奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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劉備、一刀に勉強を教わるのこと

 

 薊の城にて、俺は愛紗と一緒に、青州の賊討伐から一時的に戻ってきた馬超と顔を合わせてた。彼女から、念願の話を届けてもらったのだ。

 

〈一刀〉「馬超、俺の他の天の御遣いの噂を聞いたって本当か!?」

 

〈馬超〉「ああ。陶謙殿と面会した際に教えていただいたんだ」

 

 少し興奮気味になってる俺。先に早馬でもたらされた情報を聞いてから、馬超の口より詳しいことを聞くのが待ち遠しかったんだ。

 

〈馬超〉「と言っても、あくまで噂。確実性には欠けるから、そこは留意してくれ」

 

〈一刀〉「構わないよ。ともかく、知ってることを教えてほしい」

 

〈馬超〉「じゃあ……まずは一人目。揚州の呉郡太守、孫堅殿が、空から降ってきた人間を虜にしたと宣伝してるらしい。建業じゃ実際に、赤い巨人が怪物を退治してるそうだ。そして二人目、こいつは苑州陳留の太守、曹操がかくまってるみたいだ。そっちでも、青い巨人を見た人がいるという」

 

〈タイガ〉『赤い巨人と青い巨人……確かに特徴は、タイタスとフーマに一致してるな』

 

 タイガがそう言うからには、この噂の信憑性は高いだろう。

 しかし、孫堅と曹操か……。曹操は言わずもがな、後の大国魏を建国する、三国志を代表する奸雄だし、孫堅はその名の通り、孫呉の三国志初期の主だ。そして俺が仲間となった、桃香こと劉備は、後の蜀の王……。三人の天の御遣いは、一人ずつ三国の王の下に身を寄せた形になってる訳か。

 ……これは偶然だろうか。それとも、何者か、あるいは運命とでも言うべき見えざる力が、俺たちを未来の大陸を左右する人物のところへと振り分けたんだろうか……。

 

〈愛紗〉「馬超殿、貴重な情報をわざわざ報せていただき、感謝する」

 

〈馬超〉「いいってことさ。じゃ、馬岱たちを待たせてるから、あたしはこれで」

 

〈愛紗〉「次に青州へ行かれるのはいつ頃か?」

 

〈馬超〉「もう明日の早朝だよ。賊の動きはまだまだ活発でさ」

 

〈愛紗〉「そうか、お互い大変だな……」

 

〈馬超〉「武人だから仕方ないさ。とはいえ、次に会う時はもっとゆっくり出来るようになってるといいんだがな」

 

〈愛紗〉「うむ。健闘を祈る」

 

 馬超が退室してから、愛紗が俺に振り向く。

 

〈愛紗〉「朗報ですね、ご主人様! まだ確かではないとはいえ、ご友人の無事が分かりました!」

 

〈一刀〉「ああ、ひとまずは安心だ」

 

〈愛紗〉「……ですが、申し上げにくいのですが、噂をお確かめに行かれるのはお勧め出来ません。勇者様のお力があれば距離はあってないものでしょうが、余所の州の施政者がどのような人物かは分かりませぬ故、下手をすればご主人様が囚われの身になってしまわれる恐れも……」

 

〈一刀〉「そんな危険があるの?」

 

〈愛紗〉「もちろんです。人の上に立つ者ならば、どのような性根であれ、多かれ少なかれ野心を抱いているのが当然。天の御遣いほどの人物が手元に転がり込んできて、むざむざ放っておくとは思えません。公孫賛殿のように、ご主人様を縛りつけようとされない方の方が稀有なのです」

 

〈一刀〉「そうなのか……」

 

〈愛紗〉「……あ、いえ、このようなことを申し上げるのは、決して我々がご主人様を手放したくないからではありませんよ! どうぞ、誤解なきようお願い申し上げます……!」

 

〈一刀〉「ははは、大丈夫だよ。みんながそんな人じゃないって、ちゃんと分かってるから」

 

 慌てて言い繕った愛紗。私欲で俺を行かせないと思われたんじゃないかって不安になったんだろう。真面目な子だよな。

 

〈一刀〉「初めから、今の大変な時期の愛紗たちをほっぽり出すつもりなんてないよ。あの二人の無事を確認する機会は、きっとやって来る。その時を気長に待つさ」

 

〈愛紗〉「ご主人様……」

 

〈タイガ〉『何、心配はいらないぜ、一刀。タイタスとフーマがついてるんだ。あいつらがいれば、滅多なことにはならないぜ』

 

〈一刀〉「ああ。ありがとう」

 

 タイガもそう保証する。タイタス、フーマ……どんなウルトラマンなのかはまだ知らないけど、タイガがこんなにも信頼を寄せるんだから、彼らもとても心強い戦士なんだろうな。

 

 

 

〈一刀〉「ふッ、ふッ……!」

 

 後日、城の庭で俺は、護身用の剣で素振りをしてた。実家で剣道の稽古を受けてたとはいえ、生まれてからこの方、ずっと実戦を知らないで育った俺が、少し鍛えたくらいで乱世の英傑たちと肩を並べられるとは思っちゃいないが……戦の場では、そんな俺でも敵と剣を交える場面はある。この間の行軍で、それを実際に経験した。

