただごとじゃないッ!」
もう一度鉄球を振るおうとする季衣を制して、明らかに不自然な動きをする岩に警戒する鎗輔。
すると彼らの足元の地面が下から盛り上がっていく!
〈フーマ〉『まずい! 下がれお前らッ!』
〈鎗輔〉「華琳さま! 季衣ちゃん!」
鎗輔たちが慌てて後退していくと――盛り上がった地面を破って、全身が積み重なった岩石で出来た怪獣が出現する!
「グガアアアア! アアアオン!」
宇宙礫岩怪獣グロマイト! 先ほどの岩塊は、地上に出ていたグロマイトの背面の突起の先端部だったのだ!
「グガアアアア! アアアオン!」
グロマイトは牙を剥いて、華琳たちに向かってドスドスと迫ってくる。
〈フーマ〉『うわッ! 身体砕かれて怒ってやがるぞ!』
〈鎗輔〉「華琳さまたちは、早く逃げてッ!」
[タイガスパーク、スタンバイ]
〈季衣〉「兄ちゃんっ!」
鎗輔はグロマイトの進撃を食い止めようと、タイガスパークを起動した。
〈鎗輔〉「フーマ!」
フーマキーホルダーをその手で握り、変身を行う。
〈鎗輔〉「Buddy Go!!」
[ウルトラマンフーマ、変身完了]
「セイヤッ!」
変身して巨大化したフーマが、グロマイトの真正面に立ち上がった!
宇宙礫岩怪獣グロマイト
開墾予定地の荒れ地の地中に潜んでいた宇宙怪獣。全身は岩石を凝縮して生成した礫岩で出来上がっており、生身の部分は中枢神経だけなので、少々砕かれた程度では全くダメージにならない。口から岩石弾を発射して攻撃し、破損した鎧も岩石を取り込むことで修復するが、この岩石を取り入れる際のわずかな間に開く首のつけ根の隙間が唯一の弱点となる。