奥特曼†夢想 ‐光の三雄伝‐   作:焼き鮭

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龍の子、戦場に舞うのこと

 

〈愛紗〉「はぁぁぁぁぁっ!」

 

〈白翼党〉「……がぁッ!?」

 

 気合い一閃。愛紗の青龍偃月刀のひと振りが、進行に邪魔な白翼党の一人を吹っ飛ばした。

 

〈白翼党〉「な、何でこんなところに敵が……ぐわぁッ!」

 

 突然の攻撃に動揺した別の白翼党の後頭部に、雷々の一撃が入って昏倒した。

 

〈雷々〉「これで邪魔なのは全員やっつけたね!」

 

〈愛紗〉「ご主人様、もう大丈夫です!」

 

〈一刀〉「よし! 俺たちも移動再開!」

 

 愛紗と雷々が市街地を見張ってる敵を鎧袖一触で片づけ、クリアリングされた道を、俺たちが引く荷車が駆けていく。スピード重視のセッティングを施した荷車は、見張りのいなくなった大通りで、いつもの倍以上の驚異的なスピードを出してた。……まぁ、セッティングと言っても、単に積載量を普段の半分にしただけだけど。

 でも、ここで一番重要なのは、確実に城に物資を届けること。そうすれば城側もまともな反撃が行え、挟撃が可能となる。そうすれば、勝ち目はぐっと大きくなる。

 

〈愛紗〉「ご主人様、大丈夫ですか?」

 

 ここまでノンストップで走ってる俺のことを、愛紗が気遣ってくれた。

 

〈一刀〉「何とかね。でも、見つからないようにって話だったのに……何でこんな強行突破になっちゃうんだか」

 

〈愛紗〉「敵の数を考えれば、これでもマシな方でしょう」

 

 愛紗の言う通りかもしれない。白翼党は街を埋め尽くしそうなほどの人数だったんだ。城に近づくほど、当然敵の目は多くなる。このまま、気づかれることなく物資を届けるのが無理な話なのかも。いざとなれば、被害を無視してでも敵陣の中を突っ切る必要もあるのかも……。

 

「……ぎゃぁあぁぁッ!!」

 

 そんなことを考えながら走ってると、近いところから男のものの、耳をつんざくような悲鳴が起こった。

 

〈一刀〉「……誰の悲鳴だ。まだ人が残ってるのか?」

 

 街の人は老若男女問わず、皆避難したと聞いたけど……と思ってると、雷々が進行方向先を指差した。

 

〈雷々〉「あそこ、誰か戦ってるよ!」

 

 目をそちらに向けたら……見えたのは、あまりにも予想外の光景だった。

 

〈???〉「はぁぁぁぁぁっ!」

 

〈白翼党〉「ぐはッ!」

 

〈白翼党〉「げふッ!」

 

〈白翼党〉「く……くそッ。俺たちは、女を……」

 

〈???〉「女目当ての輩なぞに、この城を渡す訳にはゆかぬ」

 

〈白翼党〉「ぐぁあぁッ!」

 

〈???〉「何より……これだけ美しい女を前にして、目をくれんというのもいただけんな? ……ま、好みでも何でもないが」

 

 ヒラヒラと長い袖をたなびかせた白装束の女性が、ふた又の直槍を巧みに振り回して、群がる白翼党を片っ端から薙ぎ払ってた。

 

〈???〉「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 何て強さだ……! 単騎で大勢の男たちを、赤子の手をひねるように……。あの実力、愛紗や鈴々にも劣らないものだと、槍さばき一つからすぐに見て取れた。

 

〈一刀〉「あの人……すごいなんてもんじゃない……」

 

 女性の技は、愛紗たちのような力強いものとも、雷々と電々のような軽やかなものとも異なる。華麗に舞い踊るようでいて、攻撃する瞬間は激しく敵を突き刺す……。蝶の様に舞い、蜂の様に刺すとは、ああいうものなのかもしれない。

 しかし、のんきに観察はしていられなかった。

 

〈???〉「……ん? まだいたか……っ!」

 

 こっちの存在に気づいた女武芸者は、俺たちを白翼党と勘違いして、槍の切っ先を向けて突っ込んできたのだ!

