奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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張飛、特大拉麺を頂くのこと

 

〈一刀〉「はぁ……いくら人手不足だからって、まさか俺に警邏の仕事が回ってくるなんてなぁ……」

 

 薊の街の中を、俺は腰に剣を挿して巡回してた。

 桃香は、剣を提げてるだけでも抑止にはなるって言ってたけど、本当だろうか。いざ剣を抜かなきゃならないような事態に陥ったら、まだまだ実戦経験の不足な俺じゃ戦力になり得るか不安だし、そもそも桃香の言葉だって公孫賛からの又聞きだし……。

 

〈タイガ〉『そんな顔するなよ、一刀。暴漢程度だったら、俺も力を貸せる。もしもの時は俺が守るから、安心しろって!』

 

〈一刀〉「ありがとう、タイガ」

 

 まぁ、タイガがついててくれるなら大丈夫か。もっとも、ちゃんと自分の身くらい自分で守れるようになるのが一番なんだろうが……。

 しかし幸いなことに、この街は公孫賛の善政のお陰で平和だ。のどかで、きな臭い様子はどこにも見られない。

 いや、こういう場所にこそスリとか恐喝とか、人の油断を突くような悪事を働こうとする奴が出るもんだ。何より、最近あちこちで食料がいつの間にか消えるという事件が発生してるらしい。気を引き締めて取り掛からないと。

 ……と思った矢先、ぐぅぅと腹の音が鳴った。

 

〈一刀〉「腹減ったな……。もう昼時か」

 

〈タイガ〉『そろそろ昼食にするか』

 

 食事は市で済ませてくれってお金を預かってる。

 

〈一刀〉「そうだな。じゃあもうひと回りして、区切りをつけたらメシに……はッ!?」

 

 言いかけた俺の鼻を、ある匂いがくすぐった。

 

〈タイガ〉『一刀?』

 

 匂いに釣られ、その元である屋台に近づいてく。

 

〈一刀〉「店主、この店では何を出している」

 

 興奮のあまり、かしこまった言い方になってしまった。

 

〈店主〉「ご覧の通り、ラーメンですが」

 

 店主の答えは、俺の期待した通りのものだった。

 

〈一刀〉「……」

 

 

 

〈一刀〉「これは……豚だけじゃない、鶏ガラとの合わせ出汁か!?」

 

〈店主〉「お若いのにただ者じゃありやせんね、お客さん」

 

〈一刀〉「この時代にして、この気配り。侮りがたいぜ中国四千年……ずずず」

 

 数分後には、俺は屋台の席に腰を落としてラーメンをすすってた。

 

〈タイガ〉『……もうひと回りするんじゃなかったのかよ』

 

〈一刀〉「もちろん、食べたらすぐ仕事に戻るよ。けど……しょうがないだろ? この匂いを前にして、我慢なんて出来るものか。ラーメンは大好物なんだ」

 

 何か呆れてるタイガに言い返して、ラーメンにがっつく。今は中国四千年を堪能させてくれ。いや、まだそんなに経ってないかもしれないけど。

 

〈店主〉「夢中で召し上がっていただけるのは嬉しいんですがね……お客さん、腰のものには気をつけて下さいよ」

 

〈一刀〉「ずるッ?」

 

〈タイガ〉『麺の音で返事するなよ』

 

〈店主〉「ひったくりが多いんでさぁ。人込みに紛れられちまえば、取り返せませんぜ」

 

 それは困る。武器を盗られるなんて以ての外だ。愛紗に大目玉を食らうのが目に見えるようだ。

 

〈一刀〉「ありがとう、気を……」

 

 つけるよ、という言葉が続かなかった。

 何故なら――非常に強い気配が、こちらを見ているという背筋が凍る感覚に襲われたからだ……!

 

〈タイガ〉『一刀、気をつけろ……! 何か近づいてくる……!』

 

〈一刀〉「タイガ……!」

 

〈タイガ〉『こいつはただ者じゃないぜ……!』

 

 タイガも警戒してる……。まさか、これが食料泥棒……!?

