奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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劉備一行、斉国の救援に向かうのこと

 

 大陸に黄巾党ならぬ、白翼党を名乗る暴徒が出没するようになり、俺たちはその対応に追われるようになった。白翼党は黄巾党と同じように、構成員はほとんどがつい先日まで農民だった者ばかり。束になろうと愛紗たちの敵じゃなく、鎮圧してもすぐにまた新手が現れるのが厄介というだけ。

 しかし、馬超たちがまた徐州へ向かってから数日後に入ってきた報告は……いつもと様子が違っていた。

 

〈桃香〉「……斉国に白翼党が?」

 

〈愛紗〉「は。斉国の使者より、県令の書状を預かっています」

 

〈公孫賛〉「ふむ……書状は本物のようだな」

 

 愛紗から手渡された書状を確認して、公孫賛がうなずいた。

 先ほどここの屋敷に、青州にある斉という国からの使者が、助けを求めにやって来た。何でも、白翼党の大軍勢が斉に押し寄せてきたのだという。斉国側の想定をはるかに超える規模であり、このままでは勝ち目がないと判断した県令によって、救援要請の使者が送り出されたのだという。

 

〈一刀〉「でも、青州の斉国からって……この啄郡からだと、遠くないか?」

 

〈公孫賛〉「遠いぞ。荒れてるって話は聞いてたから、何とかしなきゃとは思ってたけど……」

 

〈一刀〉「何でそんなところから、わざわざ幽州まで……。青州の刺史はいないにしても、もっと他に頼れるところはなかったのか? 斉の相とか……」

 

 漢王朝における県は、現代日本の県と違って、郡や国の下の単位になる。郡を管理するのは太守で、国の場合は相。つまり県令の使者なら、まずは一つ上の国の相に助けを求めるのが筋のはず。それがわざわざ幽州までやって来るのは、ちょっと考えにくい。

 俺の疑問に、愛紗がしかめ面で答える。

 

〈愛紗〉「青州はどこも、他を助けられるような余力が残っているところはありませんからね……。白翼党が暴れ出してからは、一層状況がひどくなるばかりです」

 

〈桃香〉「……」

 

 桃香も、胸を痛めるように目を伏せる。

 

〈愛紗〉「それで、今の華北で最も力がある桃香さま、伯珪殿を頼りに来たということです」

 

〈桃香〉「そうなんだ……」

 

〈一刀〉「白翼党の大軍勢、か……」

 

 やはり白翼党も、元農民の散発的な暴乱程度じゃ収まらなかったか……。黄巾党と同じように、組織化された集団が今回のように、公権力を襲撃し、戦の様相にまで反乱が発展するという事態がこれからも起こることだろう……。どうにか早期に事態の収拾をつけられないものか……。

 いや、とりあえず今は、目の前の問題をどうにかしないと。

 

〈公孫賛〉「桃香、どうする? 県令の城とはいえ、城を攻めるほどの部隊が相手だ。距離もあるし、かなりの遠征となるぞ。そもそも、城がまだ保っているかも疑問なところだが」

 

 と公孫賛がつぶやくと、愛紗も同じことを聞いたのだろう、使者の回答を口にした。

 

〈愛紗〉「腕に覚えのある食客を始め、籠城に必要な兵や糧食はそろっているから、まだ持ちこたえているはずとのことです」

 

〈桃香〉「食客に籠城分の糧食って……その県令さん、お金持ちなんだね」

 

〈一刀〉「……州中荒れてる青州にあってか?」

 

〈愛紗〉「……そこのところは、言葉を濁していましたね」

 

 そうか……。まぁ、向こうにも色々と事情があるのだろう。とりあえず、今そこは重要じゃない。

 俺たちは斉国の救援要請をどうするかで、相談を開始する。

 

〈公孫賛〉「斉への遠征ってことなら、私が引き受けてもいいんだが……今回は戦うつもりで来たんじゃないから、大して兵を連れてきてないんだよな」

 

〈桃香〉「でも、これから薊に戻って準備してたら、もっと時間が掛かるでしょ? 間に合わなかったら元も子もないし……だったら、わたしたちが兵を出した方がいいと思う」

 

〈愛紗〉「ですが、我々の中に青州の地理に明るい者はおりません。州境も越えますし、伯珪殿にもご同行いただいた方が……」

 

〈公孫賛〉「……それもあるな。だったら、私の兵を桃香の部隊に編入して、合同軍ってことにするか」

 

〈一刀〉「糧食や物資は、とりあえず兵と距離をざっくり見積もって出してもらうよ。なるべく早く出たいよな?」

 

〈桃香〉「うん。お願い、ご主人様」

 