 

〈一刀〉「……ちょッ!」

 

〈愛紗〉「ご主人様!」

 

 俺に振るわれた神速の一撃を、咄嗟にかばってくれた愛紗の偃月刀が防いだ。

 

〈???〉「……ほう。この一撃を受けるとはな」

 

〈愛紗〉「ぐぬぬ……でやぁあぁぁっ!」

 

 愛紗はそのまま振り抜き、武芸者を大きく弾き飛ばすが……武芸者はクルクル宙を舞って、ヒーローショーの取り決めかのように側の屋根の上に音もなく降り立った。

 

〈愛紗〉「くそっ、ひらひらと……」

 

〈???〉「ふむ……観客が少ないのが不満だが、今までの雑魚よりはいくらかマシか。我が最期を飾る勝負としては悪くない相手だ」

 

〈愛紗〉「こやつ……死ぬ気か!?」

 

〈???〉「お主、名を名乗れ!」

 

 女武芸者は、身のこなしのみならず、口調までも芝居がかりながら、愛紗の名を問うた。

 

〈愛紗〉「何だ、名前だと……?」

 

〈???〉「江湖にあって名乗りの一つも出来んのか。……まぁいい。ならば、この私が手本を見せてやろう」

 

 武芸者は足場の悪い屋根の上でも全く危なげなく槍を振り回し、大見得を切って名乗りを上げる。

 

〈趙雲〉「我が名は子龍! 北方常山の趙子龍! 名に龍を抱く、武と共に生き、侠に死すものなり!」

 

 趙子龍!? ってことは……あの女武芸者は、かの五虎将の一人、趙雲!?

 

〈愛紗〉「……私は関雲長だ! 我が姉、劉玄徳の第一の妹にして、この大陸に平和を求める者である!」

 

〈一刀〉「待って! ちょっと待って!! ストップ! ストーップ!!」

 

 今にも趙雲へ斬りかかっていきそうな愛紗を、慌てて止めた。趙雲ってことは、あの人は敵じゃない!

 

〈趙雲〉「……劉玄徳? それは、もしや……」

 

〈一刀〉「なぁあんた、趙雲だろ!? この斉国に雇われた、腕利きの食客って、あんたのことか!」

 

 そう呼び掛けると、趙雲はスタッと鮮やかに屋根の上から地面へと降りてきた。

 

〈趙雲〉「名乗らなかった我が雲の名を知っているとは、お主たちは真に幽州からの救援のようだな。……本当に来るとは思っていなかったが、そうとなれば話は別だ」

 

 数度うなずいた趙雲が愛紗に向き直り、通りの向こうを槍の穂先で指した。

 

〈趙雲〉「関雲長とやら。お主との死合い、どうやら賊どもを喜ばせるだけのようだ。それも癪故、次は賊退治勝負と洒落込まんか?」

 

〈愛紗〉「むぅ……自分から斬りかかっておいて、何と勝手な奴だ」

 

〈趙雲〉「おや、せんのか? ……もっとも、嫌だと言っても向こうは待ってくれそうにないが」

 

 趙雲の言う通り、槍の示す先からは、白翼党の集団が押し寄せてくるところだった。まぁ、あれだけ騒げばねぇ……。

 

〈愛紗〉「……誰も嫌だとは言っておらん。ご主人様、我々はここで連中を足止めします。雷々と共に、このままお城へお向かい下さい!」

 

〈一刀〉「分かった! 気をつけてな、愛紗!」

 

〈雷々〉「ご主人様、こっちこっち! 愛紗ちゃん、ここはよろしくね!」

 

〈愛紗〉「雷々も、ご主人様のことを頼んだぞ!」

 

 後のことは愛紗たちに託して、俺と雷々は輜重隊を先導しながら、迂回路に入った。これで、城への道の守りが薄くなってくれてれば、不幸中の幸いなんだが……。

 それはそうと……俺は走りながら、胸元のタイガを見下ろす。

 

〈一刀〉「タイガ……さっきからそわそわしてるけど、どうしたんだ?」

 

 キーホルダーなので分かりにくいが、身に着けてる俺には、タイガがどうも落ち着かない様子なのが分かった。一体、何をそんなに気にしてるんだろうか?