 冷や汗まみれになりながらも、腹をくくり、剣の柄をそっと握り締める。そして、背後に振り返る――!

 

〈鈴々〉「……だらー」

 

〈一刀〉「鈴々!?」

 

 正体は鈴々だった……。

 

〈一刀〉「タイガ……鈴々じゃんか」

 

〈タイガ〉『あ、あはは……いやー、人間とは思えない気迫だったからさ……つい』

 

 全くもう……。

 まぁ、分からなくもない。鈴々はすごい勢いでこっちを凝視してる。

 

〈鈴々〉「にゃー……ご飯なのだ。いいなー……」

 

〈一刀〉「……すごいよだれだな、鈴々」

 

〈鈴々〉「お兄ちゃんだけ、ご飯ー……ラーメン……」

 

 実に羨ましそうな顔のこの子が……天下に名だたる燕人かぁ……。

 

〈一刀〉「どうしたんだ? こんなところで」

 

〈鈴々〉「どうしたもこうしたもないのだっ! お姉ちゃんが、街の警邏に行ってこいって……」

 

〈一刀〉「桃香が……」

 

〈鈴々〉「お兄ちゃんを一人で行かせたのが心配でしょうがないからって、すっごいお願いされたのだ」

 

〈一刀〉「らしいかも」

 

〈鈴々〉「鈴々、お昼も食べずに飛んできたのだ」

 

〈一刀〉「……」

 

〈鈴々〉「お昼の時間だったのに、お昼も食べずに飛んできたのだ」

 

 二回言った。

 

〈一刀〉「分かった、分かった。おいでよ。せっかくだから一緒に食べよう」

 

 軽く息を吐いて、鈴々を手招きすると、鈴々はちょっと驚いた表情になった。

 

〈鈴々〉「いいのっ!?」

 

〈一刀〉「悪い訳ないだろ。お腹いっぱいご飯を食べて、午後は一緒に警邏の仕事を頑張ろうな」

 

〈鈴々〉「名案なのだ!」

 

 飛びつくように俺の隣の席に着いて、可愛らしく店主に催促する。

 

〈鈴々〉「早く、早くっ!」

 

〈店主〉「ご注文は何になさいやすか、可愛い将軍様」

 

〈鈴々〉「うむ! にんにくラーメンっ、チャーシューと麺は大盛りで……あ、ネギも。ネギもどっさりなのだ」

 

〈一刀〉「全力だなぁ……」

 

〈鈴々〉「たくさん食べないと力が出ないのだ」

 

 男の俺の前で躊躇なくにんにくを注文するその姿。正に色気より食い気だ。

 

〈一刀〉「……おじさん、俺も替え玉」

 

 俺も注文する傍ら、鈴々は店主の盛りつけを見て、いちいち注文を飛ばす。

 

〈鈴々〉「あー、違う! それだとちょっぴり盛りなの! 大盛りはもっと麺をどっさりで、肉も、山になる感じでなのだ!」

 

〈一刀〉「どれだけ食う気なんだ、鈴々は……」

 

〈鈴々〉「もっと、どさーっと入れて! どさーっと!!」

 

 二郎系の先取りでもしてるかのようだ、鈴々は……。

 

〈店主〉「でもそれだけご所望だと、この椀じゃあとても入り切りませんぜ?」

 

〈鈴々〉「大丈夫なのだ。アレがあるのだ」

 

 鈴々が指差したのは、大人が抱えようとしても、手と手がくっつかないだろうというほどの円周の超巨大なラーメン鉢。

 いや、あれディスプレイ用だろ……。

 

〈店主〉「なるほど! こりゃあ腕が鳴る。ちょっと待っていてくだせいよ」

 

 店主も乗っかっちゃった。そうして、出来上がったのが……。

 

〈鈴々〉「来たのだ――――!」

 

 屋台のテーブルの上に問題なく乗ってるのが不思議なくらいの器になみなみと盛られた、超特大ラーメン! 大食い企画でもこんな代物が出てくるだろうか!