 だから、こうして普段から欠かさず鍛錬することが大事なんだ。

 

〈タイガ〉『なかなか励むな、一刀』

 

〈一刀〉「まぁな、死んでからじゃ遅いし……タイガも、こんな鍛錬を重ねてたんだよな……」

 

 タイガに受け答えしながらも、素振りする手は止めない。

 タイガも、愛紗たちに負けず劣らずの勇敢な戦士だ。どれだけ凶暴な怪獣であろうと、敢然と立ち向かう。だったら、険しい訓練を受けてた時期があるはずだ。誰だって、生まれつきから戦い方や精神力を身に着けてるはずはない。

 

〈タイガ〉『もちろん。懐かしいな、光の国の訓練生だった時のこと……色々と大変な思いをしたもんだ……』

 

 しみじみと昔を懐かしんでるタイガ。何でも、既に四千歳を超えてるんだっけ。それだけ長大な人生には、それこそ途轍もない戦いの体験があることだろう。

 ……しかし、そんな何千年も生きる感覚ってどんなものなんだろうか。あまりにも長い人生の間に、暇とか持て余したりしないのか? まぁ、根っこから違う種族なんだから、時間感覚も俺とは全然違うのかもしれないけど。

 

「あうぅ~~~~~~~~う……」

 

〈一刀・タイガ〉「『ん?」』

 

 なんて考えてたら、どこかから気の抜けたうなり声が聞こえた。

 素振りの手を止めて、声の発生源を探してみると……今で言うテラスに当たるところで、桃香の姿を発見した。

 

〈桃香〉「はうぅ~~~~~ん」

 

 筆を手にして机に向かい、何やら悩ましい声を上げてる。傍らに積まれてるのは、分厚い本。

 こんなところで何を書いてるのか? 仕事なら屋内でやるだろうし……何かの自主勉だろうか。

 

〈桃香〉「……?? あ、ご主人様……」

 

 少しの間見つめてたら、顔を上げた桃香と目が合った。

 

〈桃香〉「きゃ――!?」

 

 途端、悲鳴を上げられる。気づけば、素振りに使ってた剣を抜き身で握ったままだった。

 

〈一刀〉「うおッ!? ごめんごめん」

 

 すぐに鞘に納めて謝った。

 

〈桃香〉「もう、いきなり目の前に剣出されたらビックリするよー」

 

〈一刀〉「いや、申し訳ない」

 

〈桃香〉「剣抜いて何してたの? 秘密特訓?」

 

〈一刀〉「う~ん、そんなようなものではあるかも」

 

〈タイガ〉『何かっこつけてんだよ。ただの素振りだろ』

 

 桃香に乗っかろうとしたら、タイガに水を差された。

 

〈一刀〉「ノリ悪い奴だな。それより、桃香は勉強中か?」

 

〈桃香〉「これ? これは~~……」

 

 妙に歯切れが悪い。

 

〈一刀〉「字の練習?」

 

〈桃香〉「わたし、そんなに字は汚くないもん。もっとちゃんとしたお勉強っ!」

 

 ちょっとからかう。桃香の反応は素直なので、面白いのだ。

 

〈桃香〉「歴史のこととか、政治体系のこととか、いくら勉強しても全然終わんなくて~……場所によって税の掛け方とか、戸数の計算とか、もう全然違うんだもん。大変すぎるよ~……」

 

 くたびれた調子で息を吐く桃香。元から、頭を使うのは得意な方じゃないんだろう。

 

〈桃香〉「昔、白蓮ちゃんたちと一緒に風鈴先生のところでやったはずなんだけど。こんなはずじゃないのになぁ」

 

〈一刀〉「あー、分かる分かる。俺もテスト……試験が終わったら、その瞬間に忘れてたし」

 

〈桃香〉「ご主人様もなんだ! 一緒だね~♪」

 

〈タイガ〉『何だ何だお前ら、情けないことを言い合いやがって。もうちょっと勉学に身を入れたらどうだ?』

 

〈一刀〉「……そういうタイガはどうだったんだよ、勉強」

 

〈タイガ〉『えッ……! そ、そりゃあ、優等生だったぜ!? 80から宇宙中の色んなことを教わったしな!』

 

〈桃香〉「へぇ~! じゃ、何か知ってること教えて? 勇者様!」

 

 乞われたタイガが、ひたすらうなった後に、

 

〈タイガ〉『……上手な光線の撃ち方!!』

 

〈一刀〉「お前はここでの発言権を失った」

 

〈タイガ〉『く、くそぅ……!』

 

 こいつは四千年以上の時間を、一体何に費やしたんだ。桃香も冷や汗混じりに苦笑いだ。

 

〈桃香〉「ご主人様は分かる? じゅよーときょーきゅーとか、かへーの流れ、とか」

 

〈一刀〉「今、言った言葉くらいなら」

 

〈桃香〉「……」

 

 いかん。桃香がひどく期待した目でこっちを見てる。

 

〈桃香〉「分かるだけじゃなくて、あんまり頭が良くないわたしに分かりやすく噛み砕いて説明も出来る?」

 

〈一刀〉「分からん」

 

〈桃香〉「すっごく真面目に授業受けるからぁ……お願い、先生。力を貸して」

 

 やたらと懇願してくる桃香。先生なんて言われたの、初めてだ。

 

〈一刀〉「分かったよ。出来る限りの協力はするよ」

 

 折れると、桃香はたちまち満面の笑みとなった。

 

〈桃香〉「大好き!」

 

 そんな大袈裟な……って、俺の手を握って、胸に引き寄せるな! 手が汗まみれになった!