 

〈タイガ〉『いや……一刀、お前は何も感じないか?』

 

〈一刀〉「何が?」

 

〈タイガ〉『何か、斉に近づいてから……誰かに見られてる気がしてならないんだよ。それらしい人影は、どこにもないんだけどな……』

 

〈一刀〉「……見られてる?」

 

 気になるひと言だな……。この状況で、こっちを監視してる奴がいるって? 敵か……? それとも、第三者か?

 けれど、今はとにかく城に無事にたどり着くことに集中しよう。

 

 

 

 ――元の場所から斉の様子を一望していた桃香たちは、一刀らが通っているはずのルート上で、白翼党が喧騒を上げているのを見て取ってにわかに色めき立った。

 

〈電々〉「ねぇねぇ。街の中で、何だか戦闘が始まってるみたいだよ?」

 

〈公孫賛〉「……おいおい。出来るだけ見つからないように行くとか言ってたのはどうしたんだよ」

 

〈桃香〉「見つかって、仲間でも呼ばれちゃったのかな」

 

〈公孫賛〉「そうかもしれないな……。鈴々、城の様子はどうだ? 見えるか?」

 

〈鈴々〉「まだお釜とか落としてるのだ。突っ込むの?」

 

〈桃香〉「もしご主人様たちが進めなくなってるなら、わたしたちも陽動に回った方がいいと思う。……白蓮ちゃん」

 

〈公孫賛〉「そうだな……手遅れになるよりはマシか。……よし。なら、予定外だがこっちも動くぞ!」

 

〈鈴々〉「わーい! やったのだ!」

 

〈電々〉「電々もがんばるからねー!」

 

 桃香たちは予定を変更し、斉の街の城門を見据えて、突撃態勢に入る。

 

〈公孫賛〉「だったら、お前たち! 浮き足だった賊どもを、後ろから打ち据えてやれ! 総員……」

 

〈鈴々〉「突撃なのだ――――――っ!!」

 

 公孫賛と鈴々の号令により、本隊が鬨の声を発して一斉に斜面を駆け下り、街に向かって殺到していった。

 

 

 

 ――城門前では、城攻めをしている白翼党の指揮を行っている、目深にフードを被って素顔の見えない男が、斉国軍に向かってがなり立てていた。

 

〈指揮官〉『大賢良師様を返せ! ここにいることは分かっているんだぞ!』

 

〈兵士〉「そんな奴は知らん! 何の言いがかりだ!」

 

〈指揮官〉『なら力ずくで出させるまでだ! 行けッ! 城門を破れぇッ!』

 

 兵士たちがどう言い繕っても聞く耳を持たず、指揮官は白翼党の大群をけしかけて、一気に城を陥とそうとする。

 だが間一髪のところで、桃香・公孫賛の隊が大通りを突き進んで駆けつけた。

 

〈公孫賛〉「そこまでだっ! これ以上の狼藉は許さん!」

 

〈電々〉「ここにも無理矢理奪おうとする人がいるなんて、お仕置きが必要だね!」

 

〈指揮官〉『後ろからだと!? ……退く訳にはいかん! 返り討ちにするぞ!』

 

 指揮官は直ちに軍団に反転を命じ、白翼党が迎撃の構えを取る。

 そこに一番槍として、鈴々が蛇矛を振り掲げて突貫していった。

 

〈鈴々〉「やぁ―――っ!!」

 

〈白翼党〉「「「ぐわあぁぁぁぁぁッ!?」」」

 

 鈴々の振るう槍の、波打った穂先が、白翼党員を数人纏めて吹っ飛ばし、軍団全体に大きな衝撃を与えた。

 いつもは後詰め役の桃香も、今回は兵を指揮して戦う。

 

〈桃香〉「行くよっ! たぁっ!」

 

〈兵士〉「「「うおおおぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!」」」

 

 歩兵が戦列を成して敵に突撃し、相手の陣形を引き裂く。分断された白翼党を、弓兵の部隊が狙う。

 

〈桃香〉「撃てーっ!」

 

〈白翼党〉「がぁぁぁッ!」

 

〈白翼党〉「ぐえぇッ!」

 

 矢に射られて、白翼党が次々倒れる。

 桃香に続き、電々の指揮する部隊も攻撃を行う。

 