 

〈鈴々〉「食べていい? がぶっ、ずるるるるるる―――っ!」

 

 返事すら待たずに、速攻で食らいつく鈴々。天の国でも、大食いタレントでやっていけそうだな……。

 

〈鈴々〉「ンマーい! このチャーシューは極上なのだ。口の中でとろっととろけるのだ」

 

〈一刀〉「あ、それ思った。美味いよな」

 

〈鈴々〉「はふっ、はふっ、もぐ……これじゃ足りないのだ。すぐなくなっひゃう」

 

 なんてことまでのたまう鈴々。下手したら、鈴々の質量よりも多い量なんだけど。

 しかし、実にいい食べっぷりだ。顔もすっかりほころんで、とても幸せそう。

 

〈鈴々〉「ぷは、う~ま~いっ! こんな美味しいラーメンは久しぶりすぎるのだ」

 

〈店主〉「ははは、恐れ入りやす」

 

〈一刀〉「豚だけじゃなく、鶏ガラも合わせてるんだ。だから、味わい深くて後味さっぱり」

 

〈鈴々〉「豚とか鶏とかよく分かんない」

 

〈一刀〉「あはははは、分かんないよな。美味ければいっか」

 

〈鈴々〉「美味ければいいのだ♪ おっちゃん、もう一杯!」

 

〈店主〉「はいはいはいッ」

 

 気がつけば、鈴々のあまりの食いっぷりに、周りにはギャラリーが出来上がってた。

 

〈通行人〉「おい、こっちにもラーメン」

 

〈通行人〉「こっちもだ」

 

 その内、影響された人が出てきて、店が混み合い始めた。

 

〈店主〉「いや~、ありがてぇなぁ。ちょいと待ってくだせぇねっと。どうぞ将軍様」

 

〈鈴々〉「にゃ!」

 

 先に鈴々の注文したお代わりを出す店主。二杯目のどんぶりもこれまた大きい。

 

〈鈴々〉「ずずずずず~っ!」

 

〈一刀〉「衰えないなぁ、食欲……。早食いじゃないんだから、もっとゆっくりでもいいぞ」

 

〈鈴々〉「熱い内に食べるのが美味いのだ」

 

〈一刀〉「それは分かるけど」

 

〈タイガ〉『しかしまぁ、よく食べるもんだ……。これが鈴々の規格外のパワーの原動力なのかもな』

 

 タイガまでそんな感想を漏らした。が、鈴々は食べるのに必死で聞いちゃいない。

 と、ここで俺はあることに気づく。

 

〈一刀〉「なぁ……今更だけど、鈴々って箸の持ち方おかしくないか?」

 

〈タイガ〉『そういえば……さっきから違和感あったんだよな』

 

〈鈴々〉「にゃ?」

 

 ようやく反応した鈴々の右手は、完全に握り箸だ。やっぱり。さっきからずっと、かき込みながら食べてるからな。

 

〈一刀〉「それじゃあ、上手く掴めないだろ」

 

〈鈴々〉「こうやって食べるのだ」

 

〈一刀〉「かき込んで食べるのは、散々見てたけれども」

 

〈鈴々〉「ずず~、ずずずずっ」

 

〈一刀〉「話は終わりみたいな感じで、食事に戻らないの! ちゃんと箸を使えた方が美味いだろ。ほら、試してみて」

 

 箸の正しい使い方をレクチャーするが、鈴々はまともに取り合おうとしない。

 

〈鈴々〉「いいの! お箸も、自分が一番使いやすいように使うのが一番美味しいのだ」

 

〈タイガ〉『いやいや、行儀はちゃんとした方がいいぞ。鈴々も今や、何人もの人間を正式に預かる身分になった訳だからな』

 

〈一刀〉「行儀のこと、タイガが言うのか?」

 

〈タイガ〉『むッ! 心外だな。これでもマナーについては、小さい頃から厳し~く教育されたんだからな! ばあちゃんから、お父さんに恥ずかしくないようにって散々言われて』

 