 

〈桃香〉「隣に来て! 聞きたいことはい~っぱいあるの」

 

〈一刀〉「椅子、一個しかないじゃん!」

 

〈桃香〉「どうぞ」

 

 身を寄せて、座ってる椅子の半分を空ける桃香。

 

〈一刀〉「……気が散るから、こうでいい」

 

 刺激が強すぎるので、桃香の側面にかがむ形を取った。

 

〈桃香〉「変なの。隣からだと、文字も読みづらいと思うのに」

 

〈タイガ〉『……天然すぎるのも困りものだな』

 

 その言葉には同意するばかりだ。

 

 

 

〈一刀〉「そうそう。だからね、ここで言う経済の流れは、生産と供給のことを言うんだ」

 

〈桃香〉「生産は、お米とかのことでしょ?」

 

〈一刀〉「まぁそうだな……米とか野菜とかの生産者がいて、それを売る人がいる」

 

 それから、学校で習った内容を思い出しながら、桃香が聞いてくる社会や経済の仕組みについて教える。

 桃香は確かに、優秀と言えるほどじゃないが、熱心に勉強に臨む。俺もその気持ちに応じるべく、どうにか分かりやすいように頭を使って説明していった。

 

〈桃香〉「うーん……こういうのを管理するのも、施政者のお仕事なんだ……」

 

〈一刀〉「大まかなことは分かっただろ?」

 

〈桃香〉「んっと、うん……何となくは」

 

〈一刀〉「何となくで上等だよ。簡単には扱えない、化け物みたいなものだって認識しておけば、無茶はしなくなるだろ?」

 

〈桃香〉「……多分」

 

〈一刀〉「なら、桃香はちゃんと政治が出来るよ」

 

 太鼓判を押す。実際、そこが分かってない、何でも自分の思い通りになると思い上がった奴が多いから、この国は乱れてるのだろう。

 ひと区切りがついたところで腰を上げる。

 

〈一刀〉「桃香は人の話をちゃんと聞く子っていうのは、よく分かった。なら、さ……自分が出来ないことを、周りが助けてくれるよ。愛紗とか色々な」

 

〈桃香〉「……それ、ちょっと無責任かも」

 

〈一刀〉「じゃあ、自分で全部やるのか? 政治も戦争も」

 

〈桃香〉「……あ」

 

 俺の言うことに、タイガも同意する。

 

〈タイガ〉『そうだな、どんな奴にだって、出来ないことはある。俺にだって山盛りだ。俺一人の力じゃどうにもならないことなんて、いくらでもあった』

 

〈桃香〉「勇者様でも?」

 

〈タイガ〉『ああ。そんな時には、いつも仲間が助けてくれた。だから今こうしてられるんだ。……人の助けを借りるのは、何も恥ずかしいことじゃない。その代わりに、こっちもこっちが出来ることでみんなを助けるんだ』

 

 タイガの言葉には、相当な実感が含まれてる。俺と出会う前から、それこそ色んなことがあったんだろう。

 

〈タイガ〉『いつかはタイタスともフーマとも、一刀の友達とだって再会する時が来る。まだ見ぬ人たちも仲間になってくだろう。そうやって集ったみんなの力があることで、世界の未来を変えることが出来るようになる。……そうじゃないか?』

 

〈桃香〉「そっか、そうだね……ホントだ」

 

 桃香がふにゃっと、柔らかい笑顔を咲かせた。

 

〈桃香〉「うん、わたしお友達をたくさん作る! わたしに足りないたくさんのものを持ってて、優しくて、わたしの力になってくれる人を。その代わり、わたしもその人たちに足りない何かになるね!」

 

〈タイガ〉『ああ、その意気だ!』

 

〈一刀〉「俺も、桃香にとって足りない何かになれるように頑張るよ」

 

 俺も意気込みを告げると、桃香はうなずいて言った。

 

〈桃香〉「じゃあ、わたしもご主人様の『大切』にしてね」

 

〈一刀〉「了~解ッ、それじゃな」

 

〈桃香〉「あ、行っちゃうの?」

 

〈一刀〉「うん、後で遊んでみたいなことを鈴々に言われてたのを思い出して」

 

〈桃香〉「そ、そうなんだ」

 

〈一刀〉「じゃな、また~」

 

 軽く手を振りながら、桃香のところから離れてく。

 ……俺の『大切』に、か……。桃香のことだから、また天然で言っただけだろうけど、勘違いしちゃうから、あんまり思わせぶりのことを言うのはよしてほしいな、アハハ……。

 


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