〈電々〉「準備いい? さぁ、どんどんノっていこう! はぁーいっ!」

 

〈兵士〉「「「おおぉ――――ッ!!」

 

 電々の鼓舞を合図に、士気を上げた兵士たちが白翼党を押していく。

 数で劣りながら、互角以上の戦いをする桃香たち。しかし、最も活躍しているのは公孫賛の騎馬隊であった。

 

〈公孫賛〉「駆けよっ!」

 

〈騎馬兵〉「「「はッ!!」」」

 

 公孫賛を先頭に、騎馬隊が疾風の如き勢いで白翼党に急襲を掛ける。ほとんどが農民上がりであり、歩兵しかいない白翼党では馬の突進を止めることなど不可能だ。

 

〈白翼党〉「「「ぎゃあああぁぁッ!」」」

 

〈公孫賛〉「まだまだぁっ! うおおぉぉっ!」

 

〈白翼党〉「「「ぎええぇぇぇぇッ!」」」

 

 折り返してきた騎馬隊が、白翼党の陣形を滅茶苦茶に寸断した。そのために白翼党はろくな連携が取れず、完全に混乱に陥っている。

 

〈桃香〉「流石白蓮ちゃん! 騎馬を扱わせたら幽州一!」

 

 公孫賛の大活躍を、自分のことのように喜ぶ桃香。

 いくら頭数で勝っていても、まともな戦の経験がない者がほとんどの白翼党では、真の武を持つ彼女たちに敵うべくもなかった。

 

〈指揮官〉『あの女ども、何という強さだ……! くそッ、あとひと押しのところで、あんな奴らが現れるとは……!』

 

 指揮官は手下たちが混乱を来し、まともな戦いも出来ない状態になっていることに悪態を吐いていた。

 

 

 

 ――桃香たちがひっかき回している戦場から離脱した白翼党員の何名かが、裏路地に身を潜めていた。

 

〈白翼党〉「くそぅ……あんな化け物どもが出てくるなんて聞いてねぇぜ……! 戦ったってやられるだけだ!」

 

〈白翼党〉「けど、だからってずっと隠れてる気か? 大賢良師様は目と鼻の先なのに……」

 

〈白翼党〉「なぁに、俺にいい考えがある。見ろ!」

 

 裏路地から顔を覗かせた白翼党員らの目に映ったのは、戦闘の混乱に乗じる形で、ノーマークで城へと突き進む一刀らの姿。

 

〈白翼党〉「奴らの荷物を見ろ。矢だ。あれは城への補給部隊だな」

 

〈白翼党〉「矢だと! そんなの届けられたら、前後から攻撃されちまう! 止めねぇと!」

 

〈白翼党〉「まぁ待て。もっといい考えがある」

 

 策謀を巡らせる白翼党員が、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

〈白翼党〉「奴らの荷車を奪い取り、俺たちが援軍に化けて城に潜り込むのよ! 城門さえ開けちまえば、こっちのもの! 大賢良師様たちも、救出した俺たちをお褒め下さるだろう!」

 

〈白翼党〉「おお! お前、頭いいな!」

 

〈白翼党〉「よぉし……まずは、あの指揮役らしき男を、こいつで……!」

 

 白翼党員は弓をキリキリと引き絞り、輜重隊を先導する一刀に狙いをつけた。一刀側は、それに気づいていない。

 

〈白翼党〉「一発で心臓を撃ち抜いてやるッ!」

 

 宣言する白翼党員たちの背後に――ザッ、と足音を立てて、一人の青年がどこからか現れた。

 青年は、腰に挿してある鞘から、白刃をシャッと鮮やかに抜いた。

 

 

 

 俺たちは無事に、荷車を城に届けることに成功した!