 向こうの城の状態がどうなってるか分からないから、支度にあまり時間を掛けてはいられない。まずは必要最低限のところを決定し、細かいところは準備を進めながら調整していくことにした。

 しかし、最後に一つ、俺はタイガに尋ねかけた。

 

〈一刀〉「タイガ……今回は、俺たちの出る幕はあるかな」

 

〈タイガ〉『怪獣が出るかもって心配か?』

 

〈一刀〉「ああ。白翼党の裏には、宇宙人だか異次元人だかがいるかもしれないってことだろ? だから……」

 

〈タイガ〉『……そこは、まだはっきりとは言えないな。今のところは、そういう兆候は見られないけど。ただ……』

 

〈一刀〉「ただ?」

 

〈タイガ〉『……前に聞いただろ。苑州や揚州を襲った賊の大集団は、怪獣を利用してたってこと』

 

〈一刀〉「ああ……そういえば、そうだった」

 

〈タイガ〉『一体どういう手段を使ったのかは知らないが……白翼党も同じことをしてくる可能性は、十分ある。用心しとかないとな……』

 

〈一刀〉「ああ……」

 

 果たして、この世界の歴史に、怪獣や宇宙人がどれだけ干渉してるか……。これからの戦いで、はっきりと分かってくことだろう。

 

 

 

 その三日後には、俺たちは公孫賛と桃香の合同軍を率いて、斉に続く街道に入ってた。

 

〈一刀〉「……思ったよりも、準備に時間が掛かったな。出発まで三日も要するなんて」

 

〈桃香〉「こんな遠くへの遠征って初めてだから、勝手も良く分からなかったもんね……」

 

〈愛紗〉「流石に軍を引き連れるとなると、今までのようにおっとり刀で出陣という訳にはいきません。……ですが、使者の方は、こんなにも早く軍を出していただけるとはと喜んでいましたよ」

 

〈鈴々〉「軍を動かすのって、そんなに時間が掛かるの?」

 

 鈴々の素朴な疑問に、公孫賛が眉をひそめながら首肯した。

 

〈公孫賛〉「そうだな……。他所だと、軍を動かすかどうかの会議だけで、十日から半月も掛かることもザラにある」

 

〈鈴々〉「それじゃ、会議してる間にお城が陥ちちゃうのだ!」

 

〈一刀〉「……何をそんなに会議することがあるの」

 

 俺たちなんかは、決議までに五分も掛からなかったのに。

 

〈公孫賛〉「まずは、勝算。勝てる相手かどうかの見極めだな。後は、助けてどれだけの見返りがあるか、周辺国や朝廷から目をつけられないかとか、救援相手との関係とか。それから……いくら出したか」

 

〈愛紗〉「むぅ……」

 

〈タイガ〉『……人の命が懸かってるのに、金をせびる方が大事だってのか』

 

 政治的なことにはあまり口を挟まないタイガだが、これには我慢がならなかったようだ。

 

〈公孫賛〉「恥ずかしい話だが……。今は払拭したが、幽州も昔は賄賂が平然と横行してた」

 

〈桃香〉「……うん。そうだったね」

 

 ……桃香も色々と嫌な思いをしたんだろうことは、口振りだけで明らかだった。

 そうだよな……そうでもなかったら、桃香みたいな非戦的な子が、戦いに立ち上がったりなんかしないよな……。

 

〈一刀〉「でも、そういうのが嫌で公孫賛も桃香も頑張ってるんだろ。だったら、それでいいじゃないか! 昔は昔、大事なのはこれからをどうするかだ!」

 

〈公孫賛〉「……だな」

 

〈桃香〉「ん、ありがと。ご主人様」

 

〈愛紗〉「ですが、ここから斉まで長いですよ。……急がねば」

 

〈公孫賛〉「関羽、焦っても行軍速度は上がらないぞ。それより、速度を乱して兵を消耗させないようにしないとな」

 

〈愛紗〉「むぅ……」

 

〈公孫賛〉「桃香の将を名乗るなら、こういう軍の扱いにも慣れないとな。槍働きだけじゃ、軍は率いていけないぞ」

 

〈愛紗〉「……はい。軍を率いるというのは、歯がゆいものですね」

 

 気持ちが逸りがちな愛紗に対して、公孫賛はあくまで落ち着いてる。そこは人の上に立つ立場として、一日の長があるんだろう。

 確かに、いざ到着した時に疲労し切ってて戦えない、じゃあ何の意味もない。それに、どんな道のりでもゴールはある。今は着実に、戦える力を持った状態で、前に進んでいくことが大切だ。

 

 

 

 ――斉国の城内。眼鏡を掛けた少女が、少し背は高いものの、より痩身の少女に歩み寄っていく。

 