 揶揄する俺に、タイガがムキになって反論した。まぁ、タロウの息子ならエリートみたいなものだし、その辺をきっちり教育されてるのはむしろ当然だろうか。

 まぁ鈴々の行儀に関しては、また落ち着いた時にでも話題にしよう。そろそろ鈴々の二杯目も空になる。

 

〈一刀〉「ごちそうさま、か? お腹いっぱいになったならそろそろ……」

 

 仕事に戻ろうか、と呼び掛けるが……鈴々は妙に黙りこくってる。

 

〈一刀〉「おい……もう一杯とか言い出すんじゃないだろうな……いくら何でも、食い過ぎだぞ」

 

〈鈴々〉「そんな訳ないのだ」

 

〈一刀〉「そ、そりゃそっか……はは、だよな」

 

〈鈴々〉「ラーメンばっかり食べてると飽きるのだ。他に何かないの? おっちゃん」

 

〈店主〉「へ、へいッ? 点心をお出ししていますが」

 

〈鈴々〉「点心は大好きなのだ! 籠にいっぱい持ってきて」

 

 鈴々の言葉にざわつく野次馬たち。そりゃあなぁ……。

 

〈タイガ〉『お、おいおい、マジかよ……。まだ食べるってのか……?』

 

〈一刀〉「とんでもないな……。食の細い奴が見たら、気が遠のくくらいは起こりそうだな……」

 

 

 

〈鎗輔〉「はっくしッ!」

 

〈曹操〉「あら。風邪かしら?」

 

〈フーマ〉『ちゃんと食べねぇから丈夫にならねぇんだぞ』

 

 

 

〈タイガ〉『お代は大丈夫なのか? 鈴々のお陰で盛況だけど、流石に釣り合うレベルじゃないだろ、これは』

 

〈一刀〉「う~ん……財布の中身全部でも足りるかなぁ……」

 

 ちょっと心配になる。でも、タイガの言う通り、店はすっかり客が押し寄せて大繁盛だ。店主も嬉しい悲鳴を上げてる。

 なんて、ことを思ってたら……。

 ゴゴゴゴゴッ!

 

〈一刀〉「何だ!?」

 

〈鈴々〉「じ、地震なのだっ!」

 

 いきなり周囲を大きな揺れが襲って、鈴々が咄嗟に落ちそうになるどんぶりを支えた。

 今の揺れの感じ……覚えがある。突発的な激しい揺れ方……この前兆は!

 

「ワハハハハ……ワハハハハハ……」

 

 この揺れの中、どこからか気の抜けたような、くぐもった笑い声が聞こえてくる。

 

〈鈴々〉「はれ? お兄ちゃん、何がおかしいのだ?」

 

〈一刀〉「いや、今の俺じゃないよ」

 

 というか……足下から響いてくるような……。

 そして遂に、地面を突き破って揺れと笑い声の正体が姿を見せた!

 

「ワ―――――ハハハハハハハハハッ!」

 

 全身緑色のぶつぶつとした気持ち悪い皮膚に、クチバシのように突き出た口吻と膨らんだ頬、でっぷりと丸い腹を持った巨大な怪獣だ!

 

〈通行人〉「うわああぁぁぁぁぁ――――――――!?」

 

〈店主〉「ひええぇぇぇぇぇ――――――――!?」

 

〈鈴々〉「か、怪物なのだぁっ!」

 

〈タイガ〉『あいつ……ライブキングだッ!』

 

 やっぱり、怪獣! もしかして、食料泥棒の正体は、地中に潜んでたあいつの仕業なのか!?

 この薊の街でも、怪獣との戦いが起こるのか……!

 




 
再生怪獣ライブキング

 薊の街の地底に隠れながら、密かに地上の食べ物を盗んでいた怪獣の正体。非情に大食いであり、自分と同等の大きさの怪獣をも丸々捕食できるほど。特筆すべきは驚異的な生命力であり、心臓が残っていればそれを核に生存し、やがて元の姿に戻れるほどの再生能力を持っている。

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