 

〈兵士〉「隊長! 援軍から矢が届きました!」

 

〈隊長〉「おおッ……そうか。早速だがそれを賊軍に見舞ってやれ!」

 

 長きに亘る抗戦で物資が尽き、なす術を無くしてた斉国の兵士たちに再び闘志が起こり、俺たちが届けた矢を次々に白翼党に降り注がせる。

 

〈白翼党〉「ぐわあぁぁッ!? う、後ろから矢だとぉ!?」

 

〈白翼党〉「城の奴ら、とっくに矢を使い果たしたんじゃあ……!?」

 

 背後からの矢の雨に、白翼党はますます動揺する。

 

〈公孫賛〉「おっ、城からの援護射撃が来たぞ! 上手く物資を届けられたみたいだな!」

 

〈桃香〉「うん……! 後は、お城を開放できれば……!」

 

〈公孫賛〉「ああ。こっちも押し出していくぞ!」

 

 対する桃香たちは、俺たちが任務をやり遂げたことを察して更に士気上昇。白翼党をガンガン追いつめてく。

 

〈雷々〉「ご主人様、雷々も桃香ちゃんたちの援護に行くね!」

 

〈一刀〉「ああ! 頼んだ!」

 

 もう俺の護衛の必要がなくなった雷々が、物資を運び終えた兵士たちを率いて、白翼党へと打って出ていった。

 

〈雷々〉「行け行けわっしょい! 雷々たちは強いぞー! おぉーっ!」

 

〈兵士〉「「「おぉぉ――――――ッ!!」」」

 

 雷々の応援の下、兵士たちは運搬の疲労も吹き飛ばして、槍を構えて白翼党にぶつかってく。

 最早全体がズタズタに引き裂かれてる白翼党に、鈴々が駄目押しの一撃を食らわせる。

 

〈鈴々〉「突撃! 粉砕っ! 勝利なのだーっ!!」

 

〈白翼党〉「「「ぐわぁぁぁぁあああああああ―――――――――――ッ!!!」」」

 

 鈴々必殺の、蛇矛に全力を込めた一撃、猛虎粉砕撃が大地を穿ち、白翼党に高々と宙を舞わせた。

 

 

 

〈趙雲〉「これで最後のようだな」

 

 ――大通りに残り、敵の足止めをしていた愛紗と趙雲は、ここに押し寄せてきた白翼党の最後の一人を叩き伏せた。二人の周りには、白翼党員たちが死屍累々と転がされている。

 

〈趙雲〉「しかし、先ほどから城の方が騒がしいな。関羽、お主の仲間の仕業ではないか?」

 

〈愛紗〉「どうやら、桃香さまたちが攻撃を仕掛けたようだ。こうしてはいられん! 私も戦列に加わる!」

 

〈趙雲〉「おっと、勝負はまだ続いているぞ。抜け駆けは許さんな」

 

 すぐに城の方へ向かって駆け出す愛紗の横に、趙雲がぴったりとついていく。

 が、そんな二人の耳に、悲鳴が届いた。

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!?」

 

〈愛紗〉「何だ!? 今のは城からではないぞ!」

 

〈趙雲〉「近いな……。おや、誰か来る」

 

 愛紗たちに向かって、白翼党員が何名か、必死の形相で走ってきた。

 

〈白翼党〉「お、お、お助けぇ―――ッ!」

 

 白翼党は愛紗たちが敵なのも忘れて、すがりつくようにその場に膝を突いた。

 

〈愛紗〉「おい、何の真似だ!? 一体何があったのだ!」

 

〈白翼党〉「おおおお……鬼が出たぁ!!」

 

〈愛紗・趙雲〉「「鬼?」」

 

 唐突なひと言に、呆気にとられる二人。

 

〈白翼党〉「見たことねぇ刀使って、仲間を一瞬で斬り伏せた! 頭に角が生えてた!」

 

〈白翼党〉「人間じゃねぇッ! ほ、本物、本物の化け物だぁぁぁッ!」

 

〈趙雲〉「ええい、すり寄ってくるな! 敵だろう、貴様らは!」

 

〈白翼党〉「ぐふッ!」

 

 趙雲が鬱陶しそうに白翼党員たちに当て身を食らわせ、昏倒させた。愛紗は彼らの言い放った言葉に首をひねる。

 

〈愛紗〉「今の取り乱しよう、尋常ではないぞ。鬼とはどういうことだ……?」

 

〈趙雲〉「気にするまでもあるまい。戦場は極度の緊張状態。その中で、幻覚を見ただけのことだろう。よくあることだ」

 

〈愛紗〉「うむ……。と、こんなところで立ち止まってはいられんのだ! 桃香さまぁーっ!」

 

 愛紗たちはそれ以上、白翼党には気を掛けずに、城への進軍を再開した。

 


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