〈???〉「ちぃ姉さん。今日の食事、分けてもらってきたわよ」

 

〈???〉「あ、人和……」

 

 姉と呼ばれた少女は、喧騒が聞こえる城壁の方向へ、不安な顔を向けていた。

 

〈???〉「また攻撃が始まってる。今日も大丈夫……よね」

 

〈???〉「どうかしらね。最近は負傷者も増えてるし……武器庫の矢も尽きかけてるって聞いたわよ」

 

〈???〉「ちょっと! 心配になるようなこと言わないでってば!」

 

〈???〉「聞きたがったのはちぃ姉さんでしょ」

 

〈???〉「うぅ……何でこんなところで足止め食らってるのよ。やっぱり逃げる先、間違えたんじゃないの? 人和」

 

〈???〉「青州みたいな辺境で逃げられる場所なんて知れてるわよ。それに、ちゃんとしたお客さんたちの前で歌いたいって言ったのは、ちぃ姉さんも一緒でしょ」

 

〈???〉「そりゃ、どこだってあそこよりはマシだし……。でも、こんなことになるなんて知ってたら……!」

 

〈???〉「知っていたら私だって来なかったわよ。守備隊の人の話だと、もう少ししたら、助けが来るって話だけど」

 

〈???〉「どうだか。この青州に、そんな奇特な連中が残ってる訳ないじゃない」

 

〈???〉「……でも、助けが来ないとずっとこのままなのよ? それとも……戻る?」

 

〈???〉「もぅ……どうしてこんなことになっちゃったのよぉ。ちぃたち、ただ有名になりたかっただけなのに……どんどん話がおかしな方向に進んじゃって……」

 

 嘆いている二人の少女の元へ、もう一人、最も背が高くて身体つきも豊満な少女が、避難してきている子供たちを連れながらやってきた。

 

〈???〉「あ、ちーちゃん、れんほーちゃん、こんなところにいたー!」

 

〈???〉「天和姉さん。その子たちは……」

 

〈???〉「あのね、避難してる子たちが、今日も歌ってほしいって」

 

〈女の子〉「うん。天和ちゃんたちの歌、すっごく上手だから」

 

〈男の子〉「あーッ。真名を勝手に呼んだら、訂正しなきゃいけないんだぞー!」

 

〈女の子〉「お、お姉ちゃんたちはいいんだよ! ねぇ、天和ちゃん!」

 

〈???〉「うん、いいよー。お姉ちゃんたち、みんなにそう呼んでほしいから。あ、でも、お姉ちゃんたち以外の人の真名は勝手に呼んじゃダメだからねー?」

 

〈女の子〉「はーい!」

 

 何とも緊張感のない姉の様子に、妹たちはどっとため息を吐いた。

 

〈???〉「……はぁ。ちぃ姉さん」

 

〈???〉「そうね、もう休戦にしましょ。……どこで歌えばいいの?」

 

〈女の子〉「いつも地和ちゃんたちが歌ってるところだよ! お城の大広間」

 

〈???〉よっし、じゃあ任せなさい! いつもみたいに、思いっ切り盛り上げてあげるから! ね、人和」

 

〈???〉「ええ。芸でみんなに喜んでもらうのが、旅芸人の役目だもの」

 

〈女の子〉「やったぁ! お姉ちゃんたち、ありがとー!」

 

 子供たちの屈託のない笑顔を前にして、姉妹に苦笑が浮かぶ。

 

〈???〉「ま……あんな大きな場所で歌えるようになったのは、願った通りだけどね」

 

〈???〉「今はちゃんと喜んでくれるお客さんもいるしね」

 

〈???〉「そうそう! こんな時こそ、わたしたち、旅芸人の腕の見せどころだよーっ!」

 

 意気揚々とする長女を筆頭に、三姉妹は大広間へと向かっていった。

 

 

 

 ――斉国の街を一望できる、高い岩山の突き出た岩壁の上で、一人の青年があぐらをかいていた。

 彼は眼下に広がる、何千もの背に白い翼の作り物を取りつけた男たちが、城を攻め落とそうと躍起にやっている光景を、呆れたようにながめている。

 

〈???〉「……白翼党、ねぇ。どこの馬鹿が、黄巾の名前を変えて、こんな乱痴気騒ぎを起こしてるのやら」

 

 ぼやきながら視線を西の方へ動かすと、その斉国に向かって進軍している隊列が確認できた。

 

〈???〉「来たか……。あいつ以外の天の御遣い……まずは一人目。その腕がどれほどか、見させてもらおうか」

 

 桃香と公孫賛率いる幽州軍を観察している青年の腰には、鞘に収まった反りの緩やかな曲刀――日本刀が挿してあった。

 

 

 

 州境を越え、青州に入り、ひたすら東進。山岳地帯に入り、遂に俺たちは目的の城に近づいてきた。

 

〈愛紗〉「見えてきたぞ!」

 

 愛紗が指し示した先にあるのは、城と城壁を備えた城下町。……そして、それを食い破らんばかりの勢いで殺到してる、背面に白い色が見える人の群れだった。

 あれが白翼党か……。本当に、白い翼を背中につけてるみたいだ。一体、何人いるんだ……? 大軍勢だと話には聞いてたけど……ざっと見ても、とても分かりそうにない。

 

〈公孫賛〉「連中、相当な規模だな……。聞いていた話よりも多くないか?」

 

〈桃香〉「……もう街の門は破られてるんだ」

 

〈愛紗〉「はい。中の城壁で、何とか押し留めているようではありますが……」

 

〈電々〉「ねぇねぇ。お城の人たち、何で矢を撃ち返してないの?」

 

〈雷々〉「あっ、ホントだ! 普通は矢を使うよね。来るなーって!」

 

〈一刀〉「もしかして……矢が尽きてるのか?」

 

 電々たちの言う通り、籠城してる側からは、矢と思しきものが飛ばされてない。代わりに、丸っこい物や角張ってる物を落としてる。あれは何だろうか……。

 

〈愛紗〉「恐らく、石ですね。中の建物でも崩したのではないでしょうか」

 

〈鈴々〉「あっ。あれ、お鍋なのだ! 次は臼!」

 

〈一刀〉「見えるの!?」

 

〈鈴々〉「お兄ちゃんは見えないのだ?」

 

〈一刀〉「見えないよ……」

 

 流石、古代に生きる人間は違う……。遠くを見る機会が多いから、視力もいいんだな。

 しかし、反撃に日用品を使ってるというのは、かなり追いつめられてる証拠だ。もう使える武器が残ってないってことだからな。俺たちはどうにかギリギリ間に合ったというところか。

 

〈公孫賛〉「これは思ってたよりまずいな。単純に、城内と呼応して挟撃すれば良いと思ってたけど……」

 

 公孫賛がうなるのも分かる。あの分だと、城側からの援護は期待できそうにない。背後を突くとしても、挟撃と一方向からだけの攻撃じゃ、勝率が大きく変わってくる。

 何かいい作戦はないものか……。こういう時、軍師がいてくれたらありがたいんだけど。

 

〈桃香〉「とりあえず、お城に矢は持っていかないとまずいよね」

 

〈公孫賛〉「だなぁ。だとすると、輜重隊を護衛して突っ込む必要があるな。かなり手間だぞ」

 

 輜重隊とは、要するに輸送部隊だ。荷車に武器や物資を満載して引っ張るから、当然スピードは出ない。ここから城に届けようと思えば、敵の真っただ中を突っ切らなくちゃいけないんだ。足の遅い隊を連れて、無事に届けられるものか……。

 ……いや、待てよ。何も、満載にしなくてもいいんじゃないか……?

 

〈一刀〉「……荷車はちょっと考えがある。矢を運べる量も大事だけど、今回は速さがある方がいいよな?」

 

〈公孫賛〉「ああ。なら、輜重隊の指揮は北郷に任せよう」

 

〈桃香〉「ご主人様が? 大丈夫なの?」

 

〈愛紗〉「でしたら、護衛には私がつきましょう。ご主人様、護衛は必要ですよね?」

 

〈一刀〉「それはいてくれると助かるよ」

 

〈鈴々〉「あーっ。愛紗、ずるいのだ! 鈴々も護衛したいのだ! 戦いたいー!」

 

 ぴょんぴょんと主張する鈴々をなだめる俺。

 

〈一刀〉「心配しなくても、普通に敵と戦う本隊がある。鈴々はそっちで大暴れしてもらわないと」

 

〈鈴々〉「むー。それは、そっちの方がいっぱい戦える気がしてきたのだ……」

 

〈雷々〉「雷々はご主人様たちの隊につくよ! 輜重隊の指揮に慣れてる人がいた方がいいだろうし」

 

〈一刀〉「ああ。よろしく、雷々」

 

〈愛紗〉「道案内には、使者の者に頼みましょう。なるべく敵に見つからない道を選べるように」

 

〈公孫賛〉「よし。策が決まったなら、すぐに始めるぞ。話してる間にも、城の状況はどんどん悪くなっていくんだからな!」

 

〈一刀〉「ああ。行こう!」

 

 迅速に話を決め、隊の一部を割いて城への補給部隊を編成する。

 俺たちが物資を届けるのが先か、城が陥とされてしまうのが先か、スピード勝負だ。急がないと!

